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2-19.HesaiのLiDARセンサー戦争を読む

Hesai LiDARが握る自動運転とロボットの“目”――フィジカルAIセンサー戦争

中国フィジカルAI 2026 完全版 第19回

シリーズ:中国フィジカルAI 2026 完全版
副題:ヒューマノイドロボット・自動運転・産業ロボット・ロボット基盤モデルで見る“中国AI企業TOP20+番外編”
第19回:Hesai / 禾賽科技 / 禾赛科技
評価軸:AI部門の有名度 / 資本力 / 技術力 / 収益度 / AI部門価値
注記:本記事は2026年7月3日時点のHesai公式サイト、投資家向け開示、2025年通期決算、2026年第1四半期決算、Reuters、Hesai公式発表、主要報道をもとにした分析記事です。出荷台数、市場シェア、ETX、Picasso、Kosmo、ADAS・Robotics LiDAR、Li Auto・BYD・Xiaomi等への供給、量産能力に関する数値は、会社発表・調査会社・対象市場定義・時点によって変動します。


この記事でわかること

  • なぜ第19回でHesai / 禾賽科技を扱うのか

  • Hesaiは、なぜ「自動運転とロボットの目」と呼べるのか

  • LiDARは、カメラだけの自動運転と何が違うのか

  • HesaiのADAS LiDAR、Robotics LiDAR、Autonomous Mobility、Spatial Intelligenceはどうつながるのか

  • 2025年通期でLiDAR出荷162万台超、ADAS 138万台超、Robotics 23.9万台超という数字をどう読むか

  • 2025年にHesaiが黒字化した意味

  • Li Auto、BYD、Xiaomi、NVIDIA、Mercedesなどとの関係をどう見るか

  • ETX、Picasso 6D Full-Color SPAD-SoC、ATX、FTX、JT128は何を狙う製品なのか

  • Kosmoは、なぜLiDAR企業がフィジカルAIデータ端末へ進む象徴なのか

  • HesaiとRoboSense、Ouster、Luminar、Velodyne系、Livoxは何が違うのか

  • API、MCP、Agent、CLI、Skillsで見ると、Hesaiの本質はどこにあるのか

  • 日本企業がHesaiから学ぶべきこと

本文に入る前に、ポイントを一つだけ先に言います。

フィジカルAIは、目がなければ動けません。

車も、ロボットも、ドローンも、物流ロボットも、掃除ロボットも、工場内搬送ロボットも、まず現実世界を見なければ動けません。

その「目」の中で、Hesaiが握っているのがLiDARです。

LiDARは、光で距離を測り、3D点群として世界を捉えるセンサーです。

カメラは色や意味を見ます。

LiDARは距離と形を見ます。

AIが現実世界を安全に動くには、この二つの関係が重要になります。

Hesaiは、もはや自動車向けLiDARメーカーだけではありません。

ADAS、Robotaxi、物流ロボット、AMR、産業ロボット、空間データ、世界モデル、具身AIへ広がるフィジカルAIのセンサー基盤企業です。


目次

はじめに――なぜ第19回はHesaiなのか

まず結論――Hesaiは自動運転とロボットの“目”を量産するセンサー基盤企業である

第1章 5軸評価で見るHesaiのフィジカルAI総合力

第2章 Hesaiとは何か――上海発のLiDAR量産企業

第3章 LiDARとは何か――カメラだけでは見えない距離と3D構造

第4章 2025年決算を読む――出荷162万台超、ADASとRoboticsの二本柱

第5章 量産能力――2026年に年産400万台超へ、タイ工場も視野

第6章 ETXとPicasso――6DフルカラーLiDARは何を変えるのか

第7章 KosmoとSpatial Intelligence――LiDAR企業が世界モデル用データ端末へ向かう理由

第8章 Robotics LiDAR――AMR、物流、ロボット、工場で使われる“目”

第9章 顧客基盤――Li Auto、BYD、Xiaomi、NVIDIA、Mercedesとの関係

第10章 API・MCP・Agent・CLI・Skillsで見るHesai

第11章 競合比較――RoboSense、Ouster、Luminar、Livox、Velodyne系との違い

第12章 弱点とリスク――カメラ派、価格競争、米中規制、サプライチェーン

第12章補足 なぜハード側(LiDARメーカー)がソフト側より評価されうるのか

第13章 日本企業がHesaiから学ぶべきこと

結論――HesaiはフィジカルAIセンサー戦争の勝者になれるか

次回予告――Pudu Roboticsを読む


はじめに――なぜ第19回はHesaiなのか

第18回のDeepRoute.aiでは、自動運転ソフトウェアとVLA Foundation Modelを見ました。

では、第19回のHesaiは何か。

Hesaiは、センサー企業です。

しかし、単なる部品メーカーではありません。

自動運転とロボットにとって、センサーは身体の入口です。

人間で言えば目。

車で言えば周囲を見る器官。

ロボットで言えば空間を認識する基盤。

AIがどれほど賢くなっても、現実世界を正しく見られなければ、動けません。

Hesaiは、その「見る」部分を量産しています。


まず結論――Hesaiは自動運転とロボットの“目”を量産するセンサー基盤企業である

Hesaiを一言で表すなら、こうなります。

Hesaiは、ADAS、Robotaxi、物流ロボット、AMR、産業ロボット、空間知能向けに、LiDARという3Dの目を量産するフィジカルAIセンサー基盤企業である。

Hesaiの重要性は三つあります。

第一に、量産実績です。

2025年通期の総LiDAR出荷は162万台超。

ADAS向けは138万台超。

Robotics向けは23.9万台超。

これは、LiDARが研究開発部品から量産部品へ移ったことを示します。

第二に、黒字化です。

Hesaiは2025年にGAAPベースで通期黒字を達成しました。

LiDAR企業は長く赤字が当たり前でした。

その中で黒字化したことは、Hesaiが単なる研究スタートアップではなく、量産産業企業へ変わったことを意味します。

第三に、Physical AIへの拡張です。

Hesaiは2026年、Picasso、ETX、Kosmo、ロボットアクチュエーションモジュール方向を発表し、単なるLiDARメーカーから「Spatial Intelligence / 空間知能」の基盤企業へ向かう姿勢を示しました。


