なぜ、同じゲームでも刺さる人と刺さらない人がいるのか
はじめまして、もしくは再度いらしてくださりありがとうございます。
カクマルゲームズのカクとマルと申します。
普段は二人でボードゲームを作っていますが、今回はボードゲームデザインの考え方について僕らなりのノウハウをお話できたらと思います。
1.テストプレイ、誰の意見を優先すればいいのか問題
ボードゲームを作っていると、テストプレイで不思議なことが起きます。
ある人は「めちゃくちゃ盛り上がった」と言います。
別の人は「何を考えればいいのか分からなかった」と言います。
また別の人は「勝ち筋は見えるけれど、遊びとしては少し味気ない」と言います。
同じルールを遊んでいるはずなのに、感想がまったく違うのです。
これは、プレイヤーの理解力や経験値だけの問題ではありません。もっと根本には、その人がゲームに何を求めているのかという違いがあります。
派手な体験を求める人がいます。
自分だけの工夫を求める人がいます。
勝つための最適化を求める人がいます。
さらに、同じ「勝ちたい」「工夫したい」「盛り上がりたい」という欲求を持っていても、その人がどの時間軸でゲームを見ているかによって、楽しみ方は変わります。
目の前の一手を楽しむ人。
ゲーム全体の勝ち筋を楽しむ人。
その両方を行き来する人。
あるいは、細かな判断や長期計画よりも、結果や雰囲気そのものを楽しむ人。
当たり前かもしれませんが、それぞれのプレイヤーがそれぞれの楽しみ方と取り組み方が違うので、その全てを満たすのは至難の業です。
いうなれば、料理屋でそれぞれの客が中華とフレンチと和食と別のものを欲している上に、朝食のつもりの人と昼食のつもりの人がいる、みたいな状態でしょうか。
全ての人を喜ばせる一品が出せれば最高ですが、実際はそうも行きません。
なので僕らは、まずこのゲームはどのような人に楽しんで欲しいのか、遊ぶ人の顔を想像し、その人が最大限楽しめるようにゲームを研ぎ澄ますべきだと考えています。
では、これからゲームを作ると仮定して、遊ぶ人の顔を想像してみましょう。
……誰か想像できましたか?難しいですよね。

遊ぶ人の顔を想像する。というのはもっともらしく良い言葉なのですが、ボードゲームデザイナーはたいてい自分の遊びたいゲームを作る事が多く、どうしても最初に自分の顔が浮かんできてしまいます。
もちろん自分が欲しているゲームを作るというモチベーションはゲームづくりの一番の原動力ですし、そういったこだわりこそ他と違ったゲームを作るオリジナリティの源泉です。
一方、自分が遊ぶことだけを考えて作られたゲームは自分本位になりがちですし、テストプレイのフィードバックも「自分が良いと思った」が答えになってしまいせっかくの良い意見も受け入れにくくなります。
せっかくゲームを商品として世に出すなら、ちゃんと自分たち以外にも楽しんで遊んでもらえるゲームが作りたい、そしてそのためには自分以外の遊ぶ人を考える必要があります。
そのため僕らは、その考えるべき遊ぶ人を具体化するために、人物像の架空のプロフィールをペルソナとして設定し、テストプレイのフィードバックやゲームの修正案の取捨選択を行うようにしています。
ペルソナは架空のプレイヤーを設定することで、どのようなプレイヤーが今作っているゲームのターゲットかをより明確にする強力なツールです。
その中でも特に有名で使いやすい考え方が、マジック:ザ・ギャザリングの開発で語られている、
ティミー、ジョニー、スパイクです。
まずはこの3種のプレイヤーについて解説していきましょう。
1. ティミー:体験を楽しむプレイヤー
まず、ティミーです。
ティミーは、ゲームに対して強い体験を求めるプレイヤーです。
たとえば、
「圧倒的に攻撃的なプレイをして勝ちたい」
「大きな効果で場を盛り上げたい」
