掌編小説 焚き火のそばで (虹色創作部)
【焚き火のそばで】
久々のソロキャン。
日は傾き始め、夕方の涼しい風が足元から僕を撫でていく。
暗くなりきる前に、夕飯を取ろう。
僕は既にセットしてあった焚き火台に、火を起こし始める。
空気が通るように組んだ、細い薪。
着火剤を使おうと思ったけど、辺りに松の葉が沢山落ちているからこれを使う。
湿り気がないものを選んで拾ってきた。ついでに細い枝も何本か。
組んだ薪の中に、トゲトゲとした松の葉をそっと置く。チャッカマンで火をつける。
直ぐに松の葉はぱちぱちと音を立てながら勢いよく燃え始めた。あっという間に黒く燃えカスになっていくけれど、その勢いで薪にも火がうつり始める。一度火がつけばこちらのものだ。
僕は、愛用の火バサミで薪を組み替えながら火を保った。
鉄製の鍋に、野菜や肉を入れて煮込むことにした。
重いそれを、火の上に置く。
具材が少しずつ温められて良い香りが漂い始める。
火を絶やさないように、その赤く燃える揺らぎを見つめる。
その熱を目に移していると、幼い日の思い出が甦ってくる。
父は、アウトドアが好きだった。
遠い記憶の中にある、初めてのキャンプ。
「危ないから!離れて見てて!パチって熱いのが飛んでくるからね!」
そう言われ、今ひとつピンとこないまま、父が火を起こすのを見ていた。
その時も、松の葉を拾った。トゲトゲした葉っぱが面白くて夢中で拾っていた僕は乾いたのも湿ったのも拾っていったから
「濡れてないのだけ拾ってね」
と優しく言われたのを覚えている。
父がそれを使って火を起こす様子に驚いた。あっという間に大きな炎になって、僕には父が魔女のように見えた。
「これを焼いて食べよう」
と渡された、長いピックに付けた大きなマシュマロ。
その道具の面白さ、そして大きなマシュマロに、僕は胸が高鳴っていた。
父は、こうやって炙るんだよ、と火の上にそれを優しくかざしていた。
「こう?」
何も分からない僕は、火の中にそいつを普通に差し込んだものだから、あっという間に火は燃えうつった。
「あぁ!」と焦って僕の手を取る父の介添えも虚しく、マシュマロは小さな炎を上げた。すぐに父が火を消そうと頑張ったけど丸焦げ。
僕はそれがなんだかとってもおかしくてケラケラと笑った。
父は、もう一度お手本を見せてくれて、綺麗な茶色の焦げ目がついた焼きマシュマロを僕に渡してくれた。
一口かじると、薄く焼けた皮の下にとろっとしたクリームのようになったマシュマロが口いっぱいに広がって、甘い匂いに満たされた。とても美味しかった。
父は「美味しいかい?」と微笑みながら、僕が焦がしたマシュマロを食べてくれていた。
グツグツと鍋が煮える音がする。
薪を少しずつ足す。
あの後何度もキャンプに行って、僕は少しずつ大きくなって火の扱いを教えてもらった。
「空気の通り道を作るのが大切だよ。焦って沢山入れると空気の流れがなくなって火は消えてしまう。」
僕は父の組む木を見るのが好きだった。
思春期を迎えてからはあまり話さなくなったけれど、父との思い出は思い返せば思い返すほど優しい記憶ばかりだ。
……今度、キャンプに誘ってみるか。
喜ぶ父の顔が容易に思い浮かんで、大人になった僕はなんだか少し、照れくさいような気がしてしまって苦笑いしてしまった。
暗くなり始めた空に、一番星が静かに輝いていた。
小さな頃の僕と父を、星は「知っているよ」と囁きかけているような気がした。
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