第1章 5軸評価で見るHesaiのフィジカルAI総合力

【AI部門の有名度】
Hesai評価:LiDAR業界では世界級、Physical AI文脈でも存在感上昇
点数:9.1 / 10
一言評価:自動運転とロボットの目を握る企業

【資本力】
Hesai評価:NASDAQ + HKEX、黒字化、量産能力拡大
点数:9.0 / 10
一言評価:LiDAR企業としては資本・量産力ともに強い

【技術力】
Hesai評価:ETX、Picasso、ATX、FTX、JT128、Kosmo
点数:9.3 / 10
一言評価:車載からロボット、空間知能へ広がる技術ポートフォリオ

【収益度】
Hesai評価:2025年通期黒字、出荷急増、粗利率改善
点数:8.6 / 10
一言評価:赤字LiDAR企業の中で先に産業化した

【AI部門価値】
Hesai評価:自動運転、Robotaxi、AMR、ヒューマノイド、世界モデルのデータ基盤
点数:9.4 / 10
一言評価:Physical AIの入口である3Dデータを握る

【総合評価】
Hesai評価:フィジカルAI時代のセンサー基盤企業
点数:45.4 / 50
一言評価:ロボットが現実世界を見るためのインフラになり得る

Hesaiの評価で重要なのは、AIモデル企業ではないのに、AI部門価値が高いことです。

なぜなら、AIはデータなしに強くならないからです。

特にフィジカルAIでは、現実世界の3Dデータが必要です。

距離。

形状。

奥行き。

反射率。

動き。

そして将来的には色。

Hesaiは、そのデータの入口を握っています。


第2章 Hesaiとは何か――上海発のLiDAR量産企業

Hesai / 禾賽科技は、2014年に上海で設立されたLiDAR企業です。

共同創業者として知られるのは、李一帆(David Li)、孫愷(Kai Sun)、向少卿(Shaoqing Xiang)です。

三人はいずれも、清華大学の学部を出て、米国の大学院に進んだ理系の博士です。CEOの李一帆は、清華大学の精密儀器・機械学系を卒業し、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)でロボットの博士号を取得。共同創業者で首席科学者の孫愷、共同創業者でCTOの向少卿は、いずれもスタンフォード大学で機械工学の博士号を取っています。三人はシリコンバレーでロボット・知覚アルゴリズム・チップ設計に携わったのち、2014年に帰国して創業しました。

三人の経歴を少し補うと、CEOの李一帆(1986年生まれ)は、清華大学の精密儀器・機械学系に保送で進み、米イリノイ大学(UIUC)でロボットの修士・博士を取得、創業前はWestern Digital(西部数据)で首席エンジニアを務め、ロボット・運動制御・センサーの分野で100件超の特許を持ちます。世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダー(2021)やMIT TR35にも選ばれています。首席科学者の孫愷(1985年生まれ)は、上海交通大学からスタンフォード大学の機械系博士(電子系副専攻)。CTOの向少卿は、清華大学からスタンフォード大学の電子工学・機械工学の二つの修士を取り、卒業後はApple本社で回路システム設計(複数世代のiPhone試作に関与)、Samsung本社研究センターにも在籍しました。CFOは樊鵬(Andrew Fan)で、かつては元NIO CFOの謝東螢(Louis Hsieh)もCFOを務めました。従業員は1,000名超で、その7割以上が研究開発・製造のエンジニアとされます。

同社は、自動運転、ADAS、Robotaxi、Robobus、物流ロボット、産業ロボット、マッピング、セキュリティなどに向けた3D LiDARを開発・製造しています。

2023年にNASDAQへ上場(HSAI)し、2025年には香港取引所メインボードにも上場しました(2525.HK)。これにより、Hesaiは米国株+香港株の「二重主要上場」を実現した初のLiDAR企業となりました。香港IPOはグリーンシュー込みで調達総額6.14億ドルに達し、世界のLiDAR業界で過去最大のIPOとされます。

2-1 創業の物語と沿革――ガスセンサーからLiDARへ

Hesaiの起点は、米国です。前身のHesai Instruments(禾賽儀器)は2012年12月にシリコンバレーで設立され、2013年に三人がサンノゼで「billion dollar company(10億ドル企業)を作る」と誓って本格創業しました。翌2014年11月、本社を上海に移します(上海禾賽光電科技)。

意外なことに、Hesaiは最初からLiDARの会社ではありませんでした。創業初期は、レーザーを使ったガス検知センサー(激光气体检测)を手がけていました。しかし「ガス検知だけでは10億ドル企業にならない」と考え、自動運転の目としてのLiDARへ舵を切ります。この転換が、今のHesaiを作りました。

・2012年12月:米国でHesai Instruments設立(前身)
・2014年11月:本社を上海へ、ガスセンサーから出発
・2017年:Pandar 40線LiDARを投入、車載・Robotaxi向けへ
・2021年:科創板(STAR)上場を目指すも、2021年3月に申請撤回
・2023年2月:NASDAQ上場(HSAI)
・2025年:香港取引所メインボードに二重主要上場(2525.HK

2-2 資金調達と株主

HesaiはIPO前に累計9ラウンド・約5.36億ドルを調達し、資本市場の寵児でした。主なラウンドはこうです。

・2015年1月:エンジェル(数百万ドル、PreAngel・遠瞻資本・大米創投)
・2017年5月:A(1.1億元、Pagoda Investment主導)
・2018年5月:B(2.5億元、光速中国+百度が主導)
・2020年1月:C(1.73億ドル、独Bosch+光速が主導、安森美・啓明創投など。当時のLiDAR業界最大の単独ラウンド)
・2021年6月:D(3億ドル超、高瓴・小米・美団・CPE中信産業基金が主導)
・2021年11月:D+(小米が7000万ドル追加、D総額3.7億ドル超)

