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採用から組織設計までAIが担う――中国HRテック「Moka」が発表した3人の「AI同僚」の衝撃

あなたが昨日の会議で発した一言は、すでに誰かの評価データになっているかもしれない。

そんなことを言うと、大げさな未来予測に聞こえるだろうか。

だが2026年5月13日、北京で開かれたある製品発表会で、それは「未来予測」ではなく「製品仕様」として語られた。

中国のHRテック企業Mokaが発表した「BP Eva」というAIエージェントは、社員一人ひとりについて、会議での発言、プロジェクトの成果物、そしてAIツールの利用状況までを自動的に読み取り、能力プロフィールとして継続的に更新する。半年に一度の人事評価ではない。毎日である。

同時に発表された「採用Eva」は、その企業が過去に誰を採用し、誰を落としてきたかという判断履歴から「用人金標準」――採用の黄金基準――を自動的に抽出する。そして面接の前・中・後のすべてに介入し、面接官に追加質問を耳打ちする。

三人目の「人事Eva」は、勤怠、給与、シフト、入退社の処理を最後まで走らせる。人事担当者の仕事は、確認ボタンを押すことだけになる。

Mokaはこれらを「ツール」とも「アシスタント」とも呼ばなかった。

「同僚」と呼んだ。

そして発表から42日後の2026年6月24日、同社はこの製品をアジア太平洋市場へ正式投入した。日本企業の隣で、すでに動き始めているということだ。

一方、2026年8月2日は、本来ならEU AI法の雇用分野を含む高リスクAI義務が適用開始されるはずだった日である。採用、選考、昇進、契約終了、業務配分、業績監視――そのすべてが高リスクに指定されていた。だが雇用分野を含む附属書IIIの高リスクAI義務は、当初の適用予定日の6日前に改正規則が発効し、2027年12月2日へ延期された。EU AI法全体が延期されたわけではなく、透明性義務などは2026年8月2日から適用されている。

技術は先に走り、規制は後ろへ下がった。

ただし、すべての法域がそうだったわけではない。Mokaが北京で「AI同僚」を発表した5日前、中国の三つの当局は連名で、AIエージェントの権限管理と分類分級ガバナンスを求める実施意見を出している。香港の規制当局は同じ年の3月、エージェントAIを独立したプライバシーリスクとして名指しした。

本稿は、この非対称のなかで何が起きているのかを、一次資料に当たりながら徹底的に読み解く試みである。


目次

第1部 何が起きたのか

  • 第1章 2026年5月13日、北京で宣言されたこと

  • 第2章 Mokaとは何者か――10年分のHRデータを持つ会社

  • 第3章 李国興が示した競争公式「AI人材密度 × AI協同深度」

  • 第4章 Mokaが引用した三つの海外事例と、その検証

第2部 三人のAI同僚

  • 第5章 採用Eva――ATSの機能強化ではなく「世代差」

  • 第6章 面接コーチEva――少数の伯楽を、組織全体の能力に変える

  • 第7章 十の工程、四つの仕事――採用担当者に残るもの

  • 第8章 人事Eva――「HRが設計し、Evaが実行する」

  • 第9章 「80%」という数字の正確な意味

  • 第10章 BP Eva――人材デジタル遺伝子バンクと組織能力マップ

  • 第11章 人事評価を「半年に一度」から「毎日」へ

  • 第12章 部署を越えて社内人材を探す――内部人材市場の思想

第3部 基盤とビジネスモデル

  • 第13章 Moka AI工坊――自然言語で人事システムを作り変える

  • 第14章 「組織のAI大脳」という三層アーキテクチャ

  • 第15章 千企千面――SaaSのビジネスモデルが変わる

  • 第16章 AI化のパラドックス――席数課金の自己否定

第4部 海外展開と、数字の検証

  • 第17章 2026年6月24日、アジア太平洋への進出

  • 第18章 92%、87%、78%――公表数値をどう読むか

  • 第19章 なぜ「人間との一致率」は公正さを意味しないのか

第5部 最も危険なHRテックにもなり得る理由

  • 第20章 採用差別を再生産する構造

  • 第21章 常時分析と「評価されている感覚」

  • 第22章 離職リスク予測の自己実現

  • 第23章 AIは同僚ではない――責任を負わないから

第6部 規制はどこまで追いついているか

  • 第24章 中国――個人情報保護法と、発表5日前に出た「智能体実施意見」

  • 第25章 EU AI法――2026年8月2日に何が起きなかったか

  • 第26章 米国――Mobley対Workdayが突きつけた「AIベンダーの責任」

  • 第27章 米国――州法パッチワークと、連邦による巻き戻し

  • 第28章 アジア太平洋――韓国、香港、シンガポール、マレーシア

  • 第29章 日本――リクナビ事件の教訓と、2026年改正個情法

第7部 市場と、日本企業への示唆

  • 第30章 中国HRテック市場の競争構図

  • 第31章 日本企業への示唆――導入する/しないの前に

  • 第32章 このニュースの本当の意味

終章 人間の社員とAI同僚を、どれだけ深く協働させられるか


第1部 何が起きたのか

第1章 2026年5月13日、北京で宣言されたこと

2026年5月13日、Mokaは北京で「Moka Ascend 2026」と題した製品発表会を開催した。

テーマは「AI組織新生・欢迎AI新"同事"」。日本語にすれば「AIによる組織の再生――AIという新しい同僚を迎えよう」となる。

この日、Mokaは自社のHR SaaS製品群を全面的に「Moka AI」へ刷新すると発表した。そのうえで、三人のAI「同僚」を投入した。

【三人のAI同僚】
・採用Eva(招聘Eva)――勤勉な採用の専門家
・人事Eva――信頼できる人事のパートナー
・BP Eva――人を理解する人材の軍師

さらに、この三人を企業ごとに構築・調整する基盤エンジンとして「Moka AI工坊(Moka AI Studio)」を同時に発表している。

Mokaはこの刷新を、2015年の創業以来で最大規模の製品戦略上のアップグレードと位置づけた。

発表会でMokaが示した認識は明快だった。

過去2年間で、AIの能力曲線は三度の飛躍を経てきた。最初のAIは「頭脳」だった。考えることを手伝い、質問に答えた。次にAIは「手足」になった。ツールを呼び出し、タスクを実行できるようになった。そして現在、AIは「同僚」になりつつある。記憶を持ち、好みを理解し、権限を与えられたファイルやデータへアクセスし、権限を与えられた操作を実行する。入社初日から組織の仕事に参加する存在である――というのがMokaの整理だ。

ここで重要なのは、Mokaがこれを技術トレンドの解説としてではなく、自社製品の定義として語った点である。

「より良いHRツール」から「HRと肩を並べて戦うAIチーム」へ。これが製品ポジションの根本的な転換だとMokaは説明している。

この発表を理解するには、発表会のテーマ、AI能力の三段階論、そして後述する「面接コーチEva」という中核機能を押さえる必要がある。

第2章 Mokaとは何者か――10年分のHRデータを持つ会社

Mokaは、北京希瑞亜斯科技有限公司が運営する中国のHR SaaS企業である。2015年9月に設立された。

創業者は二人いる。

李国興はスタンフォード大学大学院を修了し、Facebookでのインターン経験を持つ。趙欧倫はカリフォルニア大学バークレー校を3年で卒業し、シティバンクを経てカーシェアリング大手Turoでソフトウェアエンジニアを務めた。二人は在米中に知り合い、学生向け中古品取引プラットフォーム「LivingSimple」を副業として立ち上げている。この事業自体は続かなかったが、そこで得た手応えがMokaにつながった。

創業当初は趙欧倫がCEO、李国興がCTOという体制だった。現在は李国興がCEOを務めている。中国のテック報道を追う際に混乱しやすい箇所でもある。2018年前後の記事では趙欧倫がCEOとして紹介され、2022年以降の記事では李国興がCEOとして登場するため、別会社の話と誤読されやすい。

事業の出発点は採用管理システム、すなわちATSだった。求人媒体から候補者情報を集約し、選考状況、面接日程、候補者データベース、採用分析を一元管理する製品である。

2020年12月には人事管理製品「Moka People」を発表した。なお、現在のMoka公式沿革は2022年8月を「Moka People智能化人力資源管理システム上线」と記載している。したがって本稿では、2020年を製品発表、2022年を公式沿革上の本格提供開始として区別する。組織人事管理、休暇・勤怠管理、承認管理、給与管理、業績管理といった高頻度の業務領域をカバーし、採用から人事管理までの全工程をつないだ。

Mokaが公表している発展経緯を整理すると、次のようになる。

【Mokaの発展経緯】
・2015年 会社設立、エンジェルラウンド実施
・2016年 採用管理システムを正式リリース
・2018年 社内にAI専門チームを設置
・2019年 Bラウンドを実施
・2020年12月 Moka Peopleを製品発表
・2021年11月 1億ドル(約160億円)のシリーズCを実施
・2022年8月 公式沿革上でMoka Peopleが正式上线
・2022年9月 顧客数が2000社を突破
・2023年6月28日 2023夏季新製品発表会で、AIネイティブHR SaaS「Moka Eva」を発表
・2023年 海外向け「Moka Recruiting」を発表
・2024年 香港拠点を設立、Moka Evaを商用化
・2025年 シンガポール拠点を設立。「Moka Eva 2025」を投入し、AI外呼(AI架電)、AI識人、AI業績面談などを順次追加
・2026年5月 全製品をMoka AIに刷新、三人のAI同僚を発表
・2026年6月 アジア太平洋向けにMoka Evaを正式ローンチ

2021年11月のシリーズCは、Tiger Global(老虎環球基金)が主導し、Blue Lake Capital(藍湖資本)、高瓴創投、金沙江創投、GGV紀源資本、襄禾資本などが参加した。調達額は1億ドル、日本円で約160億円である。

顧客基盤も見ておきたい。公表されている導入企業には、小米(シャオミ)、滴滴(DiDi)、マクドナルド、安踏集団(ANTA)、上海医薬、華東医薬、Arm China、パナソニック、元気森林、Shopee などが含まれる。累計顧客数は2024年時点で3000社を超えたとされる。

ここでパナソニックの名前が入っている点は、日本の読者には無視できない。すでに日系大手の中国法人が中国製HR SaaSの利用者になっているということだ。

社員規模は300人超。北京、上海、広州、深セン、杭州、成都、武漢、厦門、南京にオフィスを構える。

さらに2025年時点で、インターネットおよび新消費領域における採用システムの市場シェアは25%に達したと同社は公表している。

つまりMokaは、生成AIブームに乗って現れた新興ベンチャーではない。

約10年にわたり、企業の採用情報、従業員情報、勤怠、給与、組織図、人事評価を扱ってきたHR SaaS企業が、蓄積した業務基盤をエージェント化したものである。しかもAI専門チームは2018年、生成AIブームの4年以上前から動いていた。

ここが、汎用チャットボットに人事機能を後付けしたサービスとの決定的な違いである。

もう一点、今回の発表を理解するうえで重要な補正がある。

Mokaの2026年版会社概要は、顧客数3000社超に加え、Moka Evaが累計で500万件の履歴書を処理し、約60万件の面接を支援し、300万件の従業員相談へ応答したと説明している。また2025年には、AI外呼、AI識人、AI業績面談といった機能を順次投入していた。

つまり2026年5月の「三人のAI同僚」は、突然生まれた新製品ではない。2023年から積み上げてきたEvaの機能群を、職務単位のエージェントとして再編し、名前を与えたものと見るのが正確である。

これは評価を下げる話ではない。むしろ逆だ。機能の寄せ集めに新しい名前を付けただけの発表なら、3年分の実運用データは存在しない。既存機能の再編だからこそ、公表されている累計処理件数が意味を持つ。

第3章 李国興が示した競争公式「AI人材密度 × AI協同深度」

発表会で李国興CEOが提示した中核概念が「AI原生組織」、すなわちAIネイティブ組織である。

彼はAI時代の組織競争力を、次の掛け算で定式化した。

AI人材密度 × AI協同深度 = AI時代における組織のコア競争力

この二つの変数を分けて考える必要がある。

【AI人材密度】
AIエンジニアが何人いるか、という話ではない。営業、採用、経理、企画、開発、カスタマーサービスといった各職種において、AIを使いこなし一連の業務を完結できる人材がどれだけ存在するかを指す。

【AI協同深度】
個人がChatGPTを使うだけでは組織全体の生産性は上がらない。AIが採用システム、人事データベース、勤怠システム、給与システム、社内文書、会議記録、プロジェクト管理、評価データ、組織図、コミュニケーションツールを横断できるかどうか。AIが部門とシステムの境界を越えて業務を進められるほど、協同深度は高くなる。

この定式化の狙いは、掛け算である点にある。

どちらか一方がゼロに近ければ、積もゼロに近い。AI人材を大量に採用しても、システムが分断されていれば効果は出ない。逆にシステムを統合しても、使いこなす人材がいなければ意味がない。

そして李国興は、この公式のもとでHRの役割が根本的に変わると述べた。

HRはもはや、事務処理に閉じ込められた実行者ではない。信頼の構築者であり、人材と組織のアーキテクトである――というのが彼の主張だ。

主張として整っている。整いすぎている、と言ってもいい。この点は第31章で改めて検証する。

第4章 Mokaが引用した三つの海外事例と、その検証

発表会でMokaは、AIネイティブ組織の先行事例として三社を挙げた。

【Mokaが発表会で引用した三社】
・Duolingo――AIを活用し1年間で148の新規語学コースを作成。それ以前の12年間の総和を上回った
・Shopify――全社的にAI活用を推進し、人員がほぼ変わらないまま売上を約60%成長させた
・Block――AIを軸に組織構造を再設計。1万人から6000人へ精簡し、管理階層を三層に圧縮した

ベンダーの発表会で引用される事例は、それ自体が販促材料である。一次情報に当たって検証しておきたい。

【Duolingo】
2025年4月、Duolingoは148の新規語学コースを一挙にリリースした。CEOのルイス・フォン・アンは、最初の100コースの開発には約12年を要したが、生成AIによって1年弱で150近いコースを作れるようになったと説明している。この数字自体は正確である。

ただし補足が必要だ。同社の事例を詳細に分析した報告によれば、この仕組みはコース設計そのものをAIに委ねたのではない。すでに体系化されていた工程の一部を自動化したものであり、カリキュラム構造と最終レビューは人間が担っている。AIは人間が完全に規定した構造のなかで変種を生成し、自動品質ゲートを通過したものだけが人の目に触れる。

つまり「AIが148コースを作った」のではなく、「人間が設計した型に、AIが中身を流し込んだ」というのが実態に近い。

【Shopify】
2025年4月、CEOのトビアス・リュトケが全社メモを公開した。AIを効果的に使うことは全社員の基本的な期待事項であり、人員や予算の増加を要求する前に、なぜAIでは実現できないのかを説明しなければならない、という内容である。人事評価とピアレビューにAI活用の項目を追加するとも述べた。

このメモの存在は事実である。ただし「人員がほぼ変わらないまま売上約60%成長」という数値については、Mokaの発表以外に明確な一次確認が取れなかった。引用にあたっては注意が必要だ。

【Block】
これが最も重い事例である。

2026年2月、Blockは4000人超、全従業員の約40%を削減した。従業員数は1万人超から6000人未満へ、1日で減った。CEOのジャック・ドーシーは株主宛書簡で、「はるかに小さなチームが、我々が作っているツールを使えば、より多くのことをより良くできる」と述べ、この決定をAIに直接結びつけた。発表を受けてBlockの株価は約22%上昇している。

その5週間後、ドーシーはBlockの筆頭独立取締役でありセコイア・キャピタルのパートナーでもあるロエロフ・ボサと共同で「From Hierarchy to Intelligence(階層から知性へ)」と題した論考を公表した。企業階層はローマ軍のコントゥベルニウム(1つのテントを共有する8人の兵士)に遡る仕組みであり、一人のリーダーが管理できるのは3人から8人という制約から生まれた。人が増えれば階層が増え、階層が増えれば情報の流れが遅くなる。この制約をAIが解消する――という論旨である。