「みんなでワイワイ遊びたい」
「派手な展開で気持ちよくなりたい」
というように、ゲーム全体の細かい最適化よりもどんな体験ができるかを重視します。
ティミーにとって重要なのは、必ずしも勝利そのものではありません。
もちろん勝てれば嬉しいのですが、それ以上に
楽しかったか
盛り上がったか
印象に残る展開があったか
が大切です。
その意味では、ティミーは一番カジュアルで、ライトにゲームを楽しむプレイヤー像だと言えます。
2. ジョニー:自己表現を楽しむプレイヤー
次に、ジョニーです。
ジョニーもティミーと同じように、ゲームを楽しむことを重視します。
ただし、その楽しみ方が少し違います。
ジョニーは、他人と違う遊び方をすることに楽しさを見出すプレイヤーです。
たとえば、普通に考えれば「攻撃するなら戦士を使う」のが自然なゲームがあったとします。
しかしジョニーは、そこでこう考えます。
「本来は魔法を使うウィザードで、物理攻撃をするデッキを作れないか?」
「弱そうに見える要素を組み合わせて、意外な勝ち方ができないか?」
「このルールの裏をつけば、新しい戦い方が生まれるのではないか?」
このように、ジョニーはゲームの設定やルールを読み込み、そこから新しい遊び方を発想すること自体を楽しみます。
ジョニーにとっての楽しさは、単純な勝利ではありません。
自分だけの発想、自分だけのコンボ、自分だけの戦い方を形にすることです。
そのため、ジョニーはゲームを何度も繰り返し遊びます。
ルールの穴や意外な組み合わせを見つけ、場合によってはゲームデザイナーにとって非常に有益なフィードバックを返してくれる存在にもなります。
3. スパイク:勝利を追求するプレイヤー
最後に、スパイクです。
スパイクは非常に分かりやすいプレイヤー像です。
一言で言えば、勝利に貪欲なプレイヤーです。
スパイクは、ゲームの中でどうやって勝つかを真剣に考えます。
そして、勝つために最も有効な方法があるなら、それを選びます。
そこに強いこだわりはありません。
派手なプレイが好きだから選ぶのではなく、
自分らしいコンボだから選ぶのでもなく、
それが勝つために一番強いから選ぶ。
これがスパイクの特徴です。
スパイクは、ゲームを学習し、効率化し、最適化していきます。
その結果、ゲームの中で最も強い行動、最も安定した戦略、最も速く勝てるルートを見つけやすい存在です。
そのため、ゲームの理想的なテンポや、最強戦略の確認をするときには、スパイク的な視点が非常に重要になります。
3種のプレイヤー傾向だけじゃない、けど
ここで紹介した3種のペルソナ以外にも、ゲームのストーリーやコンセプトが好きなヴォーソス、ゲームの複雑なギミックやメカニクスが好きなメルヴィンなどの分類があります。
このペルソナのプロフィールはアイデア次第で無限に作ることができますが、ここで注意が必要です。
それは、あくまでペルソナを作る目的はゲームデザインの指標となるための架空のプレイヤーであるという事です。
ペルソナを自作することで、気まぐれでミステリアスで、デザイナー自身が理解できないような(もしくはデザイナーしか理解者がいないような)人物を作り上げてしまったり、自分の代弁者をペルソナにすると指標としては役に立ちません。

そのため、まずはこの3種類を主軸にしたほうが、指針としては悩みが生まれにくいと思います。
さて、この3種のペルソナは非常に便利ですが、実はプレイヤーのプロフィールとしてはまだ非常に重要な視点が抜けています。
それはゲーム中のプレイヤーが注目する時間を表す概念、ミクロとマクロです。
2. ペルソナだけでは、まだ足りない
ティミー・ジョニー・スパイクは、プレイヤーの動機を整理するうえで非常に便利です。
ティミーは、楽しかったか、盛り上がったか、印象に残る展開があったかを重視します。
