ホルムズ海峡封鎖で本当に消えるのは、ガソリンではなく「食品トレー」かもしれない。
「ガソリンが値上がりした」というニュースは連日報じられている。だが、製造業の現場にいる人間からすると、もっと深刻な話がある。包装資材の原料が手に入らなくなりつつある、という話だ。
卵パック、食品トレー、フィルム、PETボトル。コンビニやスーパーに並ぶ商品の「中身」ではなく「入れ物」を作っている側に、今まさに危機が来ている。
この記事では、ホルムズ海峡の封鎖が包装資材にどう影響しているかを、現場の目線で整理してみたい。
石油化学の「根っこ」、ナフサが止まる意味
ニュースで「ナフサ」という言葉を目にした方もいるだろう。ナフサとは、原油を精製したときにできる液体の一つだ。ガソリンの仲間だが、用途がまるで違う。
ナフサは石油化学産業の「根っこ」にあたる原料で、これを高温で分解すると、エチレン、プロピレン、ブタジエンといった化学物質が同時に生まれる。ここが重要なのだが、「同時に」だ。1つの炉から複数の原料が連鎖的に出てくる構造なので、ナフサの供給が止まると、下流にぶら下がっている製品が一斉に影響を受ける。
エチレンからはポリエチレンが生まれ、食品フィルムや包装材になる。プロピレンからはポリプロピレンが生まれ、食品容器や自動車部品になる。さらにPETボトルの原料であるテレフタル酸も、元をたどればナフサから来ている。
つまり、コンビニの棚に並ぶ商品の「中身」以上に、「包んでいるもの」がナフサに依存している。
原材料4割高、在庫は3週間分。数字が示す現実
2026年2月末、米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を機に、ホルムズ海峡が事実上封鎖された。日本が輸入する原油の約9割はこの海峡を通過しており、邦船大手3社はいずれも通航を停止している。
影響はすぐに数字に出た。
アジアのナフサ指標価格は3月11日時点で1トン856ドルまで上昇した。三井化学などの大手はエチレンの減産に踏み切った。プラスチックシートメーカーのRP東プラは、原材料価格が約4割上昇したと報じられている。
東洋経済の報道によれば、3月下旬の段階でGW頃までのナフサ調達は確保されているが、その先は見通しが立っていない。国内のナフサ在庫はわずか2〜3週間分しかなく、国家備蓄の原油を精製してもナフサは全体の約10%しか取れない。
帝国データバンクの調査では、2026年の食品値上げ要因として「包装・資材」を挙げた企業が81.3%に達した。石油由来の樹脂素材ではすでにコスト上昇圧力が高まっており、年後半に値上げラッシュが再燃する可能性があるとされている。
「いつか戻る」を繰り返した結果が、今の依存構造だ
ここで大事なのは、これが初めての出来事ではないという点だ。
2022年にはロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が急騰した。日本はロシア産原油の輸入を事実上停止した結果、原油の中東依存度はさらに上がり、2025年時点で約94%に達していた。その状態で、今度はホルムズ海峡が止まった。
つまり、石油由来の包装資材を使い続ける限り、数年おきに「原料が来ない」「値段が跳ね上がる」という事態に振り回される構造になっている。これは一企業の調達努力でどうにかなる問題ではなく、包装の原料を石油に依存していること自体が構造的なリスクだということだ。
食品メーカーや包装資材メーカーの現場の方々は、この構造を身をもって感じているはずだ。
容器リサイクル法が示す「石油依存から降りる道」
「石油が高いなら別の素材を使えばいい」と言うのは簡単だが、現実はそう単純ではない。包装資材の切り替えには、素材の調達、金型の設計、成形条件の確立、食品衛生法への適合確認など、複数のハードルがある。
ただ、一つ知っておいて損はない事実がある。
日本の容器包装リサイクル法では、バイオマス素材の比率が一定以上(概ね51%超)の容器は、再商品化委託料金が大幅に軽減される、あるいは免除される。これは「環境にいいから」ではなく、法制度として「石油由来でない素材を使った容器は、リサイクルの負担金を払わなくてよい」という仕組みだ。
石油系樹脂の場合、原料価格が上がり、さらにリサイクル法の委託料金も乗る。一方、バイオマス素材の場合、原料が石油価格に連動しにくく、リサイクル法の負担も軽くなる。石油価格が高騰すればするほど、このコスト差は開いていく。
そして正直なところ、委託料金が数円安くなるという話以上に重要なのは、「そもそも原料が届かない」というリスクから降りられるかどうかだ。数円のコスト差は経営判断の範囲だが、供給が止まって生産ラインが動かないという事態は、売上そのものが消える。今回のホルムズ海峡の件は、それが絵空事ではないことを証明した。
これは「意識が高い企業がやること」ではなく、包装コストの構造を変えるかどうかという経営判断の問題だ。
包装資材のコストは「祈る時代」から「選ぶ時代」へ
ホルムズ海峡の問題は、いつか解決するかもしれない。原油価格も、いつかは落ち着くだろう。
だが、「いつか戻るから今は耐える」を繰り返してきた結果が、今の状況だ。2022年のウクライナ、2026年のイラン。次に何が起きるかは誰にもわからないが、石油に依存している限り、同じパターンが繰り返されることだけは確かだ。
包装資材のコストは、石油価格のグラフを見て祈る時代から、構造そのものを選び直す時代に移りつつある。
この記事が、包装や容器に関わる方の判断材料の一つになれば幸いだ。
鍛冶屋直虎 製造業経営者。廃材を素材に変えるところから成形まで、一気通貫で課題解決する事業を経営しています。
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