ドーシーはさらに踏み込んでいる。現在は自分と末端社員のあいだに最大5階層あるが、年内に2〜3階層まで圧縮したい。理想的には階層をゼロにし、6000人全員が自分に直接報告する形にしたい、と公の場で語った。管理職に代わる役割として、彼は三つの類型を挙げている。エージェントを使って一人で10人分の探索を行う「ビルダー」、顧客成果を理解し戦略を立てる「直接責任個人(DRI)」、そして現在の管理職に近い「プレイングコーチ」である。

ただし、この事例には有力な反論がついている。

Blockの従業員数は2019年末の3835人から、ピーク時には1万2000人超へと膨張していた。同社は2024年と2025年にもすでに複数回の人員削減を実施している。みずほアメリカスのアナリストは、これらの削減の大部分はおそらくAIによるものではないとウォール・ストリート・ジャーナルに述べた。さらに2025年3月に931人を削減した際、ドーシーのメモは「AIによる人員置き換えではない」と明言していた。それから11ヶ月後、AIが説明のすべてになった。

低金利時代の過剰採用の調整を、AI物語で語り直したのではないか――この批判は正当だと私は考える。

ここに、この記事全体を貫く注意点がある。

AIによる組織変革の事例は、AIによる説明が経営者にとって都合が良いという理由で、実態以上に語られやすい。株価が22%上がるなら、なおさらである。

Mokaの製品を評価するときも、同じ目盛りを使う必要がある。


第2部 三人のAI同僚

第5章 採用Eva――ATSの機能強化ではなく「世代差」

Mokaは採用Evaについて、従来型ATSの機能アップグレードではなく、採用方式そのものの「代差跃迁」――世代を跨ぐ飛躍――だと表現した。

その根拠として、従来の採用ツールが抱える三つの欠陥を挙げている。

【従来型採用ツールの三つの欠陥】
・本質的に「人が システムを探す」構造である。人が操作し、システムは受動的に反応するだけ
・候補者像が人間の経験的判断に依存している
・記憶がない。採用のたびにほぼゼロから始まる

採用Evaは、この三点をそれぞれ反転させる設計だとされる。

【採用Evaの三つの軸】
・主動推進――あなたがシステムを探すのではなく、Evaがあなたを探す。採用プロセスを自ら前進させ、煩雑な事務を全面的に引き受ける
・動態画像――内外部のデータを集約し、採用過程のフィードバックと組み合わせて職位の要件像を継続的に更新する
・長期記憶――企業の人材選好と考察方法を記憶する。採用すればするほど企業を理解し、速くなる

三つ目の「長期記憶」が、この製品の核心である。

一般的なAI採用ツールでも、求人票と履歴書のマッチングや候補者のスコアリングは行われてきた。だが多くの場合、その判断基準は汎用モデルの一般的な知識に依存している。学歴、職歴、スキルの一致度で並べ替えるだけなら、ATSの検索機能の延長でしかない。

採用Evaが目指しているのは、その企業固有の判断を学習することだ。

例えば同じ営業職でも、企業によって求める人材像は異なる。

・新規開拓能力を重視する会社
・既存顧客との関係維持を重視する会社
・大企業向け営業経験を重視する会社
・技術理解力を重視する会社
・行動速度を重視する会社
・組織文化との適合性を重視する会社

書面上の採用要件には、こうした差は書かれない。書かれていても実態と一致しない。

採用Evaは、実際に誰が書類選考を通過したか、誰が面接で高く評価されたか、誰が採用されたかという企業固有の判断結果を利用して、求める人物像を更新していく。

つまりMokaが売ろうとしているのは、履歴書検索AIではない。企業固有の採用判断を、データ資産として蓄積する仕組みである。

第6章 面接コーチEva――少数の伯楽を、組織全体の能力に変える

私の見立てでは、これがMoka AIで最も重要な機能の一つである。

Mokaは採用Evaの中核能力として「面試教練Eva」、すなわち面接コーチEvaを打ち出している。

同社の問題認識はこうだ。面接は企業にとって最も高価でありながら、最も管理が混乱している工程である。基準が一致せず、方法はばらばらで、決定は感覚に頼る。そして一回一回の面接の決定が、組織の人材密度を決めていく。

面接コーチEvaは、すべての面接に立ち入って「金標準(ゴールドスタンダード)」と優れた手法を抽出する。そしてそれをすべての面接に還流させ、面接官がより良く面接できるよう支援する。

注目すべきは、その情報の取り方である。

Evaは面接官にインタビューしない。面接記録を人間が読み返すこともしない。企業の実際の面接履歴から、用人金標準を自動的に抽出する。

そして面接の全工程に関与する。

【面接コーチEvaの三段階介入】
・面接前――カスタマイズされた考察ポイントと質問リストを生成する
・面接中――面接官の副操縦士として、リアルタイムでヒントと追加質問を提示する
・面接後――自動的に採点し、採用結果と入社後のデータを金標準そのものへフィードバックする

三段階目が決定的である。

採用時の判断が、入社後の実績と突き合わされ、基準そのものが更新される。従来の採用は、内定を出した時点で情報が途切れていた。誰を採ったかは記録されても、その採用が正しかったかは検証されない。面接コーチEvaは、この断絶をつなごうとしている。

李国興は発表会でこう述べた。

少数の伯楽の識人能力を、組織全体の能力に変える

伯楽とは、名馬を見抜く名人を指す中国の故事である。どの組織にも、人を見る目が確かな人間が数人いる。だがその能力は言語化されず、その人物が辞めれば失われる。

続けて彼はこう表現した。

Moka Evaは、企業で最も高価なブラックボックスを、最も複利の効く資産に変える

そしてMokaがこの機能について強調するのは、組織側の変革コストがほぼゼロだという点である。面接業務はこれまで通り進行し、Evaは静かに浸透していく。

この設計思想は、率直に言って巧妙だ。

企業システムの導入が失敗する最大の理由は、現場の業務手順を変えなければならないことにある。面接官に新しいフォームへの入力を義務づければ、記入率は下がる。だが面接官が何も変えなくていいなら、抵抗は生まれない。

同時に、これは第21章で論じる問題の入口でもある。抵抗が生まれない仕組みは、同意を確認する機会も生まない。

第7章 十の工程、四つの仕事――採用担当者に残るもの

Mokaは、採用Evaによって業務がどう変わるかを、きわめて具体的な数字で示した。

一回の完全な採用には、少なくとも十の工程が必要である。採用Evaは、そのうち採用マネージャー(用人経理)が行うべき仕事を四つに絞る。

【採用マネージャーに残る四つの仕事】
・要件を出す(提需求)
・面接で評価する(面試評估)
・採用を決定する(録用決策)
・オファーを確定する(確定Offer)

残る工程は、採用Evaが全体を貫通して自動的に推進する。

この四つの選び方を見てほしい。

いずれも「判断」である。要件定義、評価、採否決定、条件提示。逆に自動化される側は、候補者の検索、履歴書の一次選考、候補者との連絡、面接日程の調整、議事録作成、進捗の監視、内定通知の送付、入社までのフォローといった「実行」に属する工程だ。

判断は人間に残し、実行はAIに渡す。線の引き方としては合理的である。

ただし、この線引きには落とし穴がある。

第一に、候補者検索と一次選考は「実行」ではなく「判断」である。誰を検索結果に出すか、誰を通過させるかは、明確に選抜の判断だ。それが自動化されるということは、採用マネージャーが「評価」するのは、すでにAIが絞り込んだ母集団に限られるということである。

第二に、要件定義の実質もAI側に移る可能性がある。採用Evaは動態画像によって職位の要件像を継続的に更新する。人間が最初に出した要件は、AIが実際の判断履歴から学んだ像によって上書きされていく。

つまり、四つの仕事が残るという説明は正しいが、その四つの中身が変質しないとは限らない。

第8章 人事Eva――「HRが設計し、Evaが実行する」

二人目の人事Evaは、採用後の従業員管理と人事事務を担当する。

Mokaはその基本思想を、簡潔な一文で表現した。

HRが設計し、Evaが実行する

従来の人事システムの論理は「HRがシステムを操作して事務を完了する」だった。人事Evaはこれを書き換える。HRはEvaに「この仕事はこう進める」と伝え、以後の実行はEvaが引き受ける。

対象業務は三つの領域に整理されている。

【領域1:データと帳票】
人事Evaは、メール、表計算ファイル、スクリーンショット、会議議事録といった非構造化の入力を自動的に読み取る。各所に散らばったデータを自動的に継ぎ合わせ、各種の帳票を秒単位で生成する。

ここは実務上のインパクトが大きい。日本企業の人事部門でも、Excelファイルとメール本文と紙のスキャンが混在した状態でデータを集約している例は珍しくない。非構造化入力の処理が本当に安定するなら、そこが最も効く。

【領域2:日常事務のフロー】
シフト作成、勤怠管理、給与計算、入退社手続き、組織構造の調整。これらの中核フローを、人事Evaは最初から最後まで走らせる。HRは審査と確認のみを行う。

これが可能なのは、Evaが企業固有の休暇・勤怠アルゴリズム、給与構造、承認階層を理解しているためだとMokaは説明している。

【領域3:従業員からの相談】
7×24時間オンラインで、従業員のニーズに自動応答し処理する。

制度の照会、証明書の発行依頼、手続きの問い合わせ。人事部門の時間を最も細切れに奪うのがこの領域であり、24時間対応が可能になる意味は小さくない。

従来の人事システムでは、人事担当者が管理画面を開き、対象者を選択し、各項目を入力し、ワークフローを起動する必要があった。

人事Evaでは、担当者が自然言語で指示し、AIが必要なデータを収集し、処理を進め、人間には最終確認だけを求める。

操作の主語が入れ替わっている。ここが「ツールから同僚へ」という表現の実質的な中身である。

第9章 「80%」という数字の正確な意味

Mokaは、この三領域を合わせることで「HRの反復事務の80%を引き取る」と説明している。

一部の報道では「70〜80%」と幅を持たせて伝えられた。Moka自身の公式発表は80%である。発表ベースと報道ベースで数字が揺れているため、引用する際は出典を明示したほうがよい。

そのうえで、この80%をどう読むかが問題になる。

重要なのは、「人事担当者の80%を削減する」とは必ずしも同じではない、という点だ。

代替対象になりやすいのは、次の業務である。

【AIが代替しやすい業務】
・データ転記
・情報収集
・定型的な問い合わせ対応
・日程調整
・書類作成
・勤怠異常の確認
・定型レポートの作成
・手続きの督促
・承認フローの起動

一方、次の領域には人間の関与が残る。

【人間の関与が残る領域】
・人事制度そのものの設計
・労使問題への対応
・個別事情を伴う判断
・給与や解雇など重大事項の承認
・社員との面談
・経営陣との合意形成
・組織文化の形成
・法的・倫理的責任の引き受け

したがって「80%」は、人事部門全体ではなく、反復的な事務処理の比率として理解するのが妥当である。

もっとも、この読み方には限界もある。

人事部門の人員配置が、実際には反復事務の量に比例している企業は多い。中堅企業の人事部が5人いるとして、そのうち3人が勤怠と給与と手続きに専従しているなら、反復事務の80%が消えたとき、その3人分の仕事は2人分にも満たなくなる。

「人事部門は消えない」と「人事部門の人数は減らない」は、別の命題である。Mokaは前者しか主張していない。

第10章 BP Eva――人材デジタル遺伝子バンクと組織能力マップ

三人目のBP Evaが、最も注目すべき存在である。

BPは一般に「HR Business Partner」を指す。経営戦略や事業戦略に合わせて、人材配置、組織開発、後継者育成、能力開発を担う人事専門職である。

採用Evaと人事Evaが比較的明確な業務を担当するのに対し、BP Evaは組織内の人材と能力を分析し、意思決定を支援する。

Mokaは、従来の人材棚卸し(人才盘点)には三つの根本的な欠陥があると指摘した。

【従来型の人材棚卸しの三つの欠陥】
・人材像が静的である
・職位・職級体系が実務に落ちにくい
・評価とフィードバックのリズムが遅すぎる

BP Evaが解こうとしているのは、人材管理を半年に一度の「大工程」ではなく、毎日の業務に溶け込ませることである。

その基盤をMokaは「一個庫+一張地図」――一つのバンクと一枚のマップ――と表現した。

【人材デジタル遺伝子バンク(人才数字基因库)】
社員一人ひとりの動的な人材像を継続的に蓄積する。能力、行為、結果という三つの次元のデータに基づいて更新される。会議での発言、プロジェクトの成果物、AIツールの利用が、自動的に識別され人材像へ沈殿していく。

【組織能力マップ(组织能力地图)】
遺伝子バンクをマクロな視点から俯瞰し、組織全体の能力を可視化する。どの次元が強く、どの次元に短所があるか。能力の分布が事業戦略と適合しているか。それが一目でわかる状態にする。

「基因库(遺伝子バンク)」という語の選び方には、率直に言って引っかかるものがある。

遺伝子は生得的で不変のものを含意する。だが職務能力は環境と機会によって変わる。ある社員が伸びなかったのは能力の問題ではなく、機会を与えられなかったからかもしれない。それを「遺伝子」と呼ぶ語彙は、能力を固定的な属性として扱う思考へ滑りやすい。

製品名の話にすぎないと言えばそれまでだが、命名は思想を運ぶ。

第11章 人事評価を「半年に一度」から「毎日」へ

従来の人材データベースには、社員が入社時に登録した経歴や資格、上司が年に1〜2回入力した評価が保存される。

しかし実際の社員の能力は、日々の業務によって変化する。

ある社員が新しいAIツールを使えるようになったり、海外案件を担当したり、部門横断プロジェクトを成功させたりしても、人事システムへ即座に反映されるとは限らない。むしろ反映されないほうが普通である。

BP Evaは、権限が与えられた範囲で、次のようなデータを参照するとされる。

【BP Evaが参照するデータ】
・会議記録
・プロジェクト文書
・業務成果
・面接記録
・人事評価
・360度評価
・日常的な行動データ
・AIツールの利用状況

これらから社員の能力や経験を継続的に更新し、人材配置へ利用する構想である。

これは人事評価の仕組みを根底から変える可能性を持つ。

【従来】
年に一度、上司が社員を評価する

【Mokaの構想】
日常業務から社員の能力情報を継続的に更新し、必要な時に人材を検索する

静的な人事台帳から、リアルタイムに変化する組織能力データベースへ。

この転換の意義は、評価の頻度が上がることではない。評価の「入力者」が変わることである。

従来、評価データを人事システムへ入れるのは上司だった。上司が入力しない限り、データは存在しなかった。BP Evaの構想では、入力者はAIになる。上司の記入を待たずに、業務の痕跡そのものからデータが生成される。

上司による評価には、好き嫌いや接触頻度の偏りがある。それが是正される可能性は確かにある。

だが同時に、評価から逃れる余地も消える。

第12章 部署を越えて社内人材を探す――内部人材市場の思想

企業で新しいAIプロジェクトが立ち上がった場合、通常は責任者が知っている範囲からメンバーを集める。

しかし、別の支社や別部署に、より適した社員がいるかもしれない。ほとんどの場合、いる。ただ誰もそれを知らないだけである。

BP Evaは、事業側に新しい人材ニーズが生じたとき、組織全体の範囲で実際の能力データに基づいて自動的にマッチングを行う。職位の境界を越えて適切な人選を発見し、本来なら見落とされやすい内部人材を可視化する。

Mokaはこれを「人材の計測、成長、そして再利用」と表現した。

この考え方は「内部人材市場」「タレントマーケットプレイス」と呼ばれる領域に近い。

企業にとってのメリットは明確である。

【内部人材市場の効果】
・外部採用を行う前に社内人材を再発見できる
・採用費と採用リードタイムを削減できる
・社員のキャリア機会が拡大し、定着率が上がる
・組織の暗黙のサイロが可視化される

日本企業との関係で言えば、ここが最も響く領域だろう。

日本の大企業には、ジョブローテーションと自己申告制度という形で、内部人材の再配置を行う文化がすでにある。だがその運用は人事部の記憶と人脈に依存しており、規模が大きくなるほど機能しなくなる。

問題は「再利用(複用)」という語である。

人材を再利用可能な資源として捉える語彙は、効率の視点からは自然だが、当人の視点からは自然ではない。異動は本人のキャリアであって、組織の在庫最適化ではない。

内部人材市場の設計で成否を分けるのは、検索精度ではない。社員本人が自分の能力データを見られるか、修正を申し立てられるか、異動の希望を自分から出せるか。この三点である。