ジョニーは、人と違う遊び方、自分だけのコンボ、意外な発見を重視します。
スパイクは、勝つために何が強いか、どうすれば効率よく勝てるかを重視します。
しかし、この3種類だけでは、まだ具体的なゲームの設計に落とし込むプレイヤー像として少し粗い場合があります。
たとえば、同じティミーでも、目の前の派手な一手で盛り上がる人と、ゲーム全体を通じて最後に大きなドラマが生まれることを楽しむ人では、必要な設計が違います。
同じジョニーでも、その場で変な一手を試すことが好きな人と、序盤から仕込んだ構想が終盤に完成することが好きな人では、刺さる仕組みが違います。
同じスパイクでも、今この瞬間の最善手を探す人と、ゲーム終了時の勝率を見てリソース配分する人では、評価するポイントが違います。
つまり、ペルソナは「何を楽しいと感じるか」を教えてくれます。
しかし、「どの時間軸でその楽しさを感じるか」までは教えてくれません。
そこで、ミクロとマクロを加えます。
ティミー・ジョニー・スパイクが、楽しさの方向を示す軸だとすれば、ミクロ・マクロは、その楽しさが発生する時間軸を示す軸です。
この二つを重ねることで、ゲームデザインはより具体的になります。
3. ミクロ・マクロ軸とは何か
ミクロの視点を持つプレイヤーは、目の前の局面に注目します。
今、どのカードを出すべきか。
今、どの駒を動かすべきか。
今、相手を止めるべきか。
今、リスクを取るべきか。
このような局所的な判断が、ミクロの楽しさです。
一方で、マクロの視点を持つプレイヤーは、ゲーム全体の流れに注目します。
序盤に何を準備するか。
中盤でどの勝ち筋に寄せるか。
終盤にどの得点源を使うか。
今の損が、後でどのような利益になるか。
このような長期的な判断が、マクロの楽しさです。
ここで大切なのは、ミクロがあるから優れている、マクロがあるから高度である、という話ではないことです。
パーティーゲームでは、マクロをあまり要求しない方が盛り上がることがあります。
逆に、重い戦略ゲームでは、マクロがなければ物足りなく感じられることがあります。
また、子ども向けや玩具的なゲームでは、ミクロもマクロもほとんど要求しないのに、強い楽しさが生まれることもあります。
つまり、ミクロとマクロは優劣ではありません。
プレイヤーにどの種類の思考を求めるかを調整するための軸です。
4. 12分類のマトリクス
ティミー・ジョニー・スパイクの3種のペルソナ
マクロ・ミクロの2種のプレイヤーが注力し思考する時間
ここまでそれぞれの考え方を説明しましたが、これらは単独で存在するべきものではありません。
プレイヤーの気質と思考、どちらか片方だけではゲームデザインの指針となる、喜ばせたい遊ぶ人の具体的な姿にはなりません。
僕らは、ペルソナとマクロ・ミクロが組み合わさったものこそがゲームデザインをする上で意識すべきプレイヤーのスタイルとしています。
このスタイルを知っていることによって、自分たちのゲームデザインがどのようなターゲットに刺さるのかということを、より明確に理解し、さらにどういうふうなターゲットには刺さりにくいのかを考えることができます。
この考え方を整理すると、次のようなマトリクスになります。
横軸には、ティミー・ジョニー・スパイクを置きます。
縦軸には、ミクロとマクロの視点をどの程度持っているかを置きます。

この表を見るときに注意したいのは、「ミクロとマクロの視点を持っていない」という表現を、能力の低さとして読まないことです。
ここで言っているのは、プレイヤーを評価するための優劣ではありません。
そのゲームが、どのような視点をプレイヤーに要求しているか。あるいは、どのような視点を要求しなくても楽しめるようにしているか、という話です。
たとえば、10番のミクロなし×マクロなし×ティミーは、細かな判断や長期計画をあまり必要としません。けれども、笑い、驚き、偶然の盛り上がりを楽しむゲームでは、むしろ中心的なターゲットになります。
