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第4界 ホメラレタイ

愛里の部屋、可愛らしいこの部屋にクラスメイトであり友人の咲希が遊びに来ていた。

「やば、泣けるわ」

咲希は特に愛里と会話する事なくずっと部屋にある漫画を読んでいる。

しかし"泣ける"などと言っているが涙は出ていない。

「……ふふっ」

愛里は可愛らしい表情でスマホの画面を見ている。

「またアイツ?」

「うん」

そう返事した愛里のスマホ画面には快とのLINEトーク画面が開かれていた。

「アンタもうやめときな?"無理してる"ようにしか見えないよ」

視線は漫画に向けたまま言う。

「何で?そんな事ないよ……」

犬のモフモフクッションに顔を埋める。

咲希に快とのやり取りを否定されてしまった。

「これが"生き甲斐"なんだから……」

クッションに顔を埋めたまま写真フォルダを開く。

そして大分過去の写真に遡った。

「(今度こそ上手くやるよ、"お兄ちゃん"……)」

その写真フォルダには快ではない"数名の男"の写真が残されていた。

『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

第4界 ホメラレタイ

登校中、快は電車に揺られながらまたスマホでSNSを見ていた。

『またゼノメサイアと罪獣がやってくれたよ……』

前回のフォラスの件があったのでエゴサして否定的な意見を目の当たりにする。

しかし。

『否定的な声多いけどさ、バス助けたように見えたの俺だけ?』

肯定的な意見も増えて来た。

それだけで大分嬉しいはずなのだが。

「う〜ん……」

眉をひそめているのは何故なのだろうか。

「(俺じゃない……)」

当然のことだがこの場合はゼノメサイアが賞賛されているのであって"創快自身"が褒められているわけではない。

「(思ってたんと違う……)」

ゼノメサイアを否定された時はあんなに傷ついたのだから褒められた時はきっと想像もつかないほど嬉しいものだと思っていた。

だがしかし、実際は自分が褒められている訳ではない事に気付かされるだけだった。

何故否定された時だけこんなに傷付いて褒められる気持ちは感じる事が出来ないのだろうか。

思えば今までの人生ずっと褒められて来なかったと気付く。

勉強もスポーツもゲームも人間関係も全てがダメ過ぎて一度も褒められた記憶がない。

何度も何度も「ダメだ」「戦力外」「嫌い」などネガティブな言葉ばかり言われて来た。

ゼノメサイアになった後もそれは変わらない。

いくら変身後が褒められても素の創快としての状態では咎められる事の方が多いため不満に思っているのだ。

「(もっと褒められたい……)」

愛を知らない快はとても愛を欲しがりながらも電車に揺られていた。

学校に着くとまずはホームルームがあった。

話題はというと。

「来月に控えた"陸上競技大会"ではーー」

最悪のイベント陸上競技大会だ。

去年の思い出が蘇る。

昨年の陸上競技大会では参加した全種目で最下位、クラスの足を引っ張ってしまい視線が痛かったのを覚えている。

思い出しただけで震えが止まらない。

しかしそんな快を他所に担任は進行する。

「個人競技を決めようと思います」

全員が参加する"クラス対抗リレー"とは別に個人で必ず参加しなければならない種目を決めるというのだ。

「(今年も俺と瀬川は多分……)」

運動は全般的に苦手なので最も負担が無さそうな走り幅跳びを選んだ。

人気の無い種目なので取り合いにもならずスムーズに決まった。

すると担任がこんな事を口にする。

「今年は風邪引かないといいな!」

その言葉を聞いた快は一瞬硬直してしまう。

そしてすぐに愛想笑いをした。

「えーと瀬川は……」

そして担任はまだ決まっていない瀬川の顔を見る。

瀬川も快と同じように複雑そうな表情をしていた。

そんな顔で快と目を合わせる。

「……はぁ」

そして渋々立ち上がり個人競技を決めた。

運動神経バツグンの瀬川が快と同様にこの大会を嫌がるのには理由があった。

