⑧FigureAI完全解剖
なぜこの会社は、ヒューマノイド業界で最も強い期待を集めるのか
ヒューマノイドロボットの世界で、いま最も市場の期待を集めている会社はどこか。
そう聞かれたら、かなり多くの人がFigure AIを挙げるはずだ。
まだ未上場。大規模な量産実績も、2026年4月時点ではTeslaの自動車のように誰もが確認できる形ではない。それでもFigure AIは、投資家、メディア、大手テック、大企業の製造現場から、異様なほど強い注目を浴びている。
理由は単純ではない。
創業者Brett Adcockの連続起業家としての資本調達力。Figure 01からFigure 02へと進んだ異常に速い開発テンポ。OpenAI、Microsoft、NVIDIA、Jeff Bezos、Amazon系ファンド、Intel Capitalといった象徴的な資本の集積。BMWとの実工場導入。そして、単なる「ロボット会社」ではなく、Helixのような具身AIモデルとBotQのような量産設備を一体で語るストーリー設計。
Figure AIは、製品だけではなく、物語そのものが強い。
だが、その強さは同時に危うさでもある。
評価額は巨大でも、未上場である以上、その評価のかなりの部分は将来期待に依存する。BMWでの実証は極めて重要だが、どの程度の採算性・汎用性・横展開性があるかは、まだ外部から十分には見えない。OpenAIとの提携も2024年時点では大きな追い風だったが、その後は内製AI路線へと舵を切っている。
つまりFigure AIは、現時点で「最も夢を買われているヒューマノイド企業」の一つでありながら、同時に「現実の事業実装をどこまで積み上げられるか」が最も厳しく見られる企業でもある。
この記事では、Figure AIがなぜ商業成熟度ランキングで8位に位置づくのかを最初に整理したうえで、創業者Brett Adcockの経歴、創業の動機、資金調達の流れ、Figure 01 / 02 系統、OpenAI・Microsoft・NVIDIA・Bezos・BMWとの関係、未上場ゆえの企業価値の見え方、そしてフィジカルAI 14カテゴリー技術マップまで、公開情報ベースで丁寧に解きほぐしていく。
序章:なぜFigure AIは商業成熟度8位なのか
ヒューマノイド企業を商業成熟度で見るとき、重要なのは次の4軸だ。
完全自律稼働
実工場・実施設での稼働実績
外部顧客への出荷・量産能力
収益化・ビジネスモデルの現実味
Figure AIは、この4軸のうち前半2つで非常に強い期待を集めている。
まず、技術の見せ方が圧倒的にうまい。Figure 01で「ヒューマノイドが自然言語で対話しながら物体操作する」世界観を強く印象づけ、Figure 02でBMWの工場導入まで一気に進めた。さらにHelixで、VLA(Vision-Language-Action)と具身制御の統合を前面に出した。ここは、単なるロボット機体メーカーというより、AIネイティブな具身知能企業として強く認識されている。
次に、BMWという象徴的な顧客を取ったことが大きい。2024年にはBMW Group Plant SpartanburgでFigure 02の試験運用が進み、BMW公式も実生産環境でのテストを公表した。2025年11月にはFigure側が、Figure 02の11か月の配備を通じて、10時間シフト、90,000超の部品搬送、1,250時間超の稼働、30,000台超のX3生産への寄与を発表している。これはヒューマノイドの「実工場での意味ある数字」として非常に強いが、あくまでFigure公表値であり、BMWの監査済みKPIとは分けて読むのが安全だ。
一方で、商業成熟度順位を押し上げきれない理由も明確だ。
第一に、量産出荷の全容が外から見えない。BotQで年産12,000台規模の初期能力を示しているが、これは設備能力の話であって、2026年4月時点で実際にその規模で商業出荷していることを意味しない。
第二に、収益化の実態がまだ見えにくい。BMW導入は大きな前進だが、1社の工場案件が横展開可能な標準プロダクト収益になるかは別問題だ。
第三に、評価額が先行している。2024年の675百万ドル調達時点で26億ドル評価、2025年2月にはBloomberg / Reutersベースで395億ドル評価での新規調達交渉が報じられ、2025年9月にはFigure自身とReutersが39億ドルではなく390億ドルのSeries Cを公表した。これは業界期待の大きさを示す一方、実績以上に期待が織り込まれている可能性も高い。
そのためFigure AIは、
技術期待:非常に高い
実工場導入:かなり強い
出荷・量産の確度:まだ評価途上
収益化の透明性:限定的
という位置にある。
このバランスを踏まえると、Figure AIは「最上位候補の一角」ではあるが、商業成熟度ではまだ8位前後に置くのが自然だ。
Figure AIの3つの自社最強技術(フィジカルAI 14カテゴリーより)
カテゴリー11:VLA・行動知能 —— HelixによるVision-Language-Action統合
カテゴリー4:ハンド・マニピュレーション —— Figure 02以降の高自由度ハンドと実工場での双腕作業
