【書評】もっと怒れ、もっと疑え。(「いきり」の構造:武田砂鉄)
関西には、「いちびり」という言葉がある。
「イチビリ」とは、関西の方言で、「調子に乗って騒ぐ人」「お調子者」「ふざけまわる人」を指す言葉で、動詞の「いちびる」が名詞化したものです。ネガティブな意味で使われることもありますが、人とは違うユニークな行動をする人や、ある境地に達した人を賞賛するニュアンスで使われることもあります。
「賞賛するニュアンス」。はて?
私はその意味で使ったことがないが、関西地域の皆さん、いかがだろうか。
この言葉、私は「(本当は何もできないくせに口先だけで)調子に乗って騒ぐ人」というニュアンスで理解していた。
どちらかというと「いきり」に近いのだろうか。
説明するまでもないだろうが、私は、私が理解しているうえでの「いちびり」は嫌いである。
今回のご紹介する本は武田砂鉄『「いきり」の構造』(朝日新聞出版)
です。
この本どんな本?
著書はライターの武田砂鉄さん。
朝日新聞出版の月刊誌『一冊の本』に2023年6月号~2025年3月号で掲載した『「いきり」の構造』という同名コラムを書籍化したものです。
雑誌掲載されたコラムということもあり、時事性に富んだ内容になっています。
旧ジャニーズ事務所創設者性加害問題、東京都知事選、衆議院選、兵庫県知事選、中居正弘氏の性加害問題、さらには大ヒットした映画から大谷翔平まで、さまざまなテーマに関して語られています。
世の中にはびこるさまざまな「いきり」を解説し、何が問題なのか考える一冊です。
当時の問題に、違和感やもやもやを少しでも感じた方におすすめします。
本の感想
もっと怒れ
最近「やさしさ」について考えることが多く、自分のコラムでもいかに「やさしくするか・やさしくなるか」について語ることが増えていました。
しかし、この本は思い出させてくれます。もっと怒っていいんだ、と。
著者の武田さん、基本的にずっと怒ってます。しかも、かなり素朴な感じといいますか、正直に書いているな~という印象。
腹が立つことにたいして「腹が立つ」と言うことに、どこか罪悪感というか、臆病になっていた私としては、はっとしました。
今の社会は「怒ることは悪」「怒ったら負け」という無言の圧力が蔓延しているように感じます。でも、怒ることを封じ込められたら、疑いの目を向けることもできない。強い(と周囲に思われてしまっている人)がどんどん強くなる一方です。
私たちは、ときには怒ることも必要なのだ、と思い出させてくれました。
もっと疑え
武田さんのコラムの印象として、言葉を本当に丁寧に扱う人だと思いました。
例えば、とあるキャッチコピーを前にして、その言葉はどういう意味か、なぜそう言ったのか、と、一見するとしつこい(本書の中でしつこさについて武田さんも自認されています)問いのくりかえし。
問いをくりかえすことって、本当に大変なんです。胆力がいるし、その問題を深く知ろうとしなければ問いは発生しない。
私は「ま、いっか」「そういうものだよね」と考えることを放棄してしまうことが多々あります。
連なる単語ひとつひとつに疑問を投げかけていく姿勢は、ライターとして見習わなければならないものだと感じました。
怒りと疑い、そしてやさしさ
今回、武田さん文章を読むのは初めてではありませんでした。というか、実は毎週読んでる。
私が愛読する週刊誌『AERA』で『武田砂鉄今週のわだかまり』というコラムを連載中なのです。
2025年12月15日号の『AERA』は特別号で、「やさしくなりたい」というテーマで一冊まとめられています。
もちろん武田さんのコラムもやさしさに溢れていました。そのやさしさは、ただ穏やかに笑顔でいるということではありません。
怒りをごまかさずに抱き、考えるべき問いを考え続ける。そういう姿勢からやさしさを感じたのでした。
社会で起る問題に怒りを感じ、問い続ける。
想像力を膨らませて、対話し続ける。
本当のやさしさって、そういうものなのかも。
それではまた来週。
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