株主構成の特徴は二つです。一つは、創業3人が合計約24〜25%の株式で、種類株(A類)により約76%の議決権を握る点。もう一つは、事業会社と大手VCが名を連ねる点です。最大の機関株主は光速(Lightspeed)系、そして独Bosch(博世)、小米(Xiaomi)、美団(Meituan)、百度(Baidu、のちに主要株主から外れる)、遠瞻資本などが並びます。BoschやXiaomi、百度、美団といった「顧客にも投資家にもなりうる事業会社」が早くから入っている点が、Hesaiの調達の強みでした。

なお、2024年末には、この3人の創業者が、Hesaiとは別に汎用ロボットとコア部品を手がける新会社Sharpa(シャーパ)を立ち上げています。SharpaはHesaiと資本・支配関係はなく独立運営で、3人は戦略・大方針の指導にあたるとされます。フィジカルAIの広がりを、創業者自身も別動隊で追っている形です。

Hesaiの特徴は、研究開発だけでなく、量産製造を自社で強く持っていることです。

LiDARは、光学、半導体、機械、熱、耐久性、車載品質、コスト、量産歩留まりのすべてが問われます。

Hesaiは、この製造力を前面に出しています。

2-3 LiDAR業界の難しさ

LiDAR企業は、かつて多くが期待されました。

しかし、量産できない。

高すぎる。

車載品質を満たせない。

顧客が増えない。

赤字が続く。

この問題で、多くの企業が苦戦しました。

Hesaiが重要なのは、ここを突破しつつあることです。

出荷台数を伸ばし、ADASとRoboticsの両方で量産し、2025年に通期黒字化した。

これは、LiDAR業界の構造変化を示しています。


第3章 LiDARとは何か――カメラだけでは見えない距離と3D構造

LiDARは、Light Detection and Rangingの略です。

レーザー光を発射し、反射して戻ってくる時間を測ることで、対象物までの距離を測ります。

その結果、周囲を3D点群として捉えられます。

3-1 カメラとLiDARの違い

カメラは、色とテクスチャを見るのが得意です。

信号の色。

標識の文字。

車線。

人の姿。

一方LiDARは、距離と形を見るのが得意です。

対象物が何メートル先にあるのか。

どれくらいの高さか。

どの形か。

歩行者か、柱か、壁か、車か。

カメラだけでも自動運転は可能だという主張があります。

Teslaや一部の中国OEMは、カメラ中心の路線を強めています。

しかしLiDARは、距離を直接測れるため、安全冗長性として強い。

特にL3、Robotaxi、悪条件、夜間、工事、複雑都市環境では、LiDARの価値が残ります。

3-2 フィジカルAIにとってのLiDAR

ロボットも同じです。

ヒューマノイドが歩く。

AMRが倉庫を走る。

物流ロボットが屋外を移動する。

ドローンが障害物を避ける。

このとき、距離と形状を正確に見ることは重要です。

LiDARは、現実世界を3DでAIへ渡すセンサーです。

つまり、LiDARはフィジカルAIの目であり、世界モデルの入口でもあります。


第4章 2025年決算を読む――出荷162万台超、ADASとRoboticsの二本柱

Hesaiの2025年通期決算は、非常に重要です。

2025年通期の総LiDAR出荷は1,620,406台。

ADAS向けLiDAR出荷は1,381,133台。

Robotics向けLiDAR出荷は239,273台。

総出荷は前年比222.9%増。

ADAS向けは前年比202.6%増。

Robotics向けは前年比425.8%増。

これは、Hesaiが車載ADASだけでなく、ロボット向けでも急拡大していることを示します。

4-1 売上と黒字化

2025年通期売上は30.276億元。

前年比45.8%増です。

Hesaiは2025年に、GAAPベースで通期純利益を達成したと発表しています。通期のGAAP純利益は約4.36億元(約6,200万ドル)です。

正確に言うと、2024年に非GAAP(Non-GAAP)ベースで初の通期黒字を出し、2025年にGAAPベースでも初の通期黒字になりました。世界のLiDAR企業でGAAP通期黒字は初です。売上は7四半期連続で前年同期比プラスでした。米LuminarがQ3に約9,000万ドルの赤字を出し2025年12月に破産法申請、イスラエルのInnovizも資金繰りに苦しむなか、対照的な数字です。

市場での位置も明確です。高工智能汽車・盖世汽車のデータでは、2025年の中国乗用車の前向き主LiDAR市場で、Hesaiは41.5%のシェアで首位(装機は5年連続で倍増、8月には46%まで上昇)。長距離車載LiDARでも40%超です。しかも低価格で取ったシェアではなく、粗利率は40%超で、世界のLiDAR企業で最高水準です。特許では、PatSnap集計でLiDAR分野の世界公開特許数が業界1位、2025年末で累計2,071件です。値段も劇的に下がり、2017年に一台20〜30万元だった製品に対し、2025年の主力ATXは約200ドルまで下がりました。

これは重要です。

LiDAR企業は、長く「夢はあるが赤字」という評価を受けてきました。

Hesaiは、その段階から抜け出しつつあります。

4-2 Q4の勢い

2025年第4四半期だけを見ると、総LiDAR出荷は631,095台。

ADAS向け550,723台。

Robotics向け80,372台。

四半期売上は10.005億元。

さらに2026年第1四半期の決算も出ており、Bernsteinは「概ね予想どおり」で、フィジカルAIという長期の駆動要因はまだ株価に織り込まれていないと評しています。会社は2026年通期のEPSを0.61ドルと見込みます。CFOの樊鵬は、ロボット向けなどの戦略的成長事業が翌年に約5億元の売上規模になるとし、ロボット市場のLiDAR需要は長期的に車載を上回る可能性があると述べています。

この規模になると、LiDARはもはや試作部品ではありません。

量産産業です。

4-3 Robotics向けの伸び

特に重要なのは、Robotics向けLiDARの伸びです。

2025年通期で23.9万台超。

前年比425.8%増。

AMR、物流ロボット、屋外移動ロボット、産業ロボット、マッピング、警備、清掃、農業、建設など、車以外のフィジカルAI端末がLiDARを使い始めていることを示します。


