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障害者雇用の採用選考で「不当な差別的取り扱い」になる5つのケース——知らずに違法ラインを越えていませんか

採用の面接を終えて、会議室を出た後のことを思い返してほしい。

「あの人、精神科に通院中だと言っていたな。業務に支障が出るかもしれない」
「支援機関がついていないなら、うちでは難しいか」
「そもそも、障害者かどうかわからない人が応募してきた。どう扱えばいいんだ」

こういう判断を、その場の感覚で下した経験のある担当者は少なくないはずだ。

「差別をしようと思っていない」のは本当のことだ。しかし障害者雇用促進法が採用選考に課しているルールを正確に知らないまま判断していると、悪意のない行為が法的問題になりうる。

2016年から施行された差別禁止規定と合理的配慮義務。2024年4月には合理的配慮の提供が民間企業にも義務化され、採用選考の段階から適用されることが改めて明確になった。義務化以降、相談窓口への問い合わせ件数は年13.8%増加している。現場で何かが起きていることの、一つの数字だ。

ここでは、採用担当者が無意識にやってしまいがちな5つの盲点を整理する。「え、これも?」という気づきが一つでもあれば、今日から選考フローを見直すきっかけになる。



法律が採用選考に何を求めているか


まず基本を確認する。

障害者雇用促進法第34条は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない」と定めている。

差別というと、意図的な排除をイメージする。しかし法律が禁じているのは、意図の有無に関わらず、障害を理由として採用・不採用の判断に影響を与える行為全般だ。

採用時の合理的配慮(第36条の2)については、面接の方法(筆記試験の代替・音声読み上げ・別室対応など)、選考の日程・場所、情報の提供方法を含め、「その人が対等に選考に参加できる環境を整えること」が義務として課されている。

ここで一つ、合理的配慮の本来の意味を押さえておきたい。

合理的配慮とは、「社会の側にあるバリアを取り除いて、障害のある人が同じ土俵に立てるようにすること」だ。競技のフィールドをイメージするとわかりやすい。同じスタートラインに立てない人がいるとき、そのバリアを取り除くのが配慮であり、ハンデを与えることでも特別扱いでもない。

選考段階でいえば、「筆記試験を代わりに口頭で答えてよい」「会場への移動に時間がかかるため試験時間を延長する」「事前に試験内容の形式だけ教えておく」——こうした調整が合理的配慮にあたる。「障害者だからやさしくする」のではなく、「同じ土俵で選考を受けてもらうための個別の調整」という理解が重要だ。

もう一つ、重要な前提がある。

この法律が保護する「障害者」とは、手帳(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳)を持っている人に限らない。身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があるために、継続的に日常生活・社会生活に相当な制限を受けている人が広く対象になる。難病由来の障害、機能性障害も含まれる。

「手帳がないから関係ない」という判断は、法律上の誤解だ。

知らずに越えている5つのライン

【盲点① 手帳を持っていない人が応募してきたとき】

「障害者採用なのに手帳がない」という状況に戸惑う担当者は多い。

よくある対応が「手帳がないなら一般選考で受けてください」だ。一見合理的に聞こえる。ただし、手帳の有無を選考の分岐点にすること自体が、法律上の問題になりうる。

保護の対象は手帳非所持者を含む。たとえ一般選考であっても、応募者に障害があることが分かった場合には合理的配慮の提供が求められる。「手帳がないから配慮しなくてよい」という判断は成立しない。

実務上は「障害の状況を教えていただければ、選考に際して必要な配慮を検討します」という姿勢を募集段階から示しておくことが重要になる。

【盲点② 「精神的に不安定かもしれない」という懸念での判断】

面接で「通院中である」「精神科の主治医がいる」ことが分かったとき、「職場でトラブルになるかもしれない」という漠然とした懸念から採用を見送るケースがある。

厚生労働省は、「精神疾患があること」の一点のみを理由とした採用見合わせは「就職差別のおそれがある」と明示している。

採用判断の基準は「その職務を遂行するために必要な適性・能力があるかどうか」でなければならない。精神疾患がある=職務遂行に支障がある、という図式は成立しない。現在の病状が安定しており、職務遂行に支障のない人は多い。

疾患の有無や通院歴だけを根拠にした不採用は、業務上の支障を具体的に検討しないまま下した判断として、差別に該当しうる。

なお、採用後に「雇用管理上必要な範囲」で状況を確認すること——「どのような業務が難しいか」「どんな配慮があれば働きやすいか」を聞くこと——はプライバシーに配慮した上で認められている。「入社前は何も聞いてはいけない」という誤解も一方で生まれやすいので、注意が必要だ。

