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遠くまで行ったはずの日

ゴールデンウィークの真ん中日、妻は仕事だった。
私も前日は仕事で、我が家には大型連休という概念がない。ただの休日が数日あるだけだ。
灰色の重たい雲で部屋は暗くて、公園に遊びに行くのは気が引けた。
何度か空を見上げて、時計を見た。
娘は1時間の約束のYouTubeを見終わると、隣に来て「お父さん」と体を揺らした。
「散歩でもするか」と娘を誘った。
駅まで来たとき、ふと思った。電車に乗ってみるか、と。
「中心部まで行ってみようか」と娘に聞いた。嫌だって言うかもな、と少し期待しながら。

娘は即答だった。行く、電車乗る、と。

電車に乗って思い出した。
今日、ゴールデンウィークだった。
普段ガラガラのはずの車両が人でいっぱいだった。娘だけ隙間のスペースに座らせて、私は吊り革に体重を預けた。

中心部はひどかった。どこを見ても行列で。飲食店の前、土産屋の前、トイレの前。
一体何がいいんだ、ここは。

駅から出ると娘が散歩すると言った。
腹減ったと言いながら気ままに歩いた。
うまそうなバーガー屋が目に入った。娘がトイレにも行きたがっていたから、ここにしようと入った。

メニューを見て値段を確認した。普段マックに行くから、その5倍ぐらいしていて声が出た。でもトイレも借りたし、仕方ないかと一番安いのを一つずつ注文した。
横を見たら、偶然同じ職場の医者の家族がいた。
色々オプションをつけたバーガーが次々と運ばれてきた。飲み物も並んでいた。
私はそのテーブルの方を見ないようにして、背を向けた。娘の方だけを見て食べた。

フォークが置いてあったけど、使いたくなかった。手で食べた。ポテトを娘が欲しがったから全部あげた。
バーガーは美味しかった。水を一気飲みしてから、気づかれないように店を出た。もしかしたら気づかれていたかもしれないけど、知ったこっちゃないや。

外に出て、娘がぶらぶらと歩き出した。どこへ行くでもなく。
突然、
「あー!お父さん!見て!」と娘が指差した。
道の隅の葉っぱにナメクジがいた。
娘の顔が輝いた。今日一番の顔だった。
「おー!本当だ!」
と言った私も、多分今日一番の顔だった。

帰るか、と言ったら、うん、と言った。

地元の駅で降りると、人がほとんどいなかった。車もあまり通っていなかった。

お庭の藤の花が綺麗だった。鬼が来ないねと2人でじっと見た。スイセンの葉っぱに毒があることを教えたら、これは?これは?と娘がいろんな葉っぱを指差して聞いてきた。
娘が「綺麗〜!」と道端のハルジオンを摘んだ。それ、貧乏草と呼ばれてるんだよと言おうとしてやめた。

家が近づいたとき、娘がミスタードーナツ食べたいと言った。先日食べたばかりだけど、私もそれがいいと言った。妻に連絡した。帰りに買ってきてと。
娘がやったーと跳ねた。

娘は小さくて少し深いお皿にハルジオンの花を浮かべた。水面いっぱいに白い花が寄り添った。綺麗だねと言うと、頷いて、「お母さんにあげるんだよ」と笑った。

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