Mokaの公表資料の範囲では、社員本人からの可視性と訂正権について、明確な説明は見当たらなかった。導入企業が自ら設計すべき部分である。


第3部 基盤とビジネスモデル

第13章 Moka AI工坊――自然言語で人事システムを作り変える

三人のAI同僚を企業ごとに調整する基盤が「Moka AI工坊」、英語名Moka AI Studioである。

従来の業務システムでは、企業がソフトウェアの標準仕様へ業務を合わせることが一般的だった。

自社固有の承認フローや人事制度を追加する場合、通常は次の工程が必要になる。

  1. 人事部門が要件を整理する

  2. IT部門やベンダーへ説明する

  3. 仕様書を作る

  4. 開発する

  5. テストする

  6. 本番環境へ反映する

早くて数週間、複雑なものなら数ヶ月かかる。そして本番反映の頃には、要件のほうが変わっている。

Moka AI工坊では、人事担当者が業務の言葉で要求を説明し、AIがアプリケーションや業務フローを構築する方式を目指している。

例えば、次のような指示である。

各部門の四半期別採用達成率を集計し、前年同期と比較するレポートを作成してほしい

あるいは、

店舗社員が退職を申請した場合、店長、地域責任者、人事部の順番で承認し、承認完了後に給与担当とIT担当へ通知してほしい

これに対してAIが、必要なデータ項目、処理、承認、通知を組み立てる。

Mokaは、AI工坊の中核能力を三つに整理している。

【Moka AI工坊の三つの能力】
・響応提速――ユーザーは業務の言葉で要求を述べればよい。コードの知識も、要件定義書も、IT部門の待ち行列も不要。時間単位でのリリースが可能
・個性落地――千企千面。標準版から「自社版」へ
・安心上線――サンドボックスでの事前検証と、アーカイブからのロールバックにより、あらゆるシステム変更を掌握下に置く

三つ目の「安心上線」を、単なる安全機能として読み流さないほうがよい。

サンドボックスでの事前検証、変更履歴の保存、そして以前の状態への巻き戻し。これらは第24章以降で扱う各国規制が要求する統制と、そのまま重なる。人事システムの変更履歴を保存できることは、EU AI法の記録保持義務や中国個人情報保護法の影響評価記録の保存義務に対応する土台になる。

Mokaがどこまで規制を意識してこの設計にしたのかは公表資料からはわからない。だが結果として、規制対応のインフラになり得る構造にはなっている。

第14章 「組織のAI大脳」という三層アーキテクチャ

Mokaは、Moka AI全体のアーキテクチャを「組織のAI大脳(组织的AI大脑)」と表現した。

これは三層構造である。

【底層:能力層】
Moka AI工坊。AI能力の土台であり、企業ごとのカスタマイズとデータ蓄積を担う。

【中間層:システム層】
Moka招聘(Moka Recruiting)とMoka People。企業の採用データと人事データの中核的な器である。

【上層:知能層】
採用Eva、人事Eva、BP Eva、そして将来のより多くのEva「同僚」。

この構造を見ると、Mokaが何を売っているのかがはっきりする。

上層のEvaは交代可能である。将来もっと優れたモデルが出れば差し替えればよい。工坊も技術の進歩に応じて更新される。

だが中間層のデータは動かない。企業の採用履歴、面接記録、評価データ、組織の変遷。これが10年分蓄積されていることこそが、Mokaの参入障壁である。

そしてMokaは、この蓄積を明確に自覚している。同社はこう説明する。

Evaはタスクを完了しているだけではない。データを継続的に沈殿させている。一回の採用ごとに人材選好のデータが。一場の面接ごとに識人基準のデータが。一回の人事操作ごとに業務フローと規則のデータが。一人の社員の成長軌跡ごとに人材能力のデータが。

これらが集まって、組織の「人に関する知識庫」を形成する。知識庫が豊かになるほどEvaは賢くなり、Evaが賢くなるほど組織は人を理解する――という循環である。

きれいな設計思想だ。同時に、これは強力なロックインの設計でもある。

一度この循環を回し始めた企業が、別のベンダーへ乗り換えることは事実上できない。乗り換えれば、蓄積された「人に関する知識庫」を失うからだ。データそのものはエクスポートできても、そこから学習された判断基準は移植できない。

「使えば使うほど賢くなる」の裏面は「使えば使うほど離れられなくなる」である。

導入を検討する企業は、契約時点で次を確認しておくべきだろう。

【契約時に確認すべき事項】
・蓄積されたデータの所有権はどちらにあるか
・解約時にどの形式でどこまで返還されるか
・学習済みの企業固有パラメータは返還対象に含まれるか
・自社データが他社向けモデルの改善に使われることはあるか
・データの保存場所と、再委託先の範囲はどこまでか

第15章 千企千面――SaaSのビジネスモデルが変わる

Mokaは発表会で、SaaSというビジネスモデルそのものへの再考を提起した。

過去十数年、企業向けSaaSの論理は「千の企業に、同一のバージョン」だった。標準化によって利益を生むモデルである。多数の企業へ同じ製品を販売し、個別開発を抑えることで高い粗利益率を実現する。

しかしHR業務は、企業ごとの差が非常に大きい分野である。

【企業ごとに異なるHRの要素】
・評価制度
・給与制度
・勤怠ルール
・組織階層
・採用基準
・昇進条件
・承認フロー
・雇用形態
・店舗や工場の勤務体系

そのため標準化されたSaaSを導入しても、企業側が業務を製品に合わせるか、高額なカスタマイズを追加する必要があった。

Mokaはこの転換の基盤を、基盤モデルのエージェント能力の成熟だと説明する。ソフトウェアの構築コストとカスタマイズコストが同時に押し下げられた結果、「ソフトウェアが企業に適応する。企業がソフトウェアに適応するのではない」という状態が、初めて規模化可能な現実になった――というのが同社の主張だ。

言い換えれば、こうなる。

【従来】
企業がSaaSへ合わせる

【Mokaの主張する新モデル】
SaaSが企業ごとに変形する

これはMokaだけの話ではない。ERP、CRM、会計、製造、物流。企業向けソフトウェア全体に波及し得る命題である。

ただし、慎重に見るべき点が一つある。

標準化がSaaSの利益の源泉だったのは、コストの問題だけではない。標準化された業務プロセスそのものに価値があったからだ。SaaSを導入した企業が、自社の非効率な承認フローを見直すきっかけになる、という効果である。

「SaaSが企業ごとに変形する」ということは、企業の非効率もそのまま保存されるということでもある。自然言語で指示すれば数時間で作れるなら、誰も承認フローの必要性を問い直さない。

AIによるカスタマイズの容易さは、業務改革の免罪符にもなり得る。

第16章 AI化のパラドックス――席数課金の自己否定

MokaのAI戦略には、ビジネス上の明白な矛盾がある。

従来のHR SaaSは、利用者数や従業員数に応じて料金が増えることが一般的である。いわゆる席数課金(シート課金)だ。

しかしAIエージェントが人事業務の反復事務の80%を処理すれば、企業の人事担当者数は減る可能性がある。

すると、従来の席数に基づくSaaS料金モデルは縮小する。

さらに、採用管理、レポート作成、問い合わせ対応などが汎用AIエージェントで実行できるようになれば、従来型HR SaaS機能の価格そのものが下がる可能性もある。

中国の業界分析でも、AI化によってHR部門の人数が減り、HR SaaS企業の座席課金収入が侵食される可能性が指摘されている。

つまりMokaは、自社の顧客の人事部員を減らす製品を売ることで、自社の課金基盤を削っていることになる。

この矛盾を解くには、料金体系の転換が必要になる。

【想定される新しい課金モデル】
・AI同僚1体あたりの料金
・処理件数に応じた従量課金
・採用人数に応じた成果課金
・AIが完了した業務量による課金
・組織分析・人材配置機能への高額課金
・AI工坊の利用量に応じた課金

「人間が使うソフトウェア」から「AIが仕事を処理するサービス」へ。売っているものが変われば、値付けの単位も変わる。

これはHR SaaSに限った話ではない。エージェント型AIを導入するあらゆるSaaS企業が、同じ問題に直面する。

そして興味深いことに、この転換が成功した場合、Mokaが売っているものは「ソフトウェア」ではなく「労働力」に近づく。

企業が購入するのは、画面や機能ではなく「処理できる仕事量」になる。

そのとき、HR SaaS企業と人材派遣会社の境界はどこにあるのか。この問いは、まだ誰も答えていない。


第4部 海外展開と、数字の検証

第17章 2026年6月24日、アジア太平洋への進出

ここで重要なのが、アジア太平洋への海外展開である。

2026年6月24日、Moka AIはアジア太平洋の企業採用チーム向けに、AI採用エージェント「Moka Eva」を正式にローンチしたとPR Newswire経由で発表した。

日本の読者にとって、5月の北京発表よりこちらのほうが実務的な意味を持つ可能性がある。中国国内向け製品の話ではなくなったからだ。

発表内容を整理する。

【Moka AIのアジア太平洋展開の概要】
・社名表記はMokaHRからMoka AIへ
・拠点は香港、シンガポール、マレーシア
・Mokaの公表ではグローバルで3000社超が利用し、Fortune 500企業の30%超が顧客に含まれるとする。ただし顧客名・契約範囲を含む第三者検証資料は示されていない
製品サイトはmokahr.io、問い合わせはデモ予約から

Moka Evaは採用プロセス全体をカバーする。候補者の発掘、選考、面接、候補者とのコミュニケーションまでを担い、各企業自身の判断に基づいて判断基準を継続的に精緻化するAIチームメイトとして位置づけられている。

同社のAPAC向け発表は、シンガポールで行われた業界調査を引用し、採用・オンボーディング・研修のいずれかでAIを利用している組織が82%に達したと説明している。ただし、この82%はMoka製品の導入率ではなく、同社が引用した外部調査の結果である。地域全体の普及率として一般化することも避けるべきだ。

そして公表された実績値が次のものである。

【Moka AIが公表した実績値(2026年6月時点)】
・累計で500万件超の履歴書をスクリーニング
・累計で60万件超の面接を支援
・人間のレビュアーとの結果一致率は92%超

さらに具体的な導入事例も示された。

2万店舗超を展開する国際的なコーヒー・ティーチェーンにおいて、Moka Evaは店舗あたりの採用リードタイム(time-to-hire)を75%短縮し、オファーから入社までの転換率を14.2%から35.8%へ引き上げたとされる。

このオファー転換率の改善幅は注目に値する。採用リードタイムの短縮は自動化の直接効果として理解しやすいが、内定辞退率の改善は別の要因が絡む。連絡の速さと頻度が改善された結果である可能性が高い。多店舗展開の時給職採用では、内定から入社までの空白期間が長いほど他社に流れる。ここは日本の外食・小売業界がまさに抱えている問題と同じである。

もう一つ、日本企業が注視すべき機能が発表されている。

【AI Interview(AI面接)】
・候補者に単一のリンクを送るだけで、構造化面接を自律的に実施する
・10言語以上に対応
・各回答について2〜3個の追加質問を投げ、回答の深さを検証する
・不正行為の疑いをリアルタイムで検知する
・採点済みのレポートを返す

一次選考の面接を、面接官不在で完結させる機能である。

多言語対応と自律実施を組み合わせた設計は、アジア太平洋の多国籍採用を明確に狙っている。日本企業の海外拠点採用、あるいは日本国内での外国人材採用において、これは実務的な選択肢になり得る。

同時に、これは最も慎重な検討を要する機能でもある。人間の面接官が一度も関与しない一次選考は、後述する各国の自動化意思決定規制の中心的な対象だからだ。

なお、Moka AIは同社サイト上で、GDPR、ISO 27001、SOC 2といった国際基準への準拠と、シンガポールのデータセンターでのホスティングを掲げている。日本企業が検討する際、データの所在地がシンガポールであることは越境移転の論点になる。

第18章 92%、87%、78%――公表数値をどう読むか

ここからは数字の検証に入る。

Mokaが公表している数値には、複数の系統がある。そしてそれらは互いに整合していない。整合していないこと自体が問題なのではない。スコープが異なるためである。だが引用する側が混同すると、事実誤認になる。

整理しておく。

【系統1:APAC向けプレスリリース(2026年6月)】
・履歴書スクリーニング500万件超
・面接支援60万件超
・人間との一致率92%超

【系統2:NextGen Tech30選出時の発表】
・面接議事録40万場超を生成
・履歴書140万件のAI一次選考を完了
・採用スピード3倍

【系統3:mokahr.io製品サイト】
・人間の評価者との判断一致率87%
・業務量を最大78%削減
・採用リードタイム63%短縮
・AI要約により面接官のフィードバックが95%高速化

同じ会社の同じ製品群について、一致率が92%と87%の二つ、履歴書件数が500万件と140万件の二つ、面接件数が60万件と40万件の二つ存在する。

考えられる説明はこうだ。系統1は中国本土を含むMoka全体の累計、系統2および3は海外向け製品Moka Recruitingに限定した数値である。母数が違えば数字も違う。

だが公表資料からは、この区別が明示されていない。

したがって、記事や社内資料で引用する際は、次のように扱うべきである。

【数値引用時の原則】
・出典と時点を必ず併記する
・「Mokaの公表による」と明記し、第三者検証済みの数値として扱わない
・複数系統の数値を混ぜて一つの主張を組み立てない

なお、NextGen Tech30について補足しておく。これはGranite Asiaが16の戦略パートナーと共同で立ち上げた、アジア初の「グローバルのために生まれた」革新企業に焦点を当てるランキングである。企業向けサービス、AIネイティブアプリケーション、自動化といった領域を重点対象とし、市場を跨ぐ製品能力と長期的な成長の粘り強さを評価基準とする。Mokaは2025年版に選出された。

もう一点、mokahr.ioが掲げるTesla事例にも触れておく。同社サイトによれば、Teslaは営業職と研究開発職という異なる人材像に適応させる形でEvaを導入し、面接からオファーへの転換率が70%向上、人間の評価者との判断一致率87%を維持したとされる。

これはベンダー自身のマーケティングページの記述であり、Tesla側からの確認は取れていない。導入企業名を挙げた事例紹介は、一般に顧客の許諾を得て掲載されるものだが、数値の検証可能性は別問題である。

第19章 なぜ「人間との一致率」は公正さを意味しないのか

92%にせよ87%にせよ、この指標には根本的な問題がある。

「人間との一致率」は、精度の指標ではない。模倣度の指標である。

公表資料だけでは、次の条件が明らかにならない。

【一致率の解釈に必要な情報】
・何をもって「一致」と判定したのか
・書類通過・不通過の一致率なのか、スコアの相関なのか
・業種や職種による差はあるのか
・評価対象の候補者数は何人か
・人間の評価自体が正しいとどう判断したのか
・独立した第三者が検証したのか

そして最大の問題は、最後から二番目である。

AIと人間の判断が92%一致したとしても、人間の判断に偏りがあれば、AIは同じ偏りを92%の精度で再現しているだけかもしれない。

過去に特定の大学出身者ばかりを通していた企業なら、AIも同じことをする。それは「精度が高い」のではなく「偏見の再現度が高い」のである。

本当に必要な指標は別のものだ。

【採用AIを評価すべき本来の指標】
・入社後の職務成果を予測できているか
・特定の属性グループに不利益を与えていないか(インパクト比率)
・判断理由を説明できるか
・候補者が異議を申し立てられるか
・時間の経過とともに偏りが増幅していないか

このうち一つ目、入社後成果との相関こそが、採用AIの真の価値を測る指標である。

そして皮肉なことに、Mokaのアーキテクチャは、この指標を測定できる数少ない構造を持っている。

採用データと入社後の人事データが同一のシステムに存在するからだ。第20章以降で論じる危険性と、この可能性は同じ設計から生まれている。

問題は、Mokaがその指標を公表していないことである。

92%という「人間との一致率」を掲げるより、「採用時の評価と入社1年後の業績評価の相関係数」を公表するほうが、はるかに強い製品訴求になる。それをしていないのは、まだ測れていないからか、測った結果が芳しくないからか、あるいは顧客企業のデータであって公表できないからか。