昼休み、快と瀬川はいつもの校舎を跨ぐ渡り廊下の隅っこで弁当を広げていた。

「うわぁ陸上競技とかダリぃ〜!」

太陽に向かって背伸びしながら叫ぶ。

「今年も一緒に休むつもりだろ……?」

「ま、そうだけどよ……」

瀬川は快と同じ缶コーラを一気飲みして続けた。

「去年の練習の時みんな快のこと悪く言ったろ?今年もそうならまた休んでやるぜ、親友のこと悪く言うやつらのためになんか!」

そして快の顔を見て続ける。

「お前も休むか?」

「そうだね、多分今年も……」

去年は二人して陸上競技大会を休んだのだ。

理由は瀬川が言った他にもある。

「どうしても運動は苦手だ、下手なとこ見せたらヒーローになんか……っ」

「確かに無理はしない方が良いからな、また俺も一緒に休んでやるから安心しろ。お前を一人で置いてけぼりにはしねぇ」

そう言って肩を叩く瀬川だったがその瞬間の脳裏には父親の"人には出来る範囲が決められている"との発言が蘇る。

「(何だよ、親父の言葉を推奨してるみたいじゃねーか……)」

いくら快のためとはいえ大嫌いで否定したい父親の言葉を無意識にも守っている自分に少し苛立ちを覚えた。

しかしそんな事は快には届くはずもなく。

「休んだら何か言われるかな?」

自分の心配をしていた。

「去年も何も言われなかったろ?」

「まぁそうだけど二年連続ってなったら流石に……」

そう言われる快の脳裏には自分を責め立てるクラスメイト達の姿が浮かんでいた。

「ちょっと怖いな、あの人たち何考えてるか分からないから……」

「あーゆー陽キャって人種な?あんま細かいこと考えてなさそうだな、今を楽しむ事ばっか考えてそれ以外のやつの気持ちは考えてくれねぇ……」

その話を聞いて快はある人物を思い浮かべた。

「そいえば純希が今そんな感じだったな……」

バイト先で再会した純希は今瀬川が言ったような今を楽しむ事ばかりを考えていそうだった。

「そうだったバイト先に入ったんだってな、何か嫌な事されなかったか?」

心配そうに快の顔を見てくる瀬川。

「いや特には、まぁ怖かったけど……」

トラウマが快を震え上がらせたのを覚えている。

そういえば今日も放課後バイトがあるため今からしんどくなってしまう。

「俺もそこ入ろうかな?ヤツがお前に何かしないように!」

気を遣って発言してくれるが快にはそれが少し重かった。

「いいよ、無理しなくて……」

とてつもなく暗いオーラを放ちながら答える。

そんな快の様子を見た瀬川は余計に心配になった。

「本当に最近暗いぞお前。釣り堀行った時もそうだったけどやっぱヒーローになれなかったって気にしてんのか?」

図星を突かれてしまう。

仕方なく快は答えた。

「……そうだよ、もっとヒーローとして活躍して俺自身を褒めてもらいたいんだ」

しかし現実は甘くない。

「なのに俺何も出来なくて褒められるどころか嫌な目で見られたりしてさ、本当キツいよ……」

更に暗いオーラを放ってしまう快。

瀬川は何とか慰めようと思考を巡らせた。

「いやお前にだってさ!出来る事くらいあるって……!」

明るく言ってみせるが快にはその明るさは移らない。

「たとえば……?」

「えっ、あぁ……」

具体例を求めると考え込んで黙ってしまう瀬川。

「ほらな、そんなの無いだろ」

しかし瀬川は諦めない。

何とか必死に考えついた事がある。

「そうだ、お前中学の時コーヒー淹れるのハマってたろ。それ美味かったぞ!」

全くヒーローの事とは関係のない事だった。

しかし必死に考えてくれた事を否定する事は出来ずに快は黙ってしまう。

「はぁ……」

そのまま溜息を吐いて二人の空気感は最悪だ。

それでも瀬川は何とか明るくしようとする。

「でもお前頑張ってるじゃねーか、この間だって溺れかけた良を誰よりも先に助けようとしてさ。あれカッコよかったぜ?」

前回の事を褒めてくれるが快には響かなかった。

「(そーゆーのはその時に言ってくれよ……)」

実際その時は上手く行かず落ち込んでいたというのに誰も褒めてはくれなかった。

もしその時に褒めてくれていれば何か意識が変わったかも知れないのにと思うとやるせない気持ちが更に強くなるのを感じた。