カテゴリー13:量産設計・製造OS —— BotQ、MES/PLM/ERP/WMSを含む製造スケール構想
では、そのFigure AIはどんな会社で、誰が作り、どこまで現実に近づいているのか。
第1章:創業者 Brett Adcock の履歴書
Brett Adcock —— 金融・ソフトウェア・航空を経て、ヒューマノイドへ来た創業者
Figure AIの創業者はBrett Adcockだ。
公開プロフィールやUniversity of Florida Warrington、Archer関連の経歴情報、本人サイトなどを総合すると、Adcockは1986年4月6日生まれで、イリノイ州Moweaqua(モウィークア)の家族経営農場で育ち、Central A&M High Schoolを首席で卒業したとされる。
その後、University of Floridaに2004年入学。当初はIndustrial Engineering(産業工学)を学んだが、のちにWarrington College of BusinessでBusiness Administrationへ転じ、2008年にBSBAを取得した。
卒業後は、金融・投資の文脈でキャリアを始めたと見られる。ただし、初期キャリアの具体的な勤務先や肩書きは公開ソース間で濃淡があるため、本稿では詳細断定を避ける。
つまり、彼は最初からロボティクス研究者だったわけではない。
むしろ、
金融
ソフトウェア起業
航空ハードテック
そしてロボティクス
という順に、より資本集約的で難易度の高い分野へ移ってきたタイプだ。
この経歴はかなり重要だ。Figure AIを理解するうえで、Adcockを「天才ロボット研究者」として見るとズレる。そうではなく、巨大市場を見つけ、資本を引き寄せ、優秀な技術人材を集め、高速で会社を立ち上げる起業家として見る方が実態に近い。
Vettery —— 最初の大きな成功
Adcockの初期キャリアで特に重要なのが、採用マッチング市場のスタートアップVetteryだ。
公開情報では、VetteryはBrett AdcockとAdam Goldsteinが共同創業し、2012年ごろから立ち上がり、2018年にAdecco Groupへ約1.1億ドル規模で買収されたとされる。金額表現にはメディア差があるが、おおむね1億ドル前後で理解してよい。
ここでAdcockが示したのは、ソフトウェア市場での起業・成長・エグジット能力だった。
しかも公開プロフィールでは、Adcockは16歳ごろからWebビジネスを始め、屋外電子機器のECサイトや Street of Walls のようなコンテンツ事業に関わっていたとされる。つまりVettery以前から、かなり早い段階で起業家的な試行を始めていたことになる。
単発の創業者ではなく、「一度作って売ったことがある人」という実績は、その後の資本調達で非常に強い。
Archer Aviation —— ハードテックでの大型資本調達経験
次にAdcockは、2018年にArcher Aviationを共同創業した。
ArcherはeVTOL、つまり電動垂直離着陸航空機の会社で、極めて資本集約的なハードテック企業だ。Adcock本人の説明や公開プロフィールでは、ここで100億円どころではない、10億ドル超規模の資本調達と上場企業化の経験を積んでいる。
この経験の意味は大きい。
ヒューマノイド企業は、単にロボットを作るだけでは勝てない。部品、製造、規制、量産、採用、資本政策、PR、戦略提携、すべてが複雑に絡む。Archerの経験を経たAdcockは、その難しさを理解したうえでFigure AIを立ち上げている。
研究者ではなく「難しい産業を資本で立ち上げる人」
Figure AIの創業者像を一言で言えば、Adcockはロボット工学の第一人者というより、巨大で難しい産業を立ち上げるための会社作りに長けた起業家だ。
この人物像をさらに補強するのが、Figure以外にも複数の会社を同時に動かしてきた点だ。公開情報では、2023年10月にCover、2025年にHark を立ち上げたとされる。Figure AIだけに全振りした創業者というより、AI・安全・ロボティクスをまたいで複数の難しいテーマを並行で仕掛けるタイプと見る方が近い。
このタイプの強みは明確だ。
優秀な技術幹部を集められる
ストーリーを設計できる
投資家との対話が強い
巨額資本を前提にした競争に慣れている
逆に弱みもある。
技術そのものの深さは、チーム依存になりやすい
ストーリーが先行しすぎると、実績とのギャップが問題化する
Figure AIはまさに、その強みと弱みを両方持った会社だ。
第2章:Figure AI創業の全貌
創業年と創業地
Figure AIは2022年創業のアメリカ企業である。Reuters 2024年報道ではSunnyvale, Californiaとされ、2025年ReutersではSan Jose, Californiaと表現されている。会社の拠点表記にメディア差はあるが、シリコンバレー圏のカリフォルニア企業として捉えて問題ない。
創業の動機はかなり明快だ。
Figure AIは一貫して、
労働力不足
