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TBSがビデオを見せたから坂本弁護士一家は殺されたのか オウム真理教事件の解けない誤解

フジテレビの中居正広問題で、TBSも社内調査を始めた、という報道があったからでしょう。

放送前の坂本堤弁護士インタビューを、TBSがオウム真理教幹部に見せた件が、また蒸し返されています。


今のフジテレビの問題のニュースを観ていると、坂本弁護士一家殺害事件の発端となることをやらかしたTBSで、CM差し止めが起きなかったのが不思議でならない。当時も、ずいぶんとTBSは批判されていたし、深夜放送を自粛するなどしておりましたが。
(中井かんいち 2025/1/20 22:47)


さっきTBSがフジの一件を神妙な顔して報道してたけどよ、TBSが過去に犯した犯罪を忘れちゃいまい。TBSは過去オウム真理教を追求していた坂本弁護士の録音テープをオウム側に聞かせた事で坂本弁護士一家は幼子も一緒にオウムに皆殺しにされてしまった。家族皆殺しだぞ。これは謝罪して済む問題じゃない。それでも平然と民放局としてやって行けるんだから恐ろしい。ちなみにこの時のキャスターは現立憲民主党・杉尾議員。フジの不祥事も酷いけどTBSもどの面下げて他局の報道したり杉尾も平然と国会議員やってるのかこれが許されちゃうんだから日本おかしいだろ
(KenKen 2025/1/21 2:01)


でも、TBSが放送前のビデオをオウムに見せたから、坂本弁護士一家が殺された、というのは誤解です。

私は、坂本弁護士一家殺害事件を題材にした小説(平成の亡霊)を書いたから、裁判記録含めて、事件の詳細をできる限り調べました。

裁判の判決文にも、TBSのビデオが殺害の理由だった、とは書かれていない。


だから、それが誤解だということは、これまでも何度か書いてきたけど。

でも、この誤解は根強いようだから、またここで、誤解を解いておきたいと思います(言うまでもなく、私はTBSになんの義理もありませんが)。


事件についての誤解は、他にもいろいろ多い。

上の中井かんいち氏のXポストには、


この事件、まだ未解決ですよね…。


というリプライがついていました。

いや、解決しているし、実行犯は死刑になっています。


さらに、こんな誤解もあります。



中野坂上駅前でオウム信者らが彰晃彰晃と歌いながら選挙活動しているのを中学生のときに見て、親と移動するときに乗せられたタクシーには坂本弁護士一家の捜査を求めるステッカーが貼ってあった。時系列としては、坂本弁護士殺害して、選挙に立候補してたんだな。逆だと思い込んでいた。
(すか 2015/3/22 9:38)


えー! わたしも立候補→落選→過激化→坂本弁護士殺害と思い込んでました。
(2025/1/17 11:35)


つまり、選挙に落ちて過激化した麻原が、坂本弁護士がTBSに、何かオウムに決定的に不都合なことを言ったのを知ったから、口封じのために殺した、みたいな理解になってるんですね。

そうではないんです。

本当に気の毒な犠牲になった坂本弁護士一家のためにも、正確に知ってほしいんですね。



まあ、正確に知りたい方は、小説「平成の亡霊」を読んでほしいのだけど。


いちばん簡単に言えば、坂本弁護士一家は、サンデー毎日編集長の牧太郎氏の「身代わり」で殺されたのでした。


サンデー毎日は、1989年10月から「オウム真理教追及キャンペーン」を始めていた。オウム真理教を、社会問題として初めて大手メディアが取り上げたキャンペーンでした。

現在、サンデー毎日は新聞の出版子会社が出していますが、当時は毎日新聞社本体が発行していました。


オウムの麻原は、サンデー毎日編集長の牧太郎氏をつかまえて、キャンペーンをやめさせたかった。

だけど、牧太郎氏は警戒し、身を隠していたので、オウムの実行隊がつかまえることができませんでした。


麻原は、毎日新聞のビルごと爆破する方法まで考えたんだけど、無理だとわかった。

なんとか11月中にサンデー毎日のキャンペーンをやめさせたかった麻原は、牧太郎氏の代わりに、坂本弁護士を監禁するか拷問するか殺すかして、事態の打開をはかろうとします。

目的は、サンデー毎日の連載をやめさせることであり、弁護士の口封じではありません。

TBS番組のビデオの内容を、麻原が知っていたのは事実ですが、それが殺害の動機になったわけではありません。


11月3日に、オウム実行犯は弁護士宅に向かいます。

坂本弁護士の帰宅中に、自宅前で拉致する計画でした。

しかし、その日が休日(文化の日)で、坂本弁護士が家族と家にいたため、また、なぜか家のカギが開いていたため、4日未明にかけて、一家全員が惨殺されることになりました。


麻原が殺したかったとすれば、あくまで牧太郎氏でした。心から憎んでいたようです。

サンデー毎日取材班が、坂本弁護士一家「失踪」について麻原に取材したら、

「私は坂本弁護士なんか殺さない。殺すなら、おたくの編集長ですよ」

と言われて、牧氏を震え上がらせました。


サンデー毎日は11月いっぱいで「追及」を終了しました。

坂本弁護士一家殺害は、麻原にとっては半ばアクシデントでしたが、サンデー毎日の追及をやめさせるという所記の目的は達したことになります。

しかし、子供を含めた多重殺人をおかしてしまったことで、オウムは一線を超えました。麻原は、「つかまれば死刑になる」と確信し、以後は国家と敵対するテロ路線をひた走ることになります。