自宅に帰りバイトの準備をしているとキッチンの所に中学の時使っていたコーヒー作りのセットが置いてある事に気付く。

瀬川に"美味かった"と言われたのが少しだけ引っかかっていたため久々にやってみようかと思った。

「豆はある、時間もまだあるな」

バイトまでの時間は幸い少しあったためコーヒーを淹れて姉に振る舞おうと考えた。

上手くやれば褒めてもらえるかも知れない。

「お、案外覚えてるもんだな」

中学の頃ハマっていたというのもあって感覚を覚えていた。

そのためスムーズにいい香りのコーヒーが出来上がる。

そのタイミングで姉が帰ってきた。

「はぁ疲れたぁ〜」

仕事と祖母の介護がやはり大変だったのかかなり疲れているようだ。

こんな時こそコーヒーは嬉しいものだろうと踏む。

「お、コーヒー淹れたの?久々だね」

そう言って美宇はソファに座り快の淹れたコーヒーを飲んだ。

「うん、美味しいと思う」

そう言ってくれたので少し安心する。

本当にやりたい事ではないがいい反応がもらえたためバイトに行こうとするが。

「え、ちょっとコレ!」

飲み終えたマグカップを下げにキッチンへ向かった美宇が驚きの声をあげる。

「え、何……?」

恐る恐る振り返ると美宇はキッチンを指差しこう言った。

「皿洗っといてって言ったのに!」

シンクには溜まった洗い物がたくさん。

そういえば今朝、"バイト前に皿洗って"と言われたのだ。

「私今日特に忙しくて疲れるからって言ったじゃん、それでこれからバイトでしょ?結局私がやるんじゃん……!」

コーヒーを褒めてくれた雰囲気は消し飛び怒り出す美宇。

完全に快の失敗ではあるがこう感じてしまう。

「(一個上手くやってもそれ以上にデカい失敗がある……)」

そう感じて気分が落ちながらも快はバイトへ向かわなくてはならなかった。

今日はチキン店の厨房は大して忙しくなかった。

そのためお喋りしながらスムーズに仕事が出来る。

しかし快は相変わらず一人で黙々とクッカーを拭いていた。

「………」

表情は苦しそうだ、何故なら先程までの辛いやり取りに加え今後ろにはかつてイジメて来た純希がいる。

その純希と先輩が仕事をこなしながら雑談もしている。

「そっか、お母さんが働けないからバイトしてんのか」

「はい、生活保護だけじゃ贅沢させてやれないから恩返ししたくて」

「めっちゃ良い息子じゃん」

まだ入ったばかりでもう先輩とプライベートな話が出来るほど仲良くなっている。

快もまだ先輩とは全然話せないというのに、流石のコミュ力だろう。

そう言った所でも純希の方が普通なのだと感じてしまう。

「(やっぱり純希の方が世間的にはいい奴なんだな……)」

どちらかと言えば自分の方がはみ出しモノなのだと実感してしまう。

それならばどうやってヒーローになればいいのだ。

それを裏付けるように純希はもう一人で厨房を任せられるほどにまで成長した。

特別仕事が出来る訳ではないと言うが明らかに快よりも早いため快の方が下だと見せつけられてしまう。

そんな所でも快は純希との差を感じてしまう。

彼は早く成長し沢山褒められるのを見た。

しかし快は未だ怒られてばかり、新人の純希の前でも何度も怒られた。

「そうだ、お前そろそろ創とダンボールの片付けして来いよ」

先輩がそう指示を出す。

因縁の相手純希と二人で作業だ、苦痛な時間となるのが予想できる。

「はい……」

「わかりやしたー」

そして二人は店裏のゴミ捨て場に行き、チキンを開封などしたダンボールの処理を行うのだった。

快と純希の2人は店の裏のゴミ捨て場でダンボールの処理をしていた。

「暇で助かったな、こんな早くダンボール片付けれるなんて」

「うん……」

褒められたい快と自然に褒められる純希。

快は今羨ましいと思って仕方なかった。

そんな相手と二人きりで仕事しなくてはならないとは苦痛だった。

しかし純希の方がいい奴であると分かっているのでそれを責めてしまっては余計に自分の立場が無くなってしまうと感じ心で叫ぶ事も出来なかったのだ。

「どーした元気ないぞ」