危険・単調・人がやりたがらない仕事
人間向け環境でそのまま働ける汎用ロボット
という3点を中核の課題として掲げてきた。
工場、物流、倉庫、流通、小売、将来的には家庭まで含め、「環境をロボット向けに作り替える」のではなく、「人間環境にロボットを適応させる」思想が強い。
Figureが最初から狙っていたもの
ここで大事なのは、Figure AIが最初から単機能ロボットを作ろうとしていない点だ。
同社の基本思想は、
人型フォームファクタ
汎用作業
AIネイティブな知能
量産可能なハードウェア
を一体化することにある。
これはTesla Optimusとも似ているが、Figureは自動車メーカーではない。その代わり、会社のすべてを最初からヒューマノイド専用に最適化できる。そこが強みでもあり、量産実績の後ろ盾がない弱みでもある。
創業初期の進め方
Adcock本人の発信や各種報道から見えるのは、Figure AIが非常に速い立ち上がり方をしたことだ。
2022年創業からわずか短期間で、
有力人材の採用
プロトタイプの公表
Series A / B 調達
BMW提携
OpenAI提携
まで進んでいる。
この速度は異常に近い。
もちろん、これはAdcockの起業家としての経験値による部分が大きい。ゼロから信用を作る創業者ではなく、すでに大型資本市場で名前の通った創業者だったからこそ可能だった。
会社の性格
Figure AIは、ロボット会社であると同時に、かなり強くAI会社でもある。
2024年の時点ではOpenAIとの協業を大きく打ち出し、2025年以降はHelixを軸に「内製AIで進む」姿勢を強調している。つまり、ハードウェア企業というより、具身知能を持つロボット・プラットフォーム企業として自己定義している。
これは投資家に刺さりやすい。単なる機械メーカーではなく、AIの延長線上にある「Physical AI企業」として評価されやすいからだ。
第3章:資金調達と資本市場での見え方
2023年:最初の外部大型調達
Reuters 2024年報道によれば、Figureはその前段階で2023年にParkway Venture Capital主導で7000万ドルを調達している。
この段階では、まだ「有望なヒューマノイド新興企業」の一つだった。
ただし、ここから先の伸び方が尋常ではない。
2024年:675百万ドル調達、評価額26億ドル
2024年2月、ReutersはFigureが675百万ドルを調達し、評価額26億ドルになったと報じた。
参加投資家として挙がったのは、
Microsoft
NVIDIA
OpenAI Startup Fund
Jeff Bezos(Explore Investments経由と報道)
Amazon Industrial Innovation Fund
Intel Capital
ARK Invest
Align Ventures
Parkway Venture Capital
などである。
これは単なる資金調達ではなく、ヒューマノイド業界における象徴的事件だった。
理由は、資金の大きさだけではない。
Microsoft、NVIDIA、OpenAI、Bezosという「AI時代の記号」が一社に集まったことで、Figure AIは一気に“業界の本命”として見られるようになった。
2025年2月:395億ドル評価での交渉報道
2025年2月、BloombergおよびReutersは、Figure AIが15億ドル規模の新規調達を395億ドル評価で交渉中だと報じた。
ここで重要なのは、これは当時まだ交渉段階の報道であり、確定IRではなかった点だ。したがって2025年2月時点では、「395億ドル評価が報じられた」が正確な書き方になる。
またReutersは同報道の中で、FigureがOpenAIとの協業契約を終了し、AIモデルを完全に内製化しているというBrett Adcockの説明も伝えている。
2025年9月:Series C、390億ドルポスト評価
その後、2025年9月にはReutersとFigure公式が、Figureが10億ドル超のSeries Cを実施し、390億ドルのポストマネー評価になったと報じた。
主要参加投資家としては、
Parkway Venture Capital
NVIDIA
Intel Capital
LG Technology Ventures
Salesforce
T-Mobile Ventures
Qualcomm Ventures
Brookfield Asset Management
Macquarie Capital
Align Ventures
Tamarack Global
などが挙げられている。
ここで一つ整理が必要だ。
2024年の26億ドルから、2025年の390億ドルへという跳ね方は、通常のスタートアップとしてはかなり異例だ。つまり、この評価には現時点の収益だけでなく、
ヒューマノイド市場全体の巨大TAM期待
AIとの結合によるプレミアム
Figureが“勝ち筋の筆頭”に見えていること
資本が未上場のまま大型化していること
が強く反映されている。
未上場としての企業価値の見え方
Figure AIの企業価値を見るとき、最も大事なのは**「評価額」と「実力」を混同しないこと**だ。
