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第5界 ダイギャクサツ

謎の聖杯が聳え立つ空間で咲希はイライラしていた。

「デートとかふざけないでよ……」

先ほど愛里と会った際に直接純希とデートに行く事を聞かされたのだ。

その時のやり取りを思い出す。

『純希くんにお出かけ誘われてさ、行く事にしたんだ』

『え、それってデートじゃん……!』

『うん、でも断る理由もないし私もちょっと行きたいし……』

『はぁ?会ったばっかでしょ?』

『純希くんってレスキュー隊目指してるって言ってたでしょ?人助けしたい所とか英美ちゃんと重なってさ……』

愛里は純希が英美と重なると言った。

その言葉がまた彼女の心を抉る。

「また英美……」

 

そんな咲希の様子を眺めているルシフェルがいる。

「たーっく、その女がそんなに大事かね?」

ルシフェルはソファに寝転がりながら咲希の感情を理解できずにいた。

「何言ってんの、アンタにとっても愛里は大切でしょ……?」

「俺にとっては大切な"鍵"だ」

そんなやり取りをしていると咲希は立ち上がる。

「阻止しなきゃ、アタシのためにも……」

するとルシフェルが。

「聖杯のためにも?」

そのような事を口に出す。

「ゼノメサイアと愛し合う存在が必要だもんなぁ?」

ウザい口調で言ってくるため余計に腹が立つ咲希。

しかしルシフェルの言っている事は正しい事なのだ。

「そうだよ、辛いけど一度その段階を越えれば……」

そして溜めてから言った。

「愛里と永遠に一緒にいられる……!」

そんな咲希を見たルシフェルは空間の外へ向かおうとした。

「……ま、頑張れよ」

外に出て行こうとするルシフェルを咲希は一度止めた。

「何、どこ行くつもり?」

「お前が直接阻止する訳にもいかねーだろ、俺が手ぇ貸してやる」

そう言ったルシフェルはニヤリと笑って空間を出て行った。

「(嫌な予感がする……)」

しかしルシフェルには出来るだけ関わりたくない咲希は仕方なく見過ごす事にした。

『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

第5界 ダイギャクサツ

学校で快から衝撃の事実を聞いた瀬川は思わず声を上げた。

「純希と与方さんがデートぉっ⁈」

「しーっ!声デカいよ!」

この日は二人のデート前日だった。

いつもの渡り廊下の隅で話している。

「マジなのかよソレ……」

「明日、高円寺で遊ぶんだってさ」

快と同様、純希には悪い印象が強い瀬川もいい気分では無かった。

「うわぁ、てか純希のどこがいいのかね……」

「前と比べて嫌な事は言って来なくなったけどさ……」

 

