見出し画像

数に隠された二重のメタファー:Jimmy Eat World『23』|感情の設計図#3

失うことに慣れる日なんてない。でも、そうしなければ前に進めない。
そんな矛盾の中で、僕たちは今日も生きている。


今回取り上げるのは、アメリカのエモーショナルロックバンドJimmy Eat Worldの2004年作『23』。
5枚目のスタジオアルバム『Futures』のラストを飾る曲だ。


僕はこの曲と、22歳のときに出会った。
それから20年以上経つ今も、心を揺さぶられている。



楽曲の構造的解釈

「23」は7分を超える、Jimmy Eat Worldのなかでは長尺の曲。いくつかの視点で眺めてみたい。


コード進行の構造

「23」のコード進行は、少し暗めの"Bマイナー"が基調となっている。寂しさや切なさ、後悔などの心情が根底にある。

イントロ~歌い出し

Bm(さびしい)→ G(あたたかい)→ D(すこし明るい)→ A(進もうとする感じ)

この4つのコードが繰り返される。
最後の「A」からまたBmに戻ってくる。 これによって、気持ちが整理できないままループしているような感覚を作っている。

サビ

G(あたたかい) → A(進もうとする) → D(すこし明るい) → A(進もうとする)
G(あたたかい) → A(進もうとする) → Bm(さびしい) → A(進もうとする)

この進行では、途中に明るめのDが出現する。「変わりたい」「進みたい」という感情の表現だ。その後にはまたBm(さびしい)に戻ってしまう。希望が見えたけど、まだそこには行けない。 そんな気持ちが伝わってくる。


リズム・テンポの構造

「23」のBPM(テンポ)は約141。数字としてはロックにしては普通かやや速めなのだが、派手なドラムやスピード感に頼らず、感情をゆっくりと伝えているように感じさせる。
ドラムはイントロでの入りが遅いことから、心の中で「静かに考えている」ような印象を与えている。そして心拍のように一定のリズムを刻む。アルバムジャケットとも重なるが、まるで、夜の静けさの中で、自分と静かに向き合っているような展開だ。


楽器構成とアレンジ

「23」のアレンジは、2-3本のギター、ベース、ドラムを中心に構成されている。
特にギターは、序盤にはクリーントーン(澄んだ音)のアルペジオだが、後半はギターを重ねながら歪ませていく。それによって楽曲に空間的な奥行きを与えているのだろう。必要最小限の楽器編成でありながら、徐々に厚みを増していくアレンジがなされている。



歌詞のメタファー解析

「23」の歌詞は、直接的に解釈すれば失恋の喪失感そのものだ。でも、それだけではない奥行きを持っているからこそ、ずっと胸を打つものがある。
ここで、この曲が僕らに投げかけているものを3つ抜き出してみたい。


「正しい時」への問い

You'll sit alone forever if you wait for the right time
What are you hoping for?

「正しい時」を待っていたら
ずっと一人きりで座っていることになる
何を待ち望んでるの?

このフレーズは、完璧なタイミングなんて来ないという現実を象徴している。「失敗したくない」「後悔したくない」という思いが強すぎると、結局なにもできないまま終わってしまうのだ。悩んでも間違っても良いから、踏み出せと示唆している。


モラトリアムの終わりとしての「23」

Amazing still it seems
I'll be 23
I won't always love what I'll never have
I won't always live in my regrets

驚くほどに まだそう思える
僕は23になる
手に入らないものを ずっと愛してるわけじゃない
後悔の中だけで ずっと生きてるわけじゃない

23という年齢は、単なる数字ではなく、“子どもから大人へ移るモラトリアムの終わり”を象徴している。
夢と現実の間で揺れる不安定な年齢。何者でもなく、何者かになりたい焦燥。その象徴的な数字が、23に込められている。

もうひとつの解釈については、あとで触れたい。


「記憶」はあなたのもの

I’m here, I’m now, I’m ready
Holding on tight
Don’t give away the end
The one thing that stays mine

僕はここにいる 今ここにいる 準備はできてる
しっかりつかまっていて
終わりを手放さないで
それだけは 僕だけのものなんだ

ここでの「end(終わり)」は、物語の“結末”や“関係の終焉”であると同時に、”自分の感情や記憶のさいごの核”を表している。たとえ終わってしまったことだとしても、そこに至った想いだけは自分の中に残しておきたい。それは “誰にも奪えない大切な記憶”なのだから。そんなことを内包している。

最後のコーラスで繰り返されるこのフレーズは、叫びでもあり、祈りでもある。失ったものを抱えながら、それでも「今ここ」に立とうとする意思表明。もう変えられない過去ではなく、「今、この瞬間にしかできない選択」に向き合う覚悟こそが大切なのだろう。



「23」に隠された、もうひとつの意味

タイトルでもある「23」は、先ほど書いたように、年齢として解釈するのがまっとうだろう。けれど聴き込むほどに、もうひとつの意味がぼんやりと浮かび上がってくる。

「23」は、時刻でもあるという解釈。

23時。 一日の終わり、眠る前の静かな時。

時計の長針と短針は、他の時間帯では交わるのに、11時(23時)だけは交わらない。他の時間にはある“出会い”が、ここには存在しない。何かが交錯せず、すれ違ったままになる時間。まるで「君」と「僕」みたいに。

それが、「23」という数字が示す隠されたメタファーなのかもしれない。



アルバム『Futures』の最終曲にある意味

「23」の収録されたアルバム『Futures』は「未来」という名前を持ちながら、その実、多くの葛藤や痛み、曖昧な希望が綴られたアルバムだ。

「Pain」「Kill」「Work」……
痛みや破壊、無力感と向き合った曲たちが並ぶ中、
最後に「23」が配置されているのは偶然ではない。

終わりの曲が、答えではなく“問い”で終わること。
ここに、Jimmy Eat Worldというバンドの美学が詰まっている。


なお本作はアメリカ同時多発テロ後の混乱の最中に産み落とされた作品でもある。だからだろうか、指し示す未来は、

  • 必ずしも明るくない

  • 選択には痛みが伴う

  • 過去や葛藤からは逃れられない

という現実の影も濃く、「理想と現実のあいだで、何を選び、どう生きるか」という人生の岐路への問いが通底している。

僕は23歳からはるかに歳を重ねた今になっても、このアルバムに繰り返し戻ってしまう。作品が問いかけているテーマが、それだけ深いものだからなのだろう。


「ねえ知ってる?11時って、時計の短針と長針が交わらない唯一の時間帯なんだよ」

あのときもらった言葉を、僕はいまも心のどこかで繰り返し反芻している。



参考:Jimmy Eat WorldのPeople Tree



補足

Jimmy Eat Worldはいわゆるエモバンドとしては商業的な成功を長期的に収めた稀有な存在である。ライブ映像も多くが残っており、そのどれもが秀逸だが、特におすすめのものを置いておきたい。

2006年映像。リリースから比較的浅い時期のライブ


2014年映像。「Futures」リリース10周年記念。脂が乗った充実期。


2021年の「Futures」再現スタジオセッションライブ。残念ながら「23」の映像はないものの、円熟さを増した鉄壁のアンサンブルと、変わらず蒼いままのJimのボーカルが堪能できる。




ご興味を持っていただいた方へ。他の楽曲も👇で紹介しています。
スキ・フォロー・コメント嬉しいです。


いいなと思ったら応援しよう!