第6界 スコシズツ
突如としてゼノメサイアとルシフェルの戦いに乱入してきた軍事組織Connect ONE/コネクトワン。
「遅ぇんだよ成り損ないがぁぁっ!!!」
飛行型の戦闘機、"ウィング・クロウ"に搭乗するのは"陽・トゥブジー(ヨウトゥブジー)"隊員。
黒髪の短髪でサングラスを掛けた荒々しい口調が特徴の人物だ。
アラブ系の血統を持つハーフでもある。
ルシフェルの攻撃を華麗に避けて背後に周りビーム状の弾丸を命中させる。
「グギャッ……⁈」
「どうだ撃たれる側になる気分はぁ⁈」
空中で見事なターンを決める。
そして次は軽量の素早い陸戦兵器。
「ライド・スネーク出陣!!」
そして陸上を高速で走る車、"ライド・スネーク"に搭乗するのは"早川竜司(ハヤカワリュウジ)"隊員。常に棒キャンディを咥えている。
長めの茶髪で顔は整っており陽気な性格だ。
「おっと……」
目の前には瓦礫の山。
普通ならば通る事は出来ないがこんな時そこライド・スネークの力の見せどころだ。
「蘭子ちゃん、アンチ・グラビティだ!」
無線機を使い何処かへ話しかけている。
その通話先はここから少し離れた空からオペレーションをしている母艦"キャリー・マザー"だった。
「分かってるっつーの!指図すんな!」
SFチックな雰囲気のキャリー・マザーの中で大きなコンピュータの前に座る小柄でショートヘアな女性がいた。
ドーナツをかじり口いっぱいに頬張りながら高速でタイピングをしている。
彼女の名は"茜 蘭子(アカネランコ)"。
オペレーターであり着崩した隊服を身につけている。
「アンチ・グラビティシステム起動!」
そして力強くエンターキーを押すとライド・スネークのタイヤにエネルギーが伝わる。
その瞬間機体は重力に少しだけ逆らい壁などを伝って走り始めた。
「ふぅー!絶好調だぜぇー!」
「先行しすぎんな!」
テンションが高い竜司と怒る蘭子。
怒りながらもドーナツを食べる手は止めない。
「食らえやっ!」
そして飛び上がったランド・スネークは機体の先端から大型砲撃を一発放った。
ルシフェルはそれに対応する。
「食らってばかりいられるかっ!」
掌から獄炎を放とうとした。
ライド・スネークは勢いが出過ぎていたため避けられない。
「やべ」
「あ、だから……!」
言わんこっちゃないと蘭子は一瞬ドーナツを食べる手を止めてしまう。
竜司は万事休すかと思った。
その時。
「多連装ミサイル発射っ」
寡黙で屈強な糸目の男、"名倉雄介(ナグラユウスケ)"という隊長が乗る機体であり巨大な戦車のような出立の"タンク・タイタン"がミサイルポッドから大量の小型ミサイルを放ち見事ルシフェルに命中させる。
「ゥガァッ⁈」
爆風に呑まれルシフェルはライド・スネークへの攻撃を阻止されてしまった。
「ほぉっ、サンキュー隊長!」
「うむ」
冷静に頷く名倉隊長。
しかし無線では蘭子の怒る声が聞こえていた。
「だから言ったじゃん!先行しすぎだって!!」
「ごめんごめん」
しかし反省している素振りは見せず半笑いで謝る竜司。
こう言った軽い所も彼の特徴だ。
するとルシフェルが突然大声を上げる。
「グガァァァァッ!!!」
辺りに響き渡るその怒号に一同は注目する。
「クソッ、クソォッ!コイツらここで来るのかよっ、何やってんだ全部台無しじゃねーかあの野郎!!」
そう心の中で叫びながら赤黒い闇を放っていく。
「尻尾巻いて逃げるかぁ⁈」
そう煽る陽の予感は的中しルシフェルの姿は完全にその場から消えた。
「逃げられた!」
咥えていた棒キャンディを噛み砕く竜司。
「…………」
そしてリアクションをしていない名倉隊長は冷静に指示を出した。
「……帰投せよ」
一言で簡潔に指示を伝えた。
他の隊員たちは不本意だったがこれ以上ルシフェルを追う方法はないため仕方なく了承した。
「了解っ……」
その声と同時に上空に現れるキャリー・マザー。
「ほら、迎えに来たよ」
キャリー・マザーに他の三機は接続され回収。
そのまま帰投していく。
そしてゼノメサイアがその場にポツンと残されてしまった。
「(俺一人じゃ何も出来なかった……)」
そう感じた途端、脳裏にフラッシュバックのような映像が流れてくる。
「っ……⁈」
その映像の中では今と同じように組織が活躍していた。
余計に自分の存在意義が分からなくなる。
・
・
・
そして人間としての創 快の姿に戻る。
その瞬間力も抜けて膝から崩れ落ちた。
「俺の存在する意味って何だ……?」
何も出来ずに活躍の場を突然現れたプロのような存在に奪われてしまった。
ヒーローらしからぬ失態だと感じてしまう。
その失態と更に愛里や純希を危険な目に遭わせてしまったという失態。
その二つの絶望感に襲われ快の心は荒んでいた。
『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』
第6界 スコシズツ
ここは咲希の部屋であり聖杯の聳える真っ暗な空間。
「ルシフェル、アンタ何やってんのさ……!」
咲希はノコノコと帰って来たルシフェルを咎めていた。
「しゃーねーだろ、こんなに早く組織が動くとは思わなかったんだよ……」
「そうじゃない!アンタよくも愛里を撃ったね……⁈」
涙目になりながらルシフェルの胸ぐらを掴む。
「乱射を始めた時点で嫌な予感はしてたんだ、でもまさか愛里まで傷付けるなんて……自分でもそれがどう言う意味が分かってるでしょ⁈」
そしてルシフェルはその胸ぐらを掴む手を払い除けて言い訳をした。
「だからしゃーねーだろ!焦ってたんだ……」
しかし咲希の怒りは収まらない。
「仕方ないで済ませられる問題じゃないでしょ⁈愛里がアタシ達にとってどれだけ大切なか、愛里がいなけりゃ"ゲート"が開かないじゃない!」
そして核心に触れる一言を。
「"あの人"を神として迎えられなくなる……!」
その神という言葉を聞いてルシフェルは大きく反応した。
「ちっ……」
舌打ちした後、少し咲希に合わせるかのように言葉を連ねた。
「うるせぇ!とにかく俺は休ませてもらうぜ……!!」
誤魔化すようにそう言ってソファに座る。
「アンタはいつもそうだ、その時の感情に任せすぎてる……」
「だから焦ってんだよ……」
「何言ってんの、まだ始まったばかりじゃない?」
そう言ったやり取りをしているとルシフェルの瞳から輝きが失われる。
「はぁ?全然始まったばかりなんかじゃねーんだよっ!」
そう意味深な言葉を呟いてルシフェルは貧乏ゆすりを始めた。
「そうだったね、アンタにとっては」
咲希も意味深なルシフェルの言葉を理解しているかのように答えた。
☆