12番のミクロなし×マクロなし×スパイクも同じです。勝ちたい気持ちは強いけれど、まだ技術や計画には接続していない。これは、子ども向けの反復チャレンジや、運試し型の遊びでは非常に強い動機になります。
このマトリクスは、プレイヤーをランク付けする表ではありません。
どの楽しさを、どの深さの判断として届けるかを決める表です。
5. 各セルをゲーム設計にどう活かすか
さて、ここまで大枠としてのプレイヤーのスタイルの話をしてきましたが、ここから具体的に各マトリックスがどのようなプレイヤーを指しているか説明します。
ここで自分のゲームにとってターゲットとなるプレイヤーのスタイルを見つけることで、自分のゲームがどのように遊ばれるかの具体的な想像がぐっとしやすくなります。
また、現在作っているゲームにとってターゲットでないプレイヤーのタイルであっても、先に知っておけばテストプレイでネガティブな意見が出た時に、自らのゲームデザインの芯を必要以上に揺らされなくなります。
1. ミクロなし×ティミー
大きな体験は見えているが、一手ごとの意味には関心が薄いプレイヤーです。
このタイプに届けるべき楽しさは、細かな選択の巧拙ではなく、ゲーム全体で起きる大きな展開です。序盤の一手一手を厳密に評価させるより、「最後に大きな爆発が起きる」「全体として物語のように盛り上がる」体験が向いています。
設計では、細部のミスが致命傷になりすぎないようにします。一手ごとの最適化を要求しすぎると、このタイプは置いていかれます。むしろ、多少雑に遊んでも大きな山場へ向かえる構造が必要です。
2. ミクロなし×ジョニー
やりたい構想はあるが、局面ごとの調整が苦手なプレイヤーです。
このタイプは、面白いコンボや独自の勝ち筋を思い描くことは得意です。ただし、目の前の盤面に合わせて細かく手順を変えることは苦手な場合があります。
設計では、「構想を立てる楽しさ」を守りながら、実行手順を複雑にしすぎないことが重要です。コンボを成立させるために毎ターン細かな最適化を要求すると、せっかくの発想が途中で崩れてしまいます。
ジョニーにとって大事なのは、自分のアイデアが形になることです。局所判断の難しさではなく、発想を実現する道筋を用意することが、このセルの設計ポイントです。
3. ミクロなし×スパイク
勝つための全体方針は見えているが、細部で損をしやすいプレイヤーです。
このタイプは、どの戦略が強いか、最終的にどこを目指すべきかは理解しています。しかし、一手ごとの細かな処理、相手の小さな変化への対応、短期的な損得計算でミスをしやすい傾向があります。
設計では、長期戦略の選択がきちんと報われるようにします。一方で、細かな処理ミスだけで全体方針が崩壊するゲームにすると、このタイプには理不尽に感じられます。
大きな戦略を選び、それを一定の再現性で実行できるゲームでは、このセルのスパイクが楽しみやすくなります。
4. マクロなし×ティミー
目の前の盛り上がりを優先するプレイヤーです。
このタイプは、今この瞬間に場が沸くか、派手なことが起きるか、楽しい気分になれるかを重視します。その行動が終盤の勝ち筋にどう影響するかは、あまり気にしません。
パーティーゲームや短時間ゲームでは、このタイプを中心に据えることがあります。設計では、選択の結果がすぐに見えることが重要です。カードを出したら笑いが起きる。ダイスを振ったら大きな展開が生まれる。行動と反応の距離が短いほど、このタイプには届きやすくなります。
ただし、完全に偶然だけにすると、繰り返し遊ぶ理由が弱くなることがあります。小さな読み合いや、ちょっとした選択の違いを混ぜると、体験に厚みが出ます。
5. マクロなし×ジョニー
局所的な工夫や小技を楽しむプレイヤーです。
