介護実践編⑰:介護天下一武道会の巻
どうも、たまです。
10月。介護業界にも「収穫の秋」がやってきます。各都道府県の代表が技術を競い、その頂点が本社で決まる、いわば介護士たちの天下一武道会が開催されます。
入社して半年以上、現場では「スピードスター」として暴れ回っていましたが、実はこの大会の存在を知ったときから、僕は密かに牙を研いでいました。
1. ギリギリの指名と、僕の「計算」
とはいえ、各施設から選ばれる代表はたった一人です。
自分から「出たい!」と立候補するのは簡単ですが、現場の空気を読めば「新人が何を浮かれているんだ」と思われかねないし、もし無残な結果に終われば、その後の仕事がしづらくなるだけ。
「実績で黙らせて、向こうから選ばせる」
それが、44歳の僕が取った生存戦略でした。しかし、開催1週間前になっても音沙汰なし。
「まあ、新人だし、今回は見送られたかな」
そう自分を納得させようとしていたその時、役職者からボソッと言われました。
「たまさん、出てみる?」
……いや、1週間切ってるんですけど!
「まー、そんなもんだよね」と、僕は苦笑いしながらも二つ返事で快諾しました。営業マン時代、無茶な納期を何度もねじ込んできた僕にとって、この「急な振り」はむしろ燃えるシチュエーションです。
2. スピードスターの弱点と、心理戦の幕開け
さて、出るからには勝たねばなりません。
手の速さなら誰にも負けない。でも、教科書に載っているような「基本中の基本」や、万が一「全く知らない特殊な介助方法」がお題に出たら、一気に分が悪くなる。
技術を今さら詰め込むより、まずは「審査員の心をどう掴むか」。僕は戦略を練り始めました。
審査員は、エリアマネージャーと施設長。
エリアマネージャーは研修で顔を知っています。おそらく彼が主導権を握っている。
事前の打ち合わせ場所は、あの初任者研修を受けた研修センター。でも、あそこには落ち着いて話せるスペースがないことを僕は知っていました。
「だとしたら、向かいのコンビニのイートインスペース……あそこが戦場になるはずだ」
3. コンビニの「仕込み」と孤独な戦士
当日。僕は開始1時間前には現場に到着していました。
研修センターの窓口へ早く行って「やる気あります!」と挨拶するのは、若手のやり方です。僕はあえて向かいのコンビニのイートインスペースに陣取りました。
ノートパソコンを広げ、コーヒー片手に「介護の専門知識」を一心不乱に勉強している姿を晒す。
IT業界で数々のプレゼンを勝ち抜いてきた僕の「演出力」をなめてはいけません。
すると、予想通り。
今回の「被介護者役」のヘルパーさんを連れた、エリアマネージャーと施設長がゾロゾロと入ってきました。
ビンゴ。 狙い通りです。
4. 視線の先にある「演出」
僕は彼らに気づいていないふりを貫きました。
「1週間前に指名された新人が、大会直前の貴重な時間に一人、PCを叩いて必死に学んでいる」
このストイックな光景は、彼らの目にどう映るか。チラチラとこちらを窺う視線を感じましたが、僕は画面を見つめたまま、ペンを動かし続けました。
彼らの作戦会議が終わり、店を出て行くまで、僕は「一心不乱な介護士」を演じきりました。
そして彼らが去った20分後、開始30分前にようやく研修センターへ向かいました。
「おはようございます。たまです。よろしくお願いします」
涼しい顔で挨拶をした僕を見て、エリアマネージャーの顔が少しだけ綻んだのを、僕は見逃しませんでした。
「技術の勝負」はまだ始まっていない。でも、「信頼の獲得」という面では、僕はすでに大きなリードを奪っている。
湘南のスピードスター、ついに競技会の舞台へ。
次回予告:
「たま、本番で『まさかの事態』に直面する」
ついに始まった介護実務競技会。
練習通りにいかない緊張感と、目の前に出された想定外の課題。
果たしてたまの「戦略」と「爆速の技術」は、百戦錬磨の審査員たちに通用するのか!?
たまの一言
イートインスペースで1時間、実際はパソコンで何を調べていたかって?
……まあ、その時の僕の「必死な顔」が最高のプレゼン資料だったということで。
勝負は、もう始まっているんです。
