【結論】地下アイドルのリリースイベント、どれくらい行くのが正解なのか?
noteは数式もけっこう行ける。
地下アイドルオタクのかべのおくです。
このnoteは地下アイドルAdvent Calendar 2022 12月14日の投稿です。
地下アイドルは全部が全部、本当の意味で「地下」なわけではありません。なかには、レコード会社に所属していてメジャーレーベルでCDをリリースしているグループもたくさんあります。
そんなグループを応援していると半年に一回くらいのペースでCDリリースに伴った販売促進イベント(リリイベ)に遭遇します。休日のショッピングモールなどでミニライブなどがある時には、
「ママ、あのおじさんたちなに~?」
「シッ、目を合わせちゃいけません!!」
みたいな奇異の視線を家族連れから浴びることにも、すっかり慣れっこになってしまいました。
僕はもともと地上アイドル(48グループ、坂道)のオタクをしていましたが、地下アイドルのリリースイベントの特徴は主に2つあると思います。
開催回数がとにかく多い
ポイントを集めると「いいこと」がある
大抵のリリイベは、CD購入額に連動してポイントが得られます。そしてポイントを集めた先に待っているのは、アイドルと時間を共有できるオフ会などの特別イベントです。オタクはオフ会のために、己の時間と資金の続く限り際限なくリリイベに足を運ぶことになるわけです。
そんなリリイベに通っていると、普段のライブや特典会とは違った力学が働いていることに気づきました。
「どうせ買う枚数が決まってるなら、たくさんリリイベに来たほうがお得なんじゃね?」
リリースイベントは基本的にタワーレコードなどのCDショップで行われるので、チケット代やドリンク代は無料です。ということは、できるだけ多くのリリイベに行ったらその差額で元が取れるのではないでしょうか?
そんな着想を得て今回のnoteでは、「リリイベは何回行けば元が取れるのか?」という観点で、リリイベの裏に隠された数式を解き明かしたいと思います。
ライブにかかるお金を数式化
まず、今回のゴールを確認しておきます。
オフ会に参加するのに必要なポイントを集めるために、最適なリリイベ参加回数を求めよ。
これが今回の問題定義となります。先述の通り、リリイベではチケ代・D代がかかりません。従ってリリイベに行けば行くほどこの差額が積み重なって得をする公算が強いでしょう。
というわけでライブとリリイベにかかる費用の定式化から入ります。
※このあと数式が続きます。大したことないので、追うのがめんどい人は次章までスキップしてください。
①通常のライブとリリイベにかかるお金
普段のライブ1回にかかる費用は、以下のように書けます。
$$
a + b + c \times n
$$
ただしここで、$${a, b, c}$$は定数であり、
$${a: }$$チケット代
$${b: }$$ドリンク代
$${c: }$$チェキ代(通常価格)
です。
また、$${n}$$はチェキを撮る枚数を表す変数です。
対して、リリイベ1回にかかる費用は、以下の通りです。リリイベなので、チケット代とドリンク代はかかりません。
$$
0 + 0 + d \times n
$$
ただしここで$${d}$$はチェキ代(リリイベ価格)を表す定数であり、チェキ枚数$${n}$$は変わらないという仮定しています。これは、リリイベといえど得点会の時間は変わらないからです。
また、交通費はライブ・リリイベとも同様にかかるので今回は無視しました。
②1次方程式によって残金を定式化
この結果より、通常のライブとリリイベ1回辺りの差額は以下のように書けます。
$$
\begin{array}{}
(a + b + c \times n ) - (d \times n ) &=& a + b &+ &( c - d ) n \\ &=& \alpha &+ &\beta n
\end{array}
$$
ただしここで$${\alpha = a + b}$$, $${\beta = c - d}$$としました。この差額のぶんだけ、リリイベに行ったほうが得します。
ここでライブの参加回数を$${x}$$という変数でおくと、$${x}$$回ライブに行くことでオタクは普通のライブに行くよりも$${(\alpha + \beta n )\times x}$$円得するというわけです。
