【Netflix】「ドミニオン」小津安二郎版の「エクソシスト」
<概要>
「エクソシスト4」として、ほぼ同じ脚本で撮られた2本の映画「ドミニオン」と「エクソシスト ビギニング」を、今ならNetflixで見比べることができます。とくに「ドミニオン」は10月31日でNetflix配信終了。日本未公開、未ソフト化の作品なので、今のうちにどうぞ。
「エクソシスト ビギニング」
2004 | 年齢制限:16+ | 1時間 53分 | ホラー
第二次世界大戦の終戦後、アフリカへたどり着いた若き日のランカスター・メリン神父。そこで彼を待ち受けていたのは、パズズと呼ばれる悪魔との最初の戦いだった。
出演:ステラン・スカルスガルド、ジェームズ・ダーシー、イザベラ・スコルプコ
https://www.netflix.com/jp/title/70000088
「ドミニオン」
2005 | 年齢制限:16+ | 1時間 55分 | ホラー
アフリカで遺跡発掘に携ることになったメリン神父。地中に埋もれていた教会が発掘されて以来、立て続けに恐ろしい出来事が起こり始め、神父は悪魔との闘いに引きずり込まれていく。
出演:ステラン・スカルスガルド、ガブリエル・マン、クララ・ベラール
https://www.netflix.com/jp/title/70034487
(Netflix公式サイトより)
<評価>
「エクソシスト4」として製作されながら、いったんはお蔵入りになったポール・シュレイダー監督の「ドミニオン」。
ホラー映画としては明らかな失敗作だし、お蔵入りになった経緯から仕上がりに予算を使えず、映像と音楽に問題がありますが、見どころもあります。
「ドミニオン」予告編
(この予告編、使われている映像はポール・シュレイダーの「ドミニオン」だが、最後のタイトルは「ザ・ビギニング」になっており、「ザ・ビギニング」の予告編としても流通している。理由は不明)
「エクソシスト」って、みなさん、ホラー映画だと思っていますが、ちょっと見方を変えてほしい。
物語の基本は、「信仰を失ったキリスト教徒が、信仰を取り戻すまでの話」なんです。
この世に神はいない、と絶望した者が、悪魔の実在を知り、再び神への信仰に目覚めるーーという、キリスト教の説話なんです。
そういうものとして見ると、「ドミニオン」は、正しい「エクソシスト」であることがわかります。
ポール・シュレイダーといえば、小津安二郎の影響を受け、小津安二郎論も出版している知性派監督。小津安二郎が、「エクソシスト」を一種の人情噺としてとらえ、映画にしたらこうなるだろう、というような映画なんですね。
小津安二郎だから、画面はこざっぱりしていて、全然ホラーっぽくないのは当然です。
この「ドミニオン」を、映画会社は「なんだ、全然怖くないじゃないか」と却下して、お蔵入りにしました(その経緯は、以下に年表にまとめました)。
そして、代役として雇った監督が、こともあろうにレニー・ハーリンでした。
「ダイハード2」や「クリフハンガー」で知られるレニー・ハーリンは、イケイケ、アッパラパー、軽薄で、勢いだけみたいな監督です。知性派のシュレイダーと対照的な人。
だから、彼が作り直した「エクソシスト ビギニング」は、「ドミニオン」をただ下品にしたような作品になりました。
とはいえ、より現代的でホラー映画っぽいのは「ビギニング」であり、映像と音楽のクオリティも上です。(でも、コケました)
レニー・ハーリンの「エクソシスト ビギニング」予告編
つまり、「ドミニオン」は、上品すぎて失敗した「エクソシスト」。
「エクソシスト ビギニング」は、下品すぎて失敗した「エクソシスト」。
対照的な、2つの失敗作、2つの「エクソシスト」が見られるというわけです。
ネットで調べると、「徒然草枕」さんという方が両作を比較してレビューしていました。
それは、たいへん納得のいくものでした。