いっぽう、サンデー毎日の牧氏は、オウムから受けたストレスのせいか、1年後(私の小説では1カ月後)に脳卒中で倒れ、半身不随になります。

半身不随で病院に横たわっても、いつオウムに襲われるか、という恐怖に怯えていたことを自著に書いています。


地下鉄サリン事件が起きた後、オウムを最初に告発したメディアとして、サンデー毎日と牧太郎氏は改めて脚光を浴びました。牧氏はジャーナリストの賞を受けています。

しかし、オウム実行犯が弁護士一家殺害を自供し、裁判の過程で「牧氏の代わりに一家が殺された」ことがわかると、サンデー毎日報道の評価が揺れることになりました。


牧氏は、その後も毎日新聞の編集委員として仕事をつづけましたが、麻原と実行犯が死刑になったとき、「自分の身代わりで坂本弁護士一家が殺されたかと思うと耐えられない」という趣旨のコメントを出していました。


事件が起こった1989年11月時点では、オウムが狂気の犯罪集団だとは、まだ世間は知りません。

サンデー毎日(と、ネタを持ち込んだ江川紹子氏)にしても、オウムの教義や布教が狂気じみている、と主張していただけで、殺人をやるなんて思っていなかった。

人びとは、1995年の地下鉄サリン事件の後に、オウムがテロリスト集団だと知ってから、TBSをジャッジしているので、当時の実情をつかみそこねていると思います。



TBSがビデオを見せたことが、弁護士殺害に直接つながったわけではないことは、日本語Wikiにも書かれています。少し長く、まわりくどい言い方になっていますが・・


世論のTBS批判や「TBSがビデオをオウム幹部に見せたことで坂本が殺害された」という非難に対しては「坂本はそれ以前にラジオに出演し、麻原と電話での討論を行っており『TBSが見せたテープの内容が殺害の直接の動機となったのではないか』との報道は妥当性を欠いている」との反論や「TBSバッシングに興じることで(報道倫理としての)問題の本質を見逃してしまう」とする異論があった。また、取材テープを取材対象者からの要請で見せる行為は当時多くの放送局で行われていた事に加え、ビデオを見せたのは一連のテロ事件が起きる前であり、この時点でオウム真理教により坂本弁護士及びその関係者が殺害されるという事態はメディアの側からしても想定不可能であった事から、結局この事件は「たまたまTBSで起きただけで、どこの放送局でも起き得た事件ではなかったのか?」という非難もなされており、多良・武市両プロデューサーの取材ビデオを見せた行為も個人情報保護法がなかった当時は違法行為ではなかった為、彼らへの懲戒解雇処分も不当解雇ではないのかとの批判もある。

大きな騒動となったが、麻原裁判においては判決文にわずかに書かれているのみに留まり、影響等については言及されていない。
wikipedia「TBSビデオ問題」



TBSが、この誤解について反論しないのは、ビデオを見せたかどうかに関する社内調査が杜撰で、「TBSが嘘をついた」と大騒ぎになり、世間から叩かれたからだと思います。あれはたしかに醜態でした。

あと、もう一つは、この件で反論すると、どうしても系列会社の毎日新聞の報道姿勢に目が向いてしまうからではないでしょうか。


毎日新聞(サンデー毎日)は、なぜ坂本弁護士「失踪」事件が起こった後に、オウム追及をやめてしまったのか。

一家の「失踪」に疑念を抱き、あのまま追及を続けていたら、真相にたどり着いて、その後の地下鉄サリン事件も防げたかもしれません。

なぜ、そうしなかったのか。それが、私もずっと気になっている点です。

(なぜ毎日新聞は追及をやめたのか。その理由についての私の推理は、小説の中に書きました)


牧太郎氏は気の毒だったけれど、毎日新聞が中途半端なままキャンペーンをやめてしまったことが、後の地下鉄サリン事件の遠因となりました。


まあ、いちばん責任があるのは、坂本事件の真相を解明できなかった神奈川県警ではありますが。


毎日新聞が追及をやめたので、その後は江川紹子氏を中心に、有田芳生氏のいた日共系の出版社や弁護士団体、のちに文春など出版媒体での追及がつづくことになります。

TBSを責めるのなら、ビデオ事件ではなく、毎日新聞とともに、なぜ坂本弁護士事件の追及をつづけなかったのか、なぜオウムを追い込めなかったのか。責めるべきは、そっちのほうだと思うんですね。



オウム真理教は、今から振り返れば、「オールドメディア批判」をいちばんやっていた団体と言っていいかもしれません。

それは、自分たちを追及してくる毎日新聞やTBSの信用を失墜させるためでした。


オウムと同時に登場した幸福の科学にしろ、また、以前からある創価学会にしろ、社会から問題視されていた時期から、次第に既成メディアに広告を出したり、事実上の資金援助をするなどして、まあメディアを買収するというか、メディアとの融和をはかりました。

しかし、オウム真理教は、あくまで既成メディアと対決・対立する道を選びました。それがより若者を惹きつけた面もあります。


当時はネットは普及していませんでしたが、ネットが使えれば、盛んにネットで「オールドメディア批判」をやっただろうと思います。


メディア不信から、人びとは何を信じていいかわからなくなり、テロのような過激な行動を招き寄せます。

メディアは失敗もするし、隠し事もするし、いろいろと信用おけない存在であるのは事実です。

でも、そうした欠陥も含めて、メディアの実態を、メディアの相互批判によって、正確に人びとに伝えるようにしておかないと、取り返しがつかない悲劇が起こります。


TBSビデオ事件に関する誤解が、いまだに続いているのは、メディアの相互批判や、メディアが過去の失敗を正直に正確に人びとに伝えることを、怠っているからではないでしょうか。

オウム真理教事件は、依然、メディアに関する教訓をたくさん含んでいるのです。



<参考>


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