"自分をはみ出しモノだと認めてしまう"など複雑でネガティブな話は出来ずに黙々と作業を続ける。

今褒められたい快にとって純希の存在は天敵でしかなかった。

先ほど述べた理由の他にヒーローである事を認めさせたいという気持ちもあるからだ。

純希にヒーローとして褒められれば自信に繋がり更に夢を馬鹿にした純希に勝利したという事になる。

だがしかし今は到底届かない、だからそれまでは出来るだけ会いたくない人物であった。

「別にいいだろ……」

しかし純希は気にする事なく快に声をかけてきた。

「にしてもお前やっぱ変わったよなぁ〜」

「またかよ……」

彼の初日にも変わったと言われた事を思い出す。

「前は常に怒っててよ、誰も手ぇ付けられないって感じだったけど落ち着いたよなぁ」

「……」

快は覚えていた、小学生の頃だ。

怒りのあまりに純希を何度も殴りつけていた。

その後に瀬川と出会った。

「あれ結構根に持ってんだぜ?」

笑いながら言う純希だが快にはそんな余裕はなかった。

あの後祖母や姉と一緒に純希の家に謝りに行ったのだ、その時会った純希の母親はいい人だった。

何故こんないい人が育ててるのにこんな嫌な奴になったんだろうと思ったほどだ。

『子供のケンカですから』

その時の笑顔は忘れる事はない。

純希の頭を撫でながらそう言った母親を見て快は更に純希に嫉妬した、母親からの愛も知っているというのだから。

純希は愛されて育ち沢山の事が出来るため恐らく目一杯褒められて来たのだろう。

「っ……!!」

今になり嫌な記憶を思い出してしまった事によって手が震える。

そのせいで力がこもり持っていたダンボールを破いてしまった。

「おいおい気をつけてくれよ〜」

快とは打って変わってヘラヘラしている態度にまで腹が立ってきた。

快は親に愛されずはみ出しモノとなり純希は愛されて世間の言う普通になった。

その構図が憎たらしくて仕方がない。

「……ごめん、気をつけるよ」

しかしそんな事は言えずただ自分の否を認めた。

その構図にも腹が立ってしまう。

イジメをした者が上手くやり褒められイジメられた者が上手く出来ずに褒められない。

そのような社会にすら絶望してしまう。

「(くそっ、くそっ)」

ただ真面目に仕事をしているだけの純希と裏腹に卑屈な考えをしながら快は仕事をしていた。

するとそこへ"ある人物"がやって来る。

「あれ⁈快くんじゃん!」

なんとそこには飼い犬であるシベリアンハスキーのロンの散歩をしていた愛里とその友人である咲希が立っていたのだ。

私服姿の女子二人に少し緊張してしまう。

しかし快は愛里ばかり見ていた、そして緊張してしまい顔を赤くしてしまう。

「えっと、何でここに……?」

何とか緊張を隠そうとするが全く隠し切れていない。

「ロンの散歩してたらさっちゃんとチキン食べたいねって話になったの、それで快くんがバイトしてるのも思い出したからついでに」

"さっちゃん"とは咲希の事だろう。

あだ名で呼び合う仲らしい。

「そうなんだ……あ、俺作ってるから良ければ……」

当人たちは買うつもりでここに来たと発言からも分かるというのに"良ければ"だなどと言ってしまう。

しかしこのような言葉しか思いつかなかった。

そこへ純希が割って入る。

「どうも、快と一緒にバイトさせてもらってる横山純希と言います……!!」

突然畏まり頬を赤らめていた。

快以上に分かりやすかった。

そのまま一度快に耳打ちをする。

「おい、誰だよこの子……⁈」

小声だが力強い。

「ただの同級生だよ……」

純希をウザく感じながらもそう答える。

今の彼女らはその程度の関係だ。

すると愛里が純希に頭を下げた。

「いつも快くんがお世話になってます〜!」

この可愛らしい仕草を見て純希は更に胸が打たれたようだ。

「いえいえこちらこそお世話になってますよ〜、ここのチキン俺も揚げてますんで食べる時は俺を思い出して下さい」

サムズアップを決めてカッコつけている。

「あはは、面白いね快くんのお友達!」

「……っ⁈」

今、愛里は純希の事を友達だと言った。

そんな事は考えたくないというのに。