そんな話をしていると瀬川はある事に気付く。

「てか何でお前そんな残念そうなんだ?」

「え、そんな風に見える……?」

すると更に何かに気付いたようで。

「お前まさか与方さんの事……!」

そこまで言いかけて快が静止した。

「ちょっ、そんな事はないって!!」

慌てふためく姿を見て瀬川は"分かりやすい"と感じた。

「まぁそれは置いといてもよろしくねぇ状況ってのは事実だな」

突然かしこまる瀬川。

「よし、行くぞ!」

「どこに?」

そしてカッコつけながら決めポーズを取って言った。

「尾行だ!」

その発言を聞いた快はどう答えたのだろうか。

そして遂にデート当日、愛里は少しお洒落をして高円寺に来ていた。

待ち合わせ場所のガラスに映る自分の姿を見ている。

「(変じゃないかな?)」

今日は久々に男の子とお出掛けをする。

細かい着崩れを直していると顔が赤くなっている事に気付いた。

「(あ、でも……)」

しかし報告した際に咲希から放たれた一言、それが今になって思い出されてしまった。

『創のこと支えたいとか言ってる癖に他の男と遊ぶのどうなの?』

その言葉が少し引っかかる。

「……っ」

しかし愛里は心の中で必死に否定した。

「(別に快くんはそんなんじゃないし、デートするくらい……)」

快には特別恋愛感情がある訳ではない、それならこのようにデートをするのも悪くないはずだ。

「(うん、今は純希くんに失礼のないようにしないと……っ)」

化粧もしてみたがその上からも分かるほど顔が赤い。

『アンタ、創と仲良くしたいって言ってるのに他の男と遊んでいいの……?』

咲希の言葉がまた脳を過ぎる。

「(だから快くんはそんなんじゃないっ……!)」

脳内で必死に咲希の言葉を否定しようとするがどうしても否定し切れない。

そのタイミングで彼がやって来る。

「お、愛里ちゃん?」

「!!」

やって来た純希は愛里に気付いた。

考え事をしていた愛里は思わず驚いてしまう。

「めっちゃお洒落してくれてんじゃん、凄げぇ可愛くてビックリした」

純粋にそう言ってくれる純希の姿を見て悩んでしまった事に少し罪悪感を覚える。

「本当に?……よかったぁ」

しかしその気持ちを悟られてはいけないと何とか合わせるのだった。

こうして二人のデートはスタートしたのだ。

一方その頃。

「うわ、やってるわぁ」

快と瀬川は近くの電柱に隠れながら様子を見ていた。

結局快も尾行に着いてきたのだ。

「あんなに髪染めてピアス開けて、ザ・陽キャって感じだな……」

今の純希を初めて見る瀬川はその姿に呆れていた。

一方で快はと言うと。

「(与方さん、いつにも増してお洒落してる……)」

今日の愛里の姿に少し見惚れていた。

「(でも純希のためのお洒落なんだよな……)」

そのお洒落さが純希に向けられたものである事も感じて複雑な気持ちになってしまう。

「お、移動するぞ」

そのタイミングで二人が移動したため彼らも隠れながら着いていく事にした。

まず二人はファッションを見始めた。

「あ、これ可愛い〜」

気に入った服を手に取る愛里。

「似合うと思うよ!」

そして合わせる純希。

「そ、そうかなぁ……?」

何でも可愛いと言って来る純希に多少違和感はあるが肯定されて嫌な気はしなかった。

一方、その店のガラス窓から快と瀬川は中の様子を伺っていた。

「うわ、これ絶対テキトーに似合うとか言ってる奴だぞ」

「なんか典型的だな」

冷静そうにそんな事を言うが快の心は当然穏やかではない。

「(与方さん、笑ってる……)」

咲希が危惧した事が起こってしまっている。

愛里はそんなつもりで無くとも快は傷付いてしまうのだ。

続いて二人はアクセサリーショップにやって来た。

「綺麗だな……」

十字架のイヤリングを見て目を輝かせる愛里。

「これ欲しいの?」

まさか。

「はいどうぞ」

なんという太っ腹、純希は愛里が欲しそうにしていたイヤリングをプレゼントしたのであった。

「わぁ、ありがとう……」

少し不安だったが徐々に目を輝かせていく愛里、既に純希へ心が傾きつつあった。

そして純希は中身を取り出し愛里の耳に付けてみせた。

「ほらよく似合ってる、可愛いよ」

髪をよけて耳につけてあげた。

その様子を見て快と瀬川の二人は驚く。

「!!!」

快はとてつもないショックを受けるのだった。

「(うわぁ、触るなぁぁぁーー!!!)」

まだ付き合ってもいない身で愛里の耳に触れる純希の指にとてつもない怨念を送った。

「(何か頼れる感じの人だな……)」

愛里も無意識下で快と純希の違いを感じていた。

まだまだ純希と愛里のデートは続く。

快と瀬川も後ろから様子を見ている。

「あはは、面白〜い!」

流石は純希のコミュ力である、全く愛里を飽きさせる様子がない。

「(良い人なのに変わりはないよね……!)」

もう純希への罪悪感はほとんど無かった、完全に好印象を抱いている表情だ。

この時点では非常に楽しそうにしている彼女の様子を見て快は更に心を痛めた。

「(俺にはあんな顔見せてくれてない……)」

典型的な陽キャである純希と楽しそうに話している彼女もどちらかと言えば陽キャ側なのではないかと考える。

快と話している時は少し作っている感じがするのだ、自然さを感じない。

そんな風に劣等感を感じていると瀬川が発言。

「つまんね、何も起こらないから俺帰るわ」

突然帰るなどと言い出した。