現時点では判断材料がない。だが導入を検討する企業は、この数字を自社データで測定できる契約にしておくべきである。


第5部 最も危険なHRテックにもなり得る理由

第20章 採用差別を再生産する構造

ここまでMoka AIの可能性を見てきた。ここからは、同じ設計が生む危険を見る。

最初に確認しておきたいのは、危険が「不具合」から生じるのではないという点である。設計思想そのものから生じる。

採用Evaの中核は、企業の過去の採用判断を学習することだった。実際に誰が書類選考を通過し、誰が面接で高く評価され、誰が採用されたか。そこから用人金標準を抽出する。

これは、企業固有の暗黙知をデータ資産に変える優れた仕組みである。

同時に、企業固有の偏見をデータ資産に変える仕組みでもある。

過去の採用者が特定の大学、性別、年齢層、出身地域、経歴に偏っていた場合、AIはそれを「成功する人材の特徴」として学習する。

「企業独自の基準を学ぶ」という長所は、そのまま「企業独自の偏見を学ぶ」という短所になる。同じ機能の表と裏である。

この問題は仮説ではない。前例がある。

Amazonは2014年から自社の採用AIを開発していたが、過去10年分の履歴書で学習させた結果、女性の履歴書を系統的に低く評価するようになった。「女子」という語を含む項目や、女子大学の名称がペナルティとして働いた。同社は2018年にこのプロジェクトを廃棄している。

Amazonの技術力をもってしても防げなかった。理由は単純で、これはアルゴリズムの欠陥ではなく、学習データの性質だからだ。

さらに厄介なのは、代理変数の問題である。

性別や年齢を学習データから除外しても、それらと相関する変数は無数に残る。所属していたサークル、通っていた学校の所在地、職歴の空白期間、履歴書の文体。AIはこれらを組み合わせて、除外したはずの属性を実質的に再構成できる。

そして自己強化が始まる。

AIが推薦した候補者が採用される。その採用結果がまた学習データになる。AIの好みに合った人材だけが入社し、その人材像がさらに強化される。偏りは時間とともに増幅する。

Mokaの「越用越懂你(使うほどあなたを理解する)」という設計は、この増幅ループをそのまま製品の売りにしている。

対策がないわけではない。

【偏りの増幅を抑える統制】
・属性別の通過率を定期的に検査する(インパクト比率分析)
・AIの推薦を採用しなかった事例を意図的に記録する
・推薦上位以外からの採用枠を確保する
・学習対象期間を制限し、古い判断履歴の影響を切る
・第三者による定期的な偏り監査を契約に組み込む

これらはいずれも、企業側が能動的に設計しなければ実装されない。ベンダーの標準機能として提供されることは、まずない。

第21章 常時分析と「評価されている感覚」

BP Evaは、会議での発言、プロジェクトの成果物、業務行動、AIツールの利用状況を継続的に分析する。

これが一歩間違えると、「人材管理AI」ではなく「社員監視AI」になる。

いや、正確に言えば、両者を区別する客観的な境界は存在しない。同じデータ収集を、目的の説明によって呼び分けているだけである。

境界を作るのは、技術ではなく統制である。

問題の本質は、プライバシー侵害だけではない。組織行動が変わることにある。

社員が「常に評価されている」と認識した場合、何が起きるか。

【常時評価下で起きる行動変化】
・会議で自由な発言が減る
・失敗を報告しなくなる
・成果が見えにくい仕事を避けるようになる
・AIに高く評価される行動を選択的に取るようになる
・記録に残る仕事だけを増やす

最後の項目が最も深刻である。

評価指標が観測可能になると、人は指標を最適化する。会議での発言が評価されるなら、発言回数が増える。中身ではなく回数が。

社会科学ではグッドハートの法則として知られている。指標が目標になった瞬間、その指標は良い指標ではなくなる。

そして人材分析を高度化しても、社員の信頼を失えば、組織全体の創造性は低下する。

失敗を隠す組織では、問題の発見が遅れる。自由な発言が減る組織では、異論が上がらない。異論が上がらない組織は、間違った方向へ全速力で進む。

この点で、中国のHRテック市場全体の動向も見ておく価値がある。

飛書(Feishu)のPeople製品は、2026年時点で、協働の頻度から社員の「影響力指数」を自動計算する機能を持つとされる。誰と誰がどれだけやり取りしたかから、組織内の影響力を数値化する仕組みである。

Mokaだけの話ではない。中国のHRテック市場全体が、この方向へ動いている。

導入企業が最低限やるべきことは、次の三点である。

【常時分析を導入する場合の最低条件】
・何が収集され、何が収集されないかを社員に明示する
・社員本人が自分の人材像を閲覧でき、訂正を申し立てられる
・分析結果を懲戒・降格・解雇の直接的な根拠に使わないことを明文化する

三つ目を守れない企業は、この機能を導入すべきではない。

第22章 離職リスク予測の自己実現

BP Evaは離職リスクの発見を機能として掲げている。

この機能には、他とは異なる種類の危険がある。

AIがある社員を「離職リスクが高い」と判定したとする。その情報を受け取った上司は、どう行動するか。

理想的には、面談を設定し、不満の原因を聞き、改善する。

現実には、しばしば逆のことが起きる。重要案件から外す。昇進候補から除外する。後任の準備を始める。長期プロジェクトを任せなくなる。

その扱いによって社員の不満が高まり、実際に退職する。

そしてAIの予測は「正しかった」ことになる。

これが自己実現的予測である。

問題は、この構造がデータ上は成功として記録されることだ。予測精度は向上したように見える。実際には、予測が結果を作っている。

しかも、この因果を事後的に検証する方法がない。予測を見た上司の行動を記録していない限り、予測の精度なのか介入の効果なのかを区別できない。

離職リスク予測を安全に使うには、設計上の制約が必要である。

【離職リスク予測を扱う際の制約】
・予測結果は直属の上司ではなく、人事部門または産業医など第三者に通知する
・予測を人事評価、配置、昇進の判断材料に使うことを禁止する
・予測に対して取った行動を必ず記録する
・「予測が当たった事例」ではなく「予測後に離職を防げた事例」を成果指標にする

四つ目が本質である。

離職リスク予測の目的は、離職を予測することではない。離職を防ぐことである。予測精度が高いのに離職率が下がっていないなら、そのシステムは機能していない。

離職リスクは、処分や排除の根拠ではなく、対話と職場改善のきっかけとして扱われなければならない。

第23章 AIは同僚ではない――責任を負わないから

ここで、Mokaの中核的なレトリックそのものを検討したい。

Mokaは、AIを「助手」ではなく「同僚」と位置づけた。両者の違いは主体性にあるという。

【AIアシスタント】
・人間の質問を待つ
・指示された内容を回答する
・文書作成を補助する
・最終的な実行は人間が行う

【AI同僚】
・組織のルールを記憶する
・状況の変化を監視する
・必要な仕事を自ら発見する
・他のシステムを操作する
・関係者へ連絡する
・作業を最後まで進める
・問題がある時だけ人間へ確認する
・過去の判断から継続的に学習する

Mokaは三人のEvaに共通する性質として、「記憶を持つ」「より主動的に動く」「使うほどあなたを理解する」の三点を挙げている。

機能の記述としては正確だろう。

だが「同僚」という語には、機能以外の含意がある。

同僚は責任を負う。判断を誤れば説明を求められ、評価が下がり、場合によっては職を失う。同僚が信頼できるのは、その人物が結果を引き受ける立場にあるからだ。

AIエージェントは責任を負わない。

採用Evaが優秀な候補者を見落としても、Evaは何も失わない。人事Evaが給与計算を誤っても、Evaは処分されない。BP Evaが誤った離職リスク判定を出して有能な社員が辞めても、Evaは責任を問われない。

責任はすべて、導入した企業と、確認ボタンを押した人間に残る。

これは批判ではなく、構造の指摘である。

そしてこの構造には、実務上の危険がある。「確認する人」の責任だけが増える、という危険だ。

人事Evaが給与計算を最後まで走らせ、HRは審査と確認のみを行う。この設計で、確認者は何を確認できるのか。

AIが処理した1000人分の給与計算を、人間が実質的に検証することは不可能である。確認ボタンは、実質的には形式になる。

だが法的責任は、その形式的な確認者に帰属する。

これを「オートメーション・バイアス」と呼ぶ。人間はシステムの出力を過度に信頼し、検証を怠る。そして責任だけが残る。

したがって、AI同僚を導入する組織が設計すべきは、確認の形式ではなく、確認可能性である。

【確認可能性を担保する設計】
・全件確認ではなく、リスクに応じたサンプリング検証を制度化する
・AIが「確信度が低い」と判断した案件を明示的にエスカレーションさせる
・異常検知の閾値を人間側が設定・変更できるようにする
・確認者の責任範囲を、確認可能な範囲に限定して文書化する

「同僚」という比喩は製品訴求としては優れている。だが組織設計の言葉としては、危険な混同を招く。

AIは同僚ではない。極めて有能な、責任を負わない道具である。


第6部 規制はどこまで追いついているか

第24章 中国――個人情報保護法と、発表5日前に出た「智能体実施意見」

Moka AIが最初に向き合うのは、中国の個人情報保護法である。

同法には、自動化意思決定に関する明確な規定がある。

【第24条:自動化意思決定】
個人情報を利用して自動化意思決定を行う場合、決定の透明性と処理結果の公平性・公正性を確保しなければならない。個人は、自動化意思決定が自らの権益に重大な影響を与えると考える場合、個人情報処理者に説明を求める権利を持つ。そして、専ら自動化意思決定の方法によってなされる決定を拒否する権利を持つ。

この後段が重要である。

「AIだけによる決定を拒否できる」という権利が、法律上明記されている。採用の合否をAI単独で決めることは、本人が拒否すればできない。

なお同法は、自動化意思決定を「コンピュータプログラムにより個人の行動習慣、興味嗜好、または経済・健康・信用状況などを自動的に分析・評価し、決定を行う活動」と定義している。BP Evaが行う能力評価と人材配置提案は、この定義に該当する可能性が高い。

【第55条:事前の個人情報保護影響評価】
次の場合、個人情報処理者は事前に個人情報保護影響評価を実施し、処理状況を記録しなければならない。

・センシティブ個人情報を処理する場合
・個人情報を利用して自動化意思決定を行う場合
・個人情報の処理を委託する場合、他の処理者に提供する場合、公開する場合
・個人情報を国外に提供する場合
・その他個人の権益に重大な影響を与える個人情報処理活動

Moka AIの導入は、この五項目のうち少なくとも二項目、多くの場合三項目に該当する。

【第56条:影響評価の内容と保存】
影響評価には、処理目的・処理方法の合法性・正当性・必要性、個人の権益への影響と安全リスク、講じた保護措置の合法性・有効性・リスクとの均衡が含まれなければならない。そして影響評価報告と処理状況の記録は、少なくとも3年間保存しなければならない。

つまり中国国内でMoka AIを導入する企業には、法律上、次の統制が求められる。

【中国個人情報保護法の下で必要な統制】
・どのデータをAIが利用するか明示する
・利用目的を限定する
・必要以上のデータを収集しない
・閲覧権限を細かく設定する
・AIの判断理由を記録する
・人間による再審査を可能にする
・採用・解雇・昇進をAIだけで決めない
・属性別の不利益が発生していないか検査する
・モデルや設定変更の履歴を残す
・社員・候補者の異議申立て窓口を設ける
・事前の影響評価を実施し、記録を3年以上保存する

第13章で触れたAI工坊のサンドボックスと履歴保存とロールバック機能は、こうした統制と相性が良い。

ただし、機能が存在することと、導入企業が適切に利用することは別問題である。

そして中国の実務における懸念は、法文の不足ではなく、執行の濃淡にある。個人情報保護法の条文はGDPRに劣らず厳格だが、労働関係における執行事例は限定的である。

生成AIには、差別防止の明文規定がある

中国の規制は個人情報保護法だけではない。

2023年8月15日に施行された「生成式人工知能サービス管理暫定弁法」の第4条第2号は、次のように定める。

アルゴリズム設計、訓練データの選択、モデルの生成と最適化、サービスの提供といった過程において、民族、信仰、国籍、地域、性別、年齢、職業、健康等による差別が生じることを防止する有効な措置を講じなければならない

列挙されている属性を見てほしい。年齢がある。性別がある。健康がある。そして地域がある。

第20章と第27章で論じた郵便番号の代理変数問題は、中国の条文では「地域」差別として、すでに名指しされている。イリノイ州が2026年に立法したのと同じ論点が、中国では2023年の弁法に入っていた。

さらに重要なのは、この義務の名宛人である。

同弁法第4条は「生成式人工知能サービスを提供し、および使用する」行為を規律する。第22条は「提供者」と「使用者」の双方を定義している。つまり差別防止の一般義務は、ベンダーだけでなく、それを使う企業にも及ぶ。

日本の実務感覚だと、AIツールの適法性はベンダーの責任だと考えがちである。中国法では、使う側にも同じ条文が直接かかる。

発表の5日前――中国はエージェントそのものを規制対象にした

そしてMoka Ascend 2026を読み解くうえで、最も見落とされている文書がある。

2026年5月8日、国家インターネット情報弁公室、国家発展改革委員会、工業情報化部の三部門が連名で「智能体(AIエージェント)の規範的応用と革新的発展に関する実施意見」を公布した。

Mokaが北京で三人のAI同僚を発表したのは、その5日後である。

この実施意見は、国務院の「『人工知能プラス』行動の深化実施に関する意見」を具体化するものであり、エージェントを次のように定義している。

自主的な知覚、記憶、意思決定、相互作用および実行の能力を備えた知能システム

記憶を持ち、自ら判断し、実行する。Mokaが三人のEvaについて語った特性と、定義がほぼ一致する。

そして当局が名指しした危険も、この記事が第20章から第23章で論じてきたものと重なる。

【実施意見が指摘するエージェントのリスク】
・高い自律性と高い権限に起因する
・プライバシーの漏洩
・越権操作――与えられた権限を超えた操作
・行為失控――行動の制御不能

「越権操作」と「行為失控」という二語は、人事データへ広範なアクセス権を持つエージェントを考えるとき、そのまま実務上の懸念事項になる。

実施意見が示す措置は四方面である。

【実施意見の四つの措置】
・発展基盤の強化――技術基盤の整備と標準プロトコルの構築
・安全の下限の確保――製品準則の明確化、リスク防止、ガバナンス体系の整備、業界自律の強化
・応用の牽引――科学研究、産業発展、消費喚起、民生福祉、社会統治の方向で19の典型的応用シーンを提示
・革新エコシステムの構築

このうち二番目に、企業実務へ直接効いてくる内容が入っている。

エージェントの権限管理と行為管制を整備すること。開発、配備、応用、保守の全周期にわたる安全管理を実現すること。そして応用シーンと潜在的影響に応じた分類分級のガバナンス枠組みを構築すること。

分類分級の中身も示されている。低リスク領域では、コンプライアンスの自己検査、情報報告、配信プラットフォームの管理、業界自律によって企業の負担を下げる。高リスク領域では、届出、検測、リコールといった措置で監督下に置く。

さらに踏み込んだ構想もある。実施意見は、エージェントの登録プラットフォームの設立を模索するとしている。エージェントにデジタル身分の管理、検索と発見、能力の宣言といったサービスを提供し、開発者、配備方式、インターフェースプロトコル、コンプライアンス認証といった情報を照会・管理できるようにする、というものだ。

AIエージェントに戸籍を与える構想である。

賽迪研究院の研究者は、この実施意見について、エージェントの全ライフサイクルを覆う発展とガバナンスの枠組みを先行して構築したものであり、技術の恩恵を「問責可能、説明可能、是正可能」な軌道の上で解き放つものだと評している。

問責可能、説明可能、是正可能。第23章で論じた「責任を負わないAIを同僚と呼ぶことの危うさ」に対する、中国当局の回答がここにある。

もっとも、これは法律ではない。三部門の実施意見であり、行政の政策文書である。罰則規定はなく、具体的な運用は今後の標準や細則に委ねられる。

中国はいま、包括的なAI法を作ろうとしている

そしてもう一段上の動きもある。

2026年5月11日、「国務院2026年度立法工作計画」が公表され、AIガバナンスの整備と「人工知能の健全な発展に関する総合的立法」の推進を加速すると明記された。前年の2025年度計画が「人工知能の健全な発展に関する立法工作を推進する」という表現にとどまっていたのに対し、「総合的な法律」を作ると明確化した点が変化である。

