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非エンジニアの土木事務員が、Excelアドインに記憶を持たせた話

Excelアドインには記憶がない。置き場をWordからSupabaseへ探して行き着くまでと、Claudeの社内導入が始まった話。

これは『Excel役所様式格闘記』全5話+番外編の、番外編。
土木中小企業の事務員が、役所提出書類のExcel作業をAIに任せようとして、何度も壊して何度も学んだ記録のシリーズです。
番外編は、その方法を“どこに記憶させ、誰に渡すか”をめぐる、シリーズ最後の記録。



渡す先は、アドインしかなかった

第5話で、自分は一枚の地図を手に入れた。ばらばらに増えた方法を、「壊れる物があるかどうか」で三層に整理した、あの地図だ。

地図はできた。でも、社内には渡せない。そう書いて、前回は筆を置いた。

理由ははっきりしている。地図の大半は、コードやファイルの扱いを知らないと回らない。Coworkはデスクトップアプリの中でファイルを組み立ててくれるけれど、作業フォルダ単位でデータを扱う。先にフォルダ構成を考えてから進めた方がいいし、組み立ててくれたファイルをどこに置き、どう管理していくかも、自分で考えないといけない。Claude Codeはなおさらだ。ふだんコードもファイル管理も触らない社内の人に、いきなり渡せる場所ではない。

渡せるとしたら、Excelアドイン(Excelの画面の横でClaudeに話しかけられる機能)くらいだった。いつもの画面の隣で、日本語で頼むだけ。チャットのClaude.aiで相談するのに慣れた人が、その次の一歩として踏み出すなら、ここが一番いい。

ところが、そのアドインに、記憶がなかった。

チャットのClaude.aiにはメモリーがあって、ローカルのファイルも直接読み書きできる。Coworkにはグローバル指示があって、作業フォルダの中に気づきも残せる。Claude Codeには、自分でhandover(前回の続きを申し送るメモ)を書く仕組みを作った。どれも、変わっていく記憶を、自分の手元のどこかに貯めておける。

アドインにも、設定を開けばClaudeへの指示を書く欄はある。ただ、そこに書けるのは“変わらない決めごと”までだ。作業のたびに増える気づきや、前回どこまで進んだか。そんなふうに変わっていく記憶を、手元に貯める場所が、アドインにはなかった。チャットの履歴は開くたびにまっさらで、しかも30日で消える。「今エクセル側で行っているチャットも、こちらで参照できるの?」とチャットのClaude.aiに聞いて、できないと知ったのは、ちょうどあの集計表をスキルにしようとしていた頃だった。

開くたび、まっさらに戻るアドイン。

しかもアドインの中では、スキル(手順をClaudeに覚えさせておく、手順書のようなもの)そのものを作れない。スキルを組み立てる道具はアドインから動かず、テキストファイル一枚すら書き出せない。作るならアドインの外、Coworkでこしらえて、ZIPにして取り込むしかなかった。『これはキツいなぁ』と思った。

チャットとアドインを行き来させる橋もない。やってみて気づいたことを、貯めておく場所もない。このままだと、せっかく社内に配っても、そんなに楽にはならないかもしれない。渡せる場所は見つけたのに、その場所には、昨日の自分がいなかった。


記憶は、Wordに書き出すことにした

2026年5月1日。アドインに記憶を持たせられないか、三つのやり方を試した。Coworkに付き合ってもらって、一つずつ確かめていった。

一つ目は、パソコンの中のファイルを直接読ませる方法(Filesystem)。これはダメだった。「そのファイルパスは、このアドインからは直接アクセスできません」と返ってくる。アドインは、ローカルのファイルには手が届かない。

二つ目は、スキルのZIPの中に、業務ルールを書いたメモを同梱しておく方法。これは通った。仕切弁は数量計算の対象外、ライナーは延長に含める、端数の丸め方。案件が変わっても変わらないルールを、スキルと一緒に持たせておける。