しかし、我々が知りたいのはお得になったお金ではありません。「何回行けば元が取れるのか?」でしょう。この元とは今回、CDの購入額のことです。そこでこれを$${\gamma}$$という定数にします。つまり、CD購入額$${\gamma}$$は先行投資であり、投資額と浮いたお金の差分$${\gamma - ( \alpha + \beta n ) x}$$が$${0}$$となったとき、我々は投資額を全て回収したということになります。
以上により、「ライブ・リリイベ参加回数」と「残金」の関係式は以下の1次方程式で書けることになります。
$$
y = \gamma - ( \alpha + \beta n ) x
$$
ただし、$${\gamma}$$はCDの購入額を表す定数です。
また、$${x, y}$$は変数であり、それぞれ以下を表します。
$${x: }$$ライブ・リリイベ参加回数
$${y: }$$投資額に占める未回収額
③制約条件を考慮する
しかし、まだ終わりではありません。ここで違和感に気づきませんか?それは「あれ、これ$${n}$$どこまで大きくできるんだろう?」というものです。そう、このままでは枚数の制約条件がありません。オフ会参加に必要な枚数を超えてしまっては意味がないでしょう。
$${x}$$回参加したリリイベで1回あたり$${n}$$枚のチェキを撮った時、総枚数を制約する不等式は以下のように書けます。
$$
n \times x \leq \delta
$$
ただし$${\delta}$$はチェキの総枚数を表す定数です。この制約の中でリリイベ方程式を解かなくてはいけません。
リリイベ方程式から分かること
このようにして導出した以下の連立式を、今回は「リリイベ方程式」と名付けます。
$$
\begin{array}{}
&y = \gamma - ( \alpha + \beta n ) x &\;\;\;\;\;\cdots (1)\\
&n x \leq \delta &\;\;\;\;\;\cdots (2)
\end{array}
$$
1次方程式(1)は残金と参加回数の関係を、1次不等式(2)は参加回数に対するチェキ総枚数の制約を表します。少し強引な数式化でしたが、ここからは2つの大事な示唆が得られます。それについて考えていきましょう。
まずは①リリイベは行けば行くほどお得ということです。リリイベ方程式は$${x}$$について、負の傾きを持つ1次方程式になっています。つまり、$${x}$$の値(リリイベ参加回数)が多くなるほど負債が解消され元が取れるということです。これは直感的にも分かりやすいでしょう。
次に、②チェキは撮れば撮るほどお得ということも言えます。リリイベのレギュレーションは、通常ライブよりも安めに設定されがちです。したがってレギュレーションの差額$${\beta}$$の値は正となります。
このため、$${n}$$の値が大きくなる、つまりチェキを普段から沢山撮る人ほど1次関数の傾きは大きくなり、先行投資したコストを早く回収できるということになります。もちろん不等式(2)の制約を満たすうえではありますが。
この2つの示唆は様々な条件付きであれど、普段僕が現場で直感的に考えていることに近いところがあります。「行けば行くほど得・撮れば撮るほど得」という一見非合理なことが実は合理的になりうるということではないでしょうか?
リリイベ方程式を使ってみよう
①方程式を解いてみた
さて、ではこの方程式を解いてみましょう。またしても数式が沢山登場するので、めんどい人は②までスキップしても構いません。
CD購入額$${\gamma}$$を全額回収、つまり$${y=0}$$となるまでのリリイベの参加回数$${x}$$は、式(1)より以下の通りです。
$$
x = \frac{\gamma }{ \alpha + \beta n}
$$
そこで、リリイベの連立式(1),(2)は以下のように書き換えられます。
$$
\begin{array}{}
x &=& \frac{\gamma }{ \alpha + \beta n} &\cdots (1)'\\
x &\leq &\frac{\delta}{n}&\cdots (2)'
\end{array}
$$
以上の式(1)',(2)'を満たすような$${x,n}$$が分かればよい、ということになります。
ここで、各定数に値を代入してみましょう。ここでは僕がよく通っているFES☆TIVEのレギュレーションを用います。普段のワンマンライブはチェキ券1枚2,500円です。また、ライブのチケット代は3,000円、ドリンク代は600円としましょう。