ここはConnect ONE極東本部。
ルシフェルとの初陣を終えたTWELVEの隊員たちが帰って来た。
司令室へ向かうため廊下を歩いている。
廊下ですら非常にメカニックで豪華なデザインをしており、最新鋭の技術で作られている事がそれだけでわかる内装をしていた。
「ふんふ〜ん」
鼻歌を歌いながら新たな棒キャンディの包みを開ける竜司。
それに腹が立ったのか蘭子はその脛に蹴りを入れた。
「フンっ!」
「痛って!ほぉぉ〜〜!!」
オーバー過ぎるリアクションで飛び跳ねる竜司。
「そのオーバーリアクションむかつくんだっつーの!いつも言ってるじゃん!!」
竜司と比べて非常に小柄な蘭子だが気はかなり強い。
「ひぃっ……」
一方隣でその様子を見ていた陽は先程までの荒々しい雰囲気とは打って変わって非常に腰の低い人相になっていた。
常に何かに怯えている雰囲気で着用しているのもサングラスから眼鏡に変わっている。
「アンタ分かってんの?」
「な、何が……っ」
一方で蘭子と竜司はまだやり取りを続けている。
「あの自分勝手な戦い方何?自分一人で突っ走るんじゃないっつーの、隊長が助けてくれなかったら死んでたじゃん!」
そう言って注意する蘭子だが竜司は反省の色を全く見せない。
「おぉ、そんなに俺が心配だったか蘭子ちゃん?嬉しいね〜」
その空気の読めない発言には一同が凍り付いた。
「……フンっ」
そして呆れた蘭子は今度は竜司の股間を蹴り上げた。
「ぁっ、がぁっ……」
あまりの衝撃に声も出せずに倒れ込んでしまう。
「竜司くんっ……⁈」
気弱な陽が心配そうに駆け寄るが当の蘭子は無視して先に進んでしまった。
「一人が勝手な事すると全体に迷惑かかるから言ってんの!誰があんたの心配なんかするか!」
そう言って進んでいき姿を消す。
竜司はまだ股間を押さえて倒れていた。
「だ、大丈夫……っ⁈」
陽はオロオロしながら心配している。
「…………」
一方無言でその様子を見つめる名倉隊長。
「(今の蘭子の言葉、隊長の俺から言いたかった……)」
どうやら彼はコミュ障らしい。
寡黙に見えるのもそのためだ。
言いたかった事を蘭子に先に言われてしまいコミュ力の差を感じ少し落ち込んだ。
☆
その後、実動部隊TWELVEの四人は参謀たちの会議に呼ばれていた。
初陣の結果についてだ。
会議室と呼ばれるその部屋はSFチックな施設の中にあるとは思えぬほど古風な部屋であり蝋燭やシャンデリア、そしてオルガンなどが置かれ壁には沢山の絵画が飾られている。
まるで教会のような内装だった。
その部屋の中央に机が置かれ囲むように三人の参謀たちが座っている。
だと言うのにTWELVEは端の方で立たされていた。
「予定を早めた初陣にしてはよくやったと言えよう。しかしまだ個々の力量に問題はあるな」
まるで彼らを認めていないかのような言い方をする参謀の一人。
その見た目だがその参謀は宣教師のような服装をしており他の者とは違った。
「特に早川竜司。一人で先行するなど君の器に相応しくない、神に与えられた自らの役割を自覚したまえ」
この話はいつも聞かされているため竜司は適当に受け流す。
「へーい」
しかしその軽い返事を参謀たちは気に食わなかったようだ。
「もっと真面目に聞きたまえ、神の御心の話をしているのだぞ?」
参謀は熱心に神の事を語り始める。
「一人に出来る事は限られている、自分の範疇を超えた野心は身を滅ぼすだけだ」
「分かってますよ……」
TWELVE隊員たちはこの参謀にはウンザリしていた。
口を開けば神の話ばかりであるためだ。
「罪人の君たちに神は慈愛の心を持ち役割を与えて下さったのだ、従わない理由がどこにある?」
更に詰め寄る参謀たち。
「お前たちには信仰心というものが足りない……」
いい加減竜司は苛立ちが募って来た。
「あのっ……!!」
とうとう我慢できなくなり反抗をしようと口を開いた時、それを察した参謀の中のある一人がそれを止めた。
「まぁまぁ、何度も言ってる事ですし彼らも分かっている事でしょう!」
参謀の中でも明るい男性が竜司を助けるように発言する。
彼は研究者のような白衣を見に纏っていた。
「確かに今はそのような話をしている場合ではありませんね」
もう一人の軍服を着た参謀も同意した。
それにより参謀たちはTWELVEを咎めるのを止めた。
「ありがとう時止さんっ」
「あいよ」
竜司はその"時止/トキトメ"という違い白衣を身に纏った男に感謝を述べる。
するとその時止はウインクをして応えた。
「む……」
するとそこで会議室の扉が開く。
「遅れて申し訳ないねみんな」
そこから現れた男の姿を見て参謀たちは一斉に立ち上がった。
「新生長官!」
そして頭を下げる。
その長官と呼ばれた男を見たTWELVE達もそれぞれ反応を見せた。
「やっと来た……!」
少し安心したような表情を浮かべる陽。
そして竜司も同様に頬が緩む。
一番大きなリアクションをしたのは蘭子だった。
「新生さん〜!」
先程までのツンツンした雰囲気から一気に崩れて乙女のような表情を見せる。
「やぁお疲れ、元気そうで良かったよ」
TWELVE隊員たちにも挨拶をしたその長官は蘭子の頭を撫でてから中央に立った。
「では報告を頼むよ、雄介」
名倉隊長に現場の報告をお願いする。
その長官と呼ばれた男、"新生継一/シンジョウツギイチ"は怪しげだが優しい雰囲気を出して彼らを纏める神父のような存在なのだ。
☆
新生長官に報告を頼まれた名倉隊長は喋る事に緊張しながらも一歩前へ出て現場で見たものを伝える。
「えー現場ではゼノメサイアとルシフェルが交戦中で我々が割って入りました、どうやらゼノメサイアが劣勢だったようです……」
喋るのが苦手な名倉隊長は必死に頭を回転させながら言葉を選ぶ。
その様子を新生長官は微笑ましそうに見ていた。
「その調子だよ」
時折優しく声を掛けてあげる。
「我々の攻撃は通用しました、それでダメージを負ったのか突如逃げるように消えた……といった感じです」
個人的にはこの説明で満足しているが参謀たちはまだ聞きたい事があるようだ。
「ヤツはどのように消えた?走って逃げたのかそれとも瞬時に姿を消したようだったか?」
その詰め寄るような質問に慌ててしまう。
「えっと、消えました……」
それしか言葉が出てこない。
「どのようにだと聞いている」
「っ……」
上手く話せない事を咎められ更に詰め寄られてしまう。
名倉隊長は必死に頭を回転させるが思考が止まってしまった。
そこへ竜司が助け舟を出すように乱入する。
「何か赤黒い闇っぽいのに包まれて消えましたよー?」
実際に見たものを伝える。
「ふむ、やはりバベルか」