言い出しっぺだと言うのに気まぐれすぎやしないかと思った。

「お前も適当に切り上げな、尾行は立派な犯罪ですよ〜」

そう言ってポケットに手を突っ込んで本当に帰ってしまった。

「ちょっと……」

高円寺の街にポツンと独りぼっちになってしまう快。

周りを見てみれば自分の苦手な陽キャというカテゴリに属している者たちが多く歩いている。

「ぁ……」

前方に目をやると楽しそうにお洒落して歩いている純希と愛里が妙にお似合いに見えた、そして見事に他のカップル達の群勢に溶け込んでいる。

自分に優しくしてくれた愛里も結局は苦手な陽キャの一部なんじゃないかと考えてしまい一人悲しくなる快であった。

「(帰ろう……)」

ここにいても辛いだけだと快は高円寺の街を後にして駅へと向かった。

快が帰っても二人のデートは続く。

高円寺駅前の広場にやってきた。

「ふぅ〜、いっぱい歩いたねぇ……!」

少し疲れた素振りを見せる愛里。

「じゃあそこのベンチで少し休む?」

気遣いを見せる純希。

「賛成ー!」

そして広場にあったベンチに2人は腰掛けた。

そこで他愛もない会話を続ける。

その内容は純希の夢についてだった。

「前に話したけどさ、レスキュー隊目指してんだよね」

「うん、言ってたね。人助けしたいなんて凄い事だと思う」

「確かに凄い褒めてくれてたもんね」

そこで純希は夢を持った理由を語る。

「中学の頃ビルの火災に巻き込まれた事があってさ、そこで母ちゃんが怪我したんだよね。俺は何も出来なくて辛かったけどレスキュー隊員が助けてくれたんだ」

その怪我が残り母親は未だに上手く働けず生活保護を貰っている。

「その姿がカッコよくてさ、同時に自分のカッコ悪さにも気づいて何とかカッコいい男になるぞって思ったのが目指したきっかけなんだよね」

その話を聞いて愛里は英美の事を思い出した。

彼女もかつて自分を火事から救ってくれた。

「(やっぱ英美ちゃんと重なるな……)」

明るい表情、性格。

人を助けるという夢、そして何よりそれが出来そうな頼りがいのあるオーラ。

彼といると英美といるような感じがして自然と目が潤んでしまう。

「ん?どした?」

「ごめんね、目にゴミが……」

慌てて誤魔化し涙を拭うが純希はそれが嘘だとすぐにわかった。

「ごめん、俺がなんかしちゃったかな……?」

精一杯の配慮を見せて謝るが。

「ううん、純希くんのせいじゃないの、前に言ったヒーローだった友達のこと思い出して……」

ここから愛里は快にも話した英美の話を純希にもした。

「その友達、死んじゃったんだ」

「………っ」

純希は絶句した。

自分はお気に入りのビリヤードバーが破壊されたが彼女は親友が亡くなったのだ。

レベルの違う辛さを味わった彼女を見て胸が痛くなる。

「翼を広げて羽ばたいて、英美ちゃんは散ってったんだと思う……」

明らかに落ち込む素振りを見せる愛里に純希は正直に思った事を聞いた。

「ねぇ愛里ちゃん」

「……ん?」

「罪獣が憎いとは思わない……?」

恐る恐るその名を口に出す。

「あんな風に街で暴れてさ、大勢亡くなっただろ?その遺族の気持ちとか考えるとちょっと辛くなってさ……」

「……」

「火事に巻き込まれた時に死の恐怖は味わってる、その恐怖をもっと大勢が感じたんだと思うとね……」

すると愛里は真剣な目で答えた。

「憎んでなんかないよ」

その発言に純希は驚く。

「英美ちゃんは自分のやりたい事を全うして死んだんだ、だから私もそれを受け入れる事にしたの」

そして首から下げているグレイスフィアを手に取りもう一つの感情を伝える。

「手を離した事を後悔してないかって言われたら嘘になるけど……」

純希はそのグレイスフィアを見て驚いた。

快が同じものを持っているのを見た事があるから。

「英美ちゃんは最期に快くんを助けてくれたんだ。それにはきっと意味がある、私の見解だけど英美ちゃんの夢は快くんに受け継がれたんだよ。」

"受け継がれた"。

その言葉を聞いた純希は少し納得した。

「だから私も精一杯それを応援するんだ!」

力強く宣言する愛里。

「なるほど、アイツも退けなくなっちまったな」

純希は快が夢からは逃れられない責任を背負っている事に気付いたのだった。

「でも責任なら俺にも……」

そこで純希は快との過去を思い出す。

「俺さ、小学校のころ同じクラスで快のこと少し友達と揶揄ってたんだ。変な所あったしそれがちょっとムカついて……」

愛里に自分の罪を自白した。

「そんな中で快は両親を亡くしたんだ、目の前で通り魔に殺されて……」

「うそ……」

快の両親がそんな目に遭っていたのは初耳だった。

「それでめっちゃ辛いはずなのに今更揶揄うのもやめられなくて、友達に嫌われる方が怖くて酷いこと言っちまったんだ。ヒーローって夢を否定するような言葉……」

そして彼らは再会した。

「そんで中学で別々になってこの間バイトで再会してさ、もっと暗い感じになってたから俺にも責任あんのかなって感じてて」

純希が快と絡む理由。

「何とか明るくしようと思って絡んだけど俺の事やっぱ避けてる感じあるし謝るチャンスも中々ない、だから愛里ちゃんにちょっとお願いがあるんだ」

「何?」

「アイツの事、支えてやって欲しい。俺より君の方が適任だ」

真剣にお願いをして来る純希。

愛里はもちろん承諾した。

「もちろんだよ、だから応援してね」

「ありがとう……!でも俺の事もしっかり構って欲しいな」