このタイプは、その場で面白い組み合わせを見つけることに喜びを感じます。長期的な勝ち筋よりも、「今この場でこんな変なことができた」という発見が楽しいのです。
設計では、小さな相互作用をたくさん用意すると効果的です。カード同士が少し変なつながり方をする。ルールの隙間から意外な行動が生まれる。短いターンの中で、プレイヤーが「これ、できるのでは?」と思える瞬間を作ります。
このタイプにとって重要なのは、勝つための完成された戦略ではなく、発見の手触りです。小さな実験を許すゲームは、このセルのジョニーに強く刺さります。
6. マクロなし×スパイク
目の前の最善手を取り続けるプレイヤーです。
このタイプは、短期的な効率や得点を鋭く見ます。今一番得な行動、相手に一番損をさせる行動、目の前の勝負で勝てる行動を選びます。
しかし、長期的なリソース配分や終盤の勝ち筋を見落とすことがあります。結果として、毎ターンは得をしているのに、最後には勝てないことが起きます。
設計では、短期的な最善手と長期的な最善手が常に一致しないようにします。今得点を取ると後半が苦しくなる。今我慢すると終盤に伸びる。こうしたズレがあると、このタイプのプレイヤーに学習の余地が生まれます。
このセルは、ゲームの成長感を作るうえで重要です。最初は目の前の得だけを追っていたプレイヤーが、やがてマクロを学び始めるからです。
7. ミクロあり×マクロあり×ティミー
一手ごとの楽しさと、ゲーム全体の盛り上がりを両方味わえるプレイヤーです。
このタイプは、今の行動が後のドラマにつながることを楽しめます。派手な一手だけでなく、その一手が終盤の大きな展開へつながることに価値を感じます。
設計では、局所的な気持ちよさと、全体の山場を接続します。今の選択で場が盛り上がるだけでなく、それが後の逆転やクライマックスにつながるようにします。
このタイプに向けたゲームでは、「序盤の小さな選択が、最後の大きな瞬間を生む」構造が有効です。ティミー的な体験を、単発ではなく物語として設計するイメージです。
8. ミクロあり×マクロあり×ジョニー
局所的な工夫を、長期的な自己表現につなげられるプレイヤーです。
このタイプは、マトリクスの中でも特に発見性が高いプレイヤーです。その場の小さな工夫を積み重ね、自分だけの勝ち筋や遊び方へ育てていきます。
設計では、コンボや相互作用が一発芸で終わらないようにします。小さな発見が、次の選択肢を開く。序盤に見つけた組み合わせが、中盤で別の意味を持つ。終盤にそれが独自の勝ち方として完成する。
このタイプにとって、ゲームは問題を解くものではなく、自分の表現を作る場所です。デザイナーが想定した正解だけでなく、プレイヤーが自分で見つけた道が成立する余地を残すことが重要です。
9. ミクロあり×マクロあり×スパイク
目の前の最善手と、最終的な勝率を同時に見られるプレイヤーです。
このタイプは、競技性の高いゲームで中心になりやすいプレイヤーです。今得をするべきか、後のために我慢するべきかを判断できます。局所最適と全体最適を行き来しながら、勝率を高めていきます。
設計では、短期と長期の判断がどちらも勝利に関わるようにします。毎ターンの処理が雑でも勝てるなら、ミクロが軽くなります。逆に、最初の方針だけで勝敗が決まるなら、マクロが固定化します。
このセルを中心にするなら、プレイヤーが学習し、改善し、再挑戦したくなる構造が必要です。強いプレイと弱いプレイの差が見え、かつ一つの最強戦略だけに収束しすぎないことが重要です。
10. ミクロなし×マクロなし×ティミー
判断よりも、その場の体験そのものを楽しむプレイヤーです。
このタイプは、勝ち筋や細かな選択よりも、笑い、驚き、雰囲気、偶然の盛り上がりを重視します。