また、現在行われている「ニホンバレデンセツ」のリリイベは、チェキを1枚撮るのに2,400円かかります。リリイベではCDを100枚、つまり12万円ぶん購入するとオフ会に1回参加できます。今回は1回参加できれば良しとしましょう。

以上の情報から、このように各定数を式(1)',(2)'に代入します。
$${\alpha: 3,600 (=3,000+600)}$$
$${\beta: 100 (=2,500-2,400)}$$
$${\gamma: 120,000}$$
$${\delta: 120}$$
すると、以下の式が得られます。
$$
\begin{array}{}
x &=& \frac{1200 }{ 36 + n} &\cdots (3)\\
x &\leq &\frac{120}{n} &\cdots (4)
\end{array}
$$
ここで、等式(3)、不等式(4)はともに反比例の式です。このような問題は2つのグラフを書いて交点を探すことが定石なので、プロットしてみましょう。

縦軸が$${x}$$、横軸が$${n}$$を表します。緑のグラフが式(3)、青の領域が式(4)を表します。この青い領域と緑のグラフが交わっているところに無数の解が存在しています。
そこで次に、第一象限をもう少し拡大してみます。

すると$${(n,x) = (4,30)}$$で2つのグラフが交わっているので、ここが解を持つギリギリのポイントだと分かります。つまり、毎回4枚チェキを取っていれば30回で元が取れる、つまりCD購入額を全て回収できることになります。逆にこれ以上撮りすぎてしまうと損が発生しますし、少なすぎると投資額を回収できずに終わってしまいます。
②で、元は取れるわけ?
前述の検討より、「普段現場で4枚チェキを撮っている人が30回リリイベに通えば元が取れる」ことがわかりました。では実際にこれが成立しうるのか見てみましょう。

リリイベの実施回数は28回しかありません。しかも開催地には福岡、大阪、名古屋、越谷レイクタウン、幕張新都心なども含まれ、回り切るのは至難の業です。残念ながら今回の仮定のうえでは、投資コストを回収することは不可能なことがわかりました。
③「リリイベで元を取る」という前提を疑う
しかし我々オタクは、この結果自体が妥当なものではないことも知っています。「元が取れるとか、そういうもんじゃないだろ!」と。その通りです。
結局のところ、リリイベでもライブは見られているし、メンバーとはたくさん話せているわけです。また、ポイントを貯めると参加できるオフ会も楽しいに決まっています。それに、リリイベが始まる前と終わった後のオタクは等価ではありません。メンバーとの関係性を深められたり、リリイベに沢山通うことで仲間を得て、現場がより大切な居場所になっていることでしょう。
今回の定式化ではこういった、リリイベがもたらす情緒的価値を敢えて全く考慮していません。そのような価値をもし数値化して方程式に加えたとしたら、おそらくもっと現実的なものになるのでしょう。
最後になりますが、このnoteで伝えたかったのは「地下アイドルの楽しみ方は1つではない」ということです。リリイベは一般的に「推しとたくさん会える機会」「オフ会までの作業」と捉えられがちだと思います。しかしその裏側にある数学に少しでも思いを馳せてもらうことで、実は別のゲームに参加していたことに気付いていただけたかと思います。
確かにオタクの楽しみ方は自由なので、「ライブ楽しかった」「推しが可愛かった」で終わらせても一向にかまわないと思います。しかしそこをもっと突き詰めて、「推しがどんなふうに自分の血肉になっているのか?」を考えてみてはいかがでしょうか?
終わりに
まとめます。
お、そろそろタワレコに行かないと。
以上です。