4-4 2026年第1四半期――47.1万台出荷、黒字継続、Robotics向けがさらに伸びる

追加調査で最も重要なのは、2026年第1四半期の決算です。

Hesaiは2026年第1四半期に、総LiDAR出荷471,723台を記録しました。内訳は、ADAS向け353,441台、Robotics向け118,282台です。前年同期比では、総出荷が140.9%増、ADAS向けが141.9%増、Robotics向けが137.8%増となっています。

売上は6.806億元で前年同期比29.6%増、粗利率は39.1%、GAAP純利益は1,830万元、Non-GAAP純利益は4,770万元でした。つまり、2025年通期黒字化のあと、2026年第1四半期も黒字を維持しています。

これは、Hesaiを読むうえで大きな補強点です。2025年通期で「LiDAR量産企業化」を示し、2026年第1四半期で「量産成長が継続している」ことを示したからです。特にRobotics向けが四半期で11.8万台まで伸びている点は、Hesaiが自動車だけでなく、AMR、物流、清掃、芝刈り、産業ロボットなど、車以外のフィジカルAI端末へ広がっている証拠です。

ただし、粗利率は前年同期の41.7%から39.1%へ低下しています。これは、出荷規模が拡大する一方で、低価格帯・量産品の比率が高まっているためです。Hesaiは成長と黒字化を両立していますが、価格競争と製品ミックスの変化は、今後も注意すべきポイントです。

このQ1決算では、事業の中身をより明確に見せる工夫もありました。Hesaiは報告区分を「LiDAR事業」と「戦略的成長事業(SGI)」の二つに分けました。LiDAR事業は営業利益約4,190万元の黒字、一方でKosmoなどのSGIは今期売上ゼロ・営業損失約5,050万元で、稼ぐ本業と、先行投資の新規事業が、はっきり分かれて見えるようになりました(SGIは2026年に約1億元の売上を見込みます)。3月末の手元資金は72.32億元と潤沢です。

顧客・市場の面でも大きな前進がありました。Hesaiは、メルセデス・ベンツのL3自動運転向けの戦略LiDARパートナー兼サプライヤーに選ばれたと発表しました。世界トップ級の高級ブランドのL3純正供給網に入るのは初めてで、タイ工場での生産が支えます。市場シェアも、Yoleの2026年報告ではADAS主LiDARの世界出荷シェア43%で世界一、Gasgooの集計では2026年3月の中国車載主LiDARで55%・14か月連続首位とされます。累計の車載搭載も240万台を超えました。さらに、GAC豊田の博智3X(約10万元級の純電気自動車)にATXが載り、トップブランドのLiDARが10万元級のEVに載る初の事例になりました。高級車の装備が、量産大衆車へ下り始めています。

第5章 量産能力――2026年に年産400万台超へ、タイ工場も視野

Hesaiは、2026年に年産能力を200万台から400万台超へ倍増させる計画を発表しました。

これは、ADASとRoboticsの需要拡大に対応するためです。

同社は、2025年に自動車LiDARとして累計200万台出荷を超えたと説明しています。

また、完全自動化ラインでは10秒サイクルでLiDARがラインオフするとも説明されています。

5-1 なぜ製造能力が競争力なのか

LiDARは、研究室で良いセンサーを作るだけでは勝てません。

量産できるか。

安定して品質を出せるか。

車載の耐久試験に耐えるか。

納期を守れるか。

コストを下げられるか。

不良率を抑えられるか。

Hesaiの強みは、ここです。

5-2 タイ工場の意味

Hesaiは、タイ・バンコクの新工場も進めています。

これは、グローバル顧客向けの供給体制を広げる意味があります。

米中摩擦やサプライチェーン分断が続くなか、中国国内だけで量産するリスクを下げる。

自動車部品企業として、国際OEMへ供給するには、グローバル製造拠点が重要になります。


第6章 ETXとPicasso――6DフルカラーLiDARは何を変えるのか

2026年4月、HesaiはPicasso 6D Full-Color SPAD-SoCと、次世代ETX LiDARを発表しました。

この発表は、Hesaiが単なる「距離を測るLiDAR」から、「色と空間を同時に見るLiDAR」へ進もうとしていることを示します。

6-1 6Dとは何か

従来のLiDARは、主に3Dの位置を見ます。

X。

Y。

Z。

そこに反射率や速度情報を加えることもあります。

Hesaiがいう6DフルカラーLiDARは、空間情報と色の情報を融合する方向です。

つまり、距離だけでなく、色や意味に近い情報をセンサー側で扱う。

これにより、信号、標識、工事表示、緊急車両、特殊対象をより理解しやすくなります。

6-2 ETXの性能

HesaiのETXは、L3自動運転システム向けの120度超長距離LiDARとして位置づけられています。

Picasso SPAD-SoCを搭載し、1080、2160、4320チャンネル構成をサポートし、最大600m、10%反射率で400mの測距、15×25cmの小さな木片を150m先で識別できると説明されています。

これは、L3以上の自動運転に向けた安全冗長性を狙う製品です。

ETXは単発ではなく、シリーズの一部です。Hesaiは2025年4月21日、L2からL4までをカバーする「千里眼(Infinity Eye)」ソリューションと、次世代の車規級LiDAR三製品を発表しました。ETX(世界最長測距)に加え、AT1440(1440チャンネルの世界最多・超高精細、2025年後半量産)、FTX(全固態の盲区用、視野180°×140°で世界最広)です。L2向けにはATX(200m測距・最大256チャンネル・約200ドル)が11のOEM・数十車型に採用され、2025年第1四半期から量産に入っています。さらにHesaiは、ETX+FTXの「主LiDAR+複数の補盲LiDAR」構成で、乗用車の量産採用(中国新興OEM上位企業向け)を初めて獲得し、2026年末〜2027年初の量産を計画しています。