「ふふっ、そうだよね」

そんな純希の優しい表情を見て少し胸が温かくなる愛里。

この気持ちの正体が何なのかはまだ分からなかった。

一方ここは高円寺方面へ向かう電車の中。

優先席に一人の男が堂々と座っていた。

「ヒヒヒヒ……」

オーバーサイズのパーカーを着てフードを深く被っているその男。

『次は高円寺〜』

そして電車は高円寺駅に到着する。

その男もそこで降りた。

「よぉし、いっちょやってやるか」

その正体はルシフェルだった。

人が多い辺りを見回している。

「お、いいの見つけたぜ」

背の高いアフリカ系アメリカ人男性を見つけたルシフェル。

その男の前に立ちはだかった。

「What?」

その男性もルシフェルに気付く。

そして次の瞬間。

「身体貸せよブラザー」

そう言って力を発現させるルシフェル。

「!!」

男性の意識はそこで途絶えた。

「…………」

気が付くとルシフェルの姿はその場にはない。

アフリカ系アメリカ人の男性が一人で立ち尽くしていた。

そして彼が顔を上げると。

「ヒヒヒ……」

まるでルシフェルのような不敵な笑みを浮かべるのだった。

ルシフェルのような笑みを浮かべたアフリカ系アメリカ人男性。

高円寺駅で電車を降り駅前に立った。

近くには純希や愛里もいる。

「はぁ〜、いっちょやるか」

深呼吸をしポケットから何かを取り出す。

それは一丁の拳銃だった。

周りの人々はモデルガンか何かだと思いそれを構える男性を不審な目で見ている。

「よし、スタート」

その声と共に引き金を引いた。

バンッという音が響いた。

「……え?」

次の瞬間、男性の前方を歩いていた女子高生が背中から出血している事に気付く。

そのまま何が何だか分からずに力を無くして倒れてしまった。

「きゃああああっ!!!」

周囲から沢山の叫び声が響く。

「ヒヒヒィッ!!」

その声を聞いた男性に"憑依"したルシフェルは大きく笑った。

高円寺駅前を進みながら次々と周囲の人々を撃ち抜いていくルシフェル。

「ぎゃぁぁっ!!」

「助けてぇ!!」

その場にはひたすら悲鳴と銃声が響いていた。

「え、何?」

「銃声……?」

近くにいた愛里と純希も音を耳にして異常事態に気付いた。

音のする方を見ると大量の逃げて来る人々が波のように押し寄せて来た。

「え、え?」

愛里は訳が分からず固まってしまう。

しかし純希は冷静だった。

「逃げよう!!」

愛里の手を掴んで共に走り出し逃げる。

「はっ、はっ……」

息を切らしながら必死に走る二人。

しかし銃声は遠ざかるどころは寧ろ近づいて来る。

更には大勢の逃げ惑う群勢も鬼気迫る表情で走って来ているので愛里は振り返りその表情を見て更に恐怖が増した。

「(英美ちゃん……!)」

これはまるであの日の新宿と同じ。

第一ノ罪獣バビロンが暴れて英美が人々を救いに行った時の状況と似ていた。

そのため英美の死を知った時の感情が蘇ってしまう。

「(助けて!!)」

まるでいつかの快のように心がパニックになってしまった。

「っ……」

その手の震えに純希も気付く。

このままでは逃げ切れるという保証がなかったため何か策はないかと考えていた。

そんな時だった。

「ゔっ……」

純希の隣を走っていた男性が撃たれて倒れた。

よく見ると周りの人々は相当な数倒れている。

「(これなら……)」

ある策を思い付いたため愛里に伝える。

「愛里ちゃん、死んだフリだ!」

そう言って無理やり愛里を連れて人に踏まれない位置に移動し倒れた。

これで上手く行くか分からないが今はこれ以上の策が思い付かなかった。

「静かに、声出さないで……」

小声で伝える。

愛里は目に涙を浮かべながら声を出さぬよう口を両手で押さえた。

「…………っ」

足音がゆっくりと近づいて来る。

恐らく犯人のものだろう。

「ヒヒヒ……」

そして真上で笑い声が聞こえた。

どうか気付かないでくれと心の底から祈る。

そして。

「デカい恐怖だけが罪獣じゃないぜ?」

犯人は意味深にそれだけ言ってその場を通り過ぎていった。

「……はぁぁぁ」

一安心して力が抜ける。

「こんな短期間に二度も死ぬような目に遭うのかよ……」

先日のサブノックの件を思い出し震える。

その時の傷を癒すのも今回のデートの目的の一つだったというのに。

「うぅっ……」

愛里はとうとう堪え切れずに泣いてしまった。

「大丈夫、もう安心だから……」

純希は愛里の肩を優しく撫でて慰める。

しかし全く意味はなかった。

すると。

「た、助けてぇ……」

倒れている人々の中の一人が声を出した。

撃たれているがまだ息がある。

「大丈夫ですか⁈」

慌てて駆け寄る純希。

傷の深さを見て驚愕する。

「愛里ちゃん、救急車呼んで!多分もう出動してるかもだけど!」

それを聞いて愛里は震える手でスマホを取り出し電話を掛ける。

その間に純希は応急処置をしていた。

「止血しますね……」

あまりのグロテスクさに息を呑んでしまうが消防士になるためにはこのくらい我慢できなければならないと言い聞かせ布を巻き止血する。

「(母さん、俺やってるよ……!)」

あの時の自分に応急処置を出来る能力があれば母親は働けて今のような生活はしなくて済んだかも知れないと思っていた。

そのため今こうして上手くやれている事に多少なりとも喜びを覚えている。

