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マウスの「3カ月後」が、人間の「一生」に変わるまで

「若い頃にストレスで酒を飲んでいると、何年断酒しても脳は元に戻らない」

このような情報を目にしたら、皆さんはどう感じるでしょうか。

過去に仕事や人間関係のストレスから酒を飲んでいた人であれば、

「自分の脳も、すでに手遅れなのではないか」

と不安になるかもしれません。

健康に関するニュースは、私たちの生活と直接関係しています。とりわけ「脳」「認知症」「回復不能」といった言葉が並ぶと、冷静に読むことは難しくなります。

しかし、今回話題にする研究の内容を詳しく確認すると、実際に行われたのは、人間を対象にした追跡調査ではありません。

アルコールとストレスを実験的に与えたマウスを、中年期に相当する時点で調べた研究です。

研究そのものは興味深く、過剰な飲酒とストレスが長期的な脳機能に与える影響を考えるうえで、意味のあるものです。

ただし、研究が示したことと、私たちがニュースから受け取る印象との間には、かなり大きな距離があります。

問題は、研究結果が間違っていることではありません。

研究が発見していないことまで、私たちが「発見された」と思い込んでしまうことです。

今回は、限定的な動物実験が流通の途中でどのように変化し、最終的に「あなたの脳はもう元に戻らない」という恐怖の物語へ変換されるのかを考えます。



第1章 実際には、どのような実験だったのか

まず、批判や評価を加える前に、研究の内容を確認しておきましょう。

研究では、実験開始時に生後5カ月だったC57BL/6J系統のマウス55匹が使われました。

マウスは、濃度15%のエタノールを飲むことに慣らされた後、次の二つを組み合わせた実験を受けています。

一つは、慢性間欠的エタノール曝露です。

これは、マウスをエタノール蒸気に繰り返し曝露させる方法で、単なる晩酌ではなく、過剰飲酒やアルコール依存に近い状態を作るために使われる実験モデルです。

もう一つは、反復的な強制水泳ストレスです。

マウスを水の中で泳がせることで、強いストレスを与えます。

今回の研究では、エタノール蒸気への曝露と強制水泳ストレスを組み合わせたサイクルが4回実施されました。対照群には空気が与えられ、強制水泳ストレスは加えられていません。

その後、マウスには約3カ月の非曝露期間が設けられました。

中年期に相当する生後11カ月の時点で、自発的な飲酒量などが調べられ、さらにアルコールとストレスを再び加える最終的なチャレンジが行われています。その後、バーンズ迷路を使った認知課題が実施され、生後12カ月の時点で脳が調べられました。

この実験条件から分かるのは、研究が調べたのは、

若い人が、嫌なことのあった夜に酒を一杯飲むこと

ではないということです。

より正確には、

強いアルコール曝露と反復ストレスを経験したマウスに、長期的にどのような変化が残るか

を調べた研究です。

この違いは、決して小さなものではありません。


第2章 「アルコール曝露」が「ストレス解消の飲酒」に変わる

ニュースの中では、しばしばこの研究が、

若い頃にストレスを酒で紛らわせていると、中年期になっても脳に悪影響が残る

という物語に置き換えられます。

しかし、実験に参加したマウスが、自分の悩みを和らげるために酒を選んだわけではありません。

マウスには、研究者によってエタノール蒸気への曝露と強制水泳ストレスが与えられています。

研究では、その後にマウスが自発的にどの程度アルコールを飲むかも測定されています。実験群では、中年期になっても飲酒量が多く、ストレスを再び加えた際の飲酒傾向も強く残っていました。

これは興味深い結果です。

しかし、

アルコールとストレスを組み合わせた実験を受けたマウスが、後に多く飲むようになった

という結果と、

ストレスを解消するために酒を飲み始めた若者の脳が壊れた

という物語は、同じではありません。

前者は観察された行動です。

後者には、人間的な動機や人生の物語が加えられています。

マウスに与えられたのは、アルコールとストレスです。

ところが、ニュースの中でマウスは、いつの間にか、

仕事で疲れ、帰宅後に酒へ逃げる若者

へと変わっていきます。

こうして読者は、自分の日常生活を実験に重ねるよう誘導されます。

しかし実際の実験条件は、一般的な飲酒習慣よりもはるかに強いものです。

「アルコールとストレスの組み合わせ」を「ストレス解消のための飲酒」と言い換えると、実験で確認されていない心理的な因果関係まで、確認されたように見えてしまいます。


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