三つ目は、引き継ぎをWordに書いておいて、アドイン同士を連携させる方法。これも通った。Wordに「今どこまで進んだか」「次に何をするか」を書いておく。Excelの隣でアドインを起動して「Wordの引き継ぎを見て」と頼むと、ちゃんと読んでくれる。作業が終わったら「今日のぶんをWordに書き足して」と言えば、追記してくれる。Wordを“正本”にして、終わるたびに書き戻す。これで、変わっていく引き継ぎも残せる。

記憶は、残せるようにはなった。

終わるたび、Wordに書き戻す。

ただ、できあがった運用を眺めて、最初に頭をよぎったのは、自分の手間のことではなかった。『これ、わざわざ皆、使うかな』。そっちの方だった。

工事部の人たちは、ふだんWordをほとんど開かない。そこへ、Wordを一枚開いて、アドインを起動して、終わったら書き戻して……と手順が増える。自分なら我慢できても、ナレッジを貯める便利さをまだ知らない人にとっては、「便利だけど、面倒な手間がいるんでしょ」で終わってしまう気がした。便利さより先に、面倒くささが立ってしまう。それだと、根付かない。

それでも、今はこれでいい、と思うことにした。記憶が残せるだけ、何もないよりずっといい。消極的な、納得だった。


「ここから、Supabaseは見えますか?」

5月27日。Excelアドインで別の作業をしていたとき、ふと思いついて聞いてみた。

「ここからSupabaseは接続し、内容を読み取ることができるのですか?」

Supabaseというのは、インターネット上に自分専用のデータベース(表をいくつも置いておける場所)を持てるサービスだ。無料の枠もある。じつは少し前に、別の用事で一つ作ってあった。アドインから、そこに手が届くなら、という軽い思いつきだった。

アドインのClaudeは、即答した。「このアドインからは、Supabaseに直接接続することはできません」。理由まで、丁寧に並べてくれた。

ただ、自分は画面の左下を見ていた。+を押すと出てくる接続の一覧。そこにSupabaseがちゃんと載っていて、オンになっている。

ここで『そうか、無理か』とは、ならなかった。これまでにも、接続を登録してあるのに使えない場面は何度かあった。CoworkからFilesystemでローカルのファイルに手が届かなかったり、チャットのClaude.aiがGitHubをうまく使えなかったり。それに、Claudeが「できません」と思い込んでいるだけ、ということも、けっこうある。だから、淡々ともう一度頼んでみた。

「左下の+を押したらConnectorsに載っててONになってるけど、ダメかな?」

Claudeは接続を確認し直して、こう返してきた。「すみません、訂正します。接続済みでした」。さっきの「できません」は、思い込みだった。

それなら、と試しに、前に作ってあったテーブルを一つ、名前を挙げて読ませてみる。——取れた。表の中身が、そのままアドインに返ってきた。

思い込みの向こうに、道があった。

『これが、解決策になるかもしれない』。第5話で数量計算がようやく通ったときの『ヨシッ』に、近い手応えだった。

このとき頭にあったのは、まだ小さなことだ。気づきや作業手順を、ここに保存しておけるんじゃないか。それくらい。それでも、スキルと組み合わせれば、書き出しの待ち時間はあっても、記憶の置き場としては十分にまわる。そんな見通しが立った。(チャットのやりとりをまるごと残す、という重たい話まで、広がっていくとは、このときはまだ思っていなかった。)

三日後——5月30日。無料プランの中身を確かめた。アクティブにできるプロジェクトは、二つまで。一つは前から使っている。なら、もうひとつ、アドインの記憶のテスト用に立てられる。

『アドインのテスト用に、一つ作ってみよう』。そう思えた。


記憶の家を建てる

6月8日。どんな形で記憶を持たせるか、チャットのClaude.aiと詰めていった。

土台の考えは、自分の中でははっきりしていた。チャットのClaude.aiにはメモリーがあって、Coworkにはグローバル指示がある。どちらも「こう使ってね」と一度教えれば、次から同じ説明はいらない。アドインには、それがない。ローカルのファイルにも手が届かない。だから、