「俺もう上がりなんで案内しますよ!おススメとかも教えちゃいましょうか!」

「良いの?助かる〜、ねぇさっちゃん?」

「え、まぁ……」

咲希は若干二人の空気感について行けてないようだが。

しかし快はすぐに分かる、とてつもなくいい感じなのである。

「(マズいぞ……)」

何がマズいのだろうか。

せっかく応援してくれる女性を取られてしまうからか、それとも。

そして純希は上がった後、愛里たちを案内して愛里と咲希は見事に純希のおすすめを買って行った。

その間にも楽しそうに会話をしているのが聞こえて来る。

「実は俺レスキュー隊目指してて〜」

「えー凄い!ヒーローじゃん!」

そのような会話が作業中の快の耳に入ってしまい参加できない不満と純希をヒーローと言う愛里の言葉に嫉妬心すら芽生えていた。

「私の友達がヒーローだったからさ、重なるなぁ」

恐らく愛里は英美の話をしているのだろうが英美には快が託されたと彼女も言っていたというのにそう言われてしまい傷付いた。

「〜〜っ……!」

完全に傷付いて動悸が止まらなくなる快。

怒りと焦りと嫉妬が溢れ出ていた。

そしてそのまま彼らの会話は終わる。

「じゃあねバイバイ〜!」

「………」

そして二人は帰っていった。

「……じゃあ」

快と純希はしばらく無言だったが。

「……あの子めちゃくちゃ可愛いな」

「え?」

そして純希はスマホの画面を見せて来る。

そこには驚きの表示があった。

「じゃーん!なんとLINE交換しました!」

「!!!」

そこには愛里とのLINEトーク画面が開かれていた。

「お、スタンプきた!」

そして純希のもとに愛里から可愛らしいハスキーのスタンプが送られてきた。

快にLINEをしてくれた時はあんなに嬉しかったというのに他の人にもしている所を見ては嬉しくない。

「んじゃ俺も帰るわ、お疲れー!」

そして純希は嬉しそうにスキップしながら帰っていった。

「……っ」

この感情は何だろうか、愛里に対してはただ夢を応援してくれる人なはずだ。

しかし何かまた純希に負けた気がした。

ヒーローになって純希を見返すどころか愛里の事で更に黒星が増えた気がした。

その後、愛里と咲希はチキンを食べた後に解散した。

「じゃあさっちゃんバイバイ!」

「ん、じゃね」

そのまま咲希は真っ直ぐ帰路に着いた。

そして自宅に入る。

「……ただいま」

「おかえり咲希」

奥のリビングから"叔母"である多恵子の声が聞こえて来る。

しかしその声には反応せず咲希は真っ直ぐに自室へ入っていった。

なんとその部屋は真っ暗な闇のような空間が無限に広がっていて何やら"巨大な聖杯"のようなものがあった。

そこにある椅子に座ってリラックスする。

「あの男、愛里に近づいた……」

先ほどの純希の事を思い出す。

気安く愛里に話しかけたと思えばLINE交換までした事に腹が立つ。

「どうした、また困り事か?」

すると闇の奥から声が聞こえて来る。

コツコツという足音と共に"スカジャンを纏った白髪の男"が現れた。

「……ルシフェル」

"ルシフェル"。

そう呼ばれた男は空間に置かれていたソファにドカッと座った。

「大好きな愛里ちゃん、男に取られちまうのかぁ?」

咲希を煽るような言い方をするルシフェル。

「何言ってんの、そんな事させない……!」

中央にそびえ立つ巨大な聖杯に手を当てる。

「愛里はアタシが守るって決めたから……!」

その様子を見てルシフェルは笑う。

「ヒヒヒヒ、それじゃあ………」

「………」

「殺っちゃう?」

「……殺っちゃおう」

二人は意気投合しお互いを見合った。

「ヒヒ!そうこなくっちゃなぁ!」

そして咲希はスマホを開いて謎の"SINNER"と書かれたアプリを開いた。

そこには大量の罪獣のリストがカタログのように載っている。

「行くよ、"サブノック"……!」

そしてその第四ノ罪獣サブノックをタップし"召喚ボタン"を押した。

場所は都会、そこでバイト終わりの純希は高校の友人たちと会っていた。

「うぇいお待たせ〜」

「遅いぞ〜」

そしてブラブラ歩いている。

「どこ行く?」

