咄咄快事 ピン芸人快児のエッセイ集

【AI】
バイト先の新宿ゴールデン街にあるバーには深夜3時を越えると様々な狂った人がやって来る。後に「AI」というあだ名が付く彼もその内の1人だった。

日本人で満席の店に入って来るなり彼は、早稲田大学に通うお客さんに
「君は、将来何になりたいんだい?」
と聞いた。
相手が
「え?ああ、一応弁護士目指してます」
と正直に答えると
「無い無い無い!5年後にはAIが発達してるからそんな職業はない!」
と一蹴する。
するとすぐさま別のお客さんに同じことを聞き
「無い無い無い!5年後にはAIが発達してるからそんな職業はない!」
と、同じことを言う。
そして、最終的には全員に対して
「でもさ、みんな本当になりたいものになればいいよ」
そう言って締め括る。皆初めから本当になりたいものを言っている。

すると目の前のカウンター席に座る常連さんから
「こいつ、これからあだ名AIですね」
というLINEが。

なんだか店の空気が悪くなって来たので俺が
「この話面白くないからフェチの話せーへん?」
と提案してみたところ、これまで話すことを我慢していたのか先程まで黙っていた人たちが
「なんかうなじって色っぽいですよね!」
「夏に半袖で吊り革もってる女の人が脇毛の処理甘かったら何故か興奮するんですよー」
と、話に乗ってきた。他のお客さんもそれぞれ小気味よく軽い性癖を語る。

その間、日和っているのか「AI」は何かそわそわしながら口を閉ざしていた。
だが突然彼はカウンターに前のめりになり
「俺ー、タイに行った時7人の女買って8Pした!」
とか言い出した。何の自慢だ。ここでもマウントを取りたいのか?

その後も色んな話で盛り上がっていると、店に謎の外国人が入って来た。ニヤニヤしながらよだれを垂らし、目はパキッていてドリンクの注文もしない。酔っ払っている感じというより、よくない薬でキマッているように見えた。
俺が下手くそな英語で出て行くよう促したが微動だにしない。

するとだ。決して体格に恵まれた方ではない「AI」が突然立ち上がり、流暢な英語で
「警察を呼ぶぞ。お前は自分の国ではない国で牢屋にぶち込まれることになる。わかってるのかブタ箱行きだぞこのやろー!」
というようなことを言い放ち、キマっている外国人を力づくで追い出したのだ。
かっこいい。かなりかっこよかった。

次の日、店を開けたらいきなりシラフの「AI」が現れた。そしてこう言った。
「快児さん!昨日はすみませんでした!外国人にあんな扱いをして!」
そこじゃないんだ!お前が謝るべきところは「AIが発達してるからそんな職業はない」とか言ってた所と「8Pした」とか言ってた所だろうが!そこは唯一かっこよかったところ!
そんな、ある夜の新宿ゴールデン街。

【偽造免許証】
26歳の頃、アルバイト先のレンタルビデオ屋でレジをしていたら、ホームレスギリギリのおっさんがやってきて
「これ買い取ってくれ」
と、スーパーの袋をドンとカウンターに置いた。
中を見ると、盗んできましたよと言わんばかりの新品プレステ2ソフトが大量に。

持ってないだろうと思いつつ
「身分証のご提示よろしいですか?」
と言うと
「身分証?あるぜ。ほいっ」
彼は「もちろんさっ」みたいな感じでそれをポーンと置いた。

5メートルほど離れて見ると、免許証のように見える。
しかしそれは、
まず、コピー用紙を2枚張り合わせたものだった。
そして、パソコンで打った文字のようだが、ところどころ印刷が薄くなっていて、あろうことか薄い部分をボールペンでなぞり書きしていた。
しかもなにより!免許の顔写真があるべき場所には、顔の絵が描かれていた!ドット絵だ。ファミコンのドラクエのキャラのようなカクカクの顔!