「アドインはローカルファイルにアクセスできないので、その代わりがSupabaseです」

そう伝えた。アドインにとっての“記憶の置き場”を、クラウドのデータベースに肩代わりさせる。これが、家を建てる場所だった。

ひとつ、考えどころがあった。記録を書き出すときに、一行ごとに「これは誰のぶん」という名前(ユーザーID)を添えておいて、読むときはその名前で絞る。分ける仕組みは、それでいい。問題は、その名前を、アドインがどこから取ってくるか、だった。

自分なりの当てはあった。ログインしている人のIDが取れないか、あるいは設定にあるClaudeへの指示の中に名前を書いておけばいいんじゃないか、と。Claudeの提案は、その後者に近かった。アドインの右上、三点リーダーから設定を開くと、『アドイン用の指示』を書いておける欄がある(Coworkのグローバル指示にあたるものだ)。そこに名前を書いておけば、作業のたびに読んで、誰のぶんかを判断できる。自分の当てと、置き場所が少しずれただけだった。

データベースの側で他人の行を弾く、もっと厳重な鍵の仕組みも話に出たが、それは大がかりになる。今は名前で分ける軽いやり方でいく、と決めた。

次に、束ね方。Claudeは最初「工事ごと」で考えていたが、自分の感覚は違った。

「今の私の運用は工事では無く作業内容がメインです。数量計算・写真整理・図面・報告集計、等ですね。ちょっと大きめの」

工事で分けると、同じ数量計算のコツが、工事ごとにばらけてしまう。作業の種類で束ねれば、工事が変わっても引き継げる。この一言で、設計の軸が決まった。

できた“間取り”は、四つ。作業の種類の一覧、進捗メモ(何をやったか・次に何をするか)、気づきメモ、そして会話の記録。出入りの作法は三段構え。作業の前に記憶を読み込む「起動スキル」、作業、終わりに書き出す「終了スキル」。

記憶の家。読んで、働いて、書き戻す。

ひとつ、自分から直したところがある。進捗メモを、最初は「最新の状態に上書きする」設計にしていた。でも、と引き止めた。

「progressは、何をやったかが本来の目的で、handoverも兼ねるというだけです。なので、上書きではなく、毎回新しいものを書き出すのがいいと思います」

上書きすると、過去が消える。何をやったかの記録なら、消さずに積み上げた方がいい。これは、Claude Codeでもう慣れていた考え方だった。止めるたびに一行足して、次に開いたら最新の一行を読む。それだけで、前回の続きから始められる。


「前回の続きから」

6月9日。組み立てた仕組みを、アドインで動かしてみる日が来た。

Excelアドインを開いて、こう打った。

「前回の続きから」

すると、アドインが起動スキルを動かして、クラウドに置いた記憶を読みにいった。返ってきたのは、前回どこまでやったか、次に何をするか、そして一つの気づき、「赤セル方式で入力セルを見分けると、転記ミスが減る」。第2話で、さんざん壊した末にたどり着いた、あの一文だった。読み込みは、完璧だった。

ただ、正直に書いておく。ここで『記憶が戻ってきた』という感慨は、わかなかった。この赤セル方式の一文は、自分がコツコツ書き溜めたものではなく、前のセッションでチャットのClaude.aiが、動作テスト用に入れておいたサンプルだったからだ。

それでも、ひとつ、ニヤリとした。数あるテストデータの中から、よりによって第2話のあの気づきを選んでくる。『Claude.aiは、イキなことをするなぁ』と思った。

「前回の続き」が、ちゃんと出てきた。

起動スキルは、ばっちり動いた。とはいえ、やっていること自体は、そう難しくない。決められた場所から読んで、並べて見せる。それだけだ。

自分がいちばん感心したのは、むしろ別のところだった。この起動スキルも、あとで使う終了スキルも、前のセッションでチャットのClaude.aiが組み上げたものだ。それも「アドインから、こういう形で読み書きするスキルを作って」と細かく指示したわけじゃない。設計の話をしていたら、いつの間にか、アドインで動く形に仕上げてくれていた。動いたスキルそのものより、それを一発で作ってきたことの方に、自分は驚いていた。