390億ドル評価は、市場期待としては驚異的だ。しかし未上場企業である以上、これは日々の公開市場価格ではなく、限定されたラウンドの条件で決まる私募評価だ。
したがって、ここから読み取れるのは主に以下だ。
Figure AIは、資本市場から極端に高い期待を受けている
その期待の中心は、将来のヒューマノイド量産・AIプラットフォーム化にある
ただし、売上や利益の裏付けがどこまで追いついているかは公開情報では見えにくい
つまりFigure AIは、現時点の事業価値より、将来の勝者ポジションに対して資本が先回りしている会社として理解するのが適切だ。
第4章:Figure 01 / 02 系統と製品進化
Figure AIの製品進化は、かなり短期間で進んでいる。
大きく分けると、
Figure 01
Figure 02
そして2025年以降に示されるFigure 03系統
という流れで見ればよい。
本稿の主対象はFigure 01 / 02 系統だが、2026年4月時点の最新像を示すために Figure 03、BotQ、Helix 02 まで含めて整理している。
Figure 01 —— 最初の「世界観提示機」
Figure 01は、Figure AIの初代汎用ヒューマノイドとして市場に認知された機体だ。
公開二次情報では、Figure 01は概ね次のように整理されることが多い。
身長:約168cm
体重:約60kg
可搬:約20kg
歩行速度:約1.2m/s
駆動:完全電動
自由度:40以上〜41DoF級とされる例が多い
稼働時間:約5時間級とされることが多い
ただし注意が必要なのは、Figure 01の完全な詳細スペックを2026年4月時点で公式一次情報から一括確認しにくいことだ。したがって、厳密数値を断定しすぎず、「公開流通情報では〜とされる」と書くのが安全である。
Figure 01の本当の意味はスペック表ではない。
この機体は、Figure AIが
人型フォームファクタ
双腕操作
自然言語インタラクション
汎用タスク志向
を結びつけて見せた最初の象徴機だった。
特に2024年初頭に公開された、音声対話しながら物体を認識・説明・操作するデモは強い印象を残した。ここでFigureは、ロボット制御と大規模AIモデルの接続を世の中に分かりやすく見せた。
Figure 02 —— 商業実装を意識した本命機
Figure 02は、Figure AIが本格的に商業導入を狙い始めた第二世代機だ。
BMW公式の2024年9月発表では、Figure 02について以下が確認できる。
重量:約70kg
身長:約170cm
荷重能力:約20kg
手:片手16アクティブDoF
先代比で3倍の計算能力
改善された音声コミュニケーション
カメラ、マイク、各種センサーの強化
より強力なバッテリー
NVIDIA公式ブログも、Figure 02が
第二のRTX GPUモジュール搭載
先代比3倍の推論性能
6基のRGBカメラ
新しい人間サイズの手
NVIDIA Isaac Sim / Omniverseを活用した学習・検証
といった点を強調している。
つまりFigure 02は、単なる見た目の改善ではなく、
計算資源の増強
センサーフュージョンの強化
手先の高度化
工場実装を意識した信頼性向上
を進めた機体だ。
Figure 01からFigure 02への進化の本質
Figure 01からFigure 02への進化を一言で言えば、
「話題性の高いデモ機」から「工場に入れる商用前夜機」への移行
である。
ここでFigure AIは、単に歩ける・掴めるだけでなく、
連続稼働
実タクトでの作業
実工場の安全・精度要求
繰り返し動作への耐久性
といった、ロボット産業の最も地味で最も難しい現実に踏み込んだ。
Figure 03への橋渡し
2025年以降、FigureはFigure 03やHelix 02で、さらに
tactile sensing(触覚)
palm cameras
量産向け再設計
全身統合制御
を打ち出している。
BotQの説明でも、Figure 02は「プロトタイプ寄り」であり、Figure 03は量産・低コスト化・高信頼化のための本命生産機として設計し直したことが述べられている。
したがってFigure 01 / 02 系統は、Figure AIの初期学習曲線そのものだったと言える。
第5章:OpenAI / Microsoft / NVIDIA / Bezos / BMW —— Figureを取り巻く巨大文脈
Figure AIがこれほど注目される最大の理由の一つは、関与するプレイヤーの顔ぶれがあまりに強いことだ。
OpenAI —— 2024年の象徴的提携、のちに解消
2024年2月、ReutersはFigureがOpenAIと提携し、ヒューマノイド向け生成AIを共同開発すると報じた。FigureはMicrosoft Azure上でAIインフラを動かし、OpenAIの最新GPT系モデルをロボティクス用途に合わせて学習する方針も示していた。
これは当時、極めて象徴的だった。
「ChatGPTの会社がヒューマノイドに乗るのか」という期待は、Figureのブランド価値を一気に押し上げた。