「やっぱダーツとかビリヤード出来る所がいいよなぁ」

そんな呑気な事を話していると突然辺りの空気が凍りついた。

「急に寒気が……」

するとどこかの方角から雄叫びが聞こえる。

「ガァァァァキイィィィンッ!!!」

まるで金属音のような音が大音量で響いた。

「うるせぇーーっ!!」

周りの人々は皆耳を押さえている。

「おいアレ!」

友人が指さした方向を見るとそこには驚きの光景が。

「……マジかよ」

そこにいたのはまさに第四ノ罪獣サブノック。

「ガァァァァキイィィィン!!!」

猿が木を伝うようにビルを軽々しく伝っている。

「罪獣だぁーー!!!」

街にいた人々は一斉にパニックになって逃げ惑う。

「ぐっ……!」

純希は人混みに呑まれ友人たちとはぐれてしまった。

「ヤバい……!」

するとすぐ目の前にサブノック。

「キィィィンッ」

耳をつん裂くような音が響き渡る。

突然の死という恐怖が彼の目の前まで迫っていた。

「えっと残り50ピース……」

一方快はチキン店で在庫を数えていた。

計算機代わりにスマホの電卓を利用している。

「ん?」

そんな快のスマホに通知が。

『またもや罪獣出現』

「!!」

そのニュースを見て快は慌てた。

今はバイト中なので行けば抜け出す事となる。

しかし行かなければならない、ヒーローにならなければいけないのだ。

「そーっと……」

先輩の動向を伺いながら静かにバイト先の外に出た。

「よし、ここなら」

誰もいない先程まで純希や愛里たちと一緒にいた店の裏でグレイスフィアを取り出す。

それに合わせてグレイスフィアは輝き始めた。

「行くぞ、ハァァッ!」

溢れる光を握り締めゼノメサイアに変身を遂げる。

「セアァッ!!」

純希のいる街へ飛んで行く、ヒーローになるために。

「ひっ……!」

目の前まで迫るサブノック。

キョロキョロと何かを探しているように見える。

「お、いたぜ?」

一方で咲希とルシフェルはドローンとそのカメラで様子を確認していた。

そのカメラで純希の姿を確認する。

「よぉぉし、捻り潰せぇ!!」

指示を出されたサブノックは純希の方を向く。

「ギュゥルルル……」

「こっち見てる……⁈」

そして怯える純希にサブノックの爪が振り落ろされようとしていた。

「うわぁぁぁっ!!!」

「ガァァァァキィィィッ」

そこへ。

『トォリャッ!』

ゼノメサイアが駆けつけて飛び蹴りでそれを阻止する。

「っ……⁈」

純希は涙目で驚きの顔を見せる。

『ハァァ……』

そしてゼノメサイアはすぐ下にいる純希の存在に気付いた。

『え、純希……⁈』

まさかこんな所にいるとは知らずに快も驚いている。

てっきりバイトが終わった後は家に帰っているものだと思っていた。

「ギィィィンッ……」

混乱しているがサブノックは待ってはくれない。

すぐさま立ち上がりゼノメサイア目掛けて構えを取った。

『セアッ!』

もうこうなったら腹を括るしかない。

純希に死なれたら"見返す"という目標が叶わなくなってしまう、それだけは阻止したかった。

『ハッ!』

飛び上がりなるべく純希から離れたビルの上にに再び着地した。

『結構逃げてる人が多いな……』

前回は山中だったので気にせず戦えた、前々回はお互い飛べたので地上への被害を少なく出来た。

しかし今回は人が多く相手も飛べそうにない。

どうやって戦うべきか。

「ギィィィ……ッ」

悩んで行動できずにいるとサブノックは突然ゼノメサイアを無視して振り返り純希の方に向き直った。

「えぇっ⁈」

再度矛先が自分に向いた純希は驚愕の声をあげる。

『何でっ⁈』

ターゲットをこちらに移せたと思っていたため少し安心してしまっていた、それなのにまた戻ってしまい焦る。

『デアッ……!』

人がいないのを確認しサブノックの所へ降りて背後から首を締め付け動きを止めた。

「ギギギ……ッ」

しかしサブノックは止まってはくれず暴れまわる。

その影響でゼノメサイアまで振り回されてしまい周囲のビル群へぶつかってしまった。

『あぁっ!!』