設計としては、これは決して悪いものではありません。むしろ、パーティー性の強いゲーム、子ども向けゲーム、玩具的なゲームでは非常に重要なターゲットになります。
このタイプに届けるべきなのは、考えごたえではなく、触ってすぐ分かる楽しさです。投げる、引く、めくる、叫ぶ、笑う。行為そのものが楽しいことが大切です。
ただし、このセルを狙うなら、ゲームを「深く見せよう」としすぎない方がよいです。判断の深さを装うより、体験の素直さを磨いた方が魅力が伝わります。
11. ミクロなし×マクロなし×ジョニー
勝ち筋や手順よりも、自由なふるまいを楽しむプレイヤーです。
このタイプは、最適解や勝利計画よりも、変な行動、ロールプレイ、思いつきの表現を楽しみます。ゲームというより、遊び場に近い設計で活きやすいタイプです。
設計では、勝敗に直結しない表現の余地を作ることが重要です。変な名前をつける。奇妙な組み合わせを披露する。場の空気に合わせてふるまう。そうした自由な行動が、ゲームの価値として認められる必要があります。
このセルでは、勝敗の厳密さを強めすぎると表現が萎縮します。プレイヤーが「正しいことをしなければ」と感じると、自由な遊び方が出にくくなります。
12. ミクロなし×マクロなし×スパイク
勝ちたい気持ちは強いが、技術や計画にはまだ接続していないプレイヤーです。
このタイプは、結果に強く反応します。勝てば嬉しい。負ければ悔しい。もう一回やりたい。けれども、なぜ勝ったのか、どうすれば次に勝てるのかまでは、まだ整理できていません。
設計では、短い反復と明確な結果が重要です。すぐ挑戦できる。すぐ結果が出る。負けてもすぐやり直せる。こうした構造があると、このタイプは強く動機づけられます。
運試しやチャレンジ型の遊びでは、このセルの欲求が非常に強く働きます。勝利への執着はあるが、技術や戦略の負荷は小さい。このバランスを理解すると、ライトな競争体験を設計しやすくなります。
6. マトリクスを使った設計手順
このマトリクスは、眺めるだけでは意味がありません。実際の設計では、次のように使います。
まず、ゲームの中心体験を決めます。
このゲームは、派手な盛り上がりを届けたいのか。
自分だけの工夫を届けたいのか。
勝つための緊張感を届けたいのか。
ここで、ティミー・ジョニー・スパイクのどこに重心を置くかを決めます。
次に、その楽しさをどの時間軸で届けるかを決めます。
一手ごとの判断で楽しませたいのか。
ゲーム全体の計画で楽しませたいのか。
その両方の往復で楽しませたいのか。
あるいは、判断をあまり要求せず、体験そのものを楽しませたいのか。
ここで、ミクロ・マクロの位置が決まります。
たとえば、短時間で盛り上がるゲームを作るなら、4番のマクロなしや10番のミクロなし×マクロなしのティミーを中心に置くとよいかもしれません。
変なコンボや自由な発想を楽しませたいなら、5番のマクロなし、8番のミクロあり×マクロあり、11番のミクロなし×マクロなしのジョニーが重要になります。
競技性や攻略性を重視するなら、6番のマクロなし、9番のミクロあり×マクロあり、場合によっては3番のミクロなしのスパイクが見えてきます。
最後に、そのセルに合った仕組みを用意します。
ティミーには、感情が動く瞬間が必要です。
ジョニーには、自分だけの発見や表現が必要です。
スパイクには、勝利に向かう合理的な判断が必要です。
ミクロを重視するなら、一手ごとの選択に意味が必要です。
マクロを重視するなら、序盤の選択が後半に影響する必要があります。
両方を重視するなら、今の一手と未来の勝ち筋が互いに影響する必要があります。
どちらも重視しないなら、判断ではなく行為や結果そのものが楽しい必要があります。
このように考えると、マトリクスは「プレイヤーのスタイル分類」ではなく、メカニクス選択の指針になります。
7. テストプレイでの使い方