6-3 量産時期

Hesaiは、ETXを2026年後半に量産へ入れる予定としています。

また、2027年には旗艦車両での採用が始まると報じられています。

ここでも重要なのは、技術デモだけでなく量産です。

LiDARは、量産車に載って初めて意味を持ちます。


第7章 KosmoとSpatial Intelligence――LiDAR企業が世界モデル用データ端末へ向かう理由

Hesaiの2026年発表で特に面白いのが、Kosmoです。

Kosmoは、空間知能AIハードウェアとして紹介されています。

物理空間を高精度に3D化し、デジタル空間へ取り込むデバイスです。

7-1 なぜLiDAR企業がKosmoを出すのか

フィジカルAIでは、現実世界のデータが不足しています。

ロボットを訓練するには、部屋、家具、棚、工場、倉庫、通路、物体の3Dデータが必要です。

しかし、それを人手で作るのは大変です。

Kosmoは、現実空間をスキャンし、デジタルツインを作り、ロボット訓練や世界モデルの学習に使うための端末です。

7-2 世界モデルの入口

世界モデルは、AIが「この行動をしたら現実世界がどう変化するか」を予測するためのモデルです。

そのためには、現実世界の3D構造が必要です。

Hesaiは、LiDARを通じて、そのデータ入口を握っています。

Kosmoは、Hesaiが車載センサー企業から、空間データ企業へ進む象徴です。

ここで、よくある誤解を整理します。「HesaiはLiDARを使った自動運転ソフトを作っているのか」と聞かれますが、答えは、いいえ、です。Hesaiは基本的にLiDAR(ハードウェア)の製造・販売会社で、CEOの李一帆は決算の場で「(応用)ソフトはやらない」と明言しています。

ただし「ソフトを一切持たない」わけではありません。LiDARを製品として使うための付属ソフト――点群データの出力、センサー同期、キャリブレーション、SDK、開発者ツール、ファームウェア――は提供します。一方で、「点群を使って自動運転を判断する応用ソフト」「認識・予測・計画のアルゴリズム商品」は作りません。そこは顧客(自動車メーカー、DeepRoute.aiのような自動運転企業、ロボット企業)の仕事です。

ではKosmoは何か。これは応用ソフト製品ではなく、LiDARを核にした新しいハード+データ端末です。現実空間を3Dスキャンしてデジタルツインを作り、ロボット学習や世界モデルの材料データを供給する装置です。つまりHesaiは「応用ソフト屋」へ行くのではなく、あくまでハードを軸に、その隣の3Dデータ供給へ広げている、という動きです。

7-3 ロボットアクチュエーションモジュール方向

Hesaiは、2026年のTechnology Open Dayで、ロボットアクチュエーションモジュールへの方向性も示しました。

これはまだ初期段階ですが、重要です。

センサー企業が、ロボットの目だけでなく、動作側の基盤へも広がろうとしているからです。

Hesaiは、Spatial PerceptionからSpatial Intelligenceへ進もうとしています。


第8章 Robotics LiDAR――AMR、物流、ロボット、工場で使われる“目”

HesaiのRobotics LiDARは、自動車以外で非常に重要です。

AMR。

AGV。

屋外物流ロボット。

倉庫ロボット。

警備ロボット。

清掃ロボット。

農業ロボット。

建設ロボット。

地図作成。

産業施設の自律移動。

この領域では、低価格、高信頼、小型、広視野、耐久性が重要になります。

Hesaiは2025年1月のCESで、ロボット向けの超半球ミニ3D LiDAR「JT系列」を発表し、量産出荷を始めたとしています。ロボット向けの月間出荷は2024年12月に2万台を超え、2025年は年20万台の出荷を見込むとされます。JT・QT・XT・Pandarの各系列を通じて、Hesaiは2024年末までに、移動ロボット、配送ロボット、清掃ロボット、芝刈りロボットなど幅広い方向で、追覓(Dreame)、九識、群核、維他動力、宇树(Unitree)など、世界1,700社超のロボット企業と協業関係を築いたとされます。

8-1 自動車向けとロボット向けは違う

自動車向けLiDARは、長距離、高速、高信頼、車載規格が重要です。

ロボット向けLiDARは、近距離、広視野、小型、低消費電力、低価格、ソフトウェア連携が重要です。

Hesaiは、ADASとRoboticsの両方を持つことで、量産規模と用途の広がりを同時に取っています。

8-2 物流ロボットと安全認証

2026年には、HesaiがMODEXでスマート物流向けの安全認証AI自律走行にLiDARを提供する発表もありました。

物流現場では、人とロボットが混在します。

安全停止。

障害物検出。

フォークリフト。

パレット。

棚。

人。

ここでLiDARの3D認識は重要です。


第9章 顧客基盤――Li Auto、BYD、Xiaomi、NVIDIA、Mercedesとの関係

Hesaiは、中国EVメーカーとの関係が強いです。

Li Auto、Xiaomi、BYDなど、中国の主要EV企業にLiDARを供給しています。

特にLi Autoについては、次世代支援運転プラットフォーム向けに、Lシリーズ、iシリーズ、MEGAを含む全モデルでHesaiが独占LiDARサプライヤーに選ばれたと発表されています。

9-1 Li Autoとの関係

Li Autoは、2025年5月以降、全新モデルでLiDARを標準搭載する方針を強めています。

Hesaiは、その安全性・先進運転支援の基盤として選ばれています。

これは、Hesaiにとって非常に大きい。

Li Autoは中国NEVの有力メーカーであり、販売台数も大きいからです。

9-2 BYD、Xiaomi、NVIDIA

Reutersは、HesaiがLi Auto、Xiaomi、BYDなどへLiDARを供給し、国外ではNVIDIAの先進運転支援プラットフォーム向けにも主要サプライヤーとして関わると報じています。HesaiはNVIDIAのL4対応リファレンス「DRIVE AGX Hyperion 10」のLiDARパートナーにも選ばれており、NVIDIAとの関係は2019年から続いています。

顧客はさらに広がっています。極氪(Zeekr)は007GT・旗艦の001・7X焕新版でHesaiのATXを全系標準搭載。SAIC-GMのキャデラックVISTIQは、業界初の車内(フロントガラス裏)LiDAR配置を採用しました。Robotaxi側では、Pony.aiの第7世代Robotaxi全モデルが主LiDARにHesaiのAT128を4個ずつ搭載、滴滴(Didi)×広汽アイオンのL4量産RobotaxiもAT128を採用、北米のMotionalなども顧客です。さらにHesaiは、NVIDIAのロボット・自動運転向け安全システム「Halos」のAIシステムにも参加したと発表しています。

