「仕事を手放さない人」がいるとき、組織はどうすればいいのか
組織の中で、担当替えをしようとしてもうまくいかないことがあります。
たとえば、これまでAさんが経理を担当していたとします。
会社としては、今後はBさんに経理を担当してもらいたいと考えている。ところがAさんは、今まで自分がやってきた経理の仕事をなかなか手放そうとしない。
そこで会社は、「では二人でやってください」とする。
一見すると、穏便な解決方法に見えます。
しかし私は、この状態を長く続けるのはかなり危険だと思っています。
問題は「誰が作業するか」ではない
経理の仕事を二人ですること自体には、何の問題もありません。
むしろ、ダブルチェックが必要な仕事もありますし、一人しか分からない状態を解消する意味でも、複数の人が業務を理解していることは重要です。
問題は、
「では、誰が経理に責任を持っているのか」
が分からなくなることです。
Aさんは「今まで自分がやってきた仕事だから」と処理を続ける。
Bさんは「今後はあなたに経理をお願いしたい」と会社から言われている。
では、月次の処理が遅れていたら誰が確認するのでしょうか。
数字におかしなところがあったら、誰が気づくのでしょうか。
税理士から確認事項が来たら、誰が回答をまとめるのでしょうか。
何か問題が起きたとき、最終的に「これは自分の責任だ」と考えるのは誰なのでしょう。
ここが曖昧なまま、「仲良く二人でやってください」としてしまうと、仕事は分散しても責任まで分散してしまいます。
そして責任が分散した仕事は、時として「誰の仕事でもない仕事」になります。
「仕事を手放さない人」の問題にしてはいけない
こうした状況になると、
「あの人が仕事を手放してくれない」
という人間関係の問題として捉えたくなります。
もちろん本人にも事情はあるでしょう。
長く担当してきた仕事なら、そこに自分の存在価値を感じているかもしれません。新しい担当者に任せることへの不安もあるかもしれません。
しかし、本来これは担当者同士で解決する問題ではありません。
組織設計の問題です。
会社がBさんに経理を任せたいのであれば、
「AさんとBさんで相談して決めて」
ではなく、
「今後の経理責任者はBさんです。Aさんには○月まで引き継ぎをお願いします」
などと、会社側が役割を定義する必要があります。
逆に、Aさんを引き続き責任者にするのであれば、それも明確にする。
Bさんは補助なのか、後継者なのか、共同担当なのか。
共同担当なら、どちらに最終判断権があるのか。
そこまで決めて初めて、「役割分担」になります。
権限を渡さず、責任だけ渡してはいけない
特に危険なのが、新しい担当者に、
「経理をお願いします」
と言いながら、以前の担当者が実務も情報も判断権も握ったままになっているケースです。
新しい担当者は責任を感じる。
しかし、自分の判断では変えられない。
これは非常に仕事がしづらい状態です。
組織において、
責任と権限はセットでなければなりません。
責任を持たせるなら、その仕事を整理したり、やり方を改善したり、必要な判断をしたりする権限も渡す必要があります。
そうでなければ、新担当者は「責任者」ではなく、前任者の仕事を手伝う人になってしまいます。
配置転換は「足し算」にしない
もう一つ、ありがちなのがこれです。
仕事のできる人に新しい業務を任せるとき、
以前の仕事を減らさず、新しい仕事だけを足してしまう。
受発注もできる。
マーケティングもできる。
経理も分かる。
だから全部お願いする。
会社にとっては便利ですが、本人からすると、これは配置転換ではありません。
単なる業務追加です。
新しい役割を任せるなら、
「何を任せるか」と同時に「何を手放してもらうか」
を決める必要があります。
特に責任を伴う仕事ほど、この考え方は重要です。
「誰でもできる組織」と「誰も責任を持たない組織」は違う
属人化を避けるために、複数の人が同じ仕事をできるようにすることは大切です。
けれど、
「誰でもできる」
と
「誰が責任者なのか分からない」
は、まったく違います。
理想は、
実務は複数人ができる。しかし責任の所在は明確である。
という状態でしょう。
責任者がいて、代行者がいる。
通常業務は複数人で処理できる。
判断基準も共有されている。
責任者が休んでも仕事は止まらない。
けれど、何か問題が起きれば「誰が判断するのか」は全員が知っている。
これなら、属人化を防ぎながら責任も曖昧になりません。
仕事を手放さない人が現れたとき、その人を責めるだけでは問題は解決しません。
まず組織側が問うべきなのは、
「この仕事の責任者は誰なのか」
という、ごく基本的なことなのだと思います。
担当者を決めるだけでは、組織は回りません。
誰が判断するのか。
誰が結果に責任を持つのか。
そのために、どこまでの権限を持たせるのか。
そこまで設計して初めて、人は安心して仕事を引き受けることができます。
そして、仕事のできる人に次々と仕事を足していくのではなく、その人に何を任せ、何を手放してもらうのかまで考える。
人を配置するとは、本来そこまで含めた仕事なのではないでしょうか。