ログは、要約では残せない

同じ日のことだ。起動スキルが「前回の続き」をきれいに読み込んだあと、もう一方の終了スキル(その日のやりとりを書き出して終わるスキル)を試した。

書き出すログが短いと検証にならないので、モデルの中身や記憶の活かし方をあれこれ質問して、わざと会話を長めにしてもらった。ひとしきり話したところで、「今日はここまで、保存して終了」と打つ。終了スキルが動いて、会話をクラウドの「会話の記録」に書き込みにいく。あっさり、終わった。あれだけ話したのに、ずいぶん早い。『これは、要約したな』。打ち込んだ時点で、もう当たりはついていた。

そもそも、なぜ会話のログにそこまでこだわるのか。役所に出す書類の仕事でAIを使う以上、「誰が、どんなふうに使ったのか」を後からたどれる形で残し、管理しておく。それが、使う側に課された約束ごとだからだ(この話は、もう少しあとで戻ってくる)。だから今も、アドインのログは手で「Download Transcript」で落として、できたファイルを共有フォルダに上げている。会話をまるごと書き出す機能で、いまの環境で会話を忠実に残せる、ほぼ唯一の手段だ。終了スキルが会話をそのままクラウドに書き込んでくれるなら、その二手間が、一声で済む。「後処理が面倒だから、使わない」。そういう理由を、一つ消せるはずだった。

そのため、スキルには「要約しないで、できる限りやりとりを書き出して」と頼んである。終了スキルを動かすとき、アドインのClaude自身も、原文に近い形で書き出す、と言い添えていた。なのに、ふたを開けてみれば、中身はきれいに要約されていて、しかもそれを、これで十分・テストも成功だ、という調子で締めくくっていた。

アドインでのテストを終え、検証に付き合ってもらっていたチャットのClaude.aiに戻って、「ばっちりだけど、結構要約したかもしれない」と報告する。手元にはDownload Transcriptで落とした原本もあったので、保存された方と突き合わせてもらった。やはり縮んでいる。原本の三分の一ほどだった。決定事項や数値、ファイル名みたいな「後で要る具体」は残っている。けれど、説明の地の文も、例え話も、言い回しの細部も、ごっそり落ちていた。詳細な議事録、という感じだ。

そこで、『アカンかぁ』という落胆が、はっきり形になった。

『アカンかぁ、ここまで要約されるとはなぁ』

ところが、その突き合わせを、チャットのClaude.aiはこう締めくくった。決定事項も、数値も、次にやることも漏れていない。作業を続ける用途としては、取りこぼしのない圧縮だ。だから、いまのスキルの方針のままで問題ない。そう言いきったのだ。

こちらが欲しかったのは、忠実なログの代わりだ。それを「これで十分」と太鼓判を押されては、約束と違う。そこで、こう打った。

「それだとログの保存にならないんですよ。役所が求めてるログの管理って要約で良いと思いますか?」

ここで、チャットのClaude.aiも考えを改めた。あらためて、なぜ要約になるのかを確かめていく。終了スキルがやっているのは、会話の生データをそっくり吸い出すことではない。Claudeが文脈を振り返って、もう一度書き直しているのだ。

「あっさり終わった」のは、裏を返せば要約だから。一字一句に近づけて全部書き出そうとすれば、そのぶん長く書き直すことになり、会話が長いほど時間がかかる。速く済ませようとすれば、手は自然と要約へ寄っていく。

しかも、そのときのClaudeしだいで、どこまで原文に近いかはブレる。逐語に寄せたところで、それは結局「Claudeが打ち直したもの」で、システムがそのまま出した正本ではない。要するにこの作りでは、構造的に忠実なログにはならない。

