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解き(土)の章∞第23話|十一月の総勘定元帳(後編)

こうして、
帳簿の記帳と確認は、
ついに
2025年11月へと
入っていく。


次に、
目が止まったのは、
9月9日、10日の
日計表(予約表)
だった。

「臨時休業(会合・研修等)」
と、記載されているが、
実際には、
取引のあるお客さんとの
付き合いで、
関西方面へ
出向いている。

飛行機に乗ったのも、
本州へ行ったのも、
20年ぶり
くらいだったかもしれない。

妻の病気は、
すでに
佳境を迎えていた。

そこに、
20年ぶりの本州行き――。

本当に、
目まぐるしい
年度後半だった。

妻の病状が
切迫感を増していたため、
8月の時点では、
一度、
この関西行きは、
キャンセル寸前
までいっていた。

それでも、
お盆頃に
再発が確認されたものの、
思っていた以上に、
妻の体力が
保たれているように
見えたため、

先方へ、
「やはり、
関西へ行きます」
と、
伝えた。

半分は
仕事を兼ねた付き合いで、
航空券と宿泊費は
先方負担。

極力、
穴を空けたくなかった、
という事情も、
正直あった。

事なきを得て、
関西遠征は、
無事に終わった。

酷暑ではあったが、
大きな問題もなく、
滞りなく進んだ。


その際、
先方の計らいで、

妻が帰依していた
真宗大谷派の
総本山である、
京都・東本願寺へ
立ち寄ってくれたり、

願掛けとして、
伏見稲荷大社にも
足を運び、
妻が好きだった、
スマートフォンに付ける
狐の御守を
買うこともできた。

それが、
今となっては、
「できて、
良かったな」と
思える。


日計表は、
あくまで
日程の記録に
すぎない。

それでも、
その数字や文字の間から、

思い出や、
“想い”が、
走馬灯のように、
心の内へと、
浮かび上がってくる。

そして、
さらに時は進み――

いよいよ、
11月の記帳へと、
辿り着く。

勘定(かんじょう)は、
いつの間にか、

感情(かんじょう)へと

近づいていった。


11月の日計表。

ここには、
妻への対応と、
仕事のスケジュールが、
入れ替わり、
立ち替わり、
激しく交差している。

担当医からの
最終告知に伴う、
病院滞在の延長。

ラストの一週間は、
昼から、
日が暮れるまで、
毎日、
病院、
病院。

その前後に、
無理やり、
仕事を押し込む。

妻が闘病中であること、
そして、
終末期であることは、
ごく一部のお客さんにしか、
伝えていなかったため、

理由を重ね、
日程を調整した痕跡が、
この日計表から、
読み取れる。

ほとんど、
眠っていない。

それでも、
なぜか、
忙しい。

日計表の行間から、
「もう、
来なくていい」
という声が、
にじんでくる。

本当に、
慌ただしい日々だった。

そして、
11月10日――

その日計表の動きが、

ついに、
 ここで、
 止まる。

帳簿を眺める
僕の手も、

 しばらく、

 動かなかった。





それでも、
眺めてばかりも、
いられない。

記帳を、
進める。

画面を戻し、
再び、
経費の打ち込みへ。

12月23日。
接待交際費。

「手土産代
 スターバックス
 1,154円」

手土産代としての、
スターバックス。

1,154円。

フラペチーノ、
二杯分。

しかも、
クリスマス直前。

では、
誰に買ったのか。

 ∞
  ∞

――妻だ。

里緒に。

経費としては、
おそらく、
正しくない。

それでも、
この支出は、

すでに、
此岸の勘定では、
収まりきらなかった。

彼岸へと、
先に行ってしまった妻へ、
彼女が好きだった、
フラペチーノを、
供えた。

それだけのことだ。

勘定は、
この日、

静かに、
感情を、
超えた。

妻へ。

ありがとう。


(関連サイト)
里緒|口腔多発がん 闘病の記録 【X-エックス】
解と結(かい∞ゆい)_亡き妻と紡ぐ、静かな創作供養と夫婦の物語 【X-エックス】

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