ただし、この関係は固定ではなかった。
2025年2月のReuters報道では、Brett AdcockがOpenAIとの協業契約は終了し、FigureのAIは完全に内製化されていると説明している。
ここは誤解しやすい点だが、
2024年にはOpenAI協業が強い追い風だった
2025年にはFigureは内製AI路線を前面化した
という二段階で理解すべきである。
Microsoft —— 資本とインフラの両面で重要
Microsoftは2024年ラウンドの参加投資家としてReutersに明記されている。また同ラウンドでは、FigureがMicrosoft Azureへ移行し、AIインフラと学習環境を構築すると報じられた。
つまりMicrosoftは、単なる財務投資家というより、
資本
クラウド基盤
企業向けAI実装の文脈
でFigureに接続している。
この組み合わせは強い。ヒューマノイドは大量学習・シミュレーション・データ管理が必要で、クラウド基盤との結びつきは極めて重要だからだ。
NVIDIA —— AI計算・シミュレーション・投資の三位一体
NVIDIAはFigureにとって、かなり本質的な存在だ。
2024年の資金調達に参加しただけでなく、NVIDIAブログはFigure 02の発表にあわせて、
NVIDIA DGXでの学習
Omniverse / Isaac Simでのシミュレーション
機体内GPUでの推論
という“3つのコンピュータ”の考え方を紹介している。
これは単なる出資ではなく、FigureがNVIDIAエコシステム上でロボット開発を進めていることを示す。
ヒューマノイド競争は、将来的に
学習データ
シミュレーション
現実世界での閉ループ推論
の勝負になる。NVIDIAとの親和性が高いことは、それ自体が大きな競争力だ。
Jeff Bezos / Amazon系資本 —— 物流・産業オートメーション文脈の象徴
Reutersは2024年ラウンドについて、Jeff BezosがExplore Investments経由で投資し、さらにAmazon Industrial Innovation Fundも参加していると伝えている。
ここで重要なのは、Amazonそのものの大規模業務現場との接続可能性を市場が連想する点だ。
Amazonは世界最大級の物流・倉庫運営企業であり、ヒューマノイドの最重要用途の一つがまさにそこにある。現時点でFigureがAmazonの大規模商用導入を得ているとまでは確認できないが、Amazon系の資本が入っていること自体が、物流市場との親和性を強く想起させる。
BMW —— Figureの商業実装を現実にした最重要顧客
Figure AIの商業文脈で最も重要なのは、間違いなくBMWだ。
2024年1月、ReutersはFigureがBMW Manufacturingと提携し、米国の工場にヒューマノイドを導入すると報じた。
その後、2024年9月にはBMW公式が、BMW Group Plant SpartanburgでFigure 02を実生産環境で試験していると発表した。BMW側は、これが同社にとって初めてのヒューマノイド生産導入であり、将来の活用可能性を評価するための試験運用だと説明している。
BMW公式が示したFigure 02の使い方は、
人間が負荷を感じやすい作業の支援
高精度な部品位置決め
複雑な把持
二手協調を要する作業
などだ。
そして2025年11月、Figure自身は自社公表値として、11か月のBMW配備成果を次のように示している。
月〜金の10時間シフト
90,000超の部品搬送
1,250時間超の稼働
30,000台超のX3生産への寄与
を発表している。
この数字をどう見るか。
かなり大きい。少なくとも、ヒューマノイドが「工場の片隅のPRデモ」ではなく、実ラインの一部として検証されたことを示しているからだ。
ただし同時に、ここは慎重さも必要だ。
これはFigure自身の発表であり、会計監査済みKPIではない
台数、採算、人的介入率、保守コスト、総保有コストは外部から見えない
BMWで成立したタスクが、他工場・他業界にそのまま展開できるとは限らない
したがって、BMW案件はFigureの実力を示す非常に強い材料だが、なお検証継続中の段階と見るのが妥当だ。
第6章:HelixとFigureのAI戦略
Figure AIを他社と分ける最大の要素は、機体そのものよりAI戦略の打ち出し方かもしれない。
Helix —— Vision-Language-Actionの中核
2025年、FigureはHelixを「generalist Vision-Language-Action model」として発表した。
Figure公式によればHelixの特徴は、
上半身全体の高レート連続制御
2台ロボットの協調作業
未知物体へのゼロショット操作
単一のニューラルネット重みで多数行動を実現
低消費電力の組み込みGPU上でオンボード動作
といった点にある。
さらにアーキテクチャとしては、
System 2:意味理解・言語理解を担う低速だが汎用な層
System 1:200Hz級でリアクティブ制御する高速層
に分けた「System 1 / System 2」構造を採る。
