【ピリカ文庫】てぶくろ【ショートショート】
手編みの手袋をプレゼントされたのが二人の馴れ初めだ。
中三のバレンタインデーだった。
「前から好きでした。よかったら受け取ってください」
彼女の紅潮した顔と白い吐息はいまだ記憶に鮮明だ。
紙袋にはセルリアンブルーの極太で編んだミトン型の手袋。
生まれて初めてもらったバレンタインデープレゼントに僕はとても喜び、その場でそれをつけて笑ってみせた。
「ありがとう」
だけど、
同時に、その手袋は思春期の僕にはセンスが良いものとは思えなかった。
ところどころ目飛びや目つぶれがあり、各指の太さも不均一だった。
なにせ僕の母はカルチャー教室で講師をやるほど編み物が上手い。
母の編む模様入りの手袋は手編みだと信じてもらえなかったほどだ。
この手袋をつけることはしないだろうな。
複雑な気持ちだった。
彼女のことは決して嫌いではなかった、いや、むしろ好きだったからだ。
もらった手袋は、家族から冷やかされるのも嫌で帰り道で捨ててしまった。
もちろん彼女には内緒の話だ。
でも、この告白をきっかけに僕たちは付き合い始めることになった。
幸い、手袋をつけないことで彼女から問い詰められることはなかった。
その後、紆余曲折はあったものの7年前に二人は晴れてゴールイン。
結婚して以来、妻は母から熱心に編み物を習っている。
こたつに入りながら黙々と編む二人の姿が、我が家の年末年始恒例の風景だ。
妻はめきめき腕を上げ、今では母が編むのと遜色ないものを編む。
シックで繊細な模様入りマフラーと手袋は、会社での自慢のタネにもなっている。
今年も手袋の必要な季節がやってきた。
僕はセンスのいいノルディック模様の名作を妻から受け取った。
今年は4月から小学校にあがる息子にも初めて編んだようだ。
手袋をつけてもらった翔太が飛び跳ねて大喜びしている。
「ママ、ありがとう!」
隣の部屋から私のところに駆け寄って来た。
「これママに編んでもらったんだよ」
「良かったなぁ翔太。ママは編み物上手だからお友達が羨ましがるぞ」
んっ?
翔太の差し出した手にはセルリアンブルーの極太で編んだミトン型の手袋。
ところどころ目飛び、目つぶれがある。指の太さも不均一だ。
妻が翔太に話しかける。
「翔太、なくさないように大切にしてね。人が編んでくれた手袋は絶対になくしたり捨てたりしたらダメ。上手いも下手も関係ない。編む人はあげる人のことを思いながら、一目一目、大切に編んでいるのよ」
少しピリカさんのこと書いてます↓
たまごまるさんも同じお題で書かれています。
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