同日公表された全国人民代表大会常務委員会の2026年度立法工作計画では、この立法項目が「予備審議項目」に位置づけられた。関係方面が調査と起草を急ぎ、状況に応じて審議を手配する、という段階である。

まとめると、中国のAI規制はこう積み上がっている。

【中国のAI規制の重層構造】
・個人情報保護法(2021年)――自動化意思決定の透明性、説明請求権、単独自動決定の拒否権
・生成式人工知能サービス管理暫定弁法(2023年)――提供者と使用者の双方に対する差別防止義務
・智能体規範応用実施意見(2026年5月8日)――エージェントの権限管理、分類分級ガバナンス、登録プラットフォーム構想
・総合的なAI法(立法作業中)

「小さく速く効く」個別規制を先行させ、経験を積んでから体系化する。これが中国の立法戦略である。

EUが包括法を先に作って延期し、米国が州ごとにばらけて連邦に潰されかけているのと比べると、対照的な進み方をしている。

第25章 EU AI法――2026年8月2日に何が起きなかったか

2026年8月2日は、本来なら欧州で重大な日になるはずだった。

EU AI法(規則(EU) 2024/1689)は2024年8月1日に発効し、段階的に適用される設計になっている。そのうち最も重い規制である高リスクAIシステムに関する主要義務は、附属書IIIに列挙された分野について当初2026年8月2日から適用される予定だった。

附属書IIIには、雇用が明確に含まれている。

【EU AI法・附属書IIIが高リスクとする雇用関連の用途】
・採用および選考
・昇進の決定
・契約終了の決定
・業務・タスクの配分
・業績および行動の監視・評価

採用Eva、人事Eva、BP Evaは、この五項目のすべてに触れる。EU域内で使えば、三人とも高リスクAIシステムである。

高リスクに分類されると、リスク管理システムの構築、技術文書の作成、ログの保存、人間による監督、適合性評価、データベースへの登録といった重い義務が課される。

しかし2026年8月2日に、雇用AIを含む附属書IIIの高リスク義務は適用開始されなかった。一方で、透明性義務など別の規定は予定どおり適用された。

経緯はこうだ。

2025年11月19日、欧州委員会は「デジタル・オムニバス」と呼ばれる簡素化パッケージを提案した。実装が明らかに遅れており、適合性証明に必要な整合規格が期日までに整わないことが理由である。

2026年4月28日の第2回三者協議は合意に至らなかった。だが5月7日に政治合意が成立する。欧州議会が6月16日に採択、理事会が6月29日に最終承認、7月8日に最終法令が署名された。

そして2026年7月24日、規則(EU) 2026/1744としてEU官報に掲載され、7月27日に発効した。

発効は掲載の3日後という異例の速さである。規則自体が、この緊急性を「改正対象の一般適用日が8月2日に到来するため」と正当化している。

改正規則は2026年7月27日に発効したため、当初の適用予定日である8月2日の6日前に滑り込んだことになる。

【デジタル・オムニバスによる主な変更】
・附属書III(独立型高リスクAI、雇用を含む)の義務適用:2026年8月2日 → 2027年12月2日
・附属書I(規制対象製品組込型)の義務適用:2027年8月2日 → 2028年8月2日
・第5条にAI生成の非同意性的画像および児童性的虐待素材の禁止を追加
・AI Officeの監督権限を大幅に拡大
・AIリテラシー義務(第4条)の文言を「十分な習熟度を確保する」から「習熟度の向上を支援する」へ緩和

雇用分野の企業にとって、16ヶ月の猶予が生まれたことになる。

ただし、緩和されなかったものもある。

【延期されなかった義務】
・第4条のAIリテラシー義務――2025年2月2日からすでに適用中
・第50条の透明性義務――2026年8月2日から適用開始。AIとやり取りしていること、AI生成コンテンツを見ていることをユーザーに伝えなければならない
・第5条の禁止行為――適用済み

第50条の透明性義務が今日から適用開始である点は、実務上見落とされやすい。

Moka AIのAI Interview機能――候補者にリンクを送り、AIが自律的に構造化面接を実施する機能――をEU域内で使う場合、候補者に対して「これはAIとの面接である」と明示する義務が、今日から発生する。

高リスク義務は2027年12月まで猶予されたが、AIと直接やり取りしている事実を必要な形で開示しなければ、第50条への不適合となり得る。

なお、この延期に対しては批判もある。欧州労働組合連合(ETUC)とindustriAll Europeは、AIリテラシー義務の緩和を含め、AI法に数少ない職場関連の規定がデジタル・オムニバスによって弱体化するリスクがあると批判した。市民的自由の団体Libertiesは、高リスク義務の延期を、2026年8月に発効するはずだった基本的権利の保護の先送りだと評している。

産業界は概ね歓迎した。

技術は先へ進み、規制は後ろへ下がる。この記事の冒頭で述べた非対称は、記録として残る形で成立した。

第26章 米国――Mobley対Workdayが突きつけた「AIベンダーの責任」

欧州が規制を延期している一方、米国では規制ではなく訴訟が動いている。そしてその影響は、企業実務へ直接及び得る。ただし、2026年8月4日時点で事件は係属中であり、最終判決が確定したわけではない。

中心にあるのが Mobley v. Workday, Inc.(カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所、事件番号3:23-cv-00770)である。

概要はこうだ。

デレク・モブリーは、40歳以上のアフリカ系アメリカ人で障害を持つ男性である。彼はWorkdayのプラットフォームを通じて100件以上の職に応募し、一件も採用されなかった。応募からわずか数分で不採用通知が届いたことから、自動的にフラグを立てられ拒否されたと主張した。

2023年2月21日、彼はWorkdayを提訴した。訴えの根拠は、人種、障害、年齢に基づく差別である。

この訴訟が画期的なのは、訴えられたのが雇用主ではなくベンダーだという点にある。

Workdayは当初、自社は応募者にとっての「雇用主」に該当しないため、雇用差別法の適用を受けないと主張した。

裁判所は、少なくとも訴答段階では、Workdayが顧客企業の「代理人(agent)」として機能したとの主張が成立し得るとして、主要な請求の一部を続行させた。これはWorkdayの最終的な責任を確定した判断ではないが、採用AIベンダーが雇用差別法上の責任主体になり得るという重要な論点を開いた。

以降の展開を時系列で整理する。

【Mobley対Workday 主要経緯】
・2023年2月21日 提訴
・2025年5月16日 リタ・リン判事がADEA(年齢差別禁止法)に基づく集団訴訟の暫定認証を付与。中心的争点は、WorkdayのAI推薦システムが40歳以上の応募者に不均衡な影響(disparate impact)を与えるか
・2026年2月17日 裁判所が集団構成員への通知を正式に許可
・2026年3月6日 ADEAは応募者を対象としないというWorkdayの主張を裁判所が退ける
・2026年3月7日 オプトイン期限
・2026年3月30日 原告側が修正訴状を提出
・2026年5月29日 ローレル・ビーラー治安判事が証拠開示に関する命令
・2026年6月22日 人種、性別、年齢、障害にわたる差別請求の続行を認める判断

集団の対象範囲は、2020年9月24日以降にWorkdayのプラットフォームを通じて職に応募し、応募時点で40歳以上だった全米の個人である。

規模を示す数字がある。裁判資料によれば、対象期間中にWorkdayのソフトウェアが処理した求人応募は約11億件に達する。

一つのアルゴリズムが、11億件の応募を処理していた。

そして2026年5月29日の証拠開示命令には、極めて示唆的な判断が含まれている。

原告側はWorkdayのバイアス検査データの提出を求めた。裁判所はこれを却下した。理由は、Workdayの弁護士がそのデータを取りまとめ、法的助言の提供に用いていたため、弁護士・依頼者間の秘匿特権によって保護されるというものである。

この判断の含意は重い。

バイアス監査を弁護士の指揮下で実施すれば、その結果は秘匿特権で保護され得る。つまり、監査を実施しながら結果を開示しないという運用が、法的に成立する。

透明性の観点からは深刻な抜け穴である。同時に、企業側から見れば、監査を実施するインセンティブになるとも言える。開示を恐れて監査そのものを避ける事態は防げるからだ。

どちらの評価が正しいかは、今後の判例の蓄積を待つしかない。

Mobley事件以外にも、米国では動きが加速している。

【米国におけるその他の動向】
・2026年1月、Eightfold AIに対する集団訴訟。同社が実質的に信用調査機関(consumer reporting agency)として機能し、未検証の第三者ソースから応募者データを収集・スコアリングしたとして、公正信用報告法(FCRA)違反を主張
・テキサス州は2026年1月から、差別の意図をもってAIシステムを配備することを禁止

Eightfold AIの訴訟が興味深いのは、切り口が差別ではない点である。Workday事件が「結果」を攻撃するのに対し、Eightfold事件は「プロセス」を攻撃している。データ収集の同意と透明性の問題として、AIベンダーを規制の枠に入れようとする試みだ。

日本企業にとっての示唆は明確である。

米国で採用活動を行う企業は、使用しているAI採用ツールについて、ベンダー任せにできない。ベンダーが代理人として責任を負うという法理は、逆に言えば、雇用主も同じ鎖の中にいるということだからだ。

第27章 米国――州法パッチワークと、連邦による巻き戻し

前章で見たMobley事件は訴訟である。判決が出るまで、企業に具体的な作業を命じるものではない。

だが米国には、すでに企業へ直接の義務を課している法規がある。しかも州ごとにばらばらである。そして連邦政府は、それを潰しにかかっている。

日本企業が米国で採用活動を行う場合、あるいは米国拠点でMoka AIのようなツールを使う場合、この地図を持っていないと動けない。順に見ていく。

ニューヨーク市――世界で最初にバイアス監査を義務づけた

ニューヨーク市のLocal Law 144は、2021年に成立し、2023年7月5日に施行された。米国で最初に採用AIを正面から規制した法である。

規制対象は「自動化雇用意思決定ツール(AEDT)」である。機械学習、統計モデリング、データ分析、人工知能から導かれる計算プロセスであって、スコア、分類、推薦といった簡略化された出力を発し、雇用に関する裁量的判断を実質的に補助または代替するもの、と定義される。

Moka AIの採用EvaとAI Interviewは、この定義に正面から該当する。

義務の内容は三つである。

【Local Law 144が課す三つの義務】
・過去12ヶ月以内に、独立した監査人によるバイアス監査を受けていること
・監査結果の要約を一般に公開すること
・ツールの使用前に、候補者へ少なくとも10営業日前に通知すること。通知にはAEDTが評価する職務要件の説明を含む

バイアス監査の中身は、選考率またはスコア付与率が性別、人種・民族、およびそれらの交差カテゴリでどれだけ乖離しているかを測るものである。基準として使われるのは、EEOC(雇用機会均等委員会)の四/五ルール、いわゆる五分の四基準である。

制裁は、初回違反が500ドル(約8万円)、以降は非準拠のAEDTを使い続けた1日ごとに1500ドル(約24万円)が積み上がる。

重要なのは適用範囲である。この法は雇用主だけでなく、職業紹介事業者にも直接適用される。人材紹介会社が自動化ツールで候補者をスクリーニングまたはランキングすれば、監査義務と通知義務はその会社が負う。

執行はこれまで緩やかだった。だが2025年12月にニューヨーク州監査官による監査報告が出て以降、市の消費者・労働者保護局が執行を強めるとの見方が広がっている。そしてより実質的な脅威は、ニューヨーク市人権法に基づく私的訴権のほうである。

イリノイ州――意図しない差別も違反になる

イリノイ州は、州人権法をHB 3773で改正した。2026年1月1日施行である。

内容は明快で、そして厳しい。

【イリノイHB 3773の要点】
・保護属性に基づく差別を生じさせる形でAIを使用することを禁止する。意図の有無を問わず、結果として不均衡な影響が生じれば違反となる
・雇用に関する意思決定にAIを使用する場合、応募者および従業員へ通知しなければならない
・郵便番号を保護属性の代理変数として用いることを禁止する
・州人権法に基づく私的訴権があり、原告は直接提訴できる

三つ目の郵便番号の禁止は、第20章で述べた代理変数の問題を、立法が名指しした例である。米国では居住地域と人種の相関が極めて強いため、郵便番号は事実上の人種代理変数として機能する。

なお、イリノイ州人権局による施行規則の策定は、2026年半ば時点で一時停止されている。義務そのものは発効しているが、通知が必要となる具体的な場面の線引きは、まだ確定していない。

イリノイ州には、2020年施行のAI動画面接法も併存する。動画面接でAI分析を用いる場合の事前説明と同意を求めるもので、Moka AIのAI Interview機能を同州で使う場合は、こちらも同時に適用される。

カリフォルニア州――バイアス検査をしなかったこと自体が不利益になる

カリフォルニア州の規制は、性質が違う。

同州公民権評議会は、公正雇用住宅法(FEHA)に基づく自動化意思決定システム(ADS)規則を策定し、2025年10月1日に施行した。

この規則の核心は、義務を課すことではなく、訴訟における立証構造を変えたことにある。

【カリフォルニアFEHA規則の要点】
・差別的な雇用慣行にADSを用いることを禁止する
・バイアス検査を実施したか、しなかったかが、差別請求の判断において明示的に関連性を持つ
・ADS関連データを4年間保存しなければならない。入力データ、出力(スコアやランキング)、用いた基準、バイアス検査の結果を含む
・第三者ベンダーのADSが差別的結果をもたらした場合、雇用主が責任を負う

二つ目が決定的である。

バイアス監査をしていなければ、それ自体が原告側に有利な事情になる。監査を避けるという選択肢が、法的に不利になるよう設計されている。

ここで前章のMobley事件を思い出してほしい。弁護士の指揮下で実施したバイアス検査データは秘匿特権で保護され得る、というのが2026年5月29日の判断だった。

カリフォルニアの規則は「検査しなければ不利になる」と言い、Mobley事件の判断は「検査結果は隠せる」と言う。

この二つを組み合わせると、企業の最適戦略は明確になる。弁護士の指揮下でバイアス監査を実施し、結果は開示しない。

透明性の観点からは、これは望ましい均衡ではない。だが企業実務としては、これが現在の解である。

さらにカリフォルニアには別系統の規制もある。同州プライバシー保護局(CPPA)による自動化意思決定技術(ADMT)規則で、2026年1月1日施行である。年間売上2500万ドル(約40億円)超などカリフォルニア州消費者プライバシー法の適用対象となる企業に対し、雇用に関する意思決定で自動化技術が人間の判断を代替する場合、事前通知とオプトアウト権の提供を求める。

差別法から一つ、プライバシー法から一つ。同じ行為に二系統の規制がかかる。

コロラド州――最も野心的な法が、施行前に骨抜きになった

コロラド州の顛末は、この分野の力学を最もよく示している。

2024年に成立したコロラド州人工知能法(SB 24-205)は、当時、米国で最も包括的なAI規制だった。雇用、住宅、医療、教育といった重大な意思決定に用いられる高リスクAIについて、リスクベースの枠組みを課すものである。

【コロラド州AI法(原法)が求めていたもの】
・アルゴリズム差別から消費者を保護する合理的注意義務
・高リスクAIシステムに対する影響評価の実施義務
・配備者のリスク管理プログラムの整備
・州司法長官への一定の報告義務

そして、施行日は繰り返し後退した。

当初は2026年2月1日施行の予定だった。それが2026年6月30日へ延期された。

2026年4月27日、連邦の治安判事が同法の執行を停止した。xAIが提訴し、連邦政府が訴訟に参加したためである。訴訟の係属中、州は執行手続を開始できなくなった。施行予定日のわずか数週間前だった。

そして2026年5月14日、ポリス知事はSB 26-189に署名した。原法を改正・置換するもので、施行日を2027年1月1日へ再度延期したうえで、要求内容を大幅に縮小した。

【SB 26-189で削られたもの】
・アルゴリズム差別を防止する注意義務
・配備者のリスク管理プログラム整備義務
・影響評価の実施義務
・州司法長官への一部報告義務