「救急車も警察も向かってるって、応急処置できるならやってそれ以上は動かさないようにって言ってる……!」

愛里も救急車を呼べたようだ。

「ありがと!」

後は到着を待つだけ。

そしてまだ息があり出血が酷い人達に止血をして一息ついた。

「(凄い、純希くんヒーローみたい……)」

英美とは違ったアプローチだが彼女以外にヒーローだと感じたのは初めてだった。

関心している自分がいる。

「ん、どうした?」

ボーッと純希を見つめているとその視線に気付いたのか彼は反応する。

「ううん何でも!……ただ凄いなって思っただけ」

そう言うと少し照れ臭そうに純希は返す。

「そんな事はない、きっと英美さんって人の方が凄いよ」

謙遜する心も持ち合わせているのを見て更に感心する。

「でも十分だよ、こんなに沢山の人を助けて」

「はは、何か照れ臭いな……」

少し緊張感が解けた。

「じゃあ俺ちょっとトイレ行ってくるわ」

そう言って近くの建物の中に入り一番近くのトイレへと向かった。

そしてトイレを見つけてその中に入る純希。

「……っ⁈」

その中で驚きの光景を目にする。

「んんん、おぉ?」

何と先ほどのアフリカ系アメリカ人男性からサナギを破り成虫が羽化するかのようにルシフェルが出てきていたのだ。

「何見てんだスケベ」

そこで純希はルシフェルに捕まってしまうのだった。

快はそのころ高円寺の現状も知らぬまま電車に乗って帰ろうとしていた。

頭の中には純希への嫉妬の事ばかり。

「……っ!!」

そんな中で通知が来たスマホを見ると衝撃的なニュースが。

『高円寺で銃乱射事件発生』

絶句してしまう。

まだ愛里たちがそこに残っているはずだから。

「(まだ二駅しか過ぎてない……)」

次の停車駅はまだ高円寺から二駅しか過ぎていない。

「くぅっ!!」

駅に着いた途端に慌てて電車を降りて反対側の電車に乗って高円寺へ戻ろうとする。

しかしその電車は既に発車してしまった。

「待ってられるか!!」

ヒーローにならなければいけない。

そのために快は走って二駅分先の高円寺まで向かう事にしたのだ。

高円寺の付近まで来ると警察が立ち入り禁止のテープを貼り立っていた。

それを快は乗り越えて行こうとする。

「待ちなさい、この先は危険だ!」

やはり止められる。

しかしそんな場合ではなかった。

「ごめんなさい!!」

快は警察の静止を振り切り先へ進んだ。

すると惨状を目の当たりにする。

「うっ……!」

視線の先には多くの死体。

先ほどまで自分が居たとは思えない光景だった。

思わず吐きそうになるが口を押さえて堪える。

「(吐いてる場合じゃない……!!)」

慌てて愛里と純希を探して歩く。

「どこだぁーー!!返事してくれぇぇ!!」

しかし声は空に向かって響くだけ。

全く返事など来なかった。

するとそのタイミングで。

「っ⁈」

スマホに着信が入る。

誰かと思いポケットからスマホを取り出し着信画面を見る。

その相手を見て驚愕した。

「与方さん……⁈」

その相手は愛里のLINEアカウントだった。

急いで通話ボタンを押し電話に応答する。

「もしもし!!」

しかし相手は別人だった。

『愛里ちゃんかと思った⁈残念、ルシフェルちゃんでした〜!!』

陽気な男の声が聞こえて来て絶望する。

「え、誰……?」

何故愛里のアカウントからわざわざ自分に掛けて来るのだろうか。

『分からねぇか?俺だよ、俺がやったの!』

その一言で理解する。

電話越しのこの男が惨状を引き起こした張本人だと。

「でも何で与方さんの電話で俺に……?」

率直な疑問をぶつけた。

『さん付けとか初々しいなおい!』

快の愛里への呼び方に爆笑するルシフェル。

『ってか分からねぇか?お前が目的なんだよゼノメサイア君!』

「っ!!」

正体を知られている事に驚愕する。

『正直お前に関しては俺も把握し切れてねぇ、だからどれほどのもんか試してやろうと思ってな』

その言葉を聞いてある事に気付く。

「もしかして俺を試すためにこの惨状を……?」

恐る恐る聞いてみる。

すると予想通りかつ最悪の答えが返って来た。

『ピンポーン!バカではないみてぇだなアイツと違って!』

アイツとは誰だろうなど更なる疑問は増えるがそれ以上に快は真実に絶句した。

「そんな、俺のためにこんな事が……?」

震えてしまう。

足下には自分のために殺された死体が転がっていると言うのだろうか。

『メンタルの方はアイツよりダメだな、プラマイゼロか?いや、めっちゃマイナスか』

震える快の声を聞きルシフェルは冷静に分析をしている。

『んじゃ本題に入らせてもらうぜ』

そして話題を変えて本題に入るルシフェル。

『今そっちに写真を送った、それ見てみろ』

指示通りに快は個人トーク画面を開き写真を見た。

「っ!!」

そこには自撮りをしてポーズを決める白髪の男、恐らくルシフェルと認識する。

その背後に意識を失い椅子に縛り付けられている愛里と純希の姿があった。

『どう?なかなか盛れてるだろ〜?』

煽るように言ってくるルシフェルに腹が立ちながらも危機感の方が断トツで強かった。

「無事なん、ですか……?」

『敬語とか!どんだけ弱ぇんだ!!』

とにかく笑いが止まらないルシフェル。

快は逆に余計に不安が高まった。

『安心しな無事だ、今からお前にはコイツらのヒーローになってもらうぜぇ』

ヒーローという言葉に反応してしまう。