笑ってしまった。普通ならこっそり店長と相談してしかるべき措置をとるところだが、笑ってしまった。
おっさんは言う
「あ、あれ?この前はそれでいけたけど??だめ?」
いけるか!!!あほかおまえは。

どうしてもにやけてしまう俺を見て、おっさんはバツが悪くなってきたようで「あ、じゃあ、ちゃんとした方の免許証持ってくるわ。車の中に入ってるから」と言って、足早に出ていった。

車なんか店の前に一台も止まっていなかった。
持ってへんやろおまえ。

【しゅうがくりょこうのおもいで】
高3の時の修学旅行は長野でのスキーだった。俺はそのころ最悪に腰が痛かったので、ずっとトランプをしていた。
スキーをすることがメインの修学旅行で、スキーを一切せず、トランプを。しかも、その日スキーで負傷した人達と。
むなしい。
これでは、修学旅行の思い出という作文の内容が
「友達はツーペアだったけど、僕はフルハウスだったので嬉しかったです」になってしまう。
そんなことを考えていると、見かねた学年主任の児玉先生が
「小山、外出てソリやろか。俺が引っ張ったるわ」
と言った。

高3にもなった男が、先生にソリを引っ張ってもらって、わーいとか言って楽しんだ。
「小山、次思いっきりいくぞ」
そういって児玉先生は力いっぱい綱を引いた。
俺はソリから投げ出された。
そのまま坂道を10メートルほどごろごろ転がっていった。

「おー、死ぬかと思った」
と、顔を上げると・・・前には巨大な犬がいた。俺より大きい。
その刹那、犬は俺に襲い掛かってきた。
「やばい!」
俺は四つん這いで雪の坂道を登ろうともがいた。
しかしあり地獄のように、ザザーっと下まで滑り落ちてしまう。
「ガシッ」
あり地獄につかまった。もうだめだ。食われる。
すると、ケツに何かがズンズン当たる。犬は発情して俺をバックから犯しているのだった。ひく。

より恐怖を覚え必死で坂を登ろうとするも、犬の異常な力で元の位置に戻されてしまう。
スキーウェアーの上からとはいえズンズンガシガシ突かれる。
身動きがとれない。
チ○コがでかい。
ああ、悲惨な俺。

その後、おっさんたち何人かが犬を引き剥がしてくれたから助かったものの、もし1人だったらと思うとゾッとする。

修学旅行の作文は「犬に犯されたこと」に決定した。


【父】
ついこの前、久々に実家に電話をして母としゃべった。
母は開口一番
「お父さんやっと退院したんやで」
と言った。
「え?入院してたん?なんで?」
と聞くと
「網膜剥離の再発よ」
とのこと。
そうか。あれは再発とかするのか。

俺の父はとてもダンディーで威厳ある人間だ。
灘中、灘高、京都大学大学院卒。日立の入社試験を作っていた。

高校のころ早稲田の入試問題を「これ全くわからんから教えてくれ」と持っていったら、50歳を越えているにもかかわらず1分で解き、それに似た問題をその場で作って俺に出題するほどの頭脳明晰加減。
家ではだらだらしているが、職場では「紳士」の代名詞的存在らしい。上司に噛み付き部下に優しいと、昔うちに来た父の友達が言っていた。

囲碁5段。将棋もえらく強い。
ギターを弾き、英語の歌をビブラートをきかせて歌う。
無言の圧力。母では手に負えないほどのわがままを俺が言った時だけ出てきて俺をひっぱたく。出された夕食に嫌いな物があって、俺がちんたら食べていると「もう食わなくていい」と言ってお盆を持って行ってしまう。

いらん物は一切買ってくれない。買ってくれるのは詰め将棋の本だけ。
身長178センチ、ロングコートのポケットに手を突っ込みさっそうと歩く。

しかし、ごくまれに天然を発揮する。
網膜剥離。それは大概プロボクサーなんかがなる病気(怪我)だ。
顔面に強度の衝撃を受け、目の外側にある網膜が剥れてしまうというもの。父はそれになった。

目の調子がおかしいということで、病院に行った父は、看護士にこう聞かれた。
「最近顔面をどこかで強く打ったということはありますか?」
「・・・顔面ですか・・・。!!そういえば、早歩きしていて、透明で大きな自動ドアに頭を強打しました。透明すぎて『空気』だと思ったんです」
そんなことが。空気と思ったって。さっそうと歩きすぎや。