「ルシフェルも堕ちたものですね」
すると参謀たちは意味不明な会話を始めたがそれはいつもの事のためTWELVE隊員たちは聞き逃した。
しかし一人だけ違った。
「あの!」
声を上げたのは蘭子。
「いい加減その訳わかんない話の内容教えてくれません?大事なことなら現場に出てるあたし達にこそ教えて欲しいんですけど!!」
少し怒った様子で言う蘭子に参謀たちは答える。
「言葉を慎みたまえ、君たちは何も知らず神に与えられた役割を全うすればいい」
しかし投げ出すような答えだったため一同は納得いかない。
「分からない事だらけだ……」
不安感がより高まる陽。
高い身長と濃い顔に合わず常に萎縮している。
そんな陽を見て軍服を着た参謀は言葉を投げかけた。
「我々も君たちのような"外部からの寄せ集め集団"に運命を託さねばならない現状が不安なのですよ、一般職員も同様です」
自らの不安を主張してくる。
「ゼノメサイアにも失望したしな、神の御心だと信じたいが肝心の中身がアレでは……」
「……!!」
ゼノメサイアの話題が出て名倉隊長は反応する。
「(ゼノメサイア、我々と同じ罪獣と戦う者……)」
雰囲気が明らかに暗くなっていると新生長官が場を明るくしようとした。
「みんな暗いよ?神の御前だ、もっと先に進むための話をしなければ」
そしてTWELVEを慰めるように言う。
「それにTWELVEはまだメンバーも揃っていないしゼノメサイアも慣れていないんだろう、これからに期待するとしようじゃないか」
その発言を軍服を着た参謀は少し疑問に思う。
「お言葉ですが長官、少々TWELVEに甘いのでは?」
そして新生長官は答える。
「彼らは大切な仔羊だからね」
意味深にそう呟いた。
「いいかい?これからのTWELVEはゼノメサイアと共に戦う事を命ずる!」
「了解……」
力なく返事をした事をまた参謀が咎めようとするが新生が静止した。
そしてまとめに入る。
「では会議を終わろう、最後に一言」
そして両手を上げて大声で言った。
「神の御心のままに!」
呼応するかのように参謀たちも言う。
「「神の御心のままに!!」」
その言葉をTWELVE隊員たちが言う事はなかった。
・
・
・
会議が終わった後、TWELVE隊員たちは休憩室にいた。
「ったくよぉ、居心地最悪だぜぇ!」
「うん、何か嫌だったな……」
竜司と陽は自販機のコーヒーを片手に愚痴を言っていた。
「ってかこのコーヒー不味っ、蘭子ちゃーん!」
そして蘭子を呼び出して一口だけ飲んだコーヒーを渡す。
「コーヒー好きだったよね、いる?」
「不味いならいらない、あたしは美食家なの」
そう言って自分で淹れたコーヒーの入った保温の水筒に口を付けた。
「ちぇ〜」
そんなリアクションをする竜司だったがある事を口に出す。
「ってかここも居心地最悪だな」
その言葉の意味とは。
辺りにいる同じように休憩をしていた一般の職員たちだ。
「……ちっ」
睨むような視線を感じる。
「仕方ないよ、僕らはイレギュラーなんだから……」
肩を落としながら言う陽に竜司は更に言う。
「だからって戦えるのは俺たちだけだぜ?だからここに居るんだろ、文句あるなら自分で戦えってんだ」
すると職員の一人が竜司の所にやって来て詰め寄る。
「戦えるなら戦ってるさ!機体の適性がないんだ、仕方ないだろ!!」
しかし怒りをぶつける理由はそこではない。
「それを適合できるからって理由だけで素人同然のお前らに立場奪われて、気分最悪だ!」
それだけ言って彼は背中を見せて去っていく。
「俺たちならもっと上手く戦えた……!!」
悔しそうに嘆いている。
それを見たTWELVE隊員たちは各々が複雑な感情を抱いていた。
「はぁ……」
ため息を吐く竜司。
このような嫌な視線で見られるのはここに来た時からずっとなので流石に飽きたのだ。
「…………」
一方で名倉隊長が考えていた事とは。
「(ゼノメサイア。我々と同じように期待されたと思いきや失望される、一体何者だ?君は何故戦う……?)」
ゼノメサイアの正体について一人考えていた。
☆
一方ここは創家。
どうやら快は出かける準備をしているようだ。
手に持ったスマホには瀬川とのLINEトーク画面が開かれている。
『ごめん、俺が誘ったばかりに……』
文面で快が今回の事件に巻き込まれたのは自分が高円寺に誘ったせいだと言うような事が書かれている。
それに対し快は簡単に「お前のせいじゃない」とだけ返した。
そして玄関に向かいスマホをポケットにしまう。
「え、どこ行くの……?」
玄関で靴を履いていると姉である美宇が心配そうに声を掛けて来た。
「与方さんのお見舞い……」
快は撃たれた事により入院した愛里のお見舞いに向かうのだ。
しかし美宇は止めようとして来る。
「割と病院遠いでしょ、どうしても行かなきゃダメ……?」
何故こんな風に止めるのか分からなかった。
「だって俺のせいで怪我させちゃったんだ、意識戻ったみたいだし謝りたい……」
しかし美宇も退かない。
「快が外出る度に事件に巻き込まれるから心配なのっ、一人で待ってる間どんだけ怖いと思ってるの……?」
そして本音をぶつける。
「父さんと母さんが殺された時一人で家で待ってた時を思い出すの、お願いだから心配かけないで……?」
美宇はかつての自分を思い出していた。
一人で家で待っていて中々家族が帰って来ないので心配になっていた所に警察から電話が。
訃報を知らされた時に絶望、一人で待っている事が怖くなったのだ。
「〜〜っ」
しかし快にも秘めた想いがある。
どうしても美宇が鬱陶しく感じてしまう。
「俺だってヒーローになれずにもどかしいままでいるのは嫌なんだ、何もしないでいられない……っ!!」
そう言って腕を掴んで来る美宇の手を無理やり離し家を出る。
「待って……!!」
玄関には髪の乱れた美宇が一人へたり込んでいた。
☆
何とか美宇を振り切った快は一人で愛里の入院する病院へ来ていた。
エレベーターに乗りLINEで送られて来た番号の病室へ向かう。
「(707号室か……)」
その病室の前までやって来ると中から話し声が聞こえた。
愛里の声ともう一人分の女性の声。
これは咲希のものだろうか。
「え⁈じゃあ創のこと庇って撃たれたって事⁈」
驚くような咲希の声が聞こえる。
「アイツ、ヒーローになりたいとか言っておきながら……」
それを聞いた快は思わずドアノブに掛けようとした手を止めてしまう。
「そこまで言わないであげてよ、快くんだって選ばされて辛かったろうし……」
愛里は庇ってくれていたが。
しかし"また"庇ってもらったという事実に余計に胸が苦しくなる。