このマトリクスは、テストプレイでも役に立ちます。
テストプレイでよくある失敗は、感想をすべて同じ重さで受け取ってしまうことです。
「もっと考えどころがほしい」
「もっと派手にしてほしい」
「勝ち筋が分かりにくい」
「変なことができて楽しかった」
「運が強すぎる」
「もう一回やりたい」
これらの感想は、すべて正しい可能性があります。しかし、同じ方向を向いているとは限りません。
9番のミクロあり×マクロあり×スパイクに向けたゲームを作っているのに、10番のミクロなし×マクロなし×ティミーから「考えることが多すぎる」と言われるのは自然です。
10番のミクロなし×マクロなし×ティミーに向けたゲームを作っているのに、9番のミクロあり×マクロあり×スパイクから「勝ち筋が浅い」と言われるのも自然です。
大事なのは、誰の感想を重要な意見として採用し、誰の感想を参考意見として扱うかを判断することです。
そのためには、テストプレイ前に「このゲームはどのセルを中心に設計しているのか」を決めておく必要があります。

中心セルにいるプレイヤーが狙い通り楽しめているなら、設計の方向性は合っています。
中心セルではないプレイヤーから不満が出ても、それは必ずしも欠陥ではありません。
ただし、周辺セルのプレイヤーにも最低限の楽しさを用意したいなら、補助的な仕組みを足す必要があります。
たとえば、9番のミクロあり×マクロあり×スパイク向けゲームでも、7番のミクロあり×マクロあり×ティミーに届くように派手な山場を入れる。
8番のミクロあり×マクロあり×ジョニー向けゲームでも、6番のマクロなし×スパイクが評価できるように勝利への再現性を少し持たせる。
10番のミクロなし×マクロなし×ティミー向けゲームでも、5番のマクロなし×ジョニーが遊べるように小さな工夫の余地を残す。
こうした調整ができると、ゲームの中心をぶらさずに、楽しめる層を広げることができます。
8. 失敗しやすい考え方
このマトリクスを使うときに避けたいのは、すべてのセルを満たそうとすることです。
すべてのプレイヤーに刺さるゲームを作ろうとすると、たいてい焦点がぼやけます。
ティミー向けに派手にしたい。
ジョニー向けに自由度を高めたい。
スパイク向けに勝利の最適化も入れたい。
ミクロの一手も悩ましくしたい。
マクロの長期戦略も深くしたい。
でも初心者にもすぐ分かるようにしたい。
これらをすべて同時に満たそうとすると、ゲームは重くなります。選択肢は増えますが、何を楽しめばよいのかが分かりにくくなります。
重要なのは、量ではありません。
関係です。
中心に置くセルを決め、そのセルの楽しさを強くする。
そのうえで、隣接するセルに少し楽しさを広げる。
この順番が大切です。
たとえば、中心が9番のミクロあり×マクロあり×スパイクなら、まずミクロとマクロの判断が勝利に結びつく構造を作ります。
そのあとで、7番のミクロあり×マクロあり×ティミー向けに見せ場を作る、8番のミクロあり×マクロあり×ジョニー向けに複数の戦略ルートを作る、という順番です。
中心が10番のミクロなし×マクロなし×ティミーなら、まず行為そのものの楽しさや偶然の盛り上がりを作ります。
そのあとで、4番のマクロなし×ティミー向けに目の前の選択を少し足す、11番のミクロなし×マクロなし×ジョニー向けに変なふるまいの余地を足す、という順番です。
中心を決めずに全方向へ広げると、ゲームは散らかります。
中心を決めてから広げると、ゲームは豊かになります。
9. マトリクスから考えるゲームの方向性
このマトリクスを使うと、自分のゲームがどの方向に向いているのかを言語化できます。
たとえば、パーティーゲームを作っているなら、中心は10番のミクロなし×マクロなし×ティミーや4番のマクロなし×ティミーになりやすいです。判断の深さよりも、その場の楽しさ、笑い、驚き、盛り上がりが重要だからです。