数年前、実家に帰ると父の歯が真っ白になっていた。
父はヘビースモーカーなので、歯はヤニでところどころ黒くなっていたはずが、漫画のテニス部キャプテンよろしく輝かんばかりの白だった。
「なんで?」
と聞くと
「実はなー、この前コートのポケットに手を突っ込んで、さっそうと歩いてたんや。そしたら棒と棒の間にチェーンがはってあってな。お父さんそれにつまずいたんや。倒れた先が階段でな。一段目の角に顔面打ったんや。歯だけで体重ささえたことになるな。上の前歯『全部』折れた」
壮絶。痛すぎ。泣くわそんなん。さっそうと歩きすぎや。

これだけ顔面に強打をくらっている父。網膜剥離はしかたのないことなのかもしれない。

母曰く
「お父さん今回の入院大変やったんよ。お酒もタバコも抜きで、毎日真ん中に穴の開いた枕でうつぶせになって寝なあかんかってん。2週間」

想像つかん。でも頑張ったんやな。そしてなかなかかわいいな。お父さん。

【阪神大震災の思い出】
今から語ることは、阪神大震災の「楽しい話」です。本当に不幸な目にあった方や、思い出したくもないトラウマのある方は、ちゃかしているようにとれなくもないので読まないでください。これは、奇跡的に家族が誰も負傷しなかったから言える、今でも色あせぬ「笑い話」です。

俺は眠っていた。ぐっすりと眠っていた。
本当に突然のことだった。
家が揺れている。
いつの間にか目は開いていた。
揺れているというどころの騒ぎではない。
地球が爆発する?
タンスが頭すれすれに倒れてくる。
土壁が崩れる。
天井の板がバキバキと音をたてて剥がれる。
立ち上がることが、できない。
全ての山々が噴火しているイメージ。
布団を頭まで被り、亀のように丸くなる。
それ以外の行動は、できない。

・・・おさまった。呆然。助かったのか?なにが起こった?よくわからないが必死に状況を理解しようとする。
大地震で、家がぶっ壊れたのだ。
「大丈夫かー!?」
「大丈夫やったー?」
寝室から両親の声。両親は大丈夫だったようだ。

そこに隣の部屋から兄が入ってきた。兄の第一声。
「怒りがこみ上げてきたー!!」
はーー!?なぜだ!なぜまず我が怒りなのだ!地球に怒っているのか?普通「大丈夫か!」もしくは「なにが起こったんや?」だろう!天に向かって叫ぶ兄。どういうことだ。

改めて家を見て回ると、それはもう散々な有様だった。壊れてない物の方が少ない。居間とキッチンは隣接していたはずだが、50センチくらい離れて地面が見えている。住んでいけるはずがない。全壊というやつだ。

家族の無事を確認し、一息ついた父は
「とりあえずタバコ買ってくる」
と言って出て行った。2分後帰ってきた父はこう言った。
「販売機の電源入ってなかったわ」
当たり前じゃ。
そして元々持っていたタバコに火をつける。
地震の後は、どこのガス管が破裂しているかわからないので、最もやってはいけないことが、タバコを吸うことだそうだ。
京都大学院卒、頭脳明晰な父もこの時ばかりは頭が回らなかったようだ。

逆に素晴らしく機転がきいたのが、普段天然ボケの母だった。
突然
「行ってくる」
と言ってどこかに走って行った。
帰ってきた母は驚きの発言をした。
「次の家、決まったで」
は?
「向かいのマンションの管理人さんが、この前3LDKが1部屋空いてるってゆーてたの思い出したんよ。今行ったら、敷金礼金ゼロでいいから今すぐ入りってゆーてくれた。困った時はお互い様やゆーてね」
母に拍手を送りたい。地震から30分で、新居が決まった。

外に出てみる。うちの周りは比較的新しい建物が多かった為、致命的ダメージを負ったのは我が家くらいだった。
家のわきの坂道を、駄菓子屋のおっさんが下りてきた。カメラを持っている。
「パシャ!」
うちを撮った!失礼にもほどがある!
おっさんは写真を撮り続ける。おっさんが、最も熱心に撮っていた、うちの壁の大きなヒビ・・・
ふふふ。ばかめ。そのヒビは初めっから入っていたのさ。地震によるものではないわ。

友達と街に出てみた。信号が点いてないので、車は適当に走っている。宝塚歌劇場付近の家や店は軒並み潰れてしまっている。
宝塚ファミリーランド(遊園地)には立体動物園というものがある。地上10メートルの高さに作られた大きな球体の中で、ニシキヘビやオオトカゲ、カラフルで大きな鳥やワニなど、熱帯にしか生息しない生き物が飼育されている。人はその中を見てまわる。
その球体が、地面に転がっている。熱帯の猛獣たちはどうなったのだ?

