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MIDNIGHT VEIL #13 - BROKE ー問題は99個ある。でもそれは違うー

ミッドナイト・ヴェイル
第十三話「BROKE」

“I got 99 problems but a bitch ain’t one”
ー問題は99個ある。でもそれは違うー
           Jay-Z “99 Problems”

 深夜二時。
 ノックス探偵事務所。
 エディは、封筒を見ていた。
 家主からの封筒。
 十週間分の家賃請求書。
 数字が書いてある。
 かなりの数字が。
「……」
「どうした」
と幽霊DJ。
「死にたい」
「早まるな」
「比喩だ」
「よかった」
「よくない。家賃が十週間分だ」
「知ってた」
「知ってたなら言え」
「言っても金が増えるわけじゃないから黙ってた」
「論理は正しい。でも腹が立つ」

 エディはデスクに突っ伏した。
「どうすればいいんだ」
「仕事を取る」
「仕事がない」
「探す」
「どこで探す」
「ヴェイルに怪異はいくらでもいる」
「依頼料が出る怪異案件はそんなにない」
「……確かに」
 幽霊DJも黙った。
 珍しいことだった。
「なあ」
「なんだ」
「お前、バイトできないのか」
「俺は幽霊だ」
「電波には乗れる」
「乗れる」
「ラジオCMとかできないのか」
「……それは思いつかなかった」
「でも声だけでどうやって契約するんだ」
「それが問題だな」
「問題しかない」

 翌日。
 エディは街へ出た。
 依頼を探すために。
 ネオン・ストリップ。
 人が多い。
 怪異も多い。
 でも、全員「まあヴェイルだしな」で済ませていた。
「……怪異案件って、依頼になりにくいな」
「当たり前だ。みんな慣れてる」
「慣れてる人から依頼は来ない」
「慣れてない人から来る」
「慣れてない人は怖くて近づかない」
「ジレンマだな」
「ジレンマだ」

 路地裏を歩いていると、声がかかった。
「あんた、探偵?」
 振り返る。
 老人。
 八十代くらい。
 猫を抱えている。
「……はい」
「猫が怪異に話しかけられて、怪異語を覚えてしまった。どうにかしてくれ」
「……猫が怪異語を」
「そうだ。昨日から人語を喋らなくなった」
「猫は元々人語を喋らない」
「喋ってたんだよ、うちの猫は」
 エディは猫を見た。
 猫がエディを見た。
 猫が何か言った。
 聴いたことのない言語だった。
「……確かに怪異語だ」
「どうにかしてくれ」
「依頼料は?」
「カップ麺三個」
「……受けます」

 調査の結果。
 猫が話しかけられていた怪異は、「言語怪異」だった。
 誰にも伝わらない言語で喋り続けた結果、言語そのものが怪異化したやつだ。
 エディはマーカーを取り出した。
 猫の前に、書く。

『TRANSLATE』

 文字が光った。
 猫が一瞬、固まった。
 それから。
「……にゃあ」
 猫が言った。
 普通の猫の声で。
「戻った!」
 老人が叫んだ。
「良かったです」
「ありがとう! カップ麺、持ってくれ!」
 エディはカップ麺三個を受け取った。
 今週の食料が確保された。
(家賃は全然解決してないが)
(とりあえず今夜は食える)
(これが俺の人生だ)

 帰り道。
「エディ」
「なんだ」
「今日の依頼、カップ麺三個だったな」
「そうだ」
「家賃の足しにもならない」
「知ってる」
「なんで受けた」
 エディは少し黙った。
「猫が困ってたから」
「猫が」
「猫のためになる仕事は、嫌いじゃない」
 幽霊DJが少し笑った気がした。
「……終わってるな、お前」
「知ってる」
「でも、嫌いじゃない」
「どっちだ」
「両方だ」

能力の代償は、なかった。
マーカーで書いた文字は、ほぼ一文字だった。
消えるものも、なかった。
ただ。
カップ麺三個が、手にあった。
それで、十分だった。
今夜は。

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