「え、ていうか快くんの夢知ってるの?」
愛里は快が直接話してくれるまで知らなかった。
全く二人が話している様子を見ていなかったため咲希が知っているのは驚きだったのだ。
「一応小学校のころ同級生でさ、アイツ高々と"ヒーローになる"とか宣言してたのよ」
咲希はかつての荒れていた快の様子を思い出した。
「その割にしょっちゅう問題起こしてさ、ヒーローの器じゃないと思ってたんだけど……」
咲希には咲希なりの思う事がある、彼女にとって愛里と快の能力は何よりも大切だから。
しかしそんな事情を知る由もない快はただただ自分が悪く言われたと感じ最悪な気分になった。
「〜〜っ」
そのまま病室には入らずその場を後にした。
早歩きで病院の廊下を歩き去ろうとする。
「はぁ、はぁ……」
その道中に動悸が激しくなる、パニック発作がこんな時に起こってしまったのだ。
一息ついて動悸を抑えるために快は病院内の自販機で缶コーラを買い入口前のベンチの腰掛けた。
するとそこである人物が。
「……アンタ何してんの?」
その人物とは先程まで愛里の病室にいた咲希だった。
どうやら丁度帰る所らしい。
「あ、河島さん……」
鋭い瞳で快の顔を見て来る咲希に少し恐怖を感じてしまう。
先程聞いてしまった会話の内容もあってか何と話せば良いか分からなかった。
「愛里のお見舞い来たの?」
「あ、うん……そのつもりなんだけど何かどんな顔して会えばいいのか分からなくて……」
上手く呂律が回らずに言葉を伝えられたか分からない。
しかしその心配はいらず咲希には伝えたい意図が伝わったようだ。
「……行くなら早く行ってあげな?愛里も待ってると思うし」
そう言う咲希だが快は悪い癖で卑屈になってしまう。
「本当に待ってくれてるのかな……?俺のせいで怪我させちゃったし、せっかくヒーローになること応援してくれた矢先にこれじゃ……」
そんなネガティブ発言をする快に咲希は呆れる。
「はぁ、アンタもアンタで色々面倒だね」
「どういう事……?」
「こっちの話」
そこから咲希は少しアドバイスをした。
「あのさ、ここで行かなきゃ本当にヒーロー失格だよ?責任も果たせないようなヤツが真のヒーローになれると思う?」
その言葉を聞いて快は少し考える。
元々責任を感じていたからここに来たという事を思い出した。
「……分かったよ」
重い腰を何とか持ち上げて快は病院の中へ戻って行った。
☆
愛里の入院している707号室の前に戻って来た快。
恐る恐る扉をノックするといつもの彼女の声が聞こえた。
「はーい」
元気そうな事に安心したがやはりドアを開ける事には緊張してしまう。
ゆっくりと非常に重たく感じる扉を開けるとそこにはベッドに横たわった病院服姿の愛里がいた。
「快くん!来てくれたの?」
「うん……」
優しい笑顔を見せる愛里に喜んでくれているのだと少し安心した。
ベッドの横の椅子に腰掛け何から話そうかと考える。
すると。
「あ……」
机や棚の上にお見舞いで持って来られたであろうお菓子や果物が置いてあるのを見て何も用意していない事に気付く。
「ごめん、見舞いの品とか考えてなかった……」
とにかく責任やヒーローとして相応しいのかという事ばかり考えてしまっていたためだ。
「いいのいいの、快くんだって大変だったのに来てくれただけで嬉しい!」
しかし愛里は明るい笑顔を見せながら答えてくれた。
その笑った表情を見て快は胸が打たれる。
「凄いな与方さんは、あんな事があったのに笑顔でいられてさ」
羨ましいとすら思ってしまう。
「俺なんかずっとあの日のこと考えっぱなしで……」
ずっと後悔し続けてしまい思考が止まらない自分と愛里との差も感じてしまっていた。
「そっか、やっぱり辛いよね……」
すると愛里は同情するように言う。
「実は私も無理してるだけなんだ、みんなに心配掛けたくなくて……」
少し笑顔を崩して悲しそうな目になった。
「英美ちゃんの事も思い出しちゃって辛かった、こんなこと話せるの快くんとかさっちゃんだけだから来てくれて嬉しい」
そう言ってくれるのは非常に嬉しい。
少し快の心の枷も緩くなった気がした。
「快くんはあれからどうやって助かったの?」
「俺はゼノメサイアが助けてくれて……」
少しでも自分の他の姿での株を上げようと言ってみる。
「そっか、ゼノメサイアも危なかったみたいだよね〜」
「っ……」
「何か凄い組織みたいなの来たんでしょ?一緒に守ってくれる仲間がやってきてみんなもきっと安心できるよね」
何の悪気もなく言う愛里だからこそ余計に快は胸が苦しくなってしまう。
心の枷が軽くなった矢先の言葉だったため余計にダメージが大きかった。
「(違う、俺は要らないって証明されちまったんだ……!!)」
新たな戦闘組織の登場により自分は要らない、価値などないと改めて実感させられてしまう。
「俺はヒーローになれなかった……」
小さく呟くと愛里は一瞬何の事か分からないような素振りを見せる。
「……?」
しかしすぐに快の心情は理解し慰めるための言葉を放つ。
「ううん、快くんだって頑張ってくれたじゃん」
「え……?」
「純希くんと一緒に助けてくれたでしょ?私二人ともに感謝してる!」
そう言われてルシフェルに選択を迫られた時の事を思い出す。
「いや何も出来てないよ……結局俺は選べなくて純希が全部やってくれた、んで結局与方さんも撃たれちゃったじゃん……」
また卑屈な考えが止まらなくなってしまう。
せっかく愛里が励ましてくれたというのにこれでは申し訳が立たない。
「そんな事っ……」
否定しようとする愛里だがここでただ綺麗事を言うのは違うと思い言いとどまった。
「ごめん、俺帰るね……」
最悪の気分だった、せっかく責任を果たそうとしたというのに自分の事ばかり考えてしまった。
愛里も静止しようとするがそれすらやめて快が病室を小さな背中を見せながら出て行くのをジッと見つめていた。
「純希も愛されるヒーローだ……」
病室を出たすぐの壁に寄りかかり苦しそうにそう呟いた。
☆
愛里のお見舞いに行った後、快は夕方からのバイトの準備をするためなるべく急いで帰宅した。
すると玄関を開けた瞬間に美宇が涙目で駆け込んで来る。
「はぁよかった、本当に心配だったんだから……!」
抱きついて来ようとする姉を鬱陶しく感じ突っぱねると快はそのまま自室に入りバイトの準備に入った。
そして時間になったためバイトに向かおうとするとまた姉に声を掛けられる。
「あ、今日バイトだっけ……?」
やはり心配そうな顔をしている美宇。
「バイト先そんな遠くないから大丈夫だって」
「でも心配が過ぎるよ、今日くらい休めない?」