ここでFigureが主張しているのは、単なるLLM接続ではなく、意味理解と身体制御を両立するVLAスタックである。
Helix 02 —— 全身制御への拡張
2026年1月発表のHelix 02では、Figureはさらに
全身のloco-manipulation
歩行・把持・バランスを単一系で統合
1,000時間超の人間動作データ学習
tactile sensing と palm cameras の活用
を打ち出している。
これは重要だ。
従来の多くのヒューマノイドは、歩行制御と手先操作が別系統で、タスク達成はかなり手作り感の強い統合になりやすかった。Figureはそこを、より「単一の学習システム」としてまとめようとしている。
FigureのAI戦略の意味
FigureのAI戦略は、かなりはっきりしている。
ただ動くロボットを作るのではない
ただ話せるAIを載せるのでもない
環境理解・言語理解・行動生成を一気通貫で繋ぐ
という方向だ。
これは、フィジカルAIの本流にかなり近い。
ただし、ここでも注意が必要だ。
HelixやHelix 02のデモは非常に強いが、家庭での真の汎用性、工場での長時間安定稼働、多様タスクへの低コスト移植まで証明されたとはまだ言い切れない。Figureが掲げる方向性は極めて正しいが、その実用化速度は今後数年の検証を要する。
第7章:BotQと量産能力 —— Figureは本当に量産できるのか
ヒューマノイド企業の最大の分岐点は、デモではなく量産だ。
Figureはこの難所に対して、かなり早い段階から答えを出そうとしている。
BotQ —— 年産12,000台の初期能力
Figure公式のBotQ発表によれば、同社の新しい高量産製造施設BotQの第一世代ラインは、年間最大12,000台のヒューマノイド製造能力を持つという。
さらにFigureは、
製造の内製化
MES / PLM / ERP / WMSの構築
コア技術(アクチュエータ、ハンド、バッテリー、最終組立)の自社主導
将来的にロボットがロボットを作る工程
まで明示している。
これは極めて野心的だ。
量産に向けた設計変更
BotQの説明で特に重要なのは、FigureがFigure 02をプロトタイプ寄りと位置付け、Figure 03を量産のために再設計した本命機として扱っている点だ。
具体的には、
CNC依存の高コスト試作設計から離れる
射出成形、ダイキャスト、金属射出成形、プレスなど量産工法へ移行
部品点数削減
信頼性試験体制の強化
が述べられている。
ここはFigureの本気度を示している。
多くのヒューマノイド企業は、歩く機体は見せても、量産工法への切り替えまで具体的に語れない。Figureはその点、量産のボトルネックをかなり早くから潰しにいっている。
ただし「能力」と「実績」は別
一方で、ここも冷静に見なければならない。
BotQで示された12,000台/年は、あくまで製造能力の設計値・目標値に近い。2026年4月時点で、Figureが実際に年数千〜万台規模の商用出荷を行っていることまでは公開情報から確認できない。
したがって、BotQは
量産意思の強さ
製造を分かっている会社だというシグナル
将来スケールに向けた布石
として極めて重要だが、すでに量産勝者であることの証明ではない。
第8章:商業実装の現在地
Figure AIは、ヒューマノイド企業の中では商業実装にかなり近い位置まで来ている。
ただし、「もう完全に商業化した」とまでは言いにくい。
確認できる前進
公開情報ベースで確認しやすいのは、次の点だ。
BMW工場での実運用試験
Figure 02の工場ライン投入
実稼働時間と処理部品数の公表
BotQによる量産準備
Helixによるソフトウェア差別化
この組み合わせは強い。
単なる研究企業ではないし、単なる動画企業でもない。少なくともFigureは、現実の製造現場に踏み込み、そこから学習している。
まだ見えにくいもの
しかし、商業企業として重要な次の指標は、まだかなり見えない。
単価
契約形態(販売・リース・RaaS)
1台あたり粗利
保守コスト
介入率
稼働率の長期推移
顧客の継続発注
BMW以外の本格量産顧客数
ここが見えない限り、Figureを「強い商業会社」と断定するのは早い。
Figureの強みと弱み
強み:
資本市場の支持が圧倒的
AIとハードの統合ストーリーが強い
BMWでの実証がある
開発テンポが速い
量産構想まで語れている
弱み:
未上場で透明性が低い
収益モデルが外から見えにくい
評価額が期待先行の可能性
本当に量産歩留まりが立つかは未検証部分が大きい
商用横展開がどこまで進むか不明
つまりFigure AIは、技術・資本・ブランドではすでに業界トップ層、商業の確定実績ではまだ検証中の会社だ。
第9章:Figure AIをフィジカルAI 14カテゴリーで分解する
ここでは、Figure AIをフィジカルAI 14カテゴリー技術マップで整理する。
1. モビリティ・歩行制御
強い。Figure 01/02/Helix 02を通じて、歩行と上半身制御の統合を前進させている。ただしBoston Dynamics級の運動ダイナミクスの圧倒性を示しているわけではない。
