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ラスエトの世界を巡るツアー 〜ルーシャンコース 一日目 午前〜

 本記事は、ラスエトの世界を巡るツアー、ルーシャンコースの体験記となっております。


一日目のメニュー
長くなったので
記事はお昼ご飯前まで


 スパスィラーヴォは、シュルペの北にある温泉街である。
 クァルッツィ湖の北に位置し、さらに街の北には、かつてこの地を治めていたアンジェルシーナ家の屋敷がある。
 北へと続く道は、ガルヴェスへ。東はラスエトへ続き、南へ行くと、フローランシーから王都へと繋がる。西は山地で、それを越えるとラッスルカッフェ湾が一望できる。

うろ覚え

 ツアーの集合場所は、クァルッツィ湖のそばに建つホテル前。事前泊もこのホテルが用意されている。
 ホテルの個室は全室がレイクビューになっている。
 湖の散策から始まるが、どちらかといえば、参加者の集合を待ちつつ、近くをうろつく、といった印象。
 本当は、湖の向こう側に行ってみたかったのだが、寝坊して時間ギリギリだったので、断念した。

 みなさま、本日は「ラスエトの世界を巡るツアー ルーシャンコース」にお越しいただきありがとうございます!
 ツアーガイドをつとめさせていただきます、なんてんトラブル……トラベルの「フナムシ ナギサ」と申します。三日間、みなさまにご同行させていただきますので、よろしくお願いいたします!


 だれも突っ込まんかったから、澄ました顔で黙って聞いたけど。
 フナムシさんが、湖を背に説明してくれる。

 クァルッツィ湖は水鳥の越冬地としても有名です。
 残念ながら、今年はもう北に帰ってしまっていますが。


 すごく残念だ。きっと、この鳥のことだと思う。

 今の時期はリエリナが一番よく咲いていますね
 これはわたしたちの世界でいう、ミモザに近い種類で、同じく豆科です。色は黄色だけでなく白に近いものから黄緑に近いものまであります。
 実が面白くて、一つの木にオレンジから黒までの濃淡のある実……この場合はサヤですね、サヤがなります。
 中身の豆の色は同じなのですが、サヤの色によって形が違うんですね。黒のものの方が丸に近く、オレンジの方が、いわゆる豆形に近いそうです。
 この辺りの郷土料理にもよく使われまして……ルーシャンがドン引きした豆スープも、リエリナの黒サヤ豆だとされています。

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 そうして始まった晩餐は、もちろんルーシャンにとって未知の物だった。公式な場所で食事などしない彼女は、始めのうち作法が気になって仕方がなかった。
 正面の少女は、スープを掬うのも、肉を切り分けるのもとても上品だった。
 手本にしようと盗み見ているうち、目が合ってしまった。彼女はにっこり微笑んでくれたが、自分がひどく未熟者に感じたルーシャンは、居た堪れなくなった。
 一方で、隣のヴェルはといえば、ものすごく庶民的に食べていた。スープを飲んだのと同じスプーンで、肉の付け合せを取る、といった具合だ。少なくとも肩肘張っての食事ではないらしい。
 そう解釈してからは気にならなくなった。
籠に山盛りのパンは、香ばしく、中には甘い味がついているものや、食べた気がしないほどふわふわしているものもあった。
 配られたとろみのついたスープは、テーブルの灯りに照らされて煌いてすら見えた。しかし、それに丸い豆がぎっしりと入っていることについて、自分がどう思ったか顔に出さないようにするのは苦労した。ルーシャンは豆が苦手なのだ。
 メインらしい大きな皿には、分厚い肉が載っていた。こんがりときつね色に焼かれ、透き通ったソースがかかっている。ソースの中には知らない赤い実が入っていた。
 口にしてみると、ソースは彼女が思ったのとは逆に酸っぱい味がした。肉の方はとても柔らかく甘みがある。両方が合わさると不思議なこくが生まれた。
 初めて食べる味に、ルーシャンは夢中になった。こんな豊かな味のする食事をしたのは初めてだった。

グリンダスヴァーナ城の晩餐より

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 それから、こちら、ヴィヴィの花。バラですね。同じように棘もあり、またいろんな色、咲き方があります。
 野生でも庭先でもとてもよく見られる花です。特に枝垂れ咲きのものが、この辺りでは人気で……かわいらしい街路樹にもなっていますね。