コンボや構築を楽しむゲームなら、8番のミクロあり×マクロあり×ジョニーや5番のマクロなし×ジョニーが重要になります。プレイヤーが自分だけの発見をし、それを遊び方として表現できることが魅力になるからです。
競技性のある戦略ゲームなら、9番のミクロあり×マクロあり×スパイクが中心になります。目の前の最善手と長期的な勝ち筋を同時に考えられることが、プレイの面白さになるからです。
一方で、子ども向けや軽いチャレンジ型のゲームでは、12番のミクロなし×マクロなし×スパイクが重要になることもあります。勝ちたい気持ちはあるが、難しい技術や長期計画は要求しない。その代わり、短い挑戦と分かりやすい勝敗を用意します。
このように、マトリクスを使うと、ゲームの方向性が具体的になります。
「初心者向けです」
「戦略ゲームです」
「パーティーゲームです」
という大きな分類だけでは、まだ曖昧です。
それよりも、
「10番のミクロなし×マクロなし×ティミーを中心に、4番のマクロなし×ティミーと11番のミクロなし×マクロなし×ジョニーにも届くゲームです」
「9番のミクロあり×マクロあり×スパイクを中心に、8番のミクロあり×マクロあり×ジョニーが別ルートを発見できるゲームです」
「5番のマクロなし×ジョニーを中心に、4番のマクロなし×ティミーが場の盛り上がりを楽しめるゲームです」
と言えた方が、設計の判断がしやすくなります。
10. まとめ
ボードゲームデザインでは、「誰に届けるか」と「どんな楽しさを届けるか」を考える必要があります。
ティミー・ジョニー・スパイクは、プレイヤーが何を楽しいと感じるかを整理するための軸です。
ティミーは、体験を求めます。
ジョニーは、自己表現を求めます。
スパイクは、勝利を求めます。
しかし、それだけでは十分ではありません。
その楽しさが、目の前の一手にあるのか。
ゲーム全体の勝ち筋にあるのか。
その両方の往復にあるのか。
あるいは、判断ではなく行為や結果そのものにあるのか。
それを整理するために、ミクロ・マクロの軸を加えます。
このマトリクスの本質は、プレイヤーを分類することではありません。
どのプレイヤーに、どの時間軸の楽しさを届けるかを決めることです。
よいゲームは、すべての人に同じ楽しさを届けるわけではありません。
中心となる楽しさを決め、その楽しさが最も届くプレイヤーを想定し、必要に応じて周辺の楽しさを広げていきます。
そのとき、このマトリクスは設計図になります。
自分のゲームは、誰のためのものなのか。
そのプレイヤーは、何を楽しいと感じるのか。
その楽しさは、一手の中にあるのか、ゲーム全体の中にあるのか。
そのために、どんな判断、どんな体験、どんな余白を用意するべきなのか。
この問いに答えられるようになると、ボードゲームデザインは単なるルール作りではなくなります。
プレイヤーの動機と、判断の時間軸を設計する行為になるのです。
さいごに
ここまで「ボードゲームデザインにおけるペルソナ×ミクロとマクロ」に関しての、長い記事をお読みいただきありがとうございました。
僕らがボードゲームデザインをするにあたって、何を目標にデザインすればいいのかの悪戦苦闘の結果が、きっと皆さんの役に立つだろうと思いなんとか形にすることができました。
読みにくい部分、疑問点もあるでしょうが、ご感想と一緒に指摘や質問を頂ければ幸いです。
最後になりますが、僕らの記事が皆様の作るボードゲームをほんの少しでも面白くする助けになれることを切に願います。
また、これを読んでボードゲームを作ろう!と思ってくれたならそれもまた望外の喜びです。
それでは、みなさんボードゲーム作りましょう!
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