『位置情報送るからよ、すぐそこに来やがれ!』

その言葉を最後に電話は切れる。

慌ててトーク画面を確認すると言葉通り位置情報が送られていた。

「(行かなきゃ……っ!!)」

慌てて震えたまま走り出す。

果たして快は二人のヒーローになる事が出来るのだろうか。

快は走った。

そして位置情報に記されたホテルの前までやって来る。

「ここか……っ」

そして自動ドアを抜け中に入るとすぐ横にダイニングがあるのを見つけた。

もう一度送られた写真を見返してみる。

背景にテーブルなどが並んでいる事からダイニングで撮られたものだと確信した。

「……っ」

恐る恐る大きな扉を開ける。

そして目に入った光景は写真の通りだった。

「よく来たなぁ、待ってたぜ創快!!」

両手に拳銃を持ち捕らえた愛里と純希の両者の頭に突き付けているルシフェルが笑いながら立っていた。

「与方さんっ!!」

思わず愛里の名を叫んでしまうが二人とも気絶しているようで反応はなかった。

「いやぁお前の事だから来ないかもと思ったぜ、ビビって逃げちまうんじゃねーかって心配だったんだ」

快の恐怖に怯える表情など気にも留めずルシフェルは語り出す。

「だがお前は逃げずにちゃんと来た、そこは評価してやろう」

偉そうに言うルシフェルに快は得体の知れない恐怖を更に強く感じた。

「あの、さっきヒーローになれって……何をさせるんですか……?」

震えながらも目的を聞いた。

「というか何が目的なんですか、何で俺の正体知ってるんですか……⁈」

明らかに人間の姿だと言うのにやけに詳しい事が不気味だったのだ。

「んー、どこから話そうかな」

そしてルシフェルは考えをまとめてから語り出す。

「俺は天使だ。つまり神側の存在、大体の事情は最初から把握してるわけよ」

「え……?」

突然訳の分からない事を言われて混乱してしまう。

「だが神は俺を"罪人"とか言って堕としやがった!全くムカつく野郎だ、だから這い上がってその座を奪うって決めたのさ!」

まるでずっと溜め込んでいた怒りを思い出したかのように口調が強くなる。

そして一旦冷静になってからこう言った。

「……それが俺の"夢"だ」

ニヤリと笑って快を見つめる。

背筋がゾワッとした。

「んじゃそろそろ始めようか。お前への感謝を見せてやるよ」

そして本題に入ろうとする。

「感謝……?」

「あぁ、俺はお前に感謝してんだぜ?永い"輪廻"の中でようやく出会えたんだからな……!」

また分からない話をするが今は考えている余裕は無さそうだ。

「今からお前にはこのどちらを救うか選んでもらう。好きな女と嫌いな男だ、簡単だろ?」

そして愛里と純希のどちらを救うのか快に迫ったのだった。

「そんな……!!」

快の選択は如何に。

両者の頭に銃を突き付けているルシフェルは笑いながら快に選択を迫る。

「早く選べよ〜、それともアレか?どっちも救うとかいう神プレー見せるか?」

「くっ……」

今の自分にはどちらも救う事など出来ないだろう。

なのでグレイスフィアに触れて変身しようとした。

しかしルシフェルはそれもお見通しだった。

「そりゃ無しだ、変身した瞬間どっちも殺す」

グレイスフィアに手を伸ばしたタイミングで静止されてしまう。

焦ってしまう、変身できなければどちらも救う能力など快には無かったから。

「お前自身の力を見せてくれよ〜、変身されたら判別不可能じゃねーかぁ」

このままではどちらも救えない。

快はどちらも救いたかったのだ。

夢を応援してくれている愛里、そして夢を叶えて見返したい純希。

どちらも自分の夢にとって大切な存在である。

「(ここでヒーローになれなきゃダメなのに……!!)」

ここでまたパニック発作が出てしまう。

最悪な気分だった。

「何でこんな事するんだよぉ……」

地面にへたり込んで嘆いてしまう。

独り言のつもりだったがルシフェルは丁寧に答えてくれた。

「言っただろ、お前がどんなヤツか試すんだ。行動次第では俺が超喜ぶぜ?」

もう訳が分からなかった、頭も働かない。

完全に自暴自棄になってしまった。

「二人とも助けて下さいっ、殺るなら俺を……っ!!」

自己犠牲が今できる最大の決断だった。

その答えに対してルシフェルは。

「そーゆーの良いから、冷めるんだけど」

急に声のトーンが低くなる。

明らかにガッカリしているような雰囲気だ。

「確かに雑魚いのは求めてたぜ?でも最低限ヒーローであってくれなきゃこっちとしても計画が台無しなのよ」

そう言いながら更に快を急かす。

「ほら!早く選べ!」

そして遂に快は決断を下すのだった。

ルシフェルが快に選択を迫る中、愛里は密かに目を覚ましていた。

「ん……」

そして自分が捕まっていた事を思い出す。

「(そうだ、私この人に……!)」

捕まってから気絶させられる前、愛里と純希はルシフェルにこれから何をするのか聞かされていた。

『お前らの命を天秤にかける。創快はどっちを選ぶのかなぁ?』

そして視線の先には項垂れる快。

今まさに選択を迫られているのだと理解した。

「えーらーべ、選べっ!!」

急かしているルシフェル。

快は悩んでくれているのだと愛里は知る。

そして遂に。

「うん……」

快はゆっくりと立ち上がり言葉を発する。

「決めたよ……」

苦しそうに宣言した。

「お、どっちだ?救う方の縄を自分で解きに来い」

そう言われたため快は歩き出す。

「(俺が救うのは……)」