【盲点③ 求人票の「心身ともに健康な方」という表現】

採用要件として「心身ともに健康な方」と記載している求人票は今も多く見られる。長年使われてきた定型文だ。

厚生労働省は、業務の内容やその遂行に必要な具体的能力を示さずに「心身健全(健康)な方」とのみ記載することについて、障害者が一律に排除されるような印象を与えるとして、配慮を求めている。

悪意がなかったとしても、法的問題の有無とは別の話だ。

修正は難しくない。「心身ともに健康な方」を削除するか、業務に必要な具体的な要件に置き換える——「長時間の立ち仕事ができる方」「パソコン入力が1時間以上継続できる方」など。業務内容に照らして必要な要件を具体的に書くことで、障害のある方も障害のない方も同じ基準で選考できる。

自社の求人票にこの表現がある場合、今日すぐに確認できる。

【盲点④ 「支援機関の同行がないと応募できない」という条件】

ある企業の担当者が、セミナーで誇らしそうに話した。

「うちは障害者雇用をちゃんとやるために、採用プロセスを整備しました」

内容はこうだった。非公開求人のみで募集し、就労支援機関を通じた応募のみ受け付ける。支援機関が同行しない人は応募不可。採用実習を選考フローに組み込み、クリアした人のみ面接へ。

「マッチング精度を上げるための工夫」として報告した後、場が少し静まり返った。

後日、労働局から注意指摘を受けた、という話だ。

理由は明快だった。「支援機関がついていなければ応募できない」という条件は、支援機関につながっていない障害者を一律に排除している。障害があるからといって、選考の機会は公平でなければならない。支援機関の利用は本人の意思によるものであり、「同行がない=応募不可」は障害を理由とした不当な選考条件として差別的取り扱いにあたりうる。

「精度の高いマッチングをしたい」という動機は理解できる。ただし採用の「入り口」を障害者に対して不当に狭くすることは、どんなに善意の理由があっても法律に抵触しうる。支援機関との連携は引き続き歓迎されるべきものだが、「連携を必須条件にすること」は別の話だ。

【盲点⑤ 合理的配慮を検討しないまま「能力不足」で不採用にする】

5つの中で最も広く起きていて、最も本質的な問題がこれだ。

「この人には配慮が必要だが、配慮の提供は難しい。だから採用しない」——一見、合理的な判断に見える。

しかし法律が求めているのは、不採用の結論を出す前に「どんな合理的配慮をすれば職務遂行が可能になるか」を検討するプロセスそのものだ。

厚生労働省の差別禁止指針はこう整理している。「合理的配慮をしても、なお当該職務の本質的な機能を果たせない場合」の不採用は適法だ。しかし「合理的配慮を検討すれば職務遂行できるのに、その検討をせずに不採用にした」場合は差別に該当する可能性がある。

「配慮の検討をした上での不採用」と「配慮の検討なしの不採用」——この違いが、セーフとアウトの分岐点になる。

では「検討する」とは、具体的にどういうことか。

実際に障害者雇用に取り組む企業の現場から聞こえてくる声がある。「朝が苦手なら、午後からのシフトにする」「電話対応が難しいなら、マニュアルや小型ホワイトボードで代替する」「ランチが取れない状況なら、昼食を提供する」——こうした工夫を、採用の判断に入る前に一度だけ考えてみる、ということだ。

「ここは苦手だけれど、〇〇の支援があれば力を発揮して働ける」という視点で考えると、「全ての準備が整わないと採用できない」という発想は必要ない。大切なのは、何らかの調整の可能性を真剣に検討したかどうかだ。

配慮の検討は、完璧な受け入れ準備を整えることを意味しない。「この人が働くとしたら何が必要か」を面接の場で一度聞いてみること、そのやりとりを記録に残しておくこと——それだけで、「検討した事実」が生まれる。

合理的配慮の本質は、「答えを出すこと」ではなく「話し合いを続けること」だ。

厚生労働省の指針も、合理的配慮を「障害者と事業主との相互のコミュニケーションのプロセスによって個別に決めるもの」と定義している。最初から完璧な体制が整っていなくていい。「どうすれば一緒に働けるか」を双方で考え続けるプロセスそのものが、すでに配慮の実践だ。