コンビニを見に行った。なんと、7時の段階で店員がレジにいる!そして客が並んでいる。手書きの伝票でやっているのか。
まあ店長の指示を仰ぎたくても電話が通じないのだからしかたがない。
缶詰なんかをパクって行くやつもいる。大の大人たちが商品を取り合っている。
そんな中、一人の少年は、散乱した商品の上に立ち、立ち読みをしていた。なんたる余裕!たくましいやつ。

家は全壊したが、内部の無事だった家財道具を取り出せないこともなかったので、何回か慎重に取りにいった。
ある日壊れた家に入ると電話が鳴った。
「おお、電話は復旧したか」
そう思い、受話器をとった。
「コレクトコールです」
なにい!?ばかな!?この状況でお金こっち持ちなのか?(コレクトコールとは、かけた側ではなく、かかってきた側が電話代を払うというもの)
お繋ぎしますか?というので内心ムカつきつつも繋いでくださいと言った。
「もしもし」
「あ、新明和の○○と言うものですが、小山部長はご無事でしょうか?」
なにい!?安否の確認がコレクトコールだと!?
「無事ですよ。じゃあ。」
憮然とした態度で言って俺は叩きつけるように電話を切った。
後から聞いた話では、一斉に被災地に向けて皆が電話をかけるので、回線がパンクしていたらしい。そしてコレクトコールの場合は別の回線の為、繋がる可能性が高かったそうだ。
でもそんなん知らんねんからムカつくやろ。

まだまだ話はあるが、これくらいにしておこう。辛いことも沢山あった。が、悲しいことを悲しく語ってもはじまらない。苦労話は笑いになるものだ。それを考えると、家族、知り合いに不幸がなかった俺個人の経験としては、震災は「笑い話になりうる貴重な思い出」だ。


【ハナちゃん】
俺の和歌山のおじいちゃんはお腹だけがぽっこり出ていた。他の部分は痩せていた。
幼少の頃の俺は、それが不思議でならなかった。ある日俺は、ゆるゆるのブリーフのみでお尻を半分出してうろうろしているおじいちゃんに聞いてみた。
「おじいちゃんはなんでお腹出てんの?」
おじいちゃんはこう答えた。
「それはね、ハナちゃんがいるからだよ」
びっくりした。ハナちゃんってなんだろうか?小さい子が入っているのか。

するとおじいちゃんは自分の腹に向けて
「ハナちゃん、快児君とお話するか?」
と言った。
別の高い声で
「うん、お話する」
と返って来た。しゃべれるのだ。ハナちゃんはしゃべれるのだ。

おじいちゃんと会うたびに、ハナちゃんとしゃべると俺は言い、いつも3人でのトークを楽しんだ。
おじいちゃん「ハナちゃん、快児君はもうすぐ小学生になるんだよ」
ハナちゃん「そーなんだー。校長先生の言うことは、ちゃんと聞かないといけないんだよ」
快児「うん、ちゃんと聞くわ」
楽しかった。なぜかどんな話題でも最終的に「校長先生のいうことはちゃんと聞くんだよ」というセリフでハナちゃんは締め括る。そのセリフの後にはしゃべらなくなり、おじいちゃんは
「あ、ハナちゃん寝たわ」と言う。

ある日幼児である俺に
「ハナちゃんはどんな形をした生き物なんだろう?」
という疑問が生まれた。
ある日俺はおじいちゃんにそれを言った。すると、
「そうかー、ハナちゃん今寝てるから、夜おじいちゃんとこにおいで。そしたらハナちゃん快児君の前に出てくるよ」

まさかそんな展開に!俺は様々な想像を巡らせながら夜を待った。小さくて可愛い妖精みたいな子なんだろうな。

夜が来て、おじいちゃんのベッドに行った。
「ほんまに出てくんの?」
「ほんまやで。ハナちゃんも快児君に会いたいって。あ、ハナちゃんお腹から出てくるわ。出てくる!」

