【YouTube】「森浦への道」 夭折した天才監督の遺作 孤独よりも、もっと孤独な世界
<概要>
1975年の韓国映画。
社会から落ちこぼれた2人の男と1人の女が、偶然に出会い、男の故郷である森浦(サンポ)を目指して旅をするロードムービー。文芸色の強い娯楽映画(あるいは娯楽色の強い文芸映画)で、人の温かみとともに人生の深淵を描く。
韓国映画の最高傑作と言われながら、フィルムが失われてしまった「晩秋」の監督、李萬煕(イ・マニ)の遺作(この映画の編集中に肝硬変で45歳で亡くなった)。1975年度の「韓国のアカデミー賞」大鐘賞の監督賞、優秀作品賞、撮影賞などを受賞した。
YouTubeのKorean Film Archiveチャンネルで、日本語字幕付きで見られる数少ない作品の1つ。↓
<評価>
心に残る名作。
韓国ロードムービーの傑作として、1984年の「鯨とり」と並べて論じる人もいるようだ。
ありがちなロードムービーだなー、と思って楽しく見ていると、ドシーンと重たい衝撃を覚える。
人間は孤独なものである、という現実を、誰もが再認識させられるはずだ。
監督は、撮影中に、自分の死期を悟ったと言われる。そう思って見るからだろうが、悲惨な状況を描きながら、生命の燃焼を惜しむように、生の喜びを歌い上げている(皮肉なことに、葬式でバカ騒ぎするシーンがある)。
結末については、人によって解釈・評価が別れるだろう。
希望と絶望と、その両方を私は感じたが、希望が1%くらい勝っている。だから人間は生きていける、と映画は語りかけていると私は思う。
ネタバレになるから詳しく書かないが、途中で、音が全く消える「無音」のシーンがある。
あれはちょっと忘れがたい。天才的な演出だ。「孤独よりも、もっと孤独」な心境の表現として、あれ以上はないのではないか。
たまたま私は、「Disneyプラス」で始まった韓国ドラマ「カジノ」を見ていたが、主人公(チェ・ミンシク)の少年時代を描くために、最初は1975年の韓国が舞台になる。
それを見ながら、この映画を思い出した。時代が同じ1975年で、やはり舞台や雰囲気が似ているからだ(「カジノ」については全話が公開されてからまた改めて書きたい)。
「漢江の奇跡」はすでに始まっていたはずだが、1975年の韓国は、1975年の日本より、はるかに貧しい。
なお、この映画の「森浦(サンポ)」は架空の街である。
それにしても、こういう映画を見ても、韓国映画は最近になって急に立派になったわけではないことがわかる。
「映画で人々に幻想を与えたくない。あくまで現実にこだわりたい」というイ・チャンドンの言葉を思い出した。それが、ハリウッドに影響されながらもハリウッドとは違う、韓国映画の個性であり思想ではないだろうか。
かつてはそういう「くそリアリズム」が、泥臭く、ダサいと思われたが、エンタメ性(ストーリーの強さと役者の巧さ)と両立させて、韓国映画は世界の中で目立つ存在になった。
ファンタジーに傾斜するハリウッドとも、「アニメ」に傾斜する日本の映画界とも、まったく別の道を進んでいる。その差はどんどん拡大していくのだろう。