花の段階によって
グラデーションになっていて
かわいい
丸くてかわいかった

 クァルッツィ湖から、街の中を北上してアンジェルシーナ城へ。
 街は、石や煉瓦造りの商店が多い。色は全体的に黄色味を帯びている。温泉街だから硫黄の色なのだろうか。屋根瓦も、黄色寄りで、ところどころ緑に近いものもある。遠くから見ると、カラフルなモザイクにも見える。
 スパスィラーヴォは小さな街なのだが、ほとんどの建物は一階が商店か宿泊施設を兼ねている。住宅街というものはなく、街全体が商店街のようになっている。
 それが、街の北部に行くと、商店にも前庭があって、なかなか広く土地を使っているから面白い。
 実際には、湖に近い地域はもともと商店街として存在していて、北部は後世、温泉街やアンジェルシーナ城への観光客が増えてから、商店として改装したのだろう。建物は古いが、店の構えが新しい。
 季節は初夏だが、春先、といった感じの気温。寒い地方らしく一気に庭の花が咲いていて美しい。
 庭は、どこも「野生味」を残している。非常によく手が入っているのだが、野山のような自然さがある。
 街路樹のヴィヴィもかわいかったが、大輪のヴィヴィも捨てがたい。

 まずは、ルギウス・デ・シュル・ペの歴史から。
 国の名前になっている英雄「ルギウス」彼は銀の髪と紫の瞳を持っていた、とされ、その見た目から広く崇拝される存在でした。まあ、主に女性からです。

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「他に、心配することはございませんの!」
「もちろん、お前のことだ」
 彼は渋面で続けた。
「お前の暴走が看過され、王都が壊滅しても驚かない」
「わたしを何だと思っていますの!」
「呆れたお転婆娘だ。人殺しに首を突っ込むな。一体、何だって怪盗と逃げていた」
 兄はすでに当日、さんざん絞ったことを蒸し返した。ルーナは真正面から彼を見据えた。
「彼が怪盗で『ルギウスの再来』だからですわ」
「答えになっていると思っているのか」
 ルーナは、しばし考えて、手を打った。
「お兄さまの負担を減らすため、わたしが捕まえようと思ったのですわ!」
「今考えただろう。宝石泥棒の何がいい」
「『ルギウスの再来』よ? どんなお美しい方か、お会いしたいでしょう」
「銀髪で青い目の男なら、いくらでもいるだろう」
 兄は呆れたように言った。そうだけど、とルーナは頬を膨らませる。
「ルギウスという男は、北方の生まれだ。だから、銀の髪と紫の目を持つ」
 兄は立ち上がると、書棚の一つに向かった。そこから分厚い、紫紺の表紙をした書物を取り出した。ルーナの前に本を開くと、彼女の横に腰かける。
「巷に流布する『英雄ルギウス』と史実は違う」
 当時、山脈の北方にはいくつかの小さな国があった。栄えていた街もある。ルギウスはそういった国の貴族階級だった。彼は若く、野望があった。
 一方、山脈の南は荒れ地だった。雨が少なく、川も流れない。岩が転がり、砂礫の合間に枯れた草がそよぐ。利用価値がなかった。
 ルギウスは、そこに目を付けた。荒野を開拓し、新たな都を作ろうと考えたのである。
「実際に彼がやったのは、魔ノ物の制圧ではない。彼らの手助けを受けた。そして、川が流れ、肥沃な土地が育った」
「そんなの……」
「事実とは大抵そうだ。英雄譚には相応しくない。シュルペが在るためには、ルギウスは英雄でなくてはならない」
 ルーナは書物を斜め読みした。説明の通りの兄のような本だった。
「なんにせよ、彼の野望に付き従った者たちがいた」
「だから、似た容姿の人間はいくらでもいる、というわけでしょ」
 そうだ、とヴァレスは言った。
「英雄といえば誰もが喜ぶ。作り上げられた英雄像を、さらには泥棒になぞらえて――騎士に対する侮辱だ。」
 兄は肘掛けを拳で叩いた。

怪盗カンパニュラの初恋より

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 ルギウスが最初に支配したのは、ラッスルカッフェ地方の山地から。今はシュラン=ハルと呼ばれる山のあたりで、彼は産まれたとされています。
 その見た目にそぐわず世界を支配してやろうという生々しい野望の持ち主でした。結構えげつないこともやったとされています。

 彼が国として統治を始めるまで、このあたりは小さな国が点在していました。とはいえ、当時はまだ今いうような「国家」ではなく、領主が変わるたびに土地が荒れ、人々の暮らしは安定しなかったようです。もちろん、それぞれの国が領土を巡って争い、戦も頻発していました。

 この頃から力を持っていた領主の一族が、今、みなさんが立っておられるここ、スパスィラーヴォを治めるアンジェルシーナ家です。彼らは、現在のシュルペ王家よりも古くから、この地を掌握し、その特別な力でここ一帯を支配していました。数多存在した国の中では最も大きく影響力がありました。

 アンジェルシーナ家の持つ力は、のちに、かつて魔術大国として名を馳せたラスエトの統治者を出したことから、「魔力」とされるようになりましたが、当初はいわゆる霊能者の集まりと認識されていたようです。
 他国との戦では、その力を存分に発揮し、得体の知れない力を使い、怪現象を起こすと恐れられていました。