「前も罪獣騒ぎで抜け出しちゃったからさ、これ以上穴開ける訳にはいかないんだって……」
「やっぱ罪獣怖がってるじゃん、快も心配なんでしょ……⁈」
快が心配しているのは身の安全よりもヒーローになれないかもしれないという事だ。
咄嗟に吐いた嘘がこのように裏目に出てしまうとは思わなかった。
「俺もいつまでも子供じゃないんだ、自分の事くらい自分で責任取れるよ!!」
そう強く言ってしまい家を飛び出した。
とにかく姉に従いたくなかったのだ。
後悔と姉への鬱陶しさが同じくらい押し寄せ複雑な感情のままバイトへ向かう。
「(責任か……)」
愛里の見舞いでは全く責任など取れなかった。
自分がまだまだ一人では立てない未熟者であるという事を実感してしまい辛かったのだ。
☆
家を飛び出したため割と早めに出勤が出来た。
余裕を持って準備をし仕事を黙々と進める。
「…………」
共にバイトをしている先輩と純希はそんな快を心配そうに見ていた。
「アイツいつにも増して暗いな……」
「あんな事件ありましたからねぇ」
まるで他人事のような言い方をする純希に先輩は違和感を覚える。
「お前も巻き込まれたじゃん、大丈夫なのか?」
「大した怪我も無かったですし寝てる暇あるなら母ちゃんのために働くってのが俺にとって一番のメンタルケアですから」
笑顔を見せた純希はそのまま快の方へ歩み寄り仕事を手伝おうとした。
「ほら、一緒にやろうぜ」
快が器具を床に落としてしまったのを拾って手を差し伸べる。
「別にいいけど……」
その手を取らずに快は一人で立ち上がり純希が手伝う事は了承した。
「はは、バイト来れてよかったよ」
チキンの処理をしながら純希は少しでも場を明るくしようと声をかける。
「姉に逆らいたかった、心配ばっかするからさ……」
それでも快は暗いまま答えた。
「俺はヒーローになりたいのにそのチャンスすら奪われたらどうしようもないだろ……?」
美宇が心配ばかりして外出をするのにも制限をかける事に苛立っていると話す。
「でもお姉さんだって心配してくれてんだろ?」
「俺はもう子供じゃない、自分の事くらい自分で出来るのに……」
そう言って反論する快だが純希は今の快の仕事ぶりを見て言い返す。
「自分の事は自分で出来る?でも今お前仕事ゆっくりだしミスも目立つぞ?」
そう言って快の作りかけのチキンを指差してミスを指摘する。
「時間かかりすぎだし形も崩れてる。あんま強がるのはやめた方がいいぜ?」
割と真剣に指摘された事に余計に気が滅入る。
「ごめん……」
「別に謝る事じゃねぇ、あんま気負いすぎんなって事。出来る事から始めていきゃ良い」
優しさからそう言ってくれる純希。
しかしその発言は死ぬ間際の英美のものと似ていたため少し複雑な心境になる。
「出来る事か……」
あのとき快がヒーローを出来る事にしたいと言ったら英美はこう言った。
『今はリク君のヒーローになってあげて』
しかし快を突き動かしたものは恐怖。
その後ゼノメサイアに変身しても上手くやれていない。
英美は自分に夢を託してくれたらしいがとてもそれが成せているとは思えなかった。
「俺に出来る事なんてないよ、色々任されたり託されたりしたけど結局全部ダメになる……」
しかしそれに対して純希は反論をした。
「だから気負い過ぎんなって言ったろ?何でもすぐに出来なきゃいけないって訳じゃないんだから」
その言葉に一瞬悪い思考が止まる。
「え……?」
思わず聞き返すともっと詳しく語ってくれた。
「お前出来る事ってプロ並みに出来る事って意味じゃねーぞ?」
優しい笑顔を見せてしっかりと教えてくれる。
「下手くそでも良いから兎に角やれって意味さ。少しずつ繰り返して上手くなってけば良いんだよ」
その言葉を聞いて英美の言う"出来る事"という言葉の意味が分かった気がする。
「もちろん最終的に能力差とかは出ちまうけどな?それまでは出来る立場の事は何でもやってけって事、その中で本当に自分が得意な事を見つけていけば良い」
自分の経験をそこで話してみる。
「俺だってレスキュー隊なるための勉強してるけど最初は分かんない事だらけで本当になれるのかって心配になったくらいだし、お前も良い所は見つけられるぜ?」
そして純希は快の揚げたチキンを指差して言った。
「お前のチキン、形は不細工だけど派手に失敗する事は無いからそこを強みにしていけよ」
快の肩に軽くパンチをした。
「……あぁ、そうなのかもな」
やっと少しだけ分かった気がする。
「分かったらさっさと残りの仕事も片付けちまうぞ!」
急かすように言って純希は仕事に戻った。
それに着いて行くように快も仕事を続けるのだった。
「(やっぱり純希は愛される器の人だ……)」
☆
一方その頃とある街中では。
人間態のルシフェルが汚い路地裏にいた。
先日のTWELVEから受けた傷が癒えたためまた街でひと暴れしようとしている。
「この間は不意を突かれただけだ、最初から準備してりゃ負ける事はねぇ……!」
そう言いながら視線を移すと椅子に縛り付けられた男性が一人。
今度は愛里や純希のように簡易的ではなくしっかりと縄を準備してキツく縛り上げている。
「ひっ、ひぃぃ……」
そして男性の声など聞かずにルシフェルは彼の胸に手を当てる。
「なんせ俺は大天使様だからなぁ!!!」
するとルシフェルの身体は輝き出し男性の身体に入り込んでいった。
「あががががっ……ヒヒィッ」
ルシフェルに"憑依"された男性の意識は閉ざされ不敵な笑みを浮かべる。
「俺は俺の夢を叶えるぜ……っ!!」
そして心から罪の闇を溢れさせ身に纏う。
巨大化し先日と同じような異形の存在となった。
「グガァァァァッ!!!!」
雄叫びが街中に響く。
再び人々の心は恐怖に落とされるのであった。
☆
Connect ONE本部ではルシフェルの出現を探知し警報が鳴った。
「ルシフェル再度出現!」
オペレーターである蘭子の声で実動部隊TWELVEの隊員たちが司令室に集合した。
そこにいる新生長官の前に整列する。
「みんな、今回は前のような奇襲は望めない。正面から戦う事になるが覚悟はいい?」
優しくも強い目をして新生は問う。
その問いにTWELVE隊員たちはすぐに答えた。
「やっと分かったんすもん、俺に出来る事はコレだって」
ニカっと笑う竜司。
「自分の存在意義のために僕たちは戦います」
そして震えながらも言い切る陽。
「うむ」
名倉隊長も頷いた。
「やるしかないじゃん」
蘭子も腕を組みながら少し偉そうに言う。
「ならば君たちの存在意義を示してくるんだ。TWELVE、出動!!」
「「「了解っ!!!」」」
元気よく返事をするTWELVE。