・・・・・・・おじいちゃんはおもむろに腹巻きの中に手を突っ込み、隠していた何かを掴んだ。
・・・ペンギンのしょーもない人形が出て来た。
「やあ!快児君!」

冷めた。

今考えるとおじいちゃんの下手くそな腹話術だった。それでもお腹ばかり見ている幼児の俺にしてみれば、ほんとにハナちゃんがいるかのように思えた。

しかし、ペンギン。

おじいちゃん、なめるな。

【レンタルビデオ屋に来る奴ら】
俺のバイト人生の半分以上がレンタルビデオ店だ。大阪羽曳野市のTSUTAYA、池袋のサンシャイン通りに半年間あったTSUTAYA、そして池袋北口のGEOだ。

TSUTAYAはいい。マニュアルもしっかりしていて誰がどの時間どこを担当するということも決まっている。なにより綺麗だ。

しかしGEOだ。関西の人は知らないかと思うが全国的にはTSUTAYAに次ぐ売り上げを誇るレンタルチェーン店である。
が、中身は全く違う。システムは適当な上ころころ変わり、誰もそれを理解していないまま営業している場合すらある。
なによりドンキホーテ並にごちゃごちゃしてて汚い。

さらに深夜社員不在ということが多々ある。池袋のようなやばい人がわんさか来るところでだ。

池袋のGEOには本当によろしくない人間が来まくる。
ホストは基本お金を投げてよこす。しかも
「今からなんて居酒屋行くんだっけ?南の家族?」
とか言って爆笑するような神経の持ち主。
中国人は人の話を一切聞かない。
「こちらのカードはご家族であっても貸さないようにしてください」
の、「ご家族」の時点で食い気味で
「わかった」
と無表情で言う。何がわかったのか説明してくれないか。

なにより嫌だったのが盗んだクレジットカードで買い物に来るチンピラだ。中古品は足がつきにくいし他の店よりもセキュリティが甘く、社員がいない時間帯があることを知ってるから来るのだろう。
彼らはいつも3人以上で来る。そして「兄貴」と呼ばれるいかにもな男が
「この店で1番たけーもの全部」
などといかにもなことを言う。アホすぎて悪人だとばれることも怖くないらしい。
そして毎日ワルのくせに相当努力しているとしか思えないマッチョ大男がボディーガードよろしく睨みをきかし、1番下っ端のやつがサインをする。

ある日、いつものようにその3人組みが来てプレステ2の限定色を7個用意しろと言った。下っ端は
「ちょっとちょっと、早くしてくんない?」
といきがる。
そしてサインをする段になった。

突然下っ端が震え出した。
「あれ?あれ?」
と、言っている。
見ると、サインの途中の漢字で悩んでいるのだった。
そのカードの本当の持ち主の名前はなんとか龍一郎だった。
下っ端は「龍」の「つくり」の部分下の横棒の数がわからないのであった。

おもしろくなったので
「どうされました?何を悩んでらっしゃるんですか?」
と、聞いてやった。
「え?あ、あの、酔っ払ってるからさ、漢字がね・・・」
「あれ?酔っ払ったら自分の名前忘れてしまうんですか?」
「いや、かなり、飲みましたからね」
もはや敬語になっている。
そしてこう言った。
「かなり飲みましたよねー!飲んだらこんな感じになりますよねー?兄貴!・・・・っていねーし!!」
コントか!ノリツッコミか!サインにもたもたしていて危険を感じたらしい兄貴たちは、外に停めたワゴンに乗っていつの間にか去っていたのだった。

残された下っ端は半泣きになっていた。いや、全泣きになっていた。

その後下っ端は、龍の字を2回書いては消して、諦めて逃げた。

【宮崎あおいさん】
2006年の話。

トッパレライブというライブでMCとネタをやってきた。いつものように楽屋入りすると、突然さくらんぼブービーの木村が「快児!最近調子いいみたいだなー!」と言ってきた。どこを見て調子いいとか言ってるのかと思い「え?なんで?」と聞くと、「オリラジのテレビでさー、なんつったっけ?ほら、みんな知ってるさー、最近急に売れた女優がゲストに出てきて元快児の追っかけやってたっつってたんだよ。5年前にシアターDで出待ちとかしてファンレター渡してたんだって」
女優?誰だ?