 ここに、ルギウスは目をつけ、敵対するのではなく味方につけることを考えます。ルギウスが、シュルペという国を広げられたことの一つには、このアンジェルシーナ家の力が欠かせなかったとされます。

 城というと、山の上にあるものを想像してしまうので、市街地の平地にどーんと出てくる城に慣れない。
 とはいえ、ここは元は個人の邸宅が大きくなったもの、らしいからそんなものか。
 アンジェルシーナ城も、街の建物と同じ色をしている。
 どこからが敷地なのか区切りがよく分からなかったが、途中から建物が商店ではなくなって、道の奥に大きな建物が見えてきた……といった感じだ。
 城本体は縦というよりも横に大きい。いわゆる城にありがちな塔はなく、まあ邸宅というのが正しいだろう。道の最奥でコの字というよりは、大きなUの字のようにカーブして建っている。ただし、左側……ラッスルカッフェの森の方に偏っている。

 さて、中に入ってみましょう。

 アンジェルシーナ家は総出で家業に携わっていました。なのでこの棟を含め、敷地内にはほとんどの親族を住まわせていたため、このように大きな城のような住居になっています。
 男爵位を授けられていたこともありますが、正しくは家族経営の企業といったところでした。

 現在でも、一族のみなさんは、この邸宅にお住まいですので……中の全てを見ることはできませんが、一部を公開していただいています。

 正面の入り口は開いていて、そこから中に入る。ツアー客以外にも、観光客らしい人が出入りしたり、写真を撮ったりしている。自分家を公開するとかどんな気分なんだろう。
 ホールは城というだけあって広い。天井は三階くらいまで吹き抜けている。階段の雰囲気から三階に思えるが、すでに規模感が分からなくなってしまっていて、もしかしたら、四階に相当するかもしれない。外側から階数を数えておくんだった。
 外は石造りだったが、中の装飾は木だ。ルーシャンが見たら興奮しそうだ。木材の色は、外観と合わせてか、意外と明るい色だった。魔術の城というから、もっと重厚かと思った。

 さて、こちらは現在のアンジェルシーナ家当主のエリアンさんです。エリアンさん、こんにちは、いつもありがとうございます。

「みなさま、ようこそお越しくださいました、エリアン=アンジェルシーナと申します」

 エリアンさんも、魔術師なのでしょうか?

「いいえ、今でもそういったスピリチュアルなお困りごとのご相談をお受けしておりますが、わたくし自身は普通の人間です」

 お家には、不思議な力を持つ方もおられるのでしょうか?

「確かに、みなさんの考える『科学』では説明のできないことができる者もおります」

 おお、やはりそうなんですね!

「ですが……今は昔のようではなく、どちらかといえば、過去の文献から調査研究を行うことの方が多いですね」

 この、アンジェルシーナ家が持つ文献がある、書庫をお見せいただけるということになっていますが……一般の人が入ってもいいのでしょうか?

「ええ、大丈夫ですよ。これも『科学』では説明できないことの一つなのですが……文献が『損なわれる』ことはありませんので」

 そうなんです。この書庫、不思議な力がありまして、中にある本を持ち出すことができないんです。また、ページを破ったり、新しく加筆したりもできないとのことで……セキュリティが厳重ですね。
 実際に、試しても構わないとか?

「はい、ぜひみなさん、体験してみてください。アンジェルシーナ家の力を一番感じられる場所です」

 できればみなさん、書庫ですから、驚いても静かにお願いします。

 書庫の噂は、こうしてここも公開されているために有名なのだが、にわかには信じがたい。
 書庫そのものは、扉が三つあって、これまた開けられたままになっていた。ツアー客でなければここには入れないのか、このときは他に人はいなかった。
 中には木製の本棚が並んでいる。窓はなく、オレンジ色の淡い光が灯されている。奥の壁際には、ところどころに机と椅子が置いてあった。古い紙とインクの匂いがする。
 表紙に書かれているのは当たり前だが、見たことのない文字だった。『損なわれることはない』のを試していいくらいだから、気にせず一冊取り出してみる。
 開くと、古い紙に特有の音を立てる。どのくらい古いのかは分からない。中身ももちろん読めなかったが、下の段にある大きめの図版と思われるものには挿絵があったので、そっちを眺める。植物について描かれていた。
 この書庫の全てを片端から読み漁りたかったが、すぐに時間になった。これだからツアーは!
 しかも、慌てて書庫を出たので、本を持ち出してみるのを忘れていた。
 他の参加者が、確かに持ってきたのに、と言っていたから、本当なのかもしれない。悔しい。


続く……


#なんのはなしですか
#君と魔術と星空と




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