しかしその様子を見ていた一般の職員たちは彼らが司令室を出て行く際に捨て台詞を残した。
「自分じゃなくて人々を守るために戦えよ……」
その言葉はハッキリと陽の耳に入る。
「っ……」
思わず立ち止まってしまうが竜司が励ました。
「大丈夫、少しずつ見せつけて行けばいいだろ?いつかアイツらを黙らせてやろうぜ」
「う、うん……!」
そして彼らは各々の機体のコックピットに乗り込むのだった。
☆
ここは兵器格納庫、作業員たちが出撃の準備をしている。
「ウィング・クロウ、コックピット装填完了」
「ライド・スネーク、コックピット装填完了」
「タンク・タイタン、コックピット装填完了」
機体に乗り込んだ隊員たちはそれぞれ覚悟を決めている。
「ふぅ」
新しい棒キャンディの包みを開けて口に含む竜司。
「……」
名倉隊長は腕を組み無言で構えている。
そして弱気な陽はと言うと。
「行くよアモン……へへへっ」
眼鏡を取りポケットから取り出したサングラスを代わりに掛ける。
すると目付きが変わり性格が豹変した。
「俺の出番かぁ!」
不敵な笑みを浮かべた陽は出撃したくてウズウズしていた。
すると作業は次の工程へ。
「ライフ・シュトロームへのドッキングを開始します」
その声と共にパイロットの着用している隊服の背中にある突起に機械が接続された。
その途端パイロット達は苦しみ出す。
「ぅぐぐぐっ⁈」
「まだ……慣れんなっ」
「へへっ、この痛みだぁ……!」
それぞれ痛みに対して反応を見せる。
そしてドッキングが完了すると機体に緑色の光るラインが表れ起動する。
「固定ギミック解除」
「カタパルトへの移動を開始」
三機は移動し同じ地点に集まる。
すると頭上には蘭子の乗る母艦、キャリー・マザーが待ち構えていた。
「三機、キャリー・マザーへの接続完了」
「ハッチオープン、全システムオールグリーン」
完全に出撃する準備が完了した。
改めて新生が無線で語りかけて来る。
「では、出撃」
その声と共に三機を乗せたキャリー・マザーが勢いよく出撃した。
ルシフェルの待つ街へ一気に向かって飛び立つ。
ここから決戦が始まるのだった。
☆
街中に突如として出現し再度暴れ始めたルシフェル。
「さぁ来い!暴れ易くしてやったぜぇ!!」
街に損害を出す事を気にしてまともに動けない事があるゼノメサイアを煽るために街を破壊して彼も動き易い環境を作った。
それと同時に街への被害を出す事で怒りを買い挑発に乗らせる事も出来る。
そして先にやって来たのは巨大な影。
ルシフェルの頭上を真っ黒い影が覆い陽光を遮った。
顔を上げたルシフェルはその正体を睨みつける。
「グゥルルル……」
それはConnect ONEのキャリー・マザーだった。
操縦しオペレーターも務めているのは蘭子。
「よし、切り離すよ!」
その声と共に接続されていた三機は地上に降り立つ。
「目標を補足、これより駆逐にあたる」
名倉隊長の言葉により三機は動き出した。
まずはウィング・クロウ。
荒々しく変貌した陽が華麗に飛び回りながらビーム弾を連射していく。
「おらぁっ!さっさと逝ねやぁ!」
それに対抗したのかルシフェルは右腕を上げて防ぎ他の機体に対抗しようとした。
「隙ありっ!」
飛び上がり砲撃を行おうとするランド・スネークに集中する。
「それはお前だっ!!」
地面を抉るように掬い上げランド・スネークに瓦礫をぶつけた。
「おぉっと……⁈」
慌てて避けるライド・スネーク。
攻撃を当てる事は叶わなかった。
「やっぱ一筋縄ではいかないみてぇだ……!」
明らかに前回より難しい戦いになっている。
「今の俺は冷静だからなぁ!」
高々と笑うルシフェル。
前回は奇襲されたため上手く行かなかった事を証明しつつあり気分は上々だった。
「多連装ミサイルっ!!」
名倉隊長のタンク・タイタンが一度に大量の小型ミサイルを放つ。
「見え見えだぜ!」
しかしそれもルシフェルは掌から放たれる獄炎で自らに着弾する前に灼いた。
とてつもない爆風が辺りを吹き飛ばし三機もそれに巻き込まれた。
「ぐあっ……!!」
上空からキャリー・マザーで見ていた蘭子はその様子に苦言を呈する。
「ちょっとみんな何やってんの……!」
言葉ではそう言うがルシフェルの強さは蘭子にもしっかりと伝わっていた。
「次お前だぁ!」
そのままルシフェルは獄炎を上空に向け放ち蘭子の乗るキャリー・マザーを狙った。
「あ、マズい……!」
慌てて避けようとするが間に合いそうにない。
そこへウィング・クロウが割って入る。
「シェルシールド……っ!!」
ウィング・クロウは機体全身を包むようにバリアを貼り獄炎を防ぐ。
キャリー・マザーを守った。
「オペレーターに死なれちゃ困るっ!」
「あっ……そう!」
少し恥ずかしそうに蘭子は反応した。
「おぉぉ!!」
そのまま空中旋回しビーム弾を撃つウィング・クロウ。
しかしルシフェルは難なく対応した。
「ゴアァァァッ!」
鋭利で硬い爪で防ぎ切る。
「クソッ、埒が明かねぇ!」
「削り切れないぞ……!」
殆どダメージを与える事が出来ない。
削れていたとしてもあまりに少しずつなのでこちらの消耗が先な気がしていた。
「ヒャハハハ!どうしたどうしたぁ⁈」
あまりに暴れ回るため隙が見えない。
「せめてデカいのを直撃させられれば……!」
竜司のその声を聞いて名倉隊長は思った。
「(何か動きを封じられるもの、ヤツを止められる切り札があれば……!!)」
彼は一体何を思い浮かべたのだろうか。
☆
その頃チキン店でバイト中の快は休憩中の先輩によって状況を知らされた。
「マジか、また罪獣出たって」
制服を脱ぎラフな格好でスマホのニュースを見ながら驚いている。
「嫌な世の中になったもんだなぁ」
その話を聞いた快は動きを止める。
「……っ」
行かなければならない。
しかしバイト中のためまた以前のように先輩から叱られるのではないかと少し慄いてしまう。
「お前……」
すると純希が察したように声を掛ける。
快の震えた手を見て言った。
「手ぇ震えてるぞ、無理すんな」
様子が変な快に伝える。
「お前最初から罪獣の件に巻き込まれっぱなしだもんな、震えるのも分かるよ」
そして純希は提案をした。
「先に休憩入って来い、しばらくは一人で大丈夫そうだ」
この時間帯の忙しさをしっかりと考慮して快に休憩を勧めたのだった。
「え、いいの……?」
「心配すんな、自分に出来る範囲の事から少しずつやれば良い」
そう言って快の肩を優しく叩く。
「よーし、調理でも洗い物でも掛かって来いやー!」
そして快に背を向け仕事を一人で続ける純希。
気合が入ったその背中はとても頼もしかった。
