春酩酊
春酩酊 ―― 宵に酔い、朝に醒める
春の宵、少し飲みすぎた夜のこと。
何気なく送った言葉をきっかけに、気まずいやりとりが続いて、
気づけば画面を何度も見返していた。
返事が来るたびに、少し安心して、また落ち着かなくなる。
沈丁花の香りが満ちていたはずなのに、そのときは
それよりも自分の心臓の音の方が、ずっと大きかった気がする。
書いては消して、また書いて。
そんな不器用な時間も、あとから思えば春の宵らしい。
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春酩酊
だしぬけに
口災いして
草朧(くさおぼろ)
彼女から
返信焦る
宵の口
春の宵
書いては消して
また書いて
春の宵
濃いめを干して
また明日
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ほろ酔いで帰る夜道、あるいは灯を落とす前の部屋の隅。
ふっと動く気配に目をやれば、闇と同化したような黒き影。
春の宵
闇にまといて
黒き影
それが猫だと気づいたとき、
張り詰めていた心から、少しだけ力が抜けていく。
酔いどれの
足先冷えて
春の闇
酔いどれの
灯を消すほど
花冷(はなび)えぬ
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そして、朝
昨夜の「ごめんね」のあとに届いた、短い「わかったよ」。
その一言のおかげで、今朝は少しだけ、空気が澄んで見える。
朝覚めて
金星(きんせい)かじる
風光る
昨夜の微かな頭痛と、小さな後悔を連れて、
いつものように畑へ向かう。
ふと見上げれば、低く、鋭く、土をかすめるように黒い翼がよぎった。
銀の糸
玄鳥至(つばめきたる)
低飛行
しっとりと濡れ始めた土の上、
今度は小鳥たちが忙しなく跳ねている。
その小さな命のダンスを見ていると、
昨夜の悩みなんて、本当にちっぽけなことに思えてくる。
春雨や
小鳥の円舞曲(ワルツ)
泥遊び
土の匂いを嗅ぎ、腰を下ろせば、
昨夜あんなに大きく聞こえた心臓の音も、
今はもう、穏やかな春の風に溶けている。
野良仕事
雲雀(ひばり)のおしゃべり
どこまでも
空の高さも、土の温かさも、
ただ「そこにある」というだけで、こんなに心強い。
一日の終わりに、また「酒熱め」が欲しくなる。
今度は、少し軽やかな気持ちで。
酒も、宵も、春も。
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春宵の
ほのかな灯り
詩をよむ
清明風
日を招く鳥
天に舞う
⸻
追伸:
結局、雨の音が耳について、
言葉が止まらなくて、
まだ眠れそうにない。
暁の
雨音のせて
また一献
朝四時。
ゴミ袋を提げて外へ出ると、
春雨の向こうから、不意に雀の鳴き声が聞こえた。
お前も、私を逃してはくれないのか。
一晩中、言葉という名の怪異に憑かれ、
暗闇の中で足止めを食らっていた私を。
春雨に
夜雀泣いて
明ける空
雨が夜を洗い流し、
雀の声が闇をほどいていく。
ようやく、足が動くようになった。
朝は、すぐそこだ。
