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「グーテンベルク」から「マンガ」へ キリスト教出版の崩壊が意味する「文化革命」

(ヘッダー画像は、YouTube「いのフェスチャンネル_松谷信司」2026/1/13より)



キリスト教出版界の壊滅的状況


この話題、多くの人の関心は惹けないと思うけど。

でも、出版関係者のあいだでも話題になってないのを見ると、元出版界の人間としては、問題だと感じます。だから、書いておきたいっス。

日本のキリスト教出版界が、崩壊に向かっている、ということ。


大変な事態に陥っている、ということは、1月13日の以下のYouTube動画を見てもらうのが、いちばん分かりやすいんですけどね。


年末年始にかけて激震が走ったキリスト教出版界をめぐるニュース(いのフェスチャンネル_松谷信司 2026/1/13)


日本でのキリスト教は、話題(?)の創価学会や統一教会(いちおうキリスト教を名乗っているが一般には異端)ほど目立たないけれど、実は政治力を持っている。

アメリカでは、ご承知のとおり、トランプの大統領再選に大きな力を持ちました。

日本でも、陰に陽に、影響力があるけど、そういうことは後回しにして。


キリスト教には、非常に多くの宗派教派があるらしく、日本に限っても、その全貌は私はわからない。

私はキリスト教徒ではない。キリスト教の素人なので、間違っているかもしれないが、日本のキリスト教徒の多数派は、ざっくり以下の3つのどれかに属している、と見ていいと思う。


・カトリック(ここではCとする)

最近では、コンクラーベ、教皇選挙でお馴染み。日本では、吉田茂の家系がカトリックで、麻生太郎もカトリック。あと、遠藤周作とか。私が住む柿生ゆかりの文学者、河上徹太郎もカトリック。アメリカのヴァンス副大統領もプロテスタントからカトリックに改宗した。

・プロテスタント主流派(PMとする)

プロテスタントは、大きく主流派と福音派に分かれて、日本最大の「日本基督教団」を擁するのがこの「主流派」。聖書を現代風に解釈する。政治的にはリベラルで、左翼ちっくでもある。石破茂がここの信者。アベガーの「シールズ」の奥田ナントカのとーちゃんもここの牧師。

・プロテスタント福音派(PF とする)

主流派に対して、聖書を字句どおりに受容する。政治的には保守派で、アメリカのトランプ再選に大きな力を持ち、今も支持者の中心。昨年暗殺されたチャーリー・カークもここ(でも、彼の団体を引き継いだ奥さんはカトリック)。ネットでクラウドチャーチをやっている元TBSの小林拓馬もここ。


で、出版に関しては、この3派がそろって、総崩れ状態になっている。


昨年末、プロテスタント福音派の「いのちのことば社」で、多額の横領事件が起こったのは、もしかして知ってる人がいるかもしれません。


「福音派」の教会を主な対象とする文書伝道の働きを続けてきたいのちのことば社伝道グループ(岩本信一社長)は12月26日、「多額の不適切な会計処理の報告とお詫び」と題する謝罪文を関係する諸教会・団体宛てに書面で発送した。年明け1月6日に、同社ホームページでも同内容の書面を公開する予定。
 発表によると、同社の元職員が業務上の立場を利用し、販売分野において現金で直接預かった売上金や献金の一部を、長年にわたり不適切に会計処理していたという。現在も調査は継続中だが、不整合額は数千万円規模に上ると推定されている。

(キリスト新聞 2025/12/30)


いのちのことば社は、福音派宣教の中心的存在だっただけに、業界内で衝撃が走りました。

その真相は、年が明けてもまだはっきりしないのですが、社長は辞任の意向です。ただの一社員の横領事件にはとどまらず、窮乏化した業界の構造的問題につながっているように感じます。


同時期に、今度はプロテスタント主流派の日本キリスト教団出版局が、代表的出版物である「信徒の友」の休刊を発表。あわせて、「礼拝と音楽」の休刊も発表しました。

それは、すでに昨年11月時点で発表されていた、日本基督教団そのものの事業縮小にともなうものでした。


 日本基督教団の出版事業を中心に担ってきた日本キリスト教団出版局(網中彰子局長代行)をめぐり、来年3月末をもって同教団(雲然俊美総会議長)が事業整理に踏み切ることが明らかになった。10月28日に開かれた日本基督教団常議員会で、事業の整理・縮小が正式に決議され、11月10日に同教団の公式サイトで発表された。