「(コイツやっぱ凄いんだな……)」
少し悔しくなってしまうが自分には出来る事、やらねばならない事がある。
「……よし」
そして休憩に入り制服からいつもの服に着替えて誰もいない店の裏に出た。
そこで手に持ったグレイスフィアが輝く。
それを快は見つめていた。
「ゼノメサイア、何で俺なんだ……?」
静かに問い掛けてみる。
しかし返事はなかった。
「……自分で見つけろって事か」
そう理解し力いっぱい握りしめる。
「でも必ず理由があるんだよな、俺が選ばれた理由が……!」
きっと自分にしか出来ない何かがあるのだと信じる。
『自分には出来ない事、君になら出来ると信じて託した。応えなくていいの?』
英美が死んだ時、初めて変身した時。
このような幻聴が聞こえた。
自分にしか出来ない事を見つけるために今出来る事をする。
そう覚悟を決めてグレイスフィアを握った拳を思い切り前に突き出した。
「おおおぉぉぉぉぉっ!!!」
眩くも温かい愛の光が現れ快の全身を包む。
そしてその姿を50m級のヒーローへと変えた。
『セヤァァァァッ!!!』
ゼノメサイア降臨。
Connect ONEとルシフェルの戦う街へ飛んで向かったのだった。
☆
一方Connect ONE実動部隊TWELVEと罪獣のような醜悪な姿をしたルシフェルが激闘を繰り広げる街では圧倒的にルシフェルが優勢だった。
「ゴアァァァッ!!」
衝撃波のようなオーラを放ち力を解放する。
「ぐっ、何だ……⁈」
その衝撃で吹き飛ばされる三機。
「なっ、エネルギーが上がってる……!」
キャリー・マザーでルシフェルの分析もしていた蘭子はそのデータの変化を見て驚愕している。
「コイツまだこんな力を……!」
絶望的な状況にTWELVE隊員たちは格段に士気が下がっていた。
「まだまだぁっ!」
しかし諦めはしない。
陽のウィング・クロウが突っ込みながらビーム弾を連射する。
しかしパワーアップしたルシフェルには通じなかった。
「フンッ」
尻尾を素早く降り全てのビーム弾を弾き飛ばす。
その勢いでウィング・クロウまで尻尾で叩きつけた。
「ぐぁっ……!!」
機体にダメージを負ってしまったウィング・クロウ。
飛行が安定せずどんどん墜落していく。
「マズいぞ……っ!」
コントロールが効かない。
このままでは地面に激突して大爆発を起こしてしまう。
死を悟ったその時だった。
『セアッ!!』
突如猛スピードで人型の何かが突っ込んできた。
それは堕ちていくウィング・クロウを地面に激突する寸前でキャッチに何とか救ったのだ。
「おぉっ……⁈」
コックピットから見上げる陽。
視線の先にはゼノメサイアの顔があった。
「……遅ぇよ」
そう言いながらも広角は上がっていた。
『ハァァァ……』
ゼノメサイアがキャッチしてくれたお陰でもう一度飛び立てたウィング・クロウ。
その後ゼノメサイアはルシフェルの方を向く。
「ヒヒ、来やがったな……!!」
ニヤリと笑ったルシフェル。
そしてゼノメサイアとTWELVEの三機はルシフェルに向き合う形で並んだ。
『ハァッ!!』
そして決戦のゴングが鳴る。
勝利はどちらの手に。
☆
日が落ちて夜が来た街、周囲のビルは破壊されたため月明かりだけが戦場を照らしていた。
決戦のゴングが鳴りお互いに走り出す。
『オォォッ!』
「グガァァッ!!」
ゼノメサイアとルシフェルは衝突し取っ組み合いをするような形になる。
『ゥグググ……』
力で押し切ろうとするルシフェルだがなかなか押し切れない。
「何だコイツ、力が上がってやがる……⁈」
『今日はまだパニ障じゃないんでね……!!』
心身共に健康な状態で挑めばここまで力が発揮されるものなのだと実感し思い切りルシフェルの顔面を殴り飛ばす。
『オォッ!』
「グガッ……」
口から血を飛び散らせ仰反るルシフェル。
そのよろけた隙をゼノメサイアは見逃さなかった。
『フンッ、ハァッ!』
肩部や腹部、背部を何度も蹴っては殴る。
確実に体力を削っていく作戦だ。
「舐めるなよ……!」
しかしルシフェルもやられているだけではない。
反撃をしようとゼノメサイアに勢いよく飛びかかる。
『ッ……⁈』
ガッチリとホールドされてしまう。
逃げられない所で至近距離から獄炎を放とうとした。
そこへ更なる追撃が。
「俺らを忘れんじゃねーぞ!!」
背後からビーム弾を浴びせるウィング・クロウ。
「グガッ……⁈」
思わずゼノメサイアから離れてしまう。
そこへ。
「アンチ・グラビティ起動!」
瓦礫を飛び越え砲撃を食らわせるライド・スネーク。
辺りには煙が立ち上った。
「多連装ミサイル発射っ!」
煙が目眩しになる事でタンク・タイタンの小型ミサイルは全てルシフェルに命中。
「ウギィィィッ!!!」
かなりダメージを与える事が出来た。
TWELVEがゼノメサイアを助けたのだ。
『(彼らも出来る事をしてるのか……!)』
そう実感し更なる追撃をルシフェルに浴びせようと攻撃体勢に入る。
しかしルシフェルもまだ奥の手を残していた。
「ふざけんなよお前ら、俺を本気で怒らせやがったな……」
そして全身にとてつもないエネルギーを溜める。
先程のパワーアップした時のものと破壊光線のもの、両方のエネルギーが高まるのを同時に感じていた。
「ヤバい、とんでもないのが来るよ!!」
キャリー・マザーから警告する蘭子。
しかしもう遅かった。
「天翔熱波・改!!」
あまりの閃光で前が見えないほどの破壊光線が放たれる。
『グゥゥッ……⁈』
一瞬だった、彼らは一瞬にして土地ごと吹き飛ばされてしまったのだ。
☆
ルシフェルの破壊光線が放たれた後、周囲の元ビル街は完全に壊滅し赤黒い雲が立ち上っていた。
「みんな、大丈夫……⁈」
上空からキャリー・マザーで見ていた蘭子は絶句していた。
「オォォォ……」
真下ではルシフェルが圧倒的強者のような風貌で立っており、仲間たちは倒れてしまっているから。
『ハァ、ハァ……』
ゼノメサイアも全身から蒸気を放ち高熱にやられているのが見て分かる。
『はぁっ、苦しい……!』
心臓の鼓動が早くなり息が苦しくなる。
身体が宙に浮いたように軽く感じこの空間に居ないかのようだった。
パニック発作が出てしまったのである。
「みんな機体損傷率60%越えてるよ、大丈夫なの……⁈」
蘭子は各機体のデータを見ながらダメージ量に驚愕していた。
「ちょっとマズいな……」
コックピットに頭部をぶつけたのか出血している竜司。
「ぐぅっ……」
名倉隊長も同様だった。
「こんな痛てぇの久々だ……」
陽も肩を押さえながら言う。
コックピットの舵を握るのも大変そうだ。
「そんな……」
完全に絶望してしまう。
そこへ迫るルシフェル。