これは、Hesaiが単なる中国国内向け企業ではなく、グローバルADASサプライチェーンに入り始めていることを示します。

9-3 Mercedesとの直接接点――L3純正供給網へ入った意味

ここは修正が必要です。以前の理解では、HesaiとMercedesの関係は、NVIDIAのADASプラットフォームを通じた間接接点として見るのが中心でした。

しかし2026年第1四半期決算・関連報道では、HesaiがMercedes-BenzのL3自動運転モデル向けに、戦略LiDARパートナー兼サプライヤーへ選ばれたことが明確になっています。つまり、現在は「間接的に入る可能性」ではなく、Mercedes-BenzのL3純正供給網へ直接入った事例として扱うべきです。

この意味は大きい。L3は、L2支援運転より安全責任・冗長性・認証要件が重い領域です。そこでHesaiが選ばれたことは、同社が低価格量産だけでなく、高級車・高信頼・安全認証の市場にも入り始めたことを示します。

同時に、NVIDIA HalosやDRIVE AGX Hyperionのようなプラットフォーム経由の接点も残ります。したがって、Hesaiの国際展開は「OEMへの直接供給」と「NVIDIAなどプラットフォーム経由」の二層で見る必要があります。


9-4 NVIDIA Halosと安全認証――センサーは安全システムの一部になる

最終確認で補強すべき点は、Hesaiが単にLiDARを売るだけでなく、自動運転・ロボット向けの安全システムの一部として位置づけられ始めていることです。

2026年3月、HesaiはNVIDIA Halos AI Systems Inspection Labへの参加を発表しました。Hesaiは、自社がISO 26262 ASIL B機能安全製品認証を取得したLiDARを持ち、さらにSOTIF(意図した機能の安全性)やサイバーセキュリティを含めた「Safety Triad」を設計思想としていると説明しています。

自動運転やロボットでセンサーが重要なのは、単に遠くを見えるからではありません。故障したときにどう検出するか、誤検出や見落としにどう備えるか、サイバー攻撃で点群データが壊されないか、車両やロボットの安全設計とどう統合するかが問われます。

この意味で、Hesaiは「安いLiDAR量産企業」から、「安全認証を含む3D知覚インフラ企業」へ進もうとしています。

第10章 API・MCP・Agent・CLI・Skillsで見るHesai

【API】
HesaiのAPI価値は、点群データ、センサー同期、キャリブレーション、SDK、開発者ポータル、車載/ロボット側の認識パイプラインへの接続にあります。LiDARはハードウェアですが、実際にはソフトウェアとセットで使われます。

【MCP】
公式にMCPを掲げているわけではありません。ただし、フィジカルAIの世界では、ロボットや車がセンサー、地図、デジタルツイン、運行管理、世界モデルへ安全に接続する仕組みが必要になります。LiDARデータは、その接続の重要な入力です。

【Agent】
Hesai自体はAgentを作る会社ではありません。しかし、AI Agentが現実世界で動くには、Hesaiのようなセンサーからの3D入力が必要です。車載AI Driver、物流ロボットAgent、工場巡回Agent、清掃Agentの目になります。

【CLI】
開発者向けには、点群データの記録、変換、再生、可視化、デバッグ、キャリブレーション、センサー診断、ファームウェア管理が重要です。

【Skills】
HesaiのSkillsは、測距、3D点群生成、小物体検出、長距離検出、広視野検出、色付き空間認識、ロボット用地形認識、デジタルツイン生成です。

10-1 Hesaiは「見るSkill」を量産している

生成AIの世界では、Skillは文章生成やコード生成を意味します。

しかしフィジカルAIでは、まず「見るSkill」が必要です。

距離を見る。

形を見る。

動きを見る。

空間を測る。

Hesaiは、この見るSkillを量産している会社です。

10-2 「LiDARを作る会社」と「LiDARを使う会社」は違う

ここで、混同されやすい会社を一つ挙げておきます。SenseTime(商湯科技)です。

SenseTimeは中国のAIビジョン大手で、自動運転事業「SenseAuto(絶影)」を持ちます。SenseAutoには、視覚方案のPilot-V、LiDAR方案のPilot-Lがあり、カメラ・ミリ波レーダー・LiDARを融合する感知エンジンも備えます。ここだけ見ると「SenseTimeもLiDARをやっている」と見えます。

しかし、正確にはこうです。SenseTimeはLiDAR(ハードウェア)を作っていません。作っているのは、LiDARの点群を読み解くAIソフト(感知アルゴリズム)です。LiDARセンサー本体は、Hesaiのようなメーカーから買います。

つまり、同じ「LiDAR」という言葉でも、二つの側があります。

・目(ハード)を作る側=Hesai、RoboSense
・その目のデータを読む頭脳(ソフト)を作る側=SenseTime、DeepRoute.ai

Hesaiは前者、センサーそのものを量産する会社です。SenseTimeやDeepRoute.aiは後者で、Hesaiにとっては競合ではなく、むしろLiDARの買い手・パートナーになりうる関係です。


第11章 競合比較――RoboSense、Ouster、Luminar、Livox、Velodyne系との違い

【Hesai】
強み:ADASとRoboticsの両輪、出荷規模、黒字化、ETX/Picasso/Kosmo、Li Autoなど大口顧客
弱み:米中規制、価格競争、カメラ派との競争

【RoboSense / 速騰聚創】
強み:中国ADAS LiDARの有力企業、車載量産、ロボット展開、香港上場(2498.HK、2024年1月)、ハード+知覚ソフト+チップの三位一体
弱み:Hesaiとの価格・顧客競争が激しい

RoboSense(速騰聚創)は、Hesai最大のライバルです。2014年設立・深圳本拠で、2024年1月に香港取引所へ上場しました(2498.HK)。Yoleの2025年報告では、2024年の乗用車LiDAR世界シェア26%で世界一とされ、世界3,400社超のロボット顧客を持つとされます。Hesaiとの一番の違いは戦略です。Hesaiが「ハードに集中し、応用ソフトはやらない」のに対し、RoboSenseは自らを「ハード+知覚ソフト+チップの三位一体」と位置づけ、純ハードメーカーとは違うと主張します。さらにRoboSenseは、ロボット視覚や器用な手といった具身智能ハードにも広げています。LiDARの二強が、少し違う方向を向いている点が面白いところです。