 同教団によると、近年は書籍を中心とした売り上げが徐々に減少。事業継続のために運転資金を借り入れながら経営改善に取り組んだものの、2025年5月に債務超過となり、継続が困難な状況に陥ったという。告知の本文には、「具体的な改善策を実行することが出来ず、このような事態となりましたことを心よりお詫びいたします」と、関係者への謝罪もつづられている。

(キリスト新聞 2025/11/14)


その他、カトリックも含め、各派の新聞も、規模を縮小、ないし休刊しています。


カトリック新聞(C)     2025年3月30日付で休刊

キリスト新聞(PM)     2017年、週刊から月3回(旬刊)へ

クリスチャン新聞(PF)    2025年7月、週刊から月2回へ


他にも、細かい事業縮小や、刊行物の休刊はあるかもしれません。

私が今回調べていて、いちばんショックを受けたのは、実は「CLC(クリスチャン文書伝道団)」が消滅していたことでした。

それは、6年前の話なのですが、私はまったく知らなかった。


宗教法人クリスチャン文書伝道団(CLC)解散のお知らせ

主の尊い御名を賛美いたします。

1950年、英国からの文書伝道師R・オーラム師によって日本におけるCLCの文書伝道が始まりました。その後、各地域に店舗を構え、店頭販売だけでなく当初より外販車での働きを継続してきました。時代とともに数店舗は閉店を余儀なくされましたが、現在では6店舗の運営と出版事業を通して、文書伝道の働きを続けてきました。

しかしながら、ここ数年の出版不況に加え、新型コロナウィルスなどの影響により、宗教法人としての働きを継続することは困難であると判断し、2020年12月をもって宗教法人クリスチャン文書伝道団は解散することになりました。

(キリスト新聞 2020/9/23)


私が、東京の会社に勤めていた時、月に1回くらいの頻度で通っていたのが、このCLCのお茶の水店でした。

キリスト教関係の書籍は、ほとんどそこで買っていました。一般の書店にはなく、読書界でも話題にならない多くの良書に出会いました。

そこで買った本は、大方処分してコンパクトになった私の本棚にも、まだいくつも残っています。C・S・ルイス、マザー・テレサ、ポール・トゥルニエ・・ある時期に、私の魂を救ってくれた本たちだから、捨てられないんですね。

私が退職してから、それが消滅していたとは。

お茶の水の書店は、福音派系が継承して続いてはいるようですが、規模はますます縮小しているようです。


出版は「グーテンベルク型」から「マンガ型」へ


出版不況の話は、珍しくありません。

というか、耳タコでしょう。

業界のいろんなところで、同様の縮小や休刊は相次いでいるでしょう。

たとえば、書評紙の「図書新聞」が、長い断末魔の末、今年3月に廃刊します。


でも、キリスト教出版界の危機は、また違った意味があると思うんですよ。

考えてみてくださいよ。近代の出版業というのは、キリスト教出版から始まったんです。

15世紀のグーテンベルク聖書から始まったわけです。

それが、宗教改革やルネサンスを生み、近代という世界そのものを生み出しました。

それは、キリスト教が「出版宗教」だったおかげです。

読書の習慣も、そこから広がったと言えます。

本になんとなく権威があり、本を読むことが、なんとなく「いいこと」であるように思われるのも、そこから来ているわけです。


キリスト教世界以外には、日本を含めて別の出版伝統があったとはいえ、「近代」に入ると同時に、みんなグーテンベルク型の、活版印刷の出版になりました。

いま我々が当たり前に思っている本というフォーマット、版面のデザインとか、章や節といった構成とかの、その原型は、全部グーテンベルク聖書にあります。


グーテンベルク聖書(wikipediaより)。15世紀の技術者、ヨハネス・グーテンベルクが、活版印刷を初めて実用化し、聖書を発行した。その版面の美しさ(印刷部分のノドからの距離、印刷部分以外の余白=マージンのバランスなど)は、5世紀以上たっても、ブックデザインの規範になっている


その大もとの、キリスト教の出版業界が、危殆に瀕している。

それは、象徴的だと思いませんか?