「誰っすか?」「有名?」楽屋のみんな口々に木村に質問する。
「あのー、なんとかあおいだよ」
「え?宮崎あおいっすか?」
「そうそう!!それだよナナの!」
バカな!まさかそんなことが!テレビをほとんど見ないので女優をあまり知らない俺でも宮崎あおいくらいは知っている。

だが信じられるはずもなかったので
「いやいや、そんなわけあるか。そんな可愛い子がおったら覚えてるやろ」
と言うと、スパローズの森田が
「いや、5年前やぞ。素朴な感じが売りな女優なんやし、その頃なんてただのイモ娘だったんだ。快児が忘れてるのも当然だよ」などと言い出した。すると、オジンオズボーンの高松君が
「俺も見ました!昨日のオリラジの番組ですよね?確かにナナが快児って言ってました!」
と入ってきた。

本当か?ありうるのか?でも木村だけならともかく、高松君まで。
「お前は最大のチャンスを逃したんや」「今でもまだ間に合うかもやから宮崎あおいのブログかなんかに書き込んだらえーねん。元気?とか言って」いろんなことを言われているうち、徐々に「もしそうだったらどうしよう」と思うようになってきた。テレビ局ですれ違ったらどうしよう?その前にもっと売れなければ。などといらぬ心配をする俺。

しかし。楽屋にピースの綾部さんが到着し「途中からその話を聞いてたんですけどね、それによく似た話知ってますよ。ハイジマトモタケさんっていう先輩がいるんですけど、こっちは宮崎あおいじゃなくて、ナナ2の方の市川由依の話なんですけどね、彼女がずっとハイジマさんのファンだったそうですよ」 
ん?
「オリラジの番組で言ってたんですけどね」ん?ばつの悪そうな顔をする木村。
「あれ?その人ってもしかしてハイジって呼ばれてる?」「はい、呼ばれてますね」
なんと、俺の話でもなけけば宮崎あおいの話でもなかったのだ。
ほう・・・・。いい夢見させてもらったよ。

【オープンガーデン】
これは2010年に書いた日記。

4月になると、俺の実家の庭はオープンガーデンというのを行っている。生意気にも宝塚市から指定をうけたそうだ。狭い庭のくせに。

その期間中は庭までなら門を開けて誰でも入ることができ、母(63)が在宅中なら母から花に関するうんちくを聞くことができる。
「そんなもん聞きたくないわ」
と思われようが、空気が読めないっ子ちゃんの母はガンガン語る。

先日、ある上品なご婦人が、うちの花を見にいらした。
「お綺麗ですねー」
「ありがとうございますー。どこからいらっしゃったんですか?」
「近いんですよー。生瀬(地名)です」
「そうなんですかー。生瀬ってことは、よくこの辺り通られるんですか?」
「そうですねー。毎日のようにこの坂通ってますねー。その度に『綺麗にお花手入れしてらっしゃるなー』なんて思ってうっとりしてたんですよ」
「あらー、めっちゃ嬉しいですねー。今日は中からゆっくり見ていってくださいね」

などというやり取りがあり、しばらくして母はこんな自慢をした。
「実はうちの息子エンタの神様にたまーに出てるんですよー」
最近全く出てないが(笑)

ご婦人は微笑み、こう返した。
「ええ?そうなんですかー!すごいですね。じゃー毎回チェックせなあきませんね!ところであのー、実はうちの息子も役者やってましてね、たまにドラマとか出てるんですよー」
「あら、そうなんですかー。お名前はなんておっしゃるんですか?」
「生瀬勝久ってゆーんです」

!!!
な、なにいぃ!?
生瀬さんのお母さん!!
大俳優のお母さんに何を自慢しているんだ!!
あほか!!

その驚愕の事実に対する母の返し。

「生瀬さんっておっしゃるんですかー。こちらも今度チェックしときますねー!」

もう一度言おう。
あほか!!!
チェックなどしなくてよい。テレビ点けてたら勝手に出てくるわ!トリック他多数の番組に出演中の売れっ子俳優さんにチェックしときますとは。

こんな話を先日電話で母から聞いた。俺は恥ずかしくてゲロが出るかと思った。
母はその電話で俺が激怒するまで、生瀬勝久さんのことを認識しないまま、彼のお母さんとちょくちょく話をしていたらしい。ああ怖い怖い。

#創作大賞2026 #エッセイ部門

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