残ったのは、一定の自動化意思決定技術に関する開示と透明性の枠組みだけである。

リスクベース規制から、開示規制へ。この後退は、第25章で見たEUのデジタル・オムニバスと同じ方向を向いている。

コネチカット州――解雇にAIを使ったかを届け出る

一方で、前進している州もある。

コネチカット州は人工知能責任・透明性法を成立させ、雇用関連の規定を2年かけて段階施行する。

【コネチカット州AIRTAの施行日程】
・2026年10月1日――自動化ツールを用いたことは差別請求に対する抗弁にならない旨を州公正雇用慣行法に明記。ただし雇用主のバイアス検査の取り組みは、裁判所および人権機会委員会が軽減事情として考慮できる。また大量解雇や事業所閉鎖の届出において、AIがその決定に影響したかを州労働局へ開示しなければならない
・2027年10月1日――採用、昇進、解雇に自動化雇用意思決定技術を用いる場合、対象者および応募者へ書面で通知しなければならない

2026年10月からの「解雇にAIが影響したかの届出義務」は、他州に例のない規定である。

第4章で見たBlockの4000人削減のような事例が、コネチカット州で起きれば、AIの関与を当局へ申告することになる。AIを理由にした人員削減が語られる時代に対する、直接的な立法対応と言える。

なお、バイアス検査の取り組みを軽減事情として扱うという設計は、カリフォルニアと同じ発想である。監査を義務づけるのではなく、監査しないことのコストを上げる。

テキサス州――意図がある場合のみ

テキサス州は2026年1月から、差別の意図をもってAIシステムを配備することを禁止した。

イリノイやカリフォルニアが結果としての不均衡な影響まで捉えるのに対し、テキサスは意図要件を残している。実務上、これは大幅に緩い基準である。差別の意図を立証することは、ほとんどの場合きわめて困難だからだ。

連邦――パッチワークを潰しにかかる

そして連邦政府は、これらの州法を無効化しようとしている。

経緯を整理する。

【連邦による州法プリエンプションの動き】
・2025年半ば、One Big Beautiful Bill Actに、州および地方のAI規制に対する10年間のモラトリアム条項が当初含まれた。だが超党派の反対を受け、最終法案から削除された
・2025年12月11日、大統領令14365が署名された。司法省に「AI訴訟タスクフォース」を設置し、負担の重い州AI法を争わせる内容である
・2026年3月、ホワイトハウスが「国家AI立法枠組み」を公表し、広範な連邦プリエンプションを勧告した
・2026年4月、xAIによるコロラド州法への提訴に司法省が参加し、同州の執行が停止された

いずれも、現時点で拘束力のある法的変更を生んではいない。大統領令に対する訴訟も進行中である。

だが方向性は明確だ。連邦政府は州のAI規制を減らす側に立っている。そして最初の実弾が、コロラドで命中した。

この地図から日本企業が読み取るべきこと

米国の状況を一言でまとめれば、こうなる。

規制は増えているのではない。ばらけている。そしてばらけたまま、上から潰されようとしている。

この状況で企業がとるべき方針は、法域ごとの最適化ではない。

【多州展開する企業の実務指針】
・最も基準の高い法域、すなわちニューヨーク市を基準に統一する。年次の独立バイアス監査、結果の公開、10営業日前の候補者通知
・カリフォルニアの4年保存要件に合わせ、ADSの入力・出力・基準・検査結果を保管する
・イリノイに合わせ、郵便番号など地域情報を選考ロジックから除外する
・監査は、どの州法が生き残るかにかかわらず実施する。連邦のTitle VII、ADEA、ADAに基づく差別責任への防御として機能するからだ

最後の一点が本質である。

州法がプリエンプションで消えても、連邦の差別禁止法は消えない。そしてMobley事件が示した通り、原告側は連邦法だけで十分に戦える。

バイアス監査は、州法への対応ではない。訴訟への備えである。

そして日本企業にとって、この米国の混乱には別の意味もある。

米国で採用AIを使う日本企業は、この地図の上を歩くことになる。だが同時に、日本国内では第29章で見る通り、これに相当する規律がほとんど存在しない。

同じ会社が、州境を越えるだけで義務の水準が変わる。そして本国では何も求められない。

このねじれを、社内の統一基準で埋められる企業だけが、グローバルに採用AIを運用できる。

第28章 アジア太平洋――韓国、香港、シンガポール、マレーシア

ここまで中国、EU、米国を見てきた。だが第17章で確認した通り、Moka AIが2026年6月24日に正式進出したのはアジア太平洋である。拠点は香港、シンガポール、マレーシア。

日本企業にとって最も距離が近く、そして最も情報が少ない法域である。順に見ていく。

韓国――アジアで最初の包括的AI法。ただし採用だけが高影響

アジア太平洋で最初に包括的なAI法を持ったのは韓国である。

「人工知能発展および信頼基盤造成等に関する基本法」、通称AI基本法(法律第20676号)は2025年1月21日に公布され、2026年1月22日に施行された。施行令(大統領令第36053号)も同日施行されている。

EU AI法と同じくリスクベースの構造を採る。そして「高影響AI」の定義は、EU AI法の「高リスクシステム」とほぼ同一だと評されている。

【韓国AI基本法の高影響AI領域】
・医療
・エネルギー
・公共サービス
・金融
・雇用――採用など、個人の権利義務に重大な影響を与える判断や評価
・教育における児童生徒の評価
・交通機関の運行管理
・その他大統領令で定める領域

高影響AIの事業者に課される義務は次の通りである。

【高影響AI事業者の義務】
・配備前の影響評価の実施
・AIライフサイクル全体にわたるリスク管理体制の構築
・実質的な人間による監督の維持
・安全性と信頼性を示す文書の作成
・利用者保護措置の実施

そして透明性義務がある。高影響AIまたは生成AIを用いた製品・サービスを提供する場合、AIが使われている事実を利用者へ事前に通知または表示しなければならない。

Moka AIのAI Interview機能を韓国で使う場合、候補者への事前通知は義務である。

ただし、日本企業が最も注意すべきは適用範囲である。

同法には域外適用がある。韓国の国内市場または利用者に影響を与えるAI活動に適用される。韓国子会社の内部で使うHR AIであっても、韓国の従業員に影響する決定を行うなら、システムがどこで構築され、どこでホストされているかを問わず、高影響AIの雇用カテゴリに該当する。

シンガポールのデータセンターで動いていても、関係ない。

もう一点、実務上重要な猶予がある。行政罰金については施行から1年間の猶予期間が設けられた。ただし生命の喪失や人権侵害といった重大な社会的損害を伴う例外的な事案は除かれる。実体的な遵守義務そのものは2026年1月22日から適用されている。

罰金の猶予は2027年1月に切れる。

そしてもう一つ、EU AI法との決定的な違いがある。

韓国AI基本法は、雇用領域について「採用におけるAI利用」のみを高影響と分類し、労働者の管理は規制対象から外している。EU AI法の附属書IIIが、採用に加えて業務配分、昇進、契約終了、業績と行動の監視までを高リスクとしているのと対照的である。

これをMoka AIに当てはめると、こうなる。

【同じ製品、異なる分類】
・採用Eva――EUでも韓国でも高リスク/高影響
・人事Eva――EUでは業務配分や監視に触れれば高リスク。韓国では原則として対象外
・BP Eva――EUでは業績・行動の評価として高リスク。韓国では対象外

BP Evaこそ、この記事が第20章から第23章で最も強く懸念を示した製品である。それが韓国では規制の外に置かれている。

法域が変われば、同じ機能の危険性の評価が変わるのではない。規制の網の目が変わるだけである。

香港――エージェントAIを名指しした警告

香港は、Mokaが最初に構えた海外拠点である。

そして2026年半ば時点で、香港にAIに関する単一の法律はない。ガバナンスは個人資料(私隠)条例(PDPO)、個人資料私隠専員公署(PCPD)の指針、デジタル政策弁公室の指針、そして金融・医療・保険といった分野別規制に分散している。

だが「法律がない」ことと「規制がない」ことは違う。

PCPDは2024年6月に「人工知能:個人データ保護モデル枠組み」を公表し、2025年11月には生成AIと大規模言語モデルに関する指針、AIシステムのリスク評価テンプレート、説明可能性のベストプラクティス、第三者AIサービスのデューデリジェンス要件を追加した。

そして2026年に入り、監督の姿勢が明確に変わった。

2026年1月、PCPDは60の組織を対象にコンプライアンス点検を開始した。結果は2026年5月に公表され、次のことが分かった。

【香港PCPDのコンプライアンス点検結果(2026年5月公表)】
・調査対象の95%が日常業務でAIを使用していた
・半数以上が3つ以上のAIシステムを使用していた
・PDPO違反は確認されなかった
・ただしガバナンス体制、プライバシー影響評価、AI監査、職員研修、インシデント対応計画、そしてエージェントAIに対する慎重な統制が勧告された

違反はなかった。だが勧告は出た。これは執行の予告である。

そして日本企業が最も注目すべきは、2026年3月にPCPDが発出したエージェントAIに関する個別の警告である。

PCPDはエージェントAIを、独立した、そして高められたプライバシーリスクのカテゴリとして特定した。理由として挙げられたのは次の点である。

【PCPDが指摘したエージェントAIの危険】
・ローカル端末、ファイル、電子メール、認証情報、ブラウザの内容、外部サービスへアクセスし得る
・利用者がリアルタイムで関与しないまま、複数段階のタスクを自律的に実行し得る

Mokaの人事Evaは、電子メール、表計算ファイル、スクリーンショット、会議議事録を自動的に読み取る。BP Evaは会議記録とプロジェクト文書を参照する。

PCPDが警告した構造そのものである。

そして勧告された対策は、そのまま導入企業のチェックリストになる。

【PCPDが勧告したエージェントAIの統制】
・AIシステムのアクセス権限を必要最小限に制限する
・管理者権限を与えない
・実行環境をローカルのインフラから分離する
・インターネットに面する接点を管理する
・プラグインに悪意あるコードがないか点検する
・個人に重大な影響を及ぼす決定については、人間を関与させ続ける

最後の一項は、第23章で論じた「確認可能性」の問題への実務的な回答である。

なお香港では、データ漏洩通知の義務化を含むPDPO改正が進行中で、2026年後半から2027年初頭の施行が見込まれている。72時間以内のPCPDへの通知、重大な損害が生じる可能性がある場合の本人通知、不通知への罰則が想定されている。データ処理者への直接的な義務を課す改正も並行して進む。

シンガポール――法律はないが、テストの仕組みがある

シンガポールにもAIに関する単一法はない。

同国のアプローチは、法律ではなく枠組みとツールによるものである。個人情報保護委員会(PDPC)のモデルAIガバナンス枠組み、生成AIに関する指針、そしてAI Verifyというテスト用のツールキットが中核をなす。2026年にはAI Verify 2.0が投入され、大規模言語モデルのテストとコンプライアンス報告の自動化が加わった。

政府は正式なAI立法への関心を示しており、一定のAIについて義務的なリスク評価、影響評価、透明性義務、登録要件を含む可能性が指摘されている。2026年中の意見募集が見込まれるが、施行は早くても2027年から2028年と見られている。

Moka AIはシンガポールにデータセンターを置き、GDPR、ISO 27001、SOC 2への準拠を掲げている。現時点でシンガポールに固有のAI規制はない。だが第29章で述べる越境移転の論点は、日本企業にとって残る。

マレーシア――枠組み整備の途上

マレーシアも同様に、単一のAI法は持たない。個人データ保護法の下でPDPCがAIに関する指針を整備しつつあり、MDECによるAIガバナンス枠組みが2026年に予定されている。

Mokaが香港、シンガポールに続いてマレーシアに拠点を置いたのは、この規制の軽さと市場の成長性の両方を見てのことだろう。

アジア太平洋の地図をどう読むか

四つの法域を並べると、構図が見える。

【アジア太平洋の規制状況(2026年8月時点)】
・韓国――包括的AI法が施行済み。雇用は高影響。ただし採用のみで労働者管理は対象外。域外適用あり。罰金は2027年1月まで猶予
・香港――単一法なし。だが規制当局がエージェントAIを名指しし、コンプライアンス点検を開始した。実質的な監督は最も速く動いている
・シンガポール――単一法なし。枠組みとテストツール中心。立法は2027年以降
・マレーシア――枠組み整備の途上

日本と同じく、多くの法域に自動化意思決定への明文の規律がない。

だが「法律がないから何をしてもよい」と読むのは、香港の例が示す通り誤りである。当局は既存の個人データ保護法制の下で、AIの利用実態を調べ始めている。

そして韓国の域外適用は、日本企業にとって具体的な脅威である。韓国に子会社を持ち、そこでAI採用ツールを使うなら、日本本社がどこでシステムを契約していようと、韓国法の高影響AI義務がかかる。

配備前の影響評価、ライフサイクルのリスク管理、実質的な人間の監督、文書化。これらを2026年1月から求められている。

第29章 日本――リクナビ事件の教訓と、2026年改正個情法

日本には、この問題についてすでに苦い経験がある。

2019年のリクナビ内定辞退率問題である。

事案の構造を整理しておく。

就職情報サイト「リクナビ」を運営していたリクルートキャリアは、契約企業から応募学生の氏名等の提供を受け、リクナビ上の閲覧履歴等と突合し、学生ごとに「内定辞退率」をスコア化して契約企業へ納品していた。

2018年度卒業生向けのサービスでは、氏名の代わりにCookieで突合し、「特定の個人を識別しない」という建て付けで、第三者提供の同意を得ずに提供していた。

だが提供を受けた企業側では、自社が保有する情報と結びつけることで特定の個人を識別できた。そしてリクルートキャリアは、その事実を認識していた。

2019年12月4日、個人情報保護委員会はリクルートキャリアおよび親会社のリクルートに対し、個人情報保護法に基づく勧告を行った。同サービスの利用企業に対しては指導を行った。

委員会の認定は厳しいものだった。提供する側では特定の個人を識別できないとして第三者提供の同意取得を回避しており、法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービスであった、というのが認定内容である。

この事件から引き出すべき教訓は三つある。

【リクナビ事件の教訓】
・第一に、技術的に「個人を識別しない」形式を取っても、受領側で識別できるなら法の趣旨は潜脱と評価される
・第二に、ツールを利用した企業側も指導の対象になった。ベンダーに任せていたという抗弁は通用しない
・第三に、応募者本人が自分のスコア化を知らなかったこと自体が、問題の核心と受け止められた

Moka AIが扱うのは、内定辞退率よりはるかに広い範囲のデータである。会議での発言、プロジェクト成果、AIツール利用状況。しかも対象は応募者だけでなく在籍社員に及ぶ。

日本の現行法制の枠組みを確認しておく。

【日本で適用される主な規律】
・個人情報保護法――利用目的の特定と通知、第三者提供の制限、越境移転の規律
・職業安定法――求職者の個人情報の収集・保管・使用は業務の目的の達成に必要な範囲に限られる
・労働施策総合推進法および関連指針――募集・採用における年齢制限の原則禁止
・雇用対策法・男女雇用機会均等法――採用選考における差別の禁止
・若者雇用促進法に基づく事業主等指針――2021年4月改正で、募集情報等提供事業者等における個人情報の管理が明記された

ここに一つ、日本独自の枠組みを加えておく必要がある。

2025年5月28日、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、通称AI推進法が成立した。6月4日に公布・一部施行され、9月1日に全面施行されている。日本で初めてAIを正面から扱った法律である。

ただし、これは基本法である。事業者への直接の義務も、罰則規定もない。

法の構成は本則28条。国、地方公共団体、研究開発機関、活用事業者、国民それぞれの責務を定め、政府が国際的な規範の趣旨に即した指針を整備すると規定する。同法に基づき、2025年12月19日に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」が決定され、12月23日にはAI基本計画が閣議決定された。

実務上、最も注意すべきは第16条である。国は、不正な目的または不適切な方法によるAIの研究開発・活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案を分析し、事業者に対して指導、助言、情報提供その他の必要な措置を講ずるとされている。指導や助言に従わない場合、事業者名が公表される可能性がある。

罰則はない。だが名前は出る。EUの制裁金とも、米国の集団訴訟とも異なる、日本型の執行手段である。

そして個人情報保護法は、2026年に改正が成立した。

経緯を正確に記しておく。2025年11月に個人情報保護委員会が「3年ごと見直し」の制度改正方針を示し、2026年1月9日に最終版を公表した。4月7日に改正法案が閣議決定され国会へ提出。5月26日に衆議院本会議で可決、7月10日に参議院本会議で可決・成立し、7月17日に「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」(令和8年法律第56号)として官報に掲載・公布された。