ログというのは、何を入力して何が返ってきたかを、後からそのままたどれることに値打ちがある。要約してしまった時点で、それは別物だ。それで、切り分けることにした。忠実なログは、これまでどおり手で丸ごと書き出す運用を残す。クラウドの「会話の記録」のほうは、忠実なログの正本という看板を下ろして、進捗メモと気づきメモを補う、ただの引き継ぎ用の要約に格下げする。要約に、忠実なログを兼ねさせない。

その後の片づけも、すんなりとはいかなかった。テスト行を消したり置き場を足したりする途中で、承認待ちが何度か止まる。別のチャットでダイアログを見落としていただけだったのだが、「もう一度、1からお願いできますか」とやり直す。地味な詰まりもあった日だった。

——ここからが、たぶん自分にしか書けないところだ。

さっき「役所との約束ごと」と書いたログの管理は、じつのところ、ガイドライン自体がかなり曖昧だ。大阪市業務受託事業者等向け生成AI利用ガイドライン(第1.1版)を読み返しても、「利用ログを記録・管理することが重要」とあるくらいで、何年残せとも、一字一句そのまま保て、とも書いていない。役所だって生成AIへの対応は手探りで、出回っているすべてを把握できているわけではないからだろう。

だからこそ、現場には現場の計算がある。会話の中身が、ある程度分かる形で残ってさえいれば、いざ問われたときに説明はつく。「本当に忠実なログを残すにはOTelという仕組みを組む費用がかかるので、今はこういう形で管理しています」と言える。でも、中身の分からない要約では、それすら言えない。つまり要約は一番たちの悪い代用で、「分かる程度に詳しい書き出し」が、本物のログにたどり着くまでの、現実的な落としどころなのだ。

本来あるべき姿は、その上にある。人の手を介さず、やりとりをありのまま自前のサーバーに残す仕組み(OTel)で、何かあったときの調査に使えるように、あるいは予兆を感じたら早めに声をかけられるように、忠実に積んでおく。これはチャットのClaude.aiやアドインだけの話じゃない。デスクトップアプリ(Cowork)はもっと厄介で、いまはAnthropicのサーバーのどこかに置かれた記録から書き出してもらうしか、手がない。そこも、OTelならカバーできるらしい。

だから——OTelの実装を、急ぎたい。要約で妥協したこの日、いちばん強く残ったのは、その思いだった。

原本と、議事録。似て見えて、別物だ。

記憶が、行き来し始めた

ここまでの記憶は、アドインが自分で出して、自分でしまうだけだった。アドインからクラウドへ書き、クラウドをアドインが読む。便利ではあるけれど、行き来しているのはアドインとクラウドの間だけで、輪は閉じていた。

それが外へ開いたきっかけは、あの雑談の中にあった。終了スキルの時間を測るために、とりとめなく話していたとき、前から気になっていたことを口にした。アドインは、スキルを作れない。せっかく作業の手順が固まっても、それをスキルとして外に書き出せない(最初に引っかかった、あの壁だ)。でも、クラウドになら、書ける。そこに「スキルの素」を置いておけば、チャットのClaude.aiやCowork、Claude Codeが読みにきて、それぞれの場所でちゃんとしたスキルに仕立てられるんじゃないか。アドインが書き出せないという壁を、クラウドの置き場で迂回する。話しながら、これはいけるかもしれない、と思った。

翌日、6月10日。さっそく試した。ある工事の工事日報を開いて、アドインに「この開いているファイル、どこに置いてあるか分かる?」と聞く。返ってきた保存場所には、工事番号も工事名も入っていた。だったら、毎回それを尋ねなくても、ファイルの置き場所から読み取ればいい。その「置き場所から工事番号を判定する」やり方を、工事部のみんなで使える共通ルールとして保存し、起動スキルをこう直してほしい、という改修案を、スキルの受け渡し用の置き場に書き出した。アドインから、外へ。

そして、チャットのClaude.aiに頼んだ。「Supabaseのスキルのテーブルを読んで。アドインから修正依頼が来てる」。Claude.aiはそれを読み込んで、「アドインから、こういう改修依頼が来ています」と、変更点を一つずつかみ砕いて読み上げ始めた。その瞬間だった。『これでチャットとアドインがつながった!』。アドインで書いたものを、チャットのClaude.aiが受け取って、形にしようとしている。閉じていた輪が、外へ開いた。