【Ouster】
強み:米国上場企業、産業・ロボット・スマートインフラ、デジタルLiDAR
弱み:中国ADAS量産ではHesai/RoboSenseが強い

【Luminar】
強み:長距離自動車LiDAR、欧米OEMとの関係
弱み:量産・収益性の課題が続く

【Livox / DJI系】
強み:低価格、小型、ロボット・ドローン・研究用途
弱み:車載ADAS大規模量産ではHesaiと別ポジション

【Velodyne系】
強み:LiDAR市場の先駆者
弱み:市場再編により、かつての支配力は低下

Hesaiの特徴は、車載ADASとRoboticsを両方伸ばしていることです。

車載だけだと、OEM価格競争に巻き込まれます。

ロボットだけだと、市場がまだ小さい。

両方を持つことで、量産規模と用途拡大を両立できます。


第12章 弱点とリスク――カメラ派、価格競争、米中規制、サプライチェーン

Hesaiには強みがあります。

しかしリスクもあります。

12-1 カメラ派との競争

2026年4月のReuters報道では、2025年時点でLiDARを搭載する車両は世界全体ではまだ約3%にとどまると紹介されています。つまり、Hesaiが中国で大きく伸びていても、世界市場ではLiDAR搭載車はまだ少数派です。

これはリスクであると同時に、成長余地でもあります。カメラ派が勝てばLiDARの採用は伸び悩みます。一方、L3以上の安全冗長性、悪天候・夜間・複雑都市での信頼性が重視されれば、LiDAR搭載率は上がります。

Teslaはカメラ中心の自動運転を重視しています。

Xpengなど一部中国メーカーも、LiDARを外す方向を示したことがあります。

AIモデルが強くなるほど、「LiDARは不要ではないか」という議論は続きます。

Hesaiは、LiDARが安全冗長性として必要だと示し続ける必要があります。

12-2 価格競争

LiDARは急速に安くなっています。

これは普及には良い。

しかしメーカーの利益率には厳しい。

Hesaiが黒字化したとはいえ、価格競争が続けば利益は圧迫されます。

量産規模、ASIC、自動化工場、製品差別化が重要になります。

12-3 米中規制

Hesaiは中国企業であり、米国市場や国際OEMと関わるなかで、規制リスクがあります。

米国の防衛関連リストやサプライチェーン規制は、Hesaiにとって継続的なリスクです。

国際展開するほど、この問題は大きくなります。

12-4 サプライチェーン

LiDARには、光学部品、半導体、レーザー、SPAD、ASIC、精密製造、車載認証が関わります。

どれか一つが詰まると、量産に影響します。

Hesaiがタイ工場などを進めるのは、このリスク分散の意味もあります。


第12章補足 なぜハード側(LiDARメーカー)がソフト側より評価されうるのか

フィジカルAI時代には、LiDARメーカー(ハード側)が、自動運転のAIソフト企業より高く評価される場面があります。なぜか。理由は五つあります。

一つ目は、データの入口を握るからです。フィジカルAIは、現実世界を見て動くAIです。それを鍛える燃料は、現実世界の3Dデータです。LiDARは、その3Dデータを生み出す蛇口そのものです。認識ソフトは無数にありますが、良質な3D点群を大量に供給できるハードは限られます。

二つ目は、量産と品質が、真似しにくい参入障壁になるからです。AIソフトは、優秀なチームがいれば数か月で追いつかれることがあります。しかし、車載品質のLiDARを、年産数百万台、10秒サイクルで、歩留まりよく安く作る力は、光学・半導体・精密製造・車載認証の十年がかりの蓄積です。

三つ目は、実際に儲かっているからです。自動運転ソフト企業の多くはいまも赤字ですが、Hesaiは2025年に世界のLiDAR企業で初のGAAP通期黒字(純利益約4.36億元)、粗利率40%超を出しました。ソフト側が「将来性」で評価される段階に対し、ハード側は「実績」で評価される段階に入りました。

四つ目は、用途が車を超えて広がるからです。AIドライバー(ソフト)は基本的に自動車にしか売れませんが、LiDARは車・ロボット・物流・掃除・警備・産業・空間スキャンまで、あらゆるフィジカルAI端末の目になります。Hesaiのロボット向けが前年比425%増で伸びているのは、その表れです。

五つ目は、中立で囲い込まれにくいからです。ソフト(AIドライバー)はOEMやTeslaが内製しやすく、囲い込まれやすい。一方センサーは、どのメーカーのどのAIにも売れる中立の部品です。

ただし、裏返しの注意もあります。「LiDARそのものが要るのか(カメラだけでいい)」という純視覚派(Tesla等)の存在が、ハード側最大のリスクです。ですから「ハード側が常に強い」のではなく、「フィジカルAIが本格化し、安全冗長として3Dデータが必要とされる限り、ハード側が評価される」というのが正確です。