2. 構造・素材・本体設計
強い。Figure 02からFigure 03への再設計で、量産工法への切り替えをかなり意識している。BotQの文脈でも本体設計と製造設計の一体化が見える。
3. アクチュエータ・駆動系
中上位。コアをかなり自社設計していると見られるが、公開情報では詳細非開示部分も多い。TeslaやUnitreeほど駆動系の内製競争力が見えやすいわけではない。
4. ハンド・マニピュレーション
非常に強い。Figure 02では高自由度ハンドと両手協調が前面に出ており、BMWの部品ハンドリングでもここが価値の中心になっている。
5. 視覚知覚
強い。複数RGBカメラとVLAの統合、シミュレーション学習、実環境データ回収まで含めて、かなり本気度が高い。
6. 触覚・接触知覚
伸びしろ大。Figure 03 / Helix 02でtactile sensingやpalm camerasが言及され、次の差別化点になっている。
7. 音声対話・マルチモーダルI/O
強い。Figure 01の象徴的デモ以来、この領域はFigureのブランド資産になっている。
8. 自己位置推定・空間認識
中上位。工場・家庭環境での動作前提のため重要だが、外部から詳細性能を比較しにくい。
9. タスク計画・行動分解
非常に強い。HelixのSystem 1 / System 2 構造は、まさにこの層を中核に置いている。
10. 模倣学習・データ生成
強い。Figure公式はテレオペデータ、多ロボットデータ、人間動作データ、VLMによる自動ラベリングなどを明示している。
11. VLA・行動知能
最強クラス。Figureの最大の売りはここであり、ヘルスチェックではなく本体価値そのもの。
12. シミュレーション・Sim2Real
非常に強い。NVIDIA Omniverse / Isaac Simを活用した訓練・検証が公開されている。
13. 量産設計・製造OS
強い。BotQ、MES、PLM、ERP、WMSまで含めて、量産を“語れる”数少ないヒューマノイド企業。
14. フリート運用・運用管理
まだ評価途上。BMWのような単一大手案件では前進しているが、多数台展開・遠隔保守・運用分析の全体像はまだ見えにくい。
Figure AIの技術マップ総評
Figure AIは14カテゴリー全体をかなり広く押さえているが、とくに強いのは次の3つだ。
11:VLA・行動知能
4:ハンド・マニピュレーション
13:量産設計・製造OS
逆に、まだ公開情報で慎重に見るべきなのは、
3:駆動系の本当の競争力
14:多数台運用の商業完成度
6:触覚の実用深度
である。
第10章:フィジカルAI 14カテゴリー技術マップで見るFigure AI
Figure AIがフィジカルAIの14カテゴリーのどこを自社保有しているかを整理する。
Figure AIの最大の特徴は、ヒューマノイド機体そのものだけでなく、VLA・量産設計・実工場導入までを一つの物語として統合して見せていることだ。Boston Dynamicsのような身体制御の純粋な強さとも、Teslaのような巨大製造基盤とも違う、AIネイティブな商業化志向が見える。
| # | カテゴリー | 保有状況 | 詳細 |
| --- | --- | --- | --- |
| 1 | モビリティ・歩行制御 | ○ 強い | Figure 01/02/Helix 02を通じて、歩行と上半身制御の統合を前進させている。ただしBoston Dynamics級の運動ダイナミクスの圧倒性を示しているわけではない |
| 2 | 構造・素材・本体設計 | ○ 強い | Figure 02からFigure 03への再設計で、量産工法への切り替えをかなり意識している。BotQの文脈でも本体設計と製造設計の一体化が見える |
| 3 | アクチュエータ・駆動系 | △ 中上位 | コアをかなり自社設計していると見られるが、公開情報では詳細非開示部分も多い。TeslaやUnitreeほど駆動系の内製競争力が見えやすいわけではない |
| 4 | ハンド・マニピュレーション | ✅ 非常に強い | Figure 02では高自由度ハンドと両手協調が前面に出ており、BMWの部品ハンドリングでもここが価値の中心 |
| 5 | 視覚知覚 | ○ 強い | 複数RGBカメラとVLAの統合、シミュレーション学習、実環境データ回収まで含めて、本気度が高い |
| 6 | 触覚・接触知覚 | △ 伸びしろ大 | Figure 03 / Helix 02でtactile sensingやpalm camerasが言及され、次の差別化点になっている |
| 7 | 音声対話・マルチモーダルI/O | ○ 強い | Figure 01の象徴的デモ以来、この領域はFigureのブランド資産になっている |
| 8 | 自己位置推定・空間認識 | △ 中上位 | 工場・家庭環境での動作前提のため重要だが、外部から詳細性能を比較しにくい |
| 9 | タスク計画・行動分解 | ✅ 非常に強い | HelixのSystem 1 / System 2 構造は、まさにこの層を中核に置いている |