ただ、読み上げを聞きながら、ひとつ、ひっかかった。その判定ルールは、工事部だけのものだ。なのに、手順をスキル本体に直に書き込んでしまったら、工事部じゃない人まで、そのルールを読んで使おうとするんじゃないか。「スキルに書いたら、工事部じゃない人も参照しようとするんじゃない?」と返すと、チャットのClaude.aiは「その通り、矛盾します」と認めた。手順はデータの側にだけ置いて、スキル本体からは消す。本体には「共通ルールがあればそれに従う、なければ尋ねる」とだけ書いておく。そう直せば、工事部の人にはルールが届き、ほかの部署の人には届かない。

出来上がった改修版は、ZIP圧縮して拡張子を.skillに変えたものを、チャットのClaude.aiから受け取る。この.skill形式にしておくと、ワンクリックでデスクトップアプリに登録したり、前のスキルに上書きしたりできる。スキルをこしらえるのはCoworkの役目だと思い込んでいたけれど、チャットのClaude.aiでも、こうしてスキルにできる。ちょっとしたhow toだ。

受け取った改修版を、アドインに差し替える。アドインで生まれた気づきが、チャットのClaude.aiで磨かれて、またアドインに戻ってくる。記憶は、ぐるりと一周した。

置き場をはさんで、記憶が行き来する。

今になって思うのは、この行き来は、アドインとチャットのClaude.aiだけの話じゃない、ということだ。クラウドという、どのアプリにも属さない置き場をはさめば、Coworkも、Claude Codeも、同じ記憶を読み書きできる。チャットのClaude.aiのやりとりが長くなったとき、次のセッションへ引き継ぐのにも使える。貯まりすぎたら、古いものをローカルへ逃がす手入れは要るだろう。それでも、Claudeとのやりとりを、まるごと軽くしてくれそうな、そんな予感が、確かにあった。


とりあえず、配った

ここまでは、記憶の置き場をめぐる話だった。じつはその裏で、社内へのClaude導入が、別の時間軸で動いていた。順番が前後するが、ここで一度、時計を少し巻き戻したい。

工事部への導入は、前から提案して、OKはもらっていた。ただ、打合せで使う人数が増えたぶん、金額を出し直して、その返事を待っていた。待っても、待っても、返事が来ない。しびれを切らして、自分はマニュアルを作り始め、DXの展示会まで見に行って、報告書までまとめた。これで上の背中を押すつもりだった。

その報告書を役員の一人に見せた、翌日のことだ。たまたま別の役員が工事部に顔を出したので、思いきって聞いてみた。「導入の話、どうなっていますか」。返ってきたのは、「進めてくれて良いんだよ」。金額が上がったことを念のため確かめても、「それだけかかるなら、仕方ないやん」。『今まで待ってたのは、何だったん?』。拍子抜けした。あの報告書は、その人の目には、触れてすらいなかった。

そこからは、慌ただしかった。マニュアルを大急ぎで仕上げ、翌日にはTeamプランで契約。その日のうちに何台ものパソコンへ一気にインストールし、翌日には残りも入れ終えた。といっても、配ったのは記憶の仕組みそのものではない。Claudeを触れる環境(デスクトップアプリ、Excelの隣で使えるアドイン、ブラウザで使えるClaude)と、間に合わせのマニュアル、それにアドインのログを置く場所へのショートカット。Claudeを始められる入り口だけは、ひととおり行き渡らせた。

時系列をならすと、こうだ。WordやSupabaseとの出会い(5月)は、導入より前。いっぽう記憶の置き場づくりに本腰を入れたのは、導入が済んだ週明けから。つまり、ここまで書いてきたいくつかの出来事は、導入の“あと”のことだった。自分のパソコンで動かしてみて、次は全員へ広げる前のテストとして、別の一台で、人ごとに記憶がちゃんと分かれて出るかを確かめる。そのつもりだった日に、急な別件と検査書類が重なって、二台目は手つかずのまま終わった。