「ゴォォォ……」
トドメを刺すつもりなのだろう、鋭い爪を立ててゆっくりと近付いて来る。
「くっそォォ……ッ」
嘆く竜司。
操縦桿を殴りストレスをぶつける。
すると。
「え、アレ……!」
無線で蘭子の声が聞こえる。
何かに気付いたようだ。
『グッ、ウゥゥゥ……!』
なんとゼノメサイアが苦しそうに立ち上がろうとしているのである。
焦げてしまっている見た目からも一番苦しそうだというのに。
『(ダメだ、こんな所で寝ていられない……!)』
地面を強く握り締め力を入れる。
『出来る事を最大限やるんだ、今の苦しみを乗り越えなきゃ……!』
精一杯の気合を入れる。
『目の前の壁を壊して"少しずつ"前に進め……!!』
そして立ち上がってみせたのだ。
その姿勢にTWELVEの士気も上がる。
「ぐっ、俺らだって……!」
何とか機体を再起動しそれぞれもう一度戦闘体勢に入る。
「うむ……!」
「やり返してやろうぜ……」
全力で立ち上がったのだ。
『オォォォ……』
そしてゼノメサイアはゆっくりと少しずつエネルギーを溜めていく。
あの大技を撃つ気だ。
そこから名倉隊長は指示を出す。
「ゼノメサイアが雷撃を撃つ気だ、全力でサポートするぞ!」
「「了解っ!!」」
そして散開しルシフェルの注意を引く。
ウィング・クロウは翻弄しながらビーム弾で射撃、ランド・スネークはアンチグラビティで周囲を走っていた。
「グゴォォォッ!!」
しかしルシフェルは二機を振り払う。
「がはっ……!」
中でもランド・スネークは地面に叩きつけられ竜司はかなりダメージを負った。
しかしその隙を見逃さない名倉隊長。
「よく隙を作った!」
全速力でルシフェルに突撃し砲台をゼロ距離から放つ。
「ゴハアァァァッ……!!」
後方に吹き飛ばされてしまうがすぐに体勢を整えたルシフェルは獄炎を放った。
「ぐぅっ……⁈」
タンク・タイタンは業火に焼かれ停止してしまう。
「ハァ、ハァ……クソがぁっ!」
しぶといTWELVEにルシフェルも消耗している。
ようやく追い払えたためゼノメサイアに向き直った。
痛みの中で少しずつエネルギーを溜め放とうとしているゼノメサイアより先に破壊光線が撃てる事を自覚していた。
「そろそろ終わりだ」
そして破壊光線を放つ。
「天翔熱波!!」
力は落ちているが十分な威力だった。
一直線にゼノメサイアへ進み雷を放つ前に食らってしまうかと思われた。
すると。
「あぁぁぁっ……!!」
ウィング・クロウがシールドを展開し間に割って入る。
ゼノメサイアの前で思い切り破壊光線を防いでいるのだ。
「まだだ、まだ耐えるぜぇ……!」
流石のシールドでも破壊光線の直撃にはかなりのダメージを受けている。
徐々にヒビが入っていった。
「邪魔だぁぁぁっ!!!」
ルシフェルも気合で威力を高めてシールドを破ろうとする。
そしてとうとうシールドは完全に破れ爆発によりウィング・クロウは吹っ飛んだ。
「今だゼノメサイアぁぁーーーっ!!!」
吹っ飛ばされながらも叫ぶ陽。
「ハッ……!」
シールドの破壊と共に破壊光線も止まってしまったルシフェルは戦慄する。
今のでかなり体力を消耗してしまい動けそうになかったのだ。
『オォォォッ!!!』
そしてゼノメサイアは力を解放。
神の雷を全力で放った。
『ライトニング・レイ!!!』
一直線に動けないルシフェルへ向かっていき命中。
「うぐがががっ……!俺の夢がぁっ!!」
そしてとうとうルシフェルは大爆発を起こしその場から消滅した。
「はぁっ、やった……!」
安心するTWELVE隊員たち。
『ウッ、グォォ……』
力を使い果たし膝をついてしまうゼノメサイア。
しかし力尽きる事はない、安堵から力が抜けた感覚なのだ。
『(少しは前に進めたかな……?)』
勝利を収めたのはゼノメサイアとTWELVEの彼らだった。
☆
そのすぐ後の咲希がいる空間。
扉が開いて誰か入って来る。
「……アンタ生きてたの?」
咲希の視線の先にはルシフェルが立っていた。
かなり体力を消耗しているようだ。
「予め憑依してたからな、本体はやられてねぇ……」
先程一般の男性に憑依をしたのは万が一やられた時に本体が死なないようにするためだったのだ。
ルシフェルは別の生物に憑依し力を与える能力を持っている。
「都合いい力ね……」
そう言った咲希は少し残念そうだった。
☆
翌日、Connect ONEは会見を開いた。
世間に組織の詳細を伝えるためだ。
「Connect ONE長官の新生継一と申します」
神父のような服を着た優しそうな男が画面中央に立ち話している。
「我々は政府直下の罪獣と戦う信仰組織です、必ず皆さんの幸せをお守り致します」
・
・
・
その会見を快は登校した際、スマホで瀬川と見ていた。
SF好きな瀬川はとても喜んでいる。
「すげぇ、本当に防衛組織じゃん!」
そう言いながらはしゃいでいる。
その様子を何となく眺めていると瀬川が突然快に謝る。
「あ、ごめんな……お前も辛かったのにこの話題は……」
自分が尾行に誘った事により快が傷ついてしまったと反省している。
LINEで謝ったが今この話題を出してしまった事にまた謝罪した。
そしてまた同じように反省をしてしまう。
「俺が尾行に誘わなければ……」
しかし快にとっては一歩全身するきっかけとなった。
「いいや、今では感謝してるよ。ヒーローに近づくきっかけが出来たから」
「そうか?ならよかった……」
そうして瀬川が安心しているとある人物が登校してきた。
クラスメイトたちは驚きの声を上げる。
「え、愛里⁈怪我は大丈夫なの?」
なんと愛里が元気に登校してきたのだ。
「うん!お陰様でもう元気だよ!」
そんな彼女の姿を見て快は立ち上がる。
どうしても先日のお見舞いの際の無礼を謝りたかったのだ。
「与方さん」
「あ、快くん。元気になったよ」
優しい笑顔でそう言ってくれる事が嬉しい。
だからこそ誠心誠意謝罪したかった。
「この間はごめん、どうしても卑屈になっちゃって……」
すると愛里はこう答えた。
「ううん、今は元気そうだから良いの!」
逆に"元気になった"と言われてしまった。
「純希くんから聞いたよ、少しずつ前に進もうと頑張ってるって!」
より強い笑顔で言ってくれるのは嬉しい。
しかし何処か複雑な気持ちも快の心は交えていた。
「(純希の話……)」
何故彼女の口から純希の名を聞くとこんなにも胸が痛むのだろうか。
分からないままだったが今は愛里の笑顔にただ見惚れていたかった。
「ありがとね」
本心の中にもある感謝の気持ちをしっかり伝えられる事、それだけでも快は少しだけ前に進めたような気がした。
つづく
