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AIハラスメント?AIを使った気になる上司

こんにちは。

生成AIがどんどん進化している昨今ではありますが、最初は生成AIの使用について抵抗があった会社でも徐々に変わってきて、上司から「AIを使っていいから、まずやってみて」という指示は、かなり増えたのではないでしょうか。

一見すると、とても合理的です。

今まで人が調べ、整理し、文章にしていたものを、AIなら短時間で形にできる。最初から完璧でなくても、まず叩き台を出して、そこから考えればいい。

私自身、AIを使うことで、最初の形が出るまでの時間はかなり短くなったと感じています。スライドでも、文章でも、何もないところから始めるより、構成や見せ方の候補が先にある方が考えやすいです。

ただ、AIを使って資料や文章を最後まで仕上げたことがある人ほど、「とりあえずAIでやってみて」という指示に、すぐには手をつけにくいことや、警戒感が増してしまうことってありませんか?

AIに一度聞けば終わる仕事ではないことが、想像できてしまうからです。

今回はそんな風景について書いてみたいと思います。



1. 「AIを使っていいから、やってみて」

例えば、何か新しい企画や調査を頼まれたとします。

AIを使うとしても、まず何を調べたいのかを整理し、前提を渡し、出てきたものを読み、追加で聞き、事実関係を確認し、不要な論点を削り、社内の事情に合わせて組み直す必要があります。

AIとのやり取りも、一回で終わるとは限りません。世の中に「AIと壁打ち」なんて言葉があるのはまさにいい例ですよね。

雑な指示から始めれば、それらしい候補だけが大量に出てきて、その処理に時間を取られることもあります。だから、AIとのやり取りにも慣れていて、どういうinputでどういう内容が返ってくるか想像できる人ほど、最後まで完成させる工程が見えているので、「これは今始めると、思ったより時間を持っていかれるな」と考えがちではないでしょうか。

AIを使いたくないのではなく、AIを使った後に残る仕事まで含めて、着手時期を見ているだけです。

ところが、指示をした側から見ると違います。AIがあるのに、なぜまだ始めないのか。まず聞いてみれば、何か出るではないか。

この時点で、すでに仕事の見積もりがずれています。部下は、AIが出した後の総工数を見ている。しかし上司は、AIが何かを出すまでを見ている。

(ものにもよりますが、AIが完成品を出してくれると思っている人は、もう今どきいないと信じたいのですが。。)

そして、部下がすぐに動かないと、仕事自体が走り出しません。それはそれで困るので、すると、上司が自分でAIに聞いてみちゃったりするんですよね。

数分後には、それはもう企画らしきものが出てきたり、表やリストも含めて出てきます。もちろん文章も整っています。

そこで、一番ヤバイところなんですけど、

「ここまではやったので、ここから先よろしく」

となる。しかも質の悪いことに、「自分はAIも使って、仕事を進めている」という空気がついてくる。

ただ、AIで出力を作り、それを実際に使える成果物まで仕上げた経験がある側からすると、そこは本当に入口に過ぎなくて、その先に数字の確認、前提の見直し、ロジックの再構築、不要な要素の削除、関係者との調整があります。

当然なんですが、AIを使うと割とゴール手前まで効率よくできるよね?みたいな感覚で任されると、見えているが故に着手しづらかったりしますよね。(それか着手するけど前提がなかなか定まっていなかったりすると、とんでもないものが出てきて、自分で見ても結局「で?」となってしまったり。)

それを「ここまで進めた」と渡されても、仕事が進んだというより、処理しなければならないものが増えただけなんですよね。

さらに厄介なのは、上司が作った枠組みを完全には無視できないことです。

最初から作り直せば、「せっかくここまでやったのに」となる。無理に残せば、違う前提や不要な論点を抱えたまま進む。結局、上司の出力を尊重するための修正まで必要になります。

当然上司とのコミュニケーション次第なところはありますが、実際見てきた感覚だと、割とこういうケースってあるんじゃないかなと思っています。


2. 海外でも「workslop」として同じ問題が

実はこれ、海外でももちろん問題になっていて、「workslop」というスラングのような造語までついています。workと、質の低いぐちゃぐちゃしたものを意味するslopを組み合わせた言葉です。

BetterUp LabsとStanford Social Media Labは、一見すると整っているものの、中身が乏しく、受け取った人に本当の思考と後処理をさせるAI生成物をworkslopと呼んでいます。

2025年9月に米国のデスクワーカーを対象に行った調査では、40%が直近1か月にworkslopを受け取ったと回答し、1件の処理には平均で約2時間かかっていました。