そして純希の顔を見た。

「ごめん純希」

一言謝ってから愛里の方へ向き直り歩みを進める。

「おー!やっぱそっちかー!」

愛里の方を向いて進む快に前のめりになって見入ってしまうルシフェル。

「いいねいいね!そーゆーのが見たかったんだよ、ヒーローらしからぬ自己中なとこがさ!!」

そんな言葉が耳に入りショックを受ける。

「ごめん、ごめんなさい……」

純希への申し訳なさと自分の弱さへの憤りに押し潰されそうになりながら愛里に近付く。

すると突然前方から声が聞こえた。

「お願い、純希くんを選んで」

目線を上げるとそこには優しい目をした愛里が。

目を覚ましていたという事に快も気付く。

「え、何言ってんの……?」

「私なんかより純希くんみたいな人がこの世には必要だよ」

先ほどの純希の行動などを見て愛里は確信したのだ。

「英美ちゃんと同じ"ヒーロー"だから……!」

その言葉を聞いた快は足が止まってしまう。

あの純希が夢を応援してくれた子にヒーローと呼ばれるのを聞いて複雑な感情が生まれてしまったのだ。

「ギャハハハ何だそれ!コイツの何処があの英美と同じだってんだ⁈」

そう言って純希の方に振り返り指をさした。

しかし。

「……あ?」

そこに純希の姿は無かった、椅子に縛り付けていたはずだと言うのに。

「おぉぉっ!!」

次の瞬間、気合のこもった声と共に純希が他にあった椅子を広いルシフェルの頭に殴りつけた。

「あがっ……⁈」

訳も分からず頭部から血を流し倒れてしまうルシフェル。

その隙に純希は愛里の縛られている椅子まで駆けつけ縛っているテープを剥がそうとした。

「純希くんっ⁈何で……」

「コイツ適当にテープぐるぐる巻きにしてただけだから簡単に千切れたぞ……!!」

そう言って同じ要領で愛里を縛るテープもどんどん千切っていく。

「ぁ……」

その間、快はただ純希の活躍に圧倒されてしまい立ち尽くしていた。

そこで純希の背後でルシフェルが立ち上がる。

「おい、よくも台無しにしてくれたな」

そのまま怒りを純希にぶつけて首を掴み片腕で持ち上げる。

「ぐぐぐ……っ」

「どうしてくれるんだ!俺の夢をっ!!」

しかし締め上げられながらも純希は愛里の心配をした。

「快っ!愛里ちゃんを解放してくれ!!」

そう指示を出しルシフェルへ向き直り逆に首を絞める。

「んぐぁっ……⁈」

「今のうちに早くっ!!」

互いに首を締め合いながら二人は睨み合っている。

「あぁっ!」

純希の声で目が覚めた快はいち早く愛里を解放するためにテープを千切ろうとした。

「よし、これで……!」

既に純希が殆ど千切っていてくれたためすぐに救い出す事が出来る。

「逃げよう!」

「待って、純希くんは⁈」

何よりも愛里を安全な場所に移したい快。

純希を助けようと抵抗する愛里の手を無理やり引いて連れて行こうとする。

「チッ、ふざけやがって……!」

「がはっ……」

取っ組み合いはルシフェルが勝った。

苦しむ純希を床に叩きつけて快と愛里を目で追う。

「待ちやがれ!!」

そして怒りのままに拳銃を快に向ける。

それに愛里だけが気付いた。

「危ないっ!!」

そして引き金が引かれた。

「え……?」

銃声を聞いて快は振り返る。

気がつくと愛里が倒れていた。

肩から出血している。

「ぅ……あぁ」

なんと愛里が快を庇って代わりに撃たれてしまったのだ。

「やべっ、鍵を撃っちまった……!」

ルシフェルも重大なミスをしてしまった事に焦る。

「あぁぁぁっ!!!」

心のままに快は叫んだ。

純希も愛里も意識を失い今動けるのは快だけ。

ならばやれる事は一つ。

「おぉぉっ!!」

グレイスフィアを手に取り変身したのだ。

巨大化していくゼノメサイアにホテルは崩れていく。

「クッソォッ、訳わかんなくなっちまったじゃねーか!!」

崩れていくホテルの中でルシフェルは嘆いた。

気を失っている愛里と純希もゼノメサイアの両手に回収されてしまった。

完全にやらかしてしまったのだ。

「責任、取ってもらうぜぇぇ!!」

そしてルシフェルは全身に力を込める。

心の奥に秘めた"罪"が実体化し体を包み込んだ。

『オォォォッ!!!』

そして彼も巨大化。

その姿は人型に近くもまだ"罪獣"というような出立ちでとても自称するように天使だとは思えなかった。

出現する際に罪獣と同様の雄叫びを上げる。

「グガァァァァッ!!!」

今までのどの罪獣よりも醜悪な姿を晒したルシフェル。

二体の巨大生物の出現によりホテルは完全に崩壊した。

そしてその残骸の中から睨み合う両者が姿を表す。

『オォォ……』

「グゥルルル……」

ゼノメサイアの右手の中には気絶した愛里と純希が。

それを見たルシフェルは手を出して来ない。

やはり愛里は夢を叶えるのに大切な存在らしい。

『ッ……』

一方ゼノメサイアも二人を握ったままでは戦えない。

何とか落とさないように飛び上がりルシフェルを警戒しながら離れた所に二人をそっと置いた。

次の瞬間。

「ゴォォォッ!!!」

ルシフェルが遠距離から獄炎を放ってきた。

『熱っ』

それほどダメージはなく愛里と純希にも影響はなかったため快はそれを"早くしろ"という意味だと解釈する。

『ハッ』

それに応えてもう一度ルシフェルの前に立つ。

「グゴォァッ!!」

構えを取るルシフェル。

戦闘開始の合図だろう。

『ハァッ!』