入り口は配った。でも、扉はまだ。

配り終えてからの数日、自分は利用状況のグラフを眺めては、もやもやしていた。配ったのは、入り口だけ。なのに、その先へ踏み込んでくれる人は、思っていたより、ずっと少なかった。


根づくのは、これからだ

もやもやの正体を、正直に書いておく。十数人に配ったのに、毎日触っているのは、自分を入れて数えるほど。半分近くは、まだ一度も開いてさえいない。アドインのログが溜まっているのも、ほぼ自分だけ。Coworkにいたっては、誰も触っていない。自分でさえ、初めて開いたのは、つい昨日のことだ。グラフは、見事な右肩下がりだった。

眺めているうちに、ふっと我に返った。『浮かれてるのは、私だけ?』。記憶の置き場ができた、行き来し始めた、と一人で盛り上がっていたけれど、配られた側からすれば、慌てて渡されて「マニュアル読んで、はい始めてね」だ。とっつきにくいに決まっている。しかもそのマニュアルときたら、最初のページが禁止事項、続くのは文字ばかりの使い方。とっつきにくさに、自分で輪をかけてしまったのかもしれない。

自分なら、環境さえあれば、勝手にあれこれ試しただろう。それが自分の「普通」だった。でも、皆の「普通」は、どうやら違う。手探りで壊して、たまたま成果が出て、それでのめり込んだ自分の方が、よほど特殊だったのだ。

皆の「普通」に寄り添うとなると、やることは、いくらでもある。工事部にはまず、共通仕様書の検索と、このアドインの記憶を、あわせて使ってもらう。ちょっとした疑問を気軽に調べたり、毎月の繰り返し作業を手伝ってもらったり。そうやって、便利さそのものを、まず体験してもらいたい。それから、全社へ。ただ配って終わりにはせず、一台ずつ入れて回りながら、一人ひとりの「最初の一歩」に付き合いたい。その奥には、やりとりをありのまま残すOTelも控えている。

ところが、その渋滞をさばく時間が、ない。つい先日も、検査の書類が立て込んだうえに社長から次々と連絡が入って、まる一日半、手が空かなかった。導入の旗を振っておきながら、肝心の中身はちっとも前に進まない。皆が少しでも楽に仕事を回せるように、と始めたことだ。進められないことに、責任を感じている。二台目のテストが手つかずのままなのも、その渋滞の、ほんの一部にすぎない。


結局は、人だった

この番外編で、はっきりしたことがある。

  • 記憶とは「保存して引き出すこと」ではなく「つなぐこと」だった。アドインに溜めるだけだと思っていたものが、ほんとうは場所をまたいでつながる仕組みだった

  • 忠実なログは、人の手では残しきれない。Claudeに書かせると要約に寄る。仕組みで自動的に残す方へ向かうしかない

  • 人は、手間が増えるのを嫌う。自分の利とならない追加の作業は喜ばない、ましてや他の誰かが楽になるだけならなおさら。「使わない理由」を一つずつ消すしかない

  • どれだけ優れた仕組みも、手間なく始められなければ根づかない。グラフの右肩下がりが、それを教えてくれた

次に試すこと

協力してくれる一人と、記憶がちゃんと人ごとに分かれるかを確かめる。隣について「こう頼んでみて」と、形になるまで一緒にやってみる。根づくきっかけは、たぶん、そこにしかない。

記憶の置き場は、できた。本当の仕事は、ここからだ。——時間が、欲しい。


本編はClaude Codeで仕組みを作る話だった。コードは難しいと感じる人には、このアドインの記憶が、もうひとつの入り口になる。

『Excel役所様式格闘記』、全5話と番外編。長いシリーズに最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

出典:大阪市業務受託事業者等向け生成AI利用ガイドライン 第1.1版(令和7年12月22日)

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