なるべく被害を出さないように気をつけていたがこれでは意味がない。

今ので何人を巻き込んでしまったか。

『(純希を守るためとは言えコレは……っ)』

自らの夢のために一人を守る事で無関係の大勢を犠牲にしてしまうかも知れない。

その考えが余計に不安感を高めてしまう。

『クッソぉぉぉ!!!』

何とかサブノックを締め上げながら全力で持ち上げる。

「グギギギッ……!」

苦しそうな声を上げるサブノック。

ゼノメサイアはこのまま人の少ない所へ連れて行こうとした。

しかしそれを許してはくれない。

「ギィィィンッ!!!」

突如としてサブノックは全身を捻って振り返りゼノメサイアの腕から逃れる。

そのままの勢いでゼノメサイアの胸部を鋭い爪で切り付けたのだ。

『グアッ……⁈』

胸部に傷をつけられそこから緑色の血液のようなものが飛び散る。

「ガァァァァキィィィッ!!!」

そしてそのままサブノックはビル群を伝いながらゼノメサイアの周囲を翻弄するように回る。

『ッ……⁈』

サブノックが回るビル群はその衝撃で少しずつ崩れていく。

『あっ、そんな……!』

せっかく街に被害を出さないようにと戦っていたというのに容赦なく壊されてしまった。

「ギギギィィンッ!!!」

そしてそのままの勢いでゼノメサイアを切り付けた。

『ドワァァァッ……!!』

大ダメージを負ってしまい後方に大きく吹き飛ばされた。

ドローンで様子を見ていた咲希とルシフェル。

「ギャハハ!これで戦いやすくなったろ〜?」

街が破壊され守るものがなくなった事で存分にゼノメサイアが戦う事が出来ると踏んだルシフェル。

「アンタ煽りすぎ。いくら罪獣に指示出せるからって調子乗ってると失敗するよ」

咲希がウザそうにルシフェルを横目で見ていた。

「だってまたと無いチャンスなんだぜ?ゼノメサイアがこんな弱い事あるかよ!」

そのまま叫びながらサブノックに更なる指示を出す。

「こんなヤツに託したのが間違いだったなぁ!」

テレパシーのようなものを受け取りサブノックはルシフェルの指示通りに動いた。

「ガァァァギィィィンッ!!!」

そのまま崩れたビルの残骸をゼノメサイアに大量に投げつけていく。

『オォォッ……⁈』

まるで守るものを失ったゼノメサイアを煽っているようだと当人も感じていた。

『(こんなやり方……っ!!)』

ヒーローになるはずだったというのにどんどん街が壊されていく。

上手く出来ない事に無性に腹が立ってしまった。

『このままじゃダメだ……!』

そう思い何か行動を取ろうとするが隙がない。

サブノックは止まらずに瓦礫を投げ付けてくる。

残ったビルの影に隠れるのもヒーローとしてどうなのかと考えてしまい動く事が出来なかった。

『グゥゥゥッ……⁈』

ドローンで見ていたルシフェルも余計に調子に乗る。

「おいおい本当にお終いなのかぁ?流石にそれじゃつまらな過ぎるぜっ!!」

そのまま決めてしまおうと瓦礫を取ろうとするがある事に気付く。

「あ、もう瓦礫ねぇじゃん」

調子に乗りすぎたため周囲の瓦礫を投げ尽くしてしまったのだ。

「しゃーねぇ、新しいの取るか」

新たな瓦礫を作るための指示を出しサブノックを移動させる。

まだ崩れていないビルが並ぶ辺りにやって来るとある人物を見つけた。

「ん?あぁコイツ忘れてた」

下には腰を抜かしてしまい動けない純希がずっと同じ場所にいた。

「あぁぁ……っ」

サブノックに気づかれた事を察して震えている。

「とりまコイツ殺すのが目的だろ、殺っちゃっていいか?」

隣でモニターを見ている咲希に念のため確認する。

「いいよ、早く片付けちゃって」

許可を取る咲希。

その言葉を聞いたルシフェルは純希を殺すようサブノックに指示を出した。

「ガァァァァキィィィンッ!!!」

ルシフェルの指示通りに鋭利な爪を立て純希を睨む。

「ひっ……」

そのまま勢いよく爪を振り下ろした。

「うわぁぁぁぁっ!!!」

叫びながら目を瞑ってしまう純希。

覚悟も決まらないまま死んでしまうと思った。

「…………あれ?」

しかしいつまで経っても死はやって来ない。

恐る恐る目を開けてみると。

「っ⁈」