どちらかを選べというなら、抑制された恐怖の効果的な『ドミニオン』の辛勝といったところか。『ビギニング』の映像で『ドミニオン』を撮っていたら傑作になっていたかもしれない。
「『エクソシスト ビギニング』と『ドミニオン』の比較と内部事情」エクソシスト ビギニング 徒然草枕さんの映画レビュー
*
先週公開されたシリーズ最新作、「エクソシスト 信じる者」は、北米興収1位でスタートしました。
『エクソシスト 信じる者』が北米の週末興行収入でトップに
Comscoreが伝えるところによると、「エクソシスト」シリーズ最新作『エクソシスト 信じる者』の北米外での売り上げは1780万ドル(約26億4100万円)、全世界での総額は4500万ドルとなる。なお、『エクソシスト 信じる者』の日本公開は2023年12月1日を予定している。 『エクソシスト 信じる者』の公開週末の興行収入は2004年の『エクソシスト ビギニング』の1800万ドルを大幅に上回り、「エクソシスト」シリーズの中ではかなり好調だ。
(IGN JAPAN)https://news.yahoo.co.jp/articles/25f70cf6bc98aacea297b18d196ddd3d43e9c10d
この「エクソシスト 信じる者」は、シリーズ5作目にあたります。
オリジナルから50年間で5作ですから、10年1作の、のんびりしたシリーズですね。
「エクソシスト」(1973 ウィリアム・フリードキン監督)*大傑作
「エクソシスト2」(1977 ジョン・ブアマン監督)*駄作
「エクソシスト3」(1990 ウィリアム・ピーター・ブラッティ監督)*カルト作
と来て、「エクソシスト4」として構想されたのが、メリン神父の過去を描く「エクソシスト ビギニング」と「ドミニオン」というわけです。
「エクソシスト ビギニング」(2004 レニー・ハーリン監督)
「ドミニオン」(2005 ポール・シュレイダー監督)
この2本は、ほぼ同じ脚本、同じセットで、主演は同じステラン・スカルスガルド。
何の事情も知らないで、この2本を続けて見たら、頭が混乱するでしょうね。実は、私もそうだったのです。
以下、なぜ2本の「エクソシスト4」があるのか、英文Wikipediaを参考に、経緯をまとめました。
「ドミニオン」の製作年表
1997年、プロデューサーのジェイムズ・G・ロビンソンは、エクソシストの前日譚製作を思い立ち、「ターミネーター2」の脚本をジェームズ・キャメロンと共同で書いたウィリアム・ウィシャーJrに脚本を依頼。
(なお、ジェイムズ・G・ロビンソンは「エクソシスト 信じる者」の共同プロデューサーでもある)
1999年10月、モーガンクリークプロダクションは「13日の金曜日パート6」のトム・マクローリン監督を起用。翌年からアフリカで撮影が予定されたが、マクローリンは脚本が気に入らず降板。
2001年10月、脚本が「エイリアニスト」で知られる作家ケイレブ・カーによって改稿され、ジョン・フランケンハイマーが監督すると報じられる。主役のメリン神父(オリジナルでマックス・フォン・シドーが演じた)にリーアム・ニーソンの名が挙がった。
2003年7月公開が予定されたが、フランケンハイマーが健康問題で降板。「タクシードライバー」の脚本などで知られるポール・シュレイダーが監督として代わりに起用される。
2002年4月、ガブリエル・マン(フランシス神父役)がキャストに加わる。
2002年5月、「エクソシスト ザ・ビギニング」という公式タイトルがつけられ、リーアム・ニーソンではなくステラン・スカルスガルド(メリン神父役)と、ビリー・クロフォード(チェチェ役 フィリピン人の歌手・俳優)がキャストに加わる。
2002年11月11日からモロッコで撮影開始。撮影監督は著名なヴィットリオ・ストラーロ。
それから6週間、モロッコで撮影され、さらに2か月、ローマで撮影された。
2003年2月、クランクアップ。撮影費用は倍になっていた。