しかも、workslopは同僚同士だけでなく、別の集計では16%が上位者からチームへ下りてきたものだったとされています。

つまり、AIで簡単に作ったものを上司が部下へ渡し、部下がその後処理を引き受ける現象は、海外でも普通に起きているわけです

SNSにも、上司が何でもChatGPTに入れ、ほとんど手を入れないまま顧客向けの文章や人事評価まで作ってしまうことに疲れた、という投稿があります。投稿者は、上司が作ったAI文章を顧客へ送るよう求められる一方、その内容に問題があると感じても、関係を悪くしたくないため指摘しにくいと書いていました。

https://www.reddit.com/r/managers/comments/1rxc2ex/my_manager_uses_ai_for_everything/

また、プロダクトマネジメントのコミュニティでも、関係者や上司から一回の指示で作られた長文、要件書、試作品が大量に送られ、その内容を検討する時間が無駄になっている、という不満が出ています。専門性の高い業界について、上司がChatGPTの一般回答をそのまま方針として渡してくる、というコメントもありました。

https://www.reddit.com/r/ProductManagement/comments/1liv9h1/how_do_you_deal_with_ai_slop/

個人の投稿なので、すべての職場を代表するものではありませんが、「上司のAI出力を、なぜ自分が片づけなければならないのか」という不満は、かなり共通しているようです。

workslopの問題は、単にAIの出力のクオリティの問題ではありません。作った側が省略した思考を、受け取った側へ移しているという構造的な問題があります。


3. 初手を出したことの価値は、かなり下がった

以前は、競合一覧を作る、企画案を並べる、スライドの構成を作る、文章のドラフトを書くというところまでにも、一定の時間がかかりました。今は、1stドラフト、悪く言えば中途半端なものは、一瞬で出ます。

その意味では、「まず何かを形にした」という初手の価値は、かなり下がったと言ってもよいと思います。

もちろん、初手そのものが無価値になったわけではありません。

問題設定の置き方、着手したメンバー独自の視点からの情報が入っている、前提が明示されている、不要な選択肢は事前に理由付きで排除している、次の判断に資するインサイトが含まれる…

そうした初手には、今でもかなり価値がありますよね。ただ、AIに少し聞いて、表や文章が出たというだけでは、ほとんど進捗とは呼べなくなってます。

ずっと言われ続けていることですが、AIで作ると、それっぽく見える成果物は出てくる。だからこそ当然ですが、見た目だけを見て「ここまでできた」と判断すると、残りの工数を大きく見誤ります。

AIで出力を作れることと、その出力を仕事の中で正しく扱えることは違います。違いは、最新のツールを知っているかではありません。

AIが出した後に、何を確認し、何を捨て、どこまで責任を持つ必要があるかを見積もれているかです。


4. 問題は、残ったコストを誰が負うか

上司がAIで初動を作ること自体が悪いわけではありません。本当に仕事が速くなるなら、そのまま検証と修正まで進めればよいだけですし。

あるいは、目的を定め、前提を選び、出てきた案を読み、何を採用するか判断した上で部下へ渡せばよい。(本当はここまで出来たら、自分でAI使えばいいという話にもなるんですけど)

問題は、一番簡単になった生成部分だけを自分で行い、残った高コストな工程を「ここから先」という言葉で部下へ移すことです。

しかも上司には指示権と評価権があるため、部下はその仕事を返しにくいというパワーバランスもあるため、ハラスメントと呼びたくなる理由があります。

単にAIを使えと言われるからではありません。

AIで安くなった部分だけを上司が成果として取り出し、安くならなかった部分を権力によって下へ寄せるからです。
あるいはAIを使った作業見積にギャップがある中で、着手のきっかけとして「AIを使って」を使うからです。

本当に効率が良いなら、自分で最後までやればいい。少なくとも、途中で渡すのであれば、何を目的に作ったのか、どの前提を採用したのか、何を確認したのか、何が未確認なのか、部下に何を判断してほしいのか。

そこまで連携しないと求めているものはでてこないでしょう。(上司部下のコミュニケーションに加えて、
AI⇔上司⇔部下⇔AI
になると、当然ですがずれます。

それがなければ、「ここまではやったので、ここから先よろしく」は実はかなり無茶ぶりでもあります。

AIで仕事らしきものを出したので、仕事にするところからよろしく。

実態は、こちらに近いのではないでしょうか。

確かにAIによって、初手を出すことの価値は下がりました。これにより、現時点でも価値を持っているのは、最初に何かを出したことではなく、何のためのもので、どこまで使えて、何がまだ足りないのかを判断する能力ですよね。

その判断をしないまま下へ流すのであれば、それはAI活用ではありません。本来上位レイヤーで行うべき判断のコストを下に移しているだけではないでしょうか。

それでは。

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