施行時期は二段階である。罰則に関する一部規定は2027年1月17日に施行される。主要部分は、公布日から起算して2年を超えない範囲内で政令の定める日、すなわち2028年7月16日までに施行される。具体的な期日は今後の政令で確定する。

【2026年改正法の主なポイント】
・統計作成等の特例――AI学習目的にのみ利用されることが担保される場合、本人同意を不要とする方向
・課徴金制度の導入――違法な取扱いで財産上の利益を得た場合、個人情報保護委員会が課徴金を命令できる
・特定生体個人情報の新規律――顔認証、DNA、声紋等
・未成年者データ保護の強化――16歳未満は法定代理人の同意
・漏えい報告の合理化
・不正取得・提供罪の処罰範囲拡大
・「特定個人アプローチ情報」の不適正利用の禁止――個人情報に当たらないが本人に連絡可能な情報への規律

注目すべきは、この成立済み改正法の方向性である。

入力側、すなわちAI学習のためのデータ利用については規制を緩和する。一方で、違法な取扱いに対する制裁は強化する。

だが出力側の規律――自動化意思決定に対する説明請求権や拒否権――については、中国個人情報保護法第24条やEU AI法に相当する規定が、日本にはまだない。

この非対称は、日本企業にとって二重の意味を持つ。

国内では、採用AIの判断について応募者から説明を求められる法的根拠が乏しい。ゆえに導入のハードルは低い。

だが海外拠点、特にEU域内や中国国内で同じ運用をすれば、直ちに規制対象になる。

グローバルに事業を展開する企業ほど、国内基準ではなく最も厳しい地域の基準に合わせて設計しておくほうが、結果的に安全であり安上がりである。


第7部 市場と、日本企業への示唆

第30章 中国HRテック市場の競争構図

Mokaは中国HR SaaS市場で唯一の存在ではない。むしろ競争は激化している。

2026年時点で、中国の主要HR SaaSプラットフォームは次のように整理される。

【北森(Beisen)】
人材評価、採用、人事管理、タレントマネジメントを幅広く提供する総合型HCM企業。香港市場に上場している。20年以上のピープルサイエンスの蓄積を強みとし、自社開発のPaaS基盤「魯班」により、標準SaaS製品の上にローコード開発で企業固有の業務ロジックを載せられる。2026年にはAI面接官と知能棚卸しツールを全面的にアップグレードしたとされる。大規模で複雑な組織構造を持つ企業に強い。

【用友(Yonyou)・金蝶(Kingdee)】
ERPと財務システムを基盤に、人事管理を含む企業業務全体をカバーする。人事単独ではなく、財務、経費、調達、販売との連携が強み。用友は2026年に全モジュールへAIエージェントを配置する路線を打ち出し、自社開発の大規模モデルYonGPT 2.0を基盤に、イベント駆動型の能動的サービスへ移行すると発表した。金蝶は「信創」すなわち国産化代替の文脈で、製造業・建設業における業財人一体化を強みとする。

【飛書People(Feishu People)】
コミュニケーション基盤に人事機能を統合する路線。OKR、業績評価、採用管理をチャットツールに深く埋め込む。2026年版ではAIアシスタントが面談議事録を自動要約し、面接日程を知能的に調整し、協働頻度から社員の影響力指数を自動計算するとされる。フラットで俊敏な組織を志向する企業向け。

【盖雅工場(Gaia Works)】
小売、製造、物流といった労働集約型企業を対象に、シフト、勤怠、労働力最適化を得意とする垂直特化型。

【薪人薪事、i人事、易路、蟻人HR】
中小・成長企業向け、あるいは給与・勤怠といった単一モジュール特化。

【钉钉(DingTalk)、企業微信(WeCom)】
業務プラットフォームを基盤に、人事機能やAIエージェントを拡張できる。

この構図で、Mokaの立ち位置は明確である。

規模ではERPベンダーに劣る。組織の複雑性への対応では北森が先行する。チャット統合では飛書が優位に立つ。

Mokaの差別化軸は「AIネイティブ」の一点である。2018年にAI専門チームを設置し、2023年に中国初のHR領域AIネイティブアプリケーションとしてMoka Evaを発表し、2026年にはAI能力が採用、人事、業績のほぼ全工程に浸透している。既存システムにAIを「貼り付けた」のではなく、製品アーキテクチャの層からAIを中核に設計した――というのが同社の主張だ。

だが、Mokaが直面する最大の競争相手は、これらのHR SaaS企業ではないかもしれない。

Microsoft、SAP、Oracle、Workday、Salesforceといったグローバル企業。そして钉钉、飛書、企業微信といった業務プラットフォーム。さらに言えば、汎用のAIエージェントそのものである。

会議記録から人材像を更新し、社内文書から能力を推定する。この機能に、HR専用システムが必要だろうか。

企業のあらゆるデータにアクセスできる汎用エージェントがあれば、原理的には同じことができる。

Mokaの防衛線は三つある。第一に、採用と人事業務への深い専門性。第二に、10年分の企業固有データ。第三に、自然言語カスタマイズによる適合性。

このうち第二の防衛線が最も強い。そして第16章で述べた通り、それは同時に顧客にとってのロックインでもある。

第31章 日本企業への示唆――導入する/しないの前に

Moka AIの構想は、中国国内だけの話ではなくなった。第17章で見た通り、アジア太平洋展開はすでに始まっている。

日本企業も、人手不足、採用難、属人的な人事業務、複雑なExcel運用という問題を抱えている。

特に効果が期待できるのは、次のような企業である。

【Moka型の仕組みが効きやすい企業】
・多店舗展開する小売・外食
・多数の工場を持つ製造業
・派遣・契約社員が多い企業
・急成長中のスタートアップ
・海外拠点を持つ企業
・採用人数が多い企業
・人事データが複数システムに分散している企業

第17章で紹介した2万店舗超のコーヒー・ティーチェーンの事例――採用リードタイム75%短縮、オファーから入社への転換率14.2%から35.8%――は、日本の外食・小売業界が抱える課題と正確に重なる。

興味深いことに、Moka自身も適合条件をかなり具体的に示している。同社の公式ブログは、導入後に変化が最も大きい企業として次の類型を挙げる。

【Mokaが自ら示す適合条件】
・年間採用数が100人を超え、かつ採用チームの人数が採用数の30分の1に満たない企業
・急拡大期にあり、採用ラインが多く職種も雑多な企業
・雇用主ブランドと候補者体験を重視する企業
・過去の人材データベースを保有しているが、一度も活用できていない企業

そして同社は、向かない場合も明記している。年間の採用が数十人規模で、採用プロセスが極めて単純で、HRチームに時間の余裕がある企業には、この種のAI能力は過剰である。基本的なツールで十分だ、というのが同社の見解である。

ベンダーが「うちの製品が要らない企業」を書くのは珍しい。この率直さは、製品訴求としても有効だし、判断材料としても信頼できる。

一つ目の条件を日本の文脈に置き換えると、こうなる。年100人採用していてリクルーターが3人未満。この比率に該当する企業は、日本の中堅企業に相当数ある。

ただし、日本で中国発のHR SaaSを導入する場合、確認すべき事項は多い。

【中国系HR SaaS導入時の確認事項】
・データの保存場所はどこか(Moka AIはシンガポールのデータセンターを掲げている)
・再委託先はどこまで及ぶか
・自社の候補者・従業員データがモデル学習に使われるか
・データ削除の手続きと期限はどうなっているか
・越境移転の法的根拠は何か
・契約準拠法と紛争解決地はどこか
・解約時のデータ返還範囲に、学習済みパラメータは含まれるか

そして、日本の法制への適合も個別に検証が必要である。職業安定法における求職者情報の利用範囲、労働施策総合推進法における年齢制限の原則禁止、そして第29章で述べた通り、まだ明文の規定がない自動化意思決定への対応。

だが、私が本当に伝えたいのは、導入の可否ではない。

Mokaが示した製品思想そのものが、日本企業にとって参考になるということである。

将来の人事システムは、こうなる可能性が高い。

【従来】
人事担当者が画面へ入力するシステム

【今後】
AIへ仕事を依頼し、AIが既存システムを操作する仕組み

この転換は、Mokaを導入するかどうかとは無関係に起きる。Workdayも、SAPも、国内のHRベンダーも、同じ方向へ動いている。

したがって日本企業がいま準備すべきは、ベンダー選定ではない。

【AIエージェント時代に向けて準備すべきこと】
・自社の人事データが、どのシステムに、どの形式で存在するかの棚卸し
・採用基準、評価基準、承認フローの明文化――暗黙知のままではAIも学習できない
・採用時の評価と入社後の実績を突合できるデータ構造の整備
・AIの判断に対する異議申立てプロセスの設計
・従業員データの利用範囲についての、社員への説明と合意形成
・海外拠点を持つ場合、最も厳しい法域を基準にした社内統一ルールの策定
・韓国に子会社がある場合は、AI基本法の高影響AI義務への対応。域外適用があり、システムの構築地やホスティング先を問わない

三つ目が最も価値がある。

第19章で述べた通り、採用時の評価が入社後の成果を予測できているかを検証できる企業は、ほとんどない。この検証ができるようになるだけで、AIを入れなくても採用の精度は上がる。

そして五つ目は、最も後回しにされやすく、最も後で問題になる。

第20章から第23章で述べた危険は、すべて「後から説明する」ことができない性質を持っている。社員が「知らないうちに評価されていた」と感じた瞬間、信頼は回復しない。

技術の導入は数ヶ月でできる。信頼の再建には数年かかる。

第32章 このニュースの本当の意味

Mokaの発表を「中国企業がAI採用ツールを出した」というだけで捉えると、本質を見誤る。

本当の変化は三つある。

【第1の変化:AIが検索する段階から、実行する段階へ】

これまでのAIは、求人票を書いたり、面接質問を作ったりする補助ツールだった。

Mokaは候補者検索、面接調整、評価作成、勤怠、給与、入退社まで、業務の実行主体をAIへ移そうとしている。採用の十工程のうち、人間に残るのは四つだけになる。

【第2の変化:採用から組織設計までを一つのデータ循環にする】

候補者の採用時データと、入社後の成果、能力、異動、退職をつなぐ。面接コーチEvaは、採用結果と入社後データを「金標準」そのものへフィードバックする設計になっている。

これは人材データを、保存する情報から学習する組織資産へ変える試みである。

そしてこれは、正しく設計されれば、企業の採用判断を客観的に改善できる唯一の道でもある。

例えば、ある企業が「有名大学」「大企業経験」「海外経験」を重視して採用していても、入社後の成果との相関が弱い可能性がある。逆に、面接で見落としていた特定の経験や行動特性が、実際の成果と強く関係していることもある。

採用から配置、評価、退職までをつなげれば、企業の人材判断を改善する学習ループが作れる。

同じループが、偏見を増幅する装置にもなる。どちらになるかは、統制の設計で決まる。

【第3の変化:HR SaaSから「AI労働力」へ】

Mokaはソフトウェア機能を販売するだけでなく、採用担当、人事担当、HRBPという役割そのものをAI製品として提供し始めた。

企業が購入するものは、画面や機能ではなく、「処理できる仕事量」へ変わりつつある。

そして第16章で述べた通り、この転換はMoka自身の課金モデルを破壊する。席数課金は成立しなくなる。

さらに広い視点で見れば、これはSaaS産業全体の問題である。「人間が操作するソフトウェア」を売ってきた企業が、「人間の代わりに働くサービス」を売る企業に変わるとき、業界の境界線そのものが引き直される。


終章 人間の社員とAI同僚を、どれだけ深く協働させられるか

Mokaの「採用Eva」「人事Eva」「BP Eva」は、HRテックの進化を象徴する製品である。

採用Evaは企業独自の採用基準を学習し、候補者発掘から面接、内定までを進める。その中核にある面接コーチEvaは、少数の伯楽が持つ暗黙の判断を、組織全体の能力へ変換しようとする。

人事Evaは勤怠、給与、シフト、入退社、問い合わせを処理する。人事担当者に残るのは、設計と確認である。

BP Evaは、社員の能力情報を日常業務から更新し、離職リスク、人材配置、組織能力を分析する。人材管理は半年に一度の大工程から、毎日の営みへ変わる。

その基盤となるMoka AI工坊は、自然言語によって企業ごとの人事ソフトを構築・変更することを目指す。千の企業に千の顔を、という思想である。

これは、人事ソフトが「入力を待つ道具」から「組織の中で仕事をする主体」へ変わる動きだ。

一方で、避けられない問題がある。

採用差別の再生産。社員の常時監視。プライバシー。説明責任。離職予測の乱用。そして、責任を負わない存在を「同僚」と呼ぶことの危うさ。

AIが人間の能力を可視化するほど、誰が、何を基準に、どこまで評価してよいのかという統治の問題が重くなる。

規制はまだ追いついていない。

中国は個人情報保護法第24条で自動化意思決定の拒否権を定めたが、労働関係における執行事例は限られる。EUは高リスク規制を2027年12月へ延期した。米国は立法ではなく訴訟が動いており、Mobley対Workdayの帰趨がベンダーと雇用主の責任分界を決めようとしている。日本には、出力側の規律がまだない。

技術は先へ進み、規制は後ろへ下がる。この非対称のなかで、企業は自らの統制を自ら設計するしかない。

Mokaの発表は、人事担当者が不要になるという単純な話ではない。

人事の価値が、データ入力や手続き処理から、人との対話、制度設計、AIの監督、組織設計へ移ることを示している。

だが同時に、こうも言える。

AIが事務作業を減らしたからといって、すべての人事担当者が自動的に戦略人事へ移行できるわけではない。組織設計には、経営理解、財務、事業戦略、労務、心理、データ分析、交渉力が必要である。

現実には、人事部門内で次の分化が進むだろう。

【AI時代の人事部門に生まれる職務】
・AIエージェントを設計・監督する人
・人事データを分析する人
・社員や管理職と対話する人
・制度と組織を設計する人
・法務・労務リスクを管理する人

AIによって人事部門が消えるというより、入力・転記・調整中心の職務が縮小し、設計・判断・対話・監督中心の職務へ再編される。

そして企業の競争力は、社員数だけではなく、次の一点によって決まる時代に入りつつある。

人間の社員とAI同僚を、どれだけ深く協働させられるか

ただし、忘れてはならないことがある。

協働の相手は、責任を負わない。

会議での発言が自動的に記録され、能力データへ変換される組織で、人は何を話すだろうか。離職リスクを予測される社員は、上司に本音を言うだろうか。

Mokaが解こうとしている問題は、技術の問題ではない。

信頼の問題である。

そして信頼だけは、いまのところ、どのEvaにも実装されていない。


章別 関連リンクとハッシュタグ

第1部 何が起きたのか

第1章 2026年5月13日、北京で宣言されたこと
・Moka公式ブログ「Moka 2026 产品发布会:HR 不再是流程的执行者,而是组织的战略伙伴」 https://www.mokahr.com/blog/34557.html
・Moka公式ブログ「用三位 AI "同事",迎接 AI 原生组织时代」 https://www.mokahr.com/blog/40799.html
#MokaAscend2026 #AI同僚 #HRテック

第2章 Mokaとは何者か
・Moka会社概要 https://www.mokahr.com/about
・Moka公式ブログ(シリーズC発表) https://www.mokahr.com/blog/10617.html
#Moka #HRSaaS #中国スタートアップ

第3章 競争公式「AI人材密度 × AI協同深度」
・Moka Eva製品ページ https://www.mokahr.com/eva
#AIネイティブ組織 #組織設計 #李国興

第4章 Mokaが引用した三つの海外事例
・Fast Company「Duolingo doubles its language offerings with AI-built courses」 https://www.fastcompany.com/91326089/duolingo-doubles-its-language-offerings-with-ai-built-courses
・Forbes「Jack Dorsey Bets 4,000 Jobs That AI Can Replace The Org Chart」 https://www.forbes.com/sites/josipamajic/2026/04/01/jack-dorsey-bets-4000-jobs-that-ai-can-replace-the-org-chart/
・CoinDesk「Jack Dorsey says AI should replace the middle manager」 https://www.coindesk.com/tech/2026/04/01/jack-dorsey-says-ai-should-replace-corporate-hierarchy-after-block-cuts-4-000-jobs
#Duolingo #Shopify #Block #AIファースト