出版不況が当たり前のように思われていますが、実は景気のいいところもある。

たとえば、紀伊國屋書店の業績は絶好調です。

それは、海外でマンガが売れているからです。


紀伊国屋は事業別の営業利益を公開していませんが、利益貢献が大きかったのは海外事業でしょう。円安が進行しているからです。
海外開拓の収益の柱がマンガ。紀伊国屋の海外店舗のうち、半分近くはアメリカにあります。アメリカの旺盛な日本のマンガ・アニメ需要を巧みに捉えているのです。
マーケットリサーチのGrand View Researchは、アメリカのマンガ市場は2030年までにおよそ37億3000万ドル(5600億円)まで拡大し、2025年から2030年までの年平均成長率は24.0%だと予想しています。

紀伊国屋書店の業績が絶好調、書店業界の苦戦が続く中でなぜ?(DIME 2026/1/14)


日本の出版売り上げも、ずっと右肩下りでしたが、ここ数年は、紙と電子を合わせた売り上げでは、底を打った形で、下げ止まっています。

雑誌と一般書籍の減少は止まらない。でも、マンガ、とくに電子版の売り上げが急上昇しているからです。


日本国内では、マンガの電子版が出版を支えていますが、海外では、紀伊國屋の記事にあるとおり、高価な「紙のマンガ」への需要が高く、それが為替差(ドル高)もあって、大きな売り上げになっているのは、面白い現象だと思います。


いずれにせよ、マンガが日本の出版を支えている。これから、ますますそうなります。


ここに、「グーテンベルク」型の出版物から、「マンガ」型出版物への、大きな転換が起きている。

そのことが、あまり指摘されていないように思います。


つまり、「出版」と言っても、実際は、「グーテンベルク型」と「マンガ型」の、二つの世界があるのです。

マンガ出版物のフォーマットは、一般に、グーテンベルク聖書のフォーマットに従っていません。詳しくは知りませんが、たぶんアメリカや日本の出版界が、20世紀に現場で生み出したものではないでしょうか。


私の知る限り、この二つの「世界」では、編集者も別、デザイナーも別です。作家たちの生態や業界のあり方、キャリアパスも、全然違います。

「グーテンベルク型」の出版物は図書館に入りますが、「マンガ」は原則、入りません。私はよく知りませんが、営業のやり方、印税、権利の売り方、電子化の考え方も、違うのではないでしょうか。


現状、グーテンベルク型の「まじめな」出版界は落ち込む一方、マンガ型の「エンタメな」出版界は伸びる一方です。

「出版」という場合、どちらの話をしているのか、明示しないと、話が噛み合いません。

私の考えでは、出版統計でも、二つを別にすべきだと思っています。


そういえば、最近、ある自治体で、新入学シーズンの子供に何をプレゼントすべきか、議論になったという話を聞きました。

「図書券」が無難だろう、ということになったそうです。

せっかくプレゼントしても、子供に喜ばれなければ意味がない。

大人の思惑としては、「まじめな」本を買って読んでほしいけど、図書券なら「マンガ」も買えるから、子供にも喜ばれるだろう、と。だから無難だろう、と。

つまり、「図書」と言った場合、その二つの世界があることが、もうすでに前提になっているわけです。

(追記 コメントで指摘いただきましたが、ここは「図書券」ではなく「図書カード」とすべきでした。「図書カードNEXT」は、ネットでも使えるとか)


年明けには、「ONE PIECE」の発行部数が、「聖書」に迫るかも、という話題が、改めてSNSで広がっていました。


世界発行部数ランキング
1位 聖書/ キリスト (50億部)
2位 毛沢東語録 / 毛沢東 (8億部)
3位 ONE PIECE / 尾田栄一郎(5億部)
とりあえず毛沢東は抜くとして、これから最終章でキリスト突破して欲しい!


「世界一売れてる本は聖書だが、ワンピースの発行部数が世界3位なのであと何年か経てば聖書を越えるかもしれない」出版方法の違いなど様々な議論に
(togetter 2026/1/8)


「マンガ」全体の部数は、「聖書」やキリスト教関連図書全体の部数を、世界単位で、すでに抜いているのではないでしょうか。

これは出版だけの話ではなく、映画興行も、ストリーミングも、すでにアニメが主流になりつつあります。


13日に来日した韓国の李在明(イジェミョン)大統領が、高市首相とアニメ映画(「K-POPガールズ!デーモン・ハンターズ」)の主題歌でドラムセッションしたり、15日に来日したイタリアのメローニ首相が、「北斗の拳」のファンで、作者の原哲夫と面会したり。


そういうのを見ていると、この世の変化がわかるじゃないですか。


文化とは世界人類の共通言語だ、とするならば、今は「マンガ」が、「グーテンベルク型」出版物に代わって、その役割を果たしている。

私は以前、noteの記事で、これを「世界のコミック化」と命名したんですが。

今回の記事では、それを「脱グーテンベルク」という文脈で書きました。


この何世紀ぶりかの、世界的な「革命」に、みんなもっと注目すべきではないでしょうか。



<参考>


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