目の前には予期せぬ光景が広がっていた。

『グゥゥゥッ……』

なんとゼノメサイアが間に割り込み純希を庇って代わりに爪の攻撃を食らっていたのだ。

深く鋭利な爪が突き刺さる背中からは緑色の血液のような光が溢れている。

『だからっ、お前に死なれちゃ困るんだって……』

自分にしか聞こえない声で小さく呟く。

視界には訳も分からず腰を抜かして震えている純希がボンヤリと写っていた。

『俺が立派なヒーローになってお前を見返すまで……』

力を込めて立ち上がる。

そして思い切り背中でサブノックを吹き飛ばした。

『死なれちゃ困るんだよ!!!』

勢いよく後方へ吹っ飛んでいくサブノック。

倒れている隙にゼノメサイアは振り返りエネルギーを溜める。

『オォォォ……ッ』

まるで背後の純希に見せつけるように。

『見てろよ、俺がお前のヒーローになるとこ……!』

そして一気に神の雷を放った。

『ライトニング・レイ!!!』

一直線にサブノックへと向かって行き命中。

「ギィィアアァァァァンッ……!!!」

そのまま大爆発を起こして消滅した。

周囲に多少被害は出てしまったが最初の頃よりはかなり威力を抑えられている。

『ハァ、ハァ……』

息を切らしながら純希の方へ向き直る。

「すげぇ……」

純希はその現実離れした凄まじさに圧倒されていた。

そしてゼノメサイアは消える。

勝利を飾り今回の件は幕を閉じた。

サブノックが倒された事をルシフェルは少し嘆いていた。

「あークッソ、殺せなかった……!」

純希さえ殺せなかった事を悔やんでいる。

「はぁ、おつかれ」

そう言って咲希は部屋を出ようとした。

「あ、もう良いのかよあの男は?」

「いいよ、もうどうでもいい」

光を失った瞳を見せながら咲希は言った。

翌日、快はまたバイトに行ったが出勤した途端にこっ酷く叱られた。

「昨日は突然バックれやがって、どんだけ大変だったと思ってんだ!」

先輩は変身した時に抜け出したのを怒っているのだ。

しかし正体を明かせない快は何とか上手い言い訳はないかと考えた。

「罪獣出たってニュース見たので……」

怖かったからという理由を言ってみる。

しかし話は通じなかった。

「全然遠い所だったろ?ここから逃げる必要ないだろ!」

ヒーローになった事とは裏腹に現実の自分は褒められるどころではなかった。

「おはようございまーすっ」

なんとそこへ純希も出勤してきたのだ。

先輩は心配の声をかける。

「お前大丈夫なのか?昨日目の当たりにしたんだろ?」

それに対して純希は元気に笑って言った。

「確かに怖かったっすけどお陰で怪我してないんで!」

その言葉に先輩は疑問を抱く。

「お陰?」

「誤解してましたわ、ちょっと申し訳ないっ」

やり取りを聞いている快はまさかと思った。

「ゼノメサイアが助けてくれたんです、やっぱアイツ凄げぇヒーローっすわ!!」

そんな風に言ってくれる。

「!!」

しかしまだ快自身が認められた訳ではない。

いつかそうさせるために頑張ろうと踏むのであった。

そしてその日の仕事中。

快は純希と二人で洗い物をしていた。

「ゼノメサイア間近で見ちまった、迫力ヤバかったぜ」

「そっか……」

「お前も頑張れよヒーロー、あんな風になってやれ!」

その言葉で分かる、彼はやはり快自身をヒーローとしては見ていない。

「あぁ、頑張るよ……」

しかしこの出来事をモチベーションに頑張ろうと思えた。

すると純希は話題を変える。

「そいえばさ、お前はキューピットだから伝えないとなと思うんだよ」

「何それ?」

キューピットとは一体どういう事だろうかと思って耳をすませていると驚愕の言葉を純希は発した。

「今度の休みになんと!愛里ちゃんとデートする事になりましたー!!」

一瞬時が止まった気がした。

「え……」

流石に早すぎると思ってしまった。

しかしLINEのトーク画面を見せられ事実と知ってしまう。

愛里との関係、一体どうなってしまうのだろうか。



つづく

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