仮に、検討した末に「現時点ではこの業務は難しい」という結論に至ることはある。その場合でも、対話が続いている限り——「では別の業務はどうか」「入社後に状況が変わったらまた話し合おう」という姿勢が残っている限り——それは誠実な向き合いだ。「完璧な受け入れ」よりも「対話を止めないこと」のほうが、当事者にとっても、組織にとっても、長期的に意味を持つ。

法律が最も問うているのは、結果だけではない。「検討した形跡があるか」「対話の場を拒絶していないか」——この二点が、採用選考における合理的配慮の実質的な判断軸になる。

「断れる採用判断」の条件

5つの盲点を踏まえた上で、適法な不採用の条件を整理する。

合理的配慮を提供した上でも、当該職務の本質的な機能を果たせないことが確認できた場合、不採用は適法だ。

ここで一つ、混同しやすい概念を区別しておく。「遠慮」と「配慮」は違う。

業務上必要なことを伝えることへの遠慮は、配慮ではない。「障害があるから厳しいことは言えない」「注意したらかわいそう」という発想は、むしろ当事者の成長の機会を奪う。一方で、障害の特性から来る困難に対して「どうすればできるか」を一緒に考えることが、配慮だ。採用判断においても、この区別は重要になる。「この業務ができなかった」という事実を確認することと、「配慮を検討した上でそれでも困難だった」という結論は、まったく別のプロセスを経ている。

もう一つの条件が「過重な負担」に当たる場合だ。配慮の内容が事業規模・財務状況・業務への影響などから見て著しく重い負担になる場合は、免除される場合がある。ただし「過重かどうか」は複数の要素(事業活動への影響・実現困難度・費用・企業規模・財務状況・公的支援活用可能性)を総合的に判断しなければならない。「費用がかかるから」「前例がないから」という一点だけで「過重な負担」とは認定されない。

注意すべきは、「過重な負担に当たると判断した場合でも、代替措置の提示という義務が残る」という点だ。求めに応じた配慮そのものは断れても、「では他にどんな配慮ができるか」を双方で話し合うことは求められている。

今日から見直せること

今日できることは、三つある。

まず求人票だ。「心身ともに健康な方」という表現があれば、今日中に修正する。「座位での作業が一定時間継続できる方」など、業務内容に照らした具体的な要件に置き換える。次に、選考フローに「配慮確認」の一手間を加える。障害の申告があった場合に「どんな配慮があれば参加できるか」を確認し、そのやりとりを記録に残す。それだけで「検討した事実」が生まれる。そして選考条件の点検——支援機関の同行や実習通過を「応募資格」にしていないかを確認し、要件としない設計に直す。

いずれも大がかりな準備は要らない。対話の入り口を開けておくこと、それが出発点だ。

よくある疑問

「面接で『通院中ですか』と聞くことは違法ですか」

通院の事実のみを聞いて不採用の判断材料にすることは、差別的取り扱いのおそれがあります。ただし「継続的な就労のために配慮が必要なことはあるか」という観点での確認は、合理的配慮の検討として許容されます。「通院の有無を直接聞く」のではなく、「必要な配慮があるか」という聞き方のほうが、目的に沿っており法的にも適切です。

「能力不足での不採用に『障害者だから』という言葉を使わなければ問題ないですか」

不採用理由の表現だけの問題ではありません。実質的に「障害を理由として選考から外した」と判断される場合、表現上の言い回しに関わらず差別と認定されるケースがあります。面接記録・評価シートに「能力要件との具体的な比較」「配慮の検討プロセス」が残っているかどうかが、実質的な判断材料になります。


あとがき

この記事で取り上げた5つのケースは、どれも現場で実際に目にしてきたものだ。そしてそのほとんどで、担当者には悪意がなかった。

「きちんとやろう」としていた。だからこそ、指摘されたときに混乱する。

差別は、悪意よりも「知らないこと」から生まれやすい。採用選考の場においては特にそうだと感じている。制度を知ることは、応募者への公平な入り口を守るだけでなく、担当者自身と組織を守ることにもなる。

そして知識は、対話を拒む根拠にするためにあるのではない。「ここまではできる、ここから先はどうすれば一緒に考えられるか」を探るための地図として使ってほしい。

採用選考に関わる方の参考になれば、嬉しい。


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参考:
障害者雇用促進法 第34条(差別的取り扱いの禁止)、第36条の2(採用時の合理的配慮)
厚生労働省「障害者差別禁止指針」(平成27年厚生労働省告示第116号)
厚生労働省「障害者差別禁止・合理的配慮提供義務に係るQ&A 第二版」

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