第2部 三人のAI同僚

第5章 採用Eva
・Moka公式ブログ「AI 同事时代,招聘 Eva 为 HR 减负的核心逻辑」 https://www.mokahr.com/blog/35157.html
#採用Eva #ATS #採用DX

第6章 面接コーチEva
・鳳凰網「欢迎 AI 新"同事":Moka 发布 AI Agent」 https://biz.ifeng.com/c/8t7D3A86sd0
#面接コーチ #構造化面接 #用人金標準

第7章 十の工程、四つの仕事
・界面新聞「欢迎 AI 新"同事":Moka 发布 AI Agent,从工具到"同事"」 https://m.jiemian.com/article/14426468.html
#採用プロセス #業務自動化

第8章・第9章 人事Eva と「80%」
・網易新聞「Moka 2026 产品发布会:用三位 AI"同事",迎接 AI 原生组织时代」 https://www.163.com/news/article/KSSNRPDN00019UD6.html
#人事Eva #勤怠管理 #給与計算 #業務効率化

第10章〜第12章 BP Eva
・飛象網(Moka発表会レポート) http://www.cctime.com/m/1734568.htm
#BPEva #HRBP #タレントマネジメント #内部人材市場

第3部 基盤とビジネスモデル

第13章・第14章 Moka AI工坊と三層アーキテクチャ
・中華網「Moka 2026 产品发布会」 https://m.tech.china.com/hea/articles/20260514/202605141868188.html
#AIStudio #ローコード #自然言語開発

第15章・第16章 千企千面とAI化のパラドックス
・藍鯨財経(HR SaaS業界分析) https://www.lanjinger.com/d/1779436566345752193
・Moka公式ブログ「HR SaaS 选型实战:2026年主流平台深度对比」 https://www.mokahr.com/blog/33213.html
#SaaS #ビジネスモデル #従量課金

第4部 海外展開と数字の検証

第17章 アジア太平洋への進出
・The Manila Times「Moka AI Launches Moka Eva AI Recruiting Agent for Enterprise Hiring Teams Across Asia Pacific」 https://www.manilatimes.net/2026/06/24/tmt-newswire/pr-newswire/moka-ai-launches-moka-eva-ai-recruiting-agent-for-enterprise-hiring-teams-across-asia-pacific/2371537
・The Malaysian Reserve(同プレスリリース) https://themalaysianreserve.com/2026/06/24/moka-ai-launches-moka-eva-ai-recruiting-agent-for-enterprise-hiring-teams-across-asia-pacific/
・Moka AI海外版サイト https://www.mokahr.io/ai-recruitment-platform
#AI面接 #APAC #グローバル採用

第18章・第19章 公表数値の検証
・Moka NextGen Tech30選出に関する記事 https://www.cnblogs.com/knowb2b/p/19107282
#データリテラシー #ベンチマーク #AI評価指標

第5部 危険性

第20章 採用差別の再生産
#アルゴリズムバイアス #採用差別 #AI倫理

第21章 常時分析と評価されている感覚
#従業員監視 #心理的安全性 #グッドハートの法則

第22章 離職リスク予測の自己実現
#離職予測 #ピープルアナリティクス #自己実現的予言

第23章 AIは同僚ではない
#AIガバナンス #説明責任 #オートメーションバイアス

第6部 規制

第24章 中国――個人情報保護法と智能体実施意見
・中国国家インターネット情報弁公室「中华人民共和国个人信息保护法」 https://www.cac.gov.cn/2021-08/20/c_1631050028355286.htm
・最高人民検察院「中华人民共和国个人信息保护法」 https://www.spp.gov.cn/spp/fl/202108/t20210820_527244.shtml
・人民網(個人情報保護法解説) https://cpc.people.com.cn/n1/2021/0823/c64387-32203184.html
・中国国家インターネット情報弁公室「生成式人工智能服务管理暂行办法」 https://www.cac.gov.cn/2023-07/13/c_1690898327029107.htm
・新華社「三部門部署智能体規範応用与創新発展」 http://www.news.cn/government/20260509/fc026871a7734e018a266461e19ab3ed/c.html
・新華社「三部門聯合印発《智能体規範応用与創新発展実施意見》」 http://www.news.cn/tech/20260513/9d6b6f3416484ef9b8eab054425b5680/c.html
・中国新聞網「我国提出加快人工智能健康発展立法」 https://www.chinanews.com.cn/gn/2026/07-03/10651809.shtml
#個人情報保護法 #PIPL #自動化意思決定 #智能体 #AIエージェント規制 #人工智能法

第25章 EU AI法
・Freshfields「EU AI Act unpacked #34 : The final Digital Omnibus on AI」 https://www.freshfields.com/en/our-thinking/blogs/technology-quotient/eu-ai-act-unpacked-34-the-final-digital-omnibus-on-ai-key-amendments-to-the-a-102nber
・Lewis Silkin「The Digital Omnibus on AI enters into force today」 https://www.lewissilkin.com/insights/2026/07/27/the-digital-omnibus-on-ai-enters-into-force-today-102nedo
・Future of Privacy Forum「The AI Act implementation timeline: What changes under the AI Omnibus?」 https://fpf.org/blog/the-ai-act-implementation-timeline-what-changes-under-the-ai-omnibus/
・DLA Piper「The Digital AI Omnibus: Proposed deferral of high risk AI obligations under the AI Act」 https://knowledge.dlapiper.com/dlapiperknowledge/globalemploymentlatestdevelopments/2026/The-Digital-AI-Omnibus-Proposed-deferral-of-high-risk-AI-obligations-under-the-AI-Act
#EUAIAct #デジタルオムニバス #高リスクAI

第26章 米国――Mobley対Workday
・University of Miami Law Review「Help Wanted, Screened by Algorithms: Mobley v. Workday」 https://lawreview.law.miami.edu/help-wanted-screened-by-algorithms-mobley-v-workday-and-the-legal-limits-of-ai-hiring/
・Duane Morris「California Federal Court Clarifies Limits On AI Bias Testing And Applicant Data Disclosure In Mobley v. Workday」 https://blogs.duanemorris.com/classactiondefense/2026/06/02/california-federal-court-clarifies-limits-on-ai-bias-testing-and-applicant-data-disclosure-in-mobley-v-workday/
・Maynard Nexsen「Emerging Liability for AI-Driven Hiring Tools」 https://www.maynardnexsen.com/publication-emerging-liability-for-ai-driven-hiring-tools-key-developments-in-mobley-v-workday-inc
#MobleyvWorkday #ADEA #AI採用訴訟

第27章 米国の州法パッチワークと連邦プリエンプション
・Akin「The Growing Patchwork of State AI Laws: What It Means for Employers」 https://www.akingump.com/en/insights/alerts/the-growing-patchwork-of-state-ai-laws-what-it-means-for-employers
・Hunton「Colorado AI Act Amended and Effective Date Delayed」 https://www.hunton.com/privacy-and-cybersecurity-law-blog/colorado-ai-act-amended-and-effective-date-delayed
・Perkins Coie「Navigating the Growing Landscape of State AI Employment Bills and Laws」 https://perkinscoie.com/insights/update/navigating-growing-landscape-state-ai-employment-bills-and-laws-what-employers-need
・The National Law Review「Patchwork AI Hiring Laws Create Rising Compliance Risks for Employers」 https://natlawreview.com/article/patchwork-ai-hiring-laws-create-rising-compliance-risks-employers
・Byte Back「Colorado and Connecticut Pass AI Governance Obligations for Employers」 https://www.bytebacklaw.com/2026/07/colorado-and-connecticut-pass-ai-governance-obligations-for-employers-while-illinois-taps-the-brakes-on-proposed-rulemaking/
・Seyfarth Shaw「Artificial Intelligence Legal Roundup」 https://www.seyfarth.com/news-insights/artificial-intelligence-legal-roundup-colorado-postpones-implementation-of-ai-law-as-california-finalizes-new-employment-discrimination-regulations-and-illinois-disclosure-law-set-to-take-effect.html
#LocalLaw144 #バイアス監査 #コロラドAI法 #州法パッチワーク #連邦プリエンプション

第28章 アジア太平洋の規制
・Littler「Understanding South Korea's New AI Law: Key Considerations for Multinational Employers」 https://www.littler.com/news-analysis/asap/understanding-south-koreas-new-ai-law-key-considerations-multinational-employers
・Cooley「South Korea's AI Basic Act: Overview and Key Takeaways」 https://www.cooley.com/news/insight/2026/2026-01-27-south-koreas-ai-basic-act-overview-and-key-takeaways
・Future of Privacy Forum「South Korea's New AI Framework Act」 https://fpf.org/blog/south-koreas-new-ai-framework-act-a-balancing-act-between-innovation-and-regulation/
Law.asia「Korea's new AI Basic Act: Characteristics and significance」 https://law.asia/korea-ai-basic-act-characteristics-significance/
・Mayer Brown「AI Regulation in Singapore and Hong Kong: A Mid-Year Checkpoint」 https://www.mayerbrown.com/en/insights/publications/2026/07/ai-regulation-in-singapore-and-hong-kong-a-mid-year-checkpoint
・CMS「AI laws and regulations in Hong Kong」 https://cms.law/en/int/expert-guides/ai-regulation-scanner/hong-kong
#韓国AI基本法 #高影響AI #香港PCPD #エージェントAI #シンガポール #域外適用

第29章 日本の法制
・BUSINESS LAWYERS「リクナビ事件とは?個人情報保護法の問題点を弁護士が解説」 https://www.businesslawyers.jp/practices/1403
・One Asia Lawyers「日本:個人情報保護法改正の概要とポイント」 https://oneasia.legal/17133
・BUSINESS LAWYERS「令和8年改正個人情報保護法とは?ポイントを弁護士が解説」 https://www.businesslawyers.jp/articles/1521
・BUSINESS LAWYERS「日本版AI法の概要と企業への影響」 https://www.businesslawyers.jp/articles/1475
・のぞみ総合法律事務所「2026年(令和8年)改正個人情報保護法の概要」 https://www.nozomisogo.gr.jp/newsletter/13819
#リクナビ事件 #個人情報保護法改正 #職業安定法 #AI推進法

第7部 市場と示唆

第30章 中国HRテック市場
・用友「HR SaaS 2026:AI 原生一体化如何重塑企业人力管理?」 https://www.yonyou.com/subject/HRSaaS/news/5996
#北森 #用友 #飛書 #HRSaaS市場

第31章・第32章 日本企業への示唆
・Moka百度百科(沿革の総覧) https://baike.baidu.com/item/moka/18763063
#人事DX #組織設計 #AIエージェント


主要参考資料

【一次資料(Moka公式・発表ベース)】
・Moka「Moka 2026 产品发布会:HR 不再是流程的执行者,而是组织的战略伙伴」(2026年5月14日)
 https://www.mokahr.com/blog/34557.html
・Moka「用三位 AI "同事",迎接 AI 原生组织时代|Moka 2026 产品发布会」
 https://www.mokahr.com/blog/40799.html
・Moka「AI 同事时代,招聘 Eva 为 HR 减负的核心逻辑」
 https://www.mokahr.com/blog/35157.html
・Moka Eva製品ページ https://www.mokahr.com/eva
・Moka会社概要 https://www.mokahr.com/about
・Moka AI(海外版) https://www.mokahr.io/ai-recruitment-platform
・PR Newswire配信「Moka AI Launches Moka Eva AI Recruiting Agent for Enterprise Hiring Teams Across Asia Pacific」(2026年6月24日)

【報道ベース】
・界面新聞、鳳凰網商業、網易新聞、飛象網、中華網(いずれも2026年5月13〜14日、Moka Ascend 2026関連)
・Forbes「Jack Dorsey Bets 4,000 Jobs That AI Can Replace The Org Chart」(2026年4月1日)
・CoinDesk「Jack Dorsey says AI should replace the middle manager after Block cuts 4,000 jobs」(2026年4月1日)
・Fast Company「Duolingo doubles its language offerings with AI-built courses」(2025年4月30日)
・Fast Company「Jack Dorsey wants to have 6000 direct reports」(2026年4月14日)

【法令・規制(中国)】
・中華人民共和国個人情報保護法(第24条、第55条、第56条)
・生成式人工知能サービス管理暫定弁法(2023年8月15日施行、第4条第2号・第22条)
・智能体規範応用与創新発展実施意見(国家インターネット情報弁公室・国家発展改革委員会・工業情報化部、2026年5月8日公布)
・国務院2026年度立法工作計画/全国人民代表大会常務委員会2026年度立法工作計画(いずれも2026年5月11日公表)

【法令・規制(EU)】
・規則(EU) 2024/1689(EU人工知能法)附属書III
・規則(EU) 2026/1744(デジタル・オムニバス、2026年7月24日官報掲載、7月27日発効)

【法令・規制(米国)】
・Mobley v. Workday, Inc.(N.D. Cal. 事件番号3:23-cv-00770)
・NYC Local Law 144 of 2021(AEDT法、2023年7月5日施行)
・Illinois HB 3773(775 ILCS 5/2-101・5/2-102、2026年1月1日施行)/Illinois Artificial Intelligence Video Interview Act
・California FEHA自動化意思決定システム規則(2025年10月1日施行)/CPPA自動化意思決定技術規則(2026年1月1日施行)
・Colorado SB 24-205および同法を改正・置換するSB 26-189(2026年5月14日署名、2027年1月1日施行)
・Connecticut Artificial Intelligence Responsibility and Transparency Act(2026年10月1日・2027年10月1日段階施行)
・Texas州のAI差別規制(2026年1月施行)
・大統領令14365(2025年12月11日、DOJ AI訴訟タスクフォース設置)/ホワイトハウス「国家AI立法枠組み」(2026年3月)

【法令・規制(アジア太平洋)】
・韓国:人工知能発展および信頼基盤造成等に関する基本法(AI基本法、法律第20676号、2026年1月22日施行)/同施行令(大統領令第36053号)
・香港:個人資料(私隠)条例(PDPO)/PCPD「人工知能:個人データ保護モデル枠組み」(2024年6月公表、2025年11月拡充)/PCPDエージェントAIに関する警告(2026年3月)/PCPDコンプライアンス点検結果(2026年5月公表)
・シンガポール:PDPCモデルAIガバナンス枠組み/AI Verify 2.0
・マレーシア:個人データ保護法に基づくPDPC指針/MDEC AIガバナンス枠組み(整備中)

【法令・規制(日本)】
・個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律(令和8年法律第56号、2026年7月10日成立・7月17日公布)
・人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI推進法、2025年5月28日成立・9月1日全面施行)
・人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針(2025年12月19日決定)/AI基本計画(2025年12月23日閣議決定)
・職業安定法、労働施策総合推進法、若者雇用促進法に基づく事業主等指針

【法律事務所・研究機関の分析】
・Freshfields、DLA Piper、Gibson Dunn、Lewis Silkin、Hunton(EU AI法デジタル・オムニバス関連)
・Duane Morris、Maynard Nexsen(Mobley対Workday関連)
・Akin、Perkins Coie、Seyfarth Shaw、Byte Back、Baker Botts(米国州法パッチワーク関連)
・Littler、Cooley、Mayer Brown、CMS、Law.asia(アジア太平洋のAI規制関連)
・Future of Privacy Forum(AI法実施タイムライン)
・University of Miami Law Review(AI採用の法的限界)
・One Asia Lawyers、BUSINESS LAWYERS、のぞみ総合法律事務所(日本法関連)

【注記】
本稿における数値は、Mokaおよび各社の公表値に基づく。第三者による独立検証を経たものではない。特に第18章で整理した通り、Mokaの公表数値には複数の系統が存在し、相互に整合していない。引用にあたっては出典と時点を必ず併記されたい。

発表ベースの情報(企業が自ら公表した内容)と報道ベースの情報(第三者媒体が取材・報道した内容)は、本文中で可能な限り区別して記述した。

Block、Duolingo、Shopifyの事例は、Mokaが発表会で引用したものであり、原典に当たって検証したうえで、検証できなかった点は明示した。


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