| 10 | 模倣学習・データ生成 | ○ 強い | Figure公式はテレオペデータ、多ロボットデータ、人間動作データ、VLMによる自動ラベリングなどを明示している |
| 11 | VLA・行動知能 | ✅ 最強クラス | Figureの最大の売りはここであり、会社価値の中核そのもの |
| 12 | シミュレーション・Sim2Real | ✅ 非常に強い | NVIDIA Omniverse / Isaac Simを活用した訓練・検証が公開されている |
| 13 | 量産設計・製造OS | ○ 強い | BotQ、MES、PLM、ERP、WMSまで含めて、量産を“語れる”数少ないヒューマノイド企業 |
| 14 | フリート運用・運用管理 | △ まだ評価途上 | BMWのような単一大手案件では前進しているが、多数台展開・遠隔保守・運用分析の全体像はまだ見えにくい |
Figure AIの技術保有の特徴
◎ 圧倒的に強い:
11 VLA・行動知能
4 ハンド・マニピュレーション
9 タスク計画・行動分解
12 シミュレーション・Sim2Real
○ 強い:
1 モビリティ・歩行制御
2 構造・素材・本体設計
5 視覚知覚
7 音声対話・マルチモーダルI/O
10 模倣学習・データ生成
13 量産設計・製造OS
△ まだ不透明 / 伸びしろ:
3 アクチュエータ・駆動系の実力の見え方
6 触覚・接触知覚の実用深度
8 自己位置推定・空間認識の比較可能性
14 フリート運用・運用管理の商業完成度
Boston Dynamics / Tesla / Figure AI の違い
| カテゴリー | Boston Dynamics | Tesla | Figure AI |
| --- | --- | --- | --- |
| 身体制御 | ◎ 最強クラス | ○ 改善中 | ○ 強い |
| 量産能力 | ○ 製品化済み | ◎ 既存世界級 | ○ 構想は強い |
| AIスタックの見せ方 | ○ 提携主導 | ◎ 強い | ◎ 最強クラス |
| ハンド/作業知能 | ○ 強い | ○ 改善中 | ◎ 非常に強い |
| 現場導入の重心 | Spot/Stretch/Orbit | 自社工場中心 | BMW工場での実証 |
一言でいえば、Figure AIは「ヒューマノイドのAIネイティブ本命」として極めて強い。次の勝負は、そのAIストーリーを量産・採算・横展開まで証明できるかである。
参考整理(本稿で主に参照した公開情報)
Reuters, 2024-02-29: Figureが675百万ドル調達、評価額26億ドル、OpenAI協業、Microsoft Azure移行
Reuters, 2025-02-14: Figureが395億ドル評価での資金調達を交渉中、OpenAI協業終了・内製AI化
Reuters, 2025-09-16: Figureが10億ドル超のSeries C、390億ドル評価
BMW Group official, 2024-09-11: Spartanburg工場でFigure 02を実生産環境で試験
Figure official: Helix / Helix 02 / BotQ / BMW deployment result
NVIDIA Blog, 2024-08-08: Figure 02とNVIDIAスタック活用
※未上場企業のため、財務・出荷・契約単価・量産実績の多くは公開範囲が限られる。数値や評価は時点によって更新されうる。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
フィジカルAI企業シリーズは続けていく予定だ。AGIBOT、UBTECH、Fourier、Boston Dynamics、Tesla、Unitree、そしてFigure AIまで来た。次にどの会社を掘るかで、世界のヒューマノイド地図はまた違って見えてくる。
付録:Figure AI 公式リンク
| プラットフォーム | URL |
| 🌐 公式サイト | https://www.figure.ai/ |
| 📰 News | https://www.figure.ai/news |
| 🤖 Figure 02 | https://www.figure.ai/news/introducing-figure-02 |
| 🧠 Helix | https://www.figure.ai/news/helix |
| 🧠 Helix 02 | https://www.figure.ai/news/helix-02 |
| 🏭 BotQ | https://www.figure.ai/news/botq |
| 🏭 BMW導入 | https://www.figure.ai/news/bmw-manufacturing |
| 📺 YouTube | https://www.youtube.com/@Figure_robot |
| 💼 LinkedIn | https://www.linkedin.com/company/figure-ai/ |
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