第13章 日本企業がHesaiから学ぶべきこと

日本企業がHesaiから学ぶべきことは、三つあります。

第一に、センサーはAI時代でも重要だということです。

AIモデルが強くなるほど、データの質が重要になります。

現実世界を正しく測るセンサーは、AIの入口です。

第二に、ハードウェア企業もソフトウェアとデータへ広がる必要があることです。

Hesaiは、LiDARだけでなく、Kosmo、Spatial Intelligence、Physical AIへ進もうとしています。

部品を売るだけではなく、データとAIの基盤へ進む。

これは日本のセンサー企業、カメラ企業、ロボット部品企業にも重要です。

第三に、量産能力そのものが競争力であることです。

技術デモではなく、年間400万台級の製造能力。

10秒サイクルの自動化ライン。

車載品質。

この製造力が、AI時代のハードウェア企業の差になります。

13-1 日本のチャンス

日本には、光学、センサー、車載品質、ロボット、FA、精密加工の強みがあります。

しかし、AIモデル、データ閉ループ、空間知能、世界モデルとの接続が弱いと、部品で終わります。

Hesaiの動きは、日本企業にとって警告です。

センサーを売るだけでなく、センサーから得たデータがAIをどう育てるかまで設計する必要があります。


結論――HesaiはフィジカルAIセンサー戦争の勝者になれるか

Hesaiは、LiDAR企業です。

しかし、ただのLiDAR企業ではありません。

自動運転とロボットの「目」を量産する企業です。

2025年に出荷162万台超、ADAS 138万台超、Robotics 23.9万台超。

2026年には年産400万台超へ拡大。

PicassoとETXでフルカラーLiDARへ進み、Kosmoで空間知能データへ広がる。

この流れを見ると、Hesaiはセンサー企業から、Physical AIの空間データ企業へ変わろうとしています。

もちろん、リスクはあります。

カメラ派との競争。

価格競争。

米中規制。

国際OEMへの信頼。

しかし、フィジカルAI時代において、現実世界を見る能力は必ず必要になります。

AIは、目がなければ動けません。

Hesaiを読むことは、自動運転とロボットの「目」を読むことです。

そして、フィジカルAIがどのように現実世界をデータ化していくのかを読むことでもあります。


主要参考リンク


出典対応表

・2026年第1四半期の総LiDAR出荷471,723台、ADAS 353,441台、Robotics 118,282台、売上6.806億元、GAAP純利益1,830万元、Non-GAAP純利益4,770万元(参照:Hesai 2026年Q1決算)
・NVIDIA Halos AI Systems Inspection Lab参加、ISO 26262 ASIL B機能安全認証、Safety Triad(機能安全・SOTIF・サイバーセキュリティ)(参照:Hesai公式発表、2026年3月)
・メルセデス・ベンツのL3戦略LiDARパートナー兼サプライヤーに選定(タイ工場生産)、Yole 2026でADAS主LiDAR世界シェア43%で世界一、Gasgooで2026年3月中国55%・14か月連続首位、累計搭載240万台超、3月末手元資金72.32億元、二部門制(LiDAR事業=営業黒字4,190万元/SGI=営業損失5,050万元)、GAC豊田博智3XにATX(10万元級EVで初)、NVIDIA DRIVE AGX Hyperion 10のLiDARパートナー(参照:Hesai 2026Q1決算、Gasgoo、Yole、stocktitan)
・世界全体のLiDAR搭載率が2025年時点で約3%にとどまる一方、中国ではLi Auto、Xiaomi、BYDなどに供給している点(参照:Reuters、2026年4月)

  • Hesai Group 2026年第1四半期決算(メルセデスL3・二部門制・Kosmo)
    https://investor.hesaitech.com/news-releases/news-release-details/hesai-group-reports-first-quarter-2026-unaudited-financial

  • Gasgoo:Hesai Q1 2026・中国55%14か月連続首位・累計240万台・博智3X
    https://autonews.gasgoo.com/articles/news/hesai-technology-q1-2026-financial-report-profitability-continues-to-improve-mercedes-benz-l3-designation-opens-high-end-market-2057082696768081920

  • StockTitan:Hesai、NVIDIA Halos参加・ISO 26262 ASIL B・DRIVE AGX Hyperion 10
    https://www.stocktitan.net/news/HSAI/hesai-joins-nvidia-halos-ai-systems-inspection-lab-to-advance-safety-eixs9nsh5eaj.html
    ・2025年LiDAR出荷162万台超、ADAS 138万台超、Robotics 23.9万台超、売上30.3億元(+45.8%)、GAAP純利益約4.36億元(約6,200万ドル)(参照:Hesai 2025年通期決算)
    ・創業者3名は清華本科・米国博士(李一帆=UIUC、孫愷・向少卿=Stanford)、CFO樊鵬、従業員1,000名超(参照:dfcfw業界レポート、Hesai開示)
    ・2025年に香港メインボード上場(2525.HK)、米+港の二重主要上場・調達6.14億ドル(参照:Hesai決算、gudongtech)
    ・中国乗用車前向き主LiDARシェア41.5%で首位(8月46%)、粗利率40%超、特許2,071件(PatSnap 1位)、ATX約200ドル(参照:高工智能汽車・盖世汽車、PatSnap、市值風云)
    ・2026年Q1決算は概ね予想どおり・通期EPS0.61ドル見込み、戦略成長事業は翌年約5億元見込み(参照:Bernstein、新浪財経)
    ・千里眼/Infinity Eye・ETX/AT1440/FTX/ATX、ETX+FTXが乗用車量産初採用(2026末〜2027初)(参照:Hesai発表、Reportify)
    ・ロボット向けJT系列(CES 2025)、月2万台超、1,700社超(追覓・九識・宇树等)(参照:dfcfw、Hesai公式)
    ・顧客拡大:極氪007GT/001/7X・キャデラックVISTIQ・Pony第7世代(AT128×4)・滴滴×広汽アイオン・Motional、NVIDIA Halos参加(参照:Hesai各発表、Reportify)
    ・年産400万台超、累計200万台、10秒サイクル、タイ工場(参照:Hesai CES 2026発表)
    ・ETX、Picasso、6Dフルカラー、600m測距、2026年量産予定(参照:Hesai公式ETXページ、Technology Open Day発表、Reuters)
    ・Kosmo、Spatial Intelligence、世界モデル・具身AI向けデータ(参照:Hesai公式発表、Reuters)
    ・Li Autoとの独占供給、L/i/MEGAシリーズ(参照:Hesai公式発表)
    ・BYD、Xiaomi、NVIDIA、Mercedesとの関係(参照:Reuters、Hesai発表、主要報道)
    ・Robotics LiDAR、物流・AMR・産業用途(参照:Hesai公式サイト、MODEX発表)
    ・競合比較(参照:各社公開情報、主要報道、業界動向)


・HesaiがMercedes-BenzのL3自動運転モデル向け戦略LiDARパートナー兼サプライヤーに選ばれた点、および別の欧州トップOEMから100万台超・10車種超のATX受注を獲得した点(参照:Hesai 2026年Q1決算、Gasgoo、Hesai公式発表)

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