ゼノメサイアも構えを取り戦闘体勢に入った。

そして今までにない相手との戦いが始まったのだ。

全力で走り迫るルシフェル。

本当に怒りをぶつけて来るかのようだった。

「ゴォルルァァァッ!!!」

思い切り拳を振り上げ殴りかかって来た。

『ホアッ……!!』

かなりスピードが速かったが何とか避ける事に成功する。

しかしそのパンチは囮だったようだ。

「フンッ!」

『ウッ……⁈』

避けて体勢が崩れたところを狙って尻尾を使い足に当てて転ばせる。

倒れたところへ爪を突き立てた。

『ングァッ……』

両手で何とか爪を掴んだが掌から先程の獄炎を放った。

『ゥグアァァァッ……!!!』

顔面に灼熱の獄炎が纏わりつく。

今までに感じた事のない信じられないほどの苦痛に襲われる。

『ァッ、ガハァッ……』

顔面が丸焦げになってしまう。

既に今までの戦いで食らって来たダメージで一番を更新しただろう。

「おいおい、終いかよ?」

『ま、まだだ……』

テレパシーのような声が脳に直接届く。

煽るような声に腹が立ち何とか立ち上がった。

『ゼアァァァッ!!!』

思い切り突っ込んで行く。

今度はこちらから仕掛ける番だ。

しかしルシフェルは強かった。

「グォォォッ……」

唸り声を上げながらゼノメサイアの攻撃を避けていく。

『(クソッ、パニックで上手く戦えない……!)』

ルシフェルが強いからというのもあったが快もパニック発作が出ていたため上手く戦えないのだ。

『フンッ!』

そしてとうとうパンチがルシフェルの腹部に命中した。

「あぁ?」

しかしルシフェルはピンピンしている。

「こんなもんかよっ!!!」

そして思い切り焦げた顔面を掴み近くのビルに叩きつけた。

『ゴホァッ……』

全く歯が立たずに絶望してしまう。

ヒーローになると意気込んだばかりだと言うのに連続でこれほどまで無力さを実感させられてしまうとは。

『ダメだ、俺はヒーローにっ……!!』

焦りが強くなってしまいガムシャラに攻撃を繰り出す。

しかしそんなものがルシフェルに通じる訳もなかった。

「ガゥアァァァッ!!!」

全て防がれ顔面を思い切り殴られる。

『アガッ、ハァッ……』

背後のビルに背中からぶつかり崩してしまう。

『(ダメだ、強すぎる……)』

自分が如何に無力か、余計に理解してしまう。

『嫌だ、このまま何も出来ないなんて……』

こんなにも上手くいかない現実に嫌気がさす。

視線の先ではルシフェルがまだ迫って来ている。

『何で俺だけこんな辛いままなんだっ!!』

苦しみから立ち上がりエネルギーを溜める。

「お、雷やるか?」

ゼノメサイアの次の行動を察したルシフェルも対抗してエネルギーを溜める。

そしてお互い同時に最大の技を放った。

『ライトニング・レイ!!!』

「天翔熱波!!!」

神の雷と罪の炎がぶつかり合う。

しかし決着は早々についた。

『ウゥッ……⁈』

ゼノメサイアの雷が明らかに押されているのだ。

「ギャハハ!どうしたぁ⁈」

そのまま勢いを強めるルシフェル。

そしてとうとうゼノメサイアは押し負けてしまった。

『グアァァァァァッ……!!』

大ダメージを受けて後方へ吹き飛ばされてしまう。

『ガッ、ゥガァッ……!!』

あまりの苦痛にのたうち回ってしまう。

そこへ更に迫るルシフェル。

「おいおい、この程度で終わんのかぁ?」

今の快にはルシフェルが最凶の悪魔に見えた。

絶望しか心の中にはない、最悪な気分だった。

『やめろっ、まだ終わりたくないっ!!』

必死に命乞いをするがルシフェルはそれを無視して迫って来る。

『あぁっ、ああぁぁぁっ』

まるで初めてバビロンが出現する直前の電車が迫った時のように感じた。

そして心の底から叫ぶ。

『嫌だぁぁぁーーーーっ!!!!』

次の瞬間、爆発音が響いた。

快は恐怖で目を閉じてしまう。

しかしある事に気付いた。

『……あれ?』

何故か自分は無傷なのだ。

ルシフェルはと言うと。

「グッ、ガァァァァッ……!!」

彼の周囲で爆発が起こっている。

一体何が起こったのだろうか。

『え……?』

理解が追いつかない快の背後から突然謎の存在が空を切って現れる。

「食らいやがれ堕天使が!!」

見た事もない戦闘機に荒々しいパイロットが搭乗していた。

ビームのような弾丸を放ちルシフェルを攻撃していく。

『何だ⁈』

そして更に増援が。

「俺も!!」

まるで巨大な車のような兵器が地面を素早く移動しルシフェルを戦闘機同様に攻撃する。

「ちょっと、前出すぎだっつーの!!」

若者な車のドライバーは無線で少女の怒る声を聞く。

「ごめんごめん、初出動だからさ」

突如現れた戦闘機と戦闘車。

その存在をルシフェルは知っているようだった。

「チィッ、とうとう来ちまったか……!」

そして更に巨大なタンクがやって来た。

それにはどうやら彼らの隊長が乗っているようだ。

「目標を補足、これより駆逐にあたる」

他の二人より少し年を取っていそうな糸目の屈強な男が報告をする。

そして自分らを名乗った。

「"Connect ONE/コネクトワン"実働部隊TWELVE、これより任務を遂行します」

突如として現れた戦闘組織に快の理解は追いつかなかった。

彼らは味方なのだろうか、そしてその正体とは。




つづく

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