2003年の初めにシュレイダーの130分のフィルムがスタジオで試写されたが、流血などのホラー要素が少ないと不評だった。
スタジオはもっと怖くしてほしいとシュレイダーに依頼したが、シュレイダーは再編集に抵抗。シュレイダーは脚本を忠実に映像化したつもりで、スタジオの不当ないいがかりと感じた。事態は紛糾。
2003年8月、スタジオはシュレイダーの首を切り、彼の映像のお蔵入りを決めた。
2003年10月、モーガンクリークは新たな監督探しを始める。
プロデューサーのロビンソンは、「クリフハンガー」などの監督レニー・ハーリンに作り直しを依頼。レニー・ハーリンは正式に監督として雇われ、キャストの変更、カーらと脚本の書き直しにかかる。
キャストでは、主役のステラン・スカルスガルドだけが残った。
2003年11月、「ヘルレイザー」のゲイリー・J・タニクリフが特殊メークで加わる。
2003年冬、ローマからハーリンの撮影が始まり、12週で撮影が終わる。
2004年4月、ワーナーブラザーズが、シュレイダー版をビデオダイレクトで発売検討。
2004年8月20日、製作費9000万ドル超の「エクソシスト ザ・ビギニング」公開。
興収は期待外れで、批評もかんばしくなかった。シュレイダーは「これはひどい。この調子だと、私の作品にチャンスが回ってくるかも」と発言。
2004年11月、モーガンクリークは、2005年にシュレイダー版を限定公開することをシュレイダーに提案。3万5000ドルの追加予算とわずかな時間で追加撮影を許した。
だが、ヴィットリオ・ストラーロに最終的な色調整を依頼する余裕はなく、「ザ・ビギニング」の音楽をそのまま使う権利も得られなかった。トレヴァー・ラビンのスコアをつぎはぎで使い、残りをアメリカのメタルバンド、ドッグ・ファッション・ディスコなどの音楽で埋めた。
2005年3月、ニューヨークで非公開試写されたあと、作品は「ポール・シュレイダーズ・エクソシスト ザ・オリジナル・プリクエル」と命名。「エクソシストⅣ」「ダーク・エンジェル」などとも呼ばれたが、4月に正式に「ドミニオン」と名付けられた。
*
私は、脚本はそんなに悪くなかったと思うんですけどね。
(両作は、物語の基本は同じながら、最後に悪魔がとりつく人物に重要なちがいがあります)
どちらの映画でも、若きメリン神父は、ナチ強制収容所の生き残りでアフリカで医療奉仕する若い女医さんと交流します。
その「交流」の描き方が、まさに対照的ですね。私は、シュレイダー監督が描く最後の別れのシーンに感動しました。これぞ小津的なんじゃないでしょうか。
ただ、ポリコレで言うわけではないですが、アフリカ人(ケニア人)の描写がどちらも「土人」的で、20年前の映画ということを考えても、不快感があります。
気の毒なのは、同じ脚本で、続けて2本の失敗作に主演させられたステラン・スカルスガルドです。
どちらも熱演なんですけどね。
どちらかが当たっていたら、そのイケオジぶりが注目され、この時点でマッツ・ミケルセンみたいに「北欧の至宝」とたたえられて、もっと世界的なスターになったと思うのですが。(スカルスガルドはスウェーデン、ミケルセンはデンマークの名優)
ロックファンは、トレヴァー・ラビン(イエス)の音楽にも注目すべきでしょう。「ドミニオン」の最後で使われる印象的な電子音楽は、当時シュレイダーの息子が気に入っていたというガレージメタルバンド「ドッグ・ファッション・ディスコ」のものと思われます。切れのある90年代的な電子音で懐かしい感じ。
*
また、オリジナルでリー・J・コップが演じた「キンダーマン警部」をジョージ・C・スコットが演じ、彼の怪演が心ゆくまで楽しめる「エクソシスト3」もNetflixで見られ、最初の「エクソシスト」はアマゾンプライムなどで見られます。
ステラン・スカルスガルド主演の傑作ドラマ「リバー」がいまNetflixで見られなくなっているのが残念。
