【エッセイ】子どもが親からもらって一番うれしいもの
四十路の子育てママたる筆者には、小学生の息子がいます。
子どもを産む前は、「子どもを産んだらどんな風に育てようか?」と色々考えていました。子どもが生まれて一番楽しみにしていたことは、子どもといっしょに「絵本を読む」ことでした。自分が小さかった頃、家にはたくさんの絵本がありそれをお母さんに読んでもらうのが大好きだったからです。
私がまだ保育園児だった頃は、毎晩、寝る前になると本棚に行って読んで欲しい絵本をたくさん選びました。絵本を抱えてお母さんのいる布団に持って行くときの幸せときたら、今でも思い出せます。うちには弟もいましたので、毎晩必ず2冊以上読んでもらっていました。
私の母は学校の先生をしていたので、修学旅行などでたまに夜も家にいないことがありました。そんな時は、あらかじめ母親がカセットテープに吹き込んだ絵本の読み聞かせの声を聞くこともできました。
実際に自分がお母さんになってからは、毎晩、数冊の絵本を子どもといっしょに読みました。お子さんがいる方は分かると思いますが、子どもはとにかく同じ絵本を何回もせがみます。
うちの息子が好きだった新幹線の絵本「しんかんせんでいこう」と多摩川の水源から海に出るまでの流れを解説したマニアック本「たまがわ」は冗談抜きに100回は読みました。
昼間フルタイムで働いていたので夜はかなり疲れており、読みながら半分意識が飛んでいることもよくありましたが(笑)、繰り返し読み過ぎて無意識に文章をそらんじられるレベルに達していました。母は強し。
でも、私が子育てでしたかったのは、まさにそんなことだったんです。
子どもが親からもらって一番うれしいものは、おやつでも、おもちゃでもなく、親といっしょに過ごす楽しい”時間”だと思っていたからです。
何度も同じ本を繰り返し読んだり、いつまでも公園でボール投げを続けたり、子育てをしていると「効率」や「生産性」の真逆をいく行動を求められることが多いと思います。
私は仕事好き人間で、子どもを産む前も産んでからもバリバリと仕事を続けてきました。だから、昼間は仕事で嫌というほど「効率」や「生産性」を追求しています。
でも、だからこそ、子どもといる時間は普段の3倍スロースペースで子どもと向き合うと決めています。ゆっくり話を聞いたり、ゆっくり話しかけたり、子どもが喜々として同じことを繰り返し続けることに、いつまでも、いつまでも、つき合ったり…。
きっかけは、子どもを産む前に聞いた、ある壮年の男性のこんなお話でした。
「子どもの頃の一番の思い出は、夕方の公園でお母さんとボール投げをしたこと。今思えば夕方の忙しい時間に、自分が大好きだったボール投げにいつまでも、いつまでも、つきあってくれて本当に嬉しかった」
それは昭和の時代の話です。経済が右肩上がりの成長期、子ども時代にはいろんな出来事があったはず。それでもその方の一番の思い出は公園でのボール投げだった。その話を聞いた時、私は心底
「ああ、分かるな」
と思いました。お母さんが自分のために、ニコニコといつまでも、いつまでも、いっしょにいてくれる。子どもとしてこれほど親の愛が感じられることってないと思います。
たくさんお金があっていろんなものが買えても、一人ぼっちで幸せを感じる人は多くありません。大好きな人が自分のためだけにたくさん時間を使ってくれるというのは、実は本当に贅沢なことです。
このお話にものすごく共感したので、子どもが生まれたら子どもが好きなことに、いつまでも、いつまでも、つきあうようなお母さんになりたいと思っていました。
だから子どもの気が済むまで、何度も、何度も、同じ本をいっしょに読み続けることは私にとっても幸せな時間でした。
そのかいあってか、息子は親思いのやさしい男の子に育ってくれています。来年は中学校、しっかりしていてもうすでに手が離れつつあります。
もちろん、だからといってこの子育てが成功かどうかはまだ分かりません。人の人生はそれぞれであり、息子の人生が幸せかどうかはこれから息子が決めることだから。
ただ、いつか息子が少年から青年になってお父さんになっても、いつか私がおばあちゃんになっても、これからもずっと、息子が私に望む時間は惜しみなく彼のために使っていけるお母さんでありたいです。
子どもが親からもらって一番うれしいもの
そんな時間をこれからも大切に。
