テストシューターとチャンピオン
セナは非常に敏感な感知能力を備えていると言われている。 デビューして間もないロータス時代の逸話。 セナはテスト中に各コーナーごとのエンジン回転数を感知し、記憶していた。 タイムアタックのようなドライビングの最中、自らのマシンの状態を感知し記憶するのは至難の業であると思われる。 しかしピットに戻りコンピュータ・テレメトリーでエンジン回転数を調べてみると、 セナが記憶していた回転数と全く同じだった。 さらに、セッティングの変更によるラップタイムの変化をも予測し、 実際に予測した通りのタイムを叩き出していたという。
またセナとホンダの最初のジョイントである1987年ブラジルGPでのこと。 セナはエンジンに異変を感じ、壊さないうちにレース途中でマシンをコース脇に止める。 ホンダのスタッフはピットに戻ってきたエンジンを調べるが、トラブルは全く見つからない…。 ホンダのスタッフはその時セナの言動を疑ったそうだ。 しかしその後エンジンを分解して詳しく調べてみると、ピストンが焼き付く寸前だった。 セナのマシン感知能力を前にして、ホンダスタッフは逆にセナへの信頼を厚くしていった。
「名選手=名コーチにあらず」という言葉があります。これは賛成で、正しいと思っています。いくら競技者としての技術が秀でていても、それを教える能力がすべての選手にあるか、といえばそれは違います。では「教える能力」とは何かというと、自分の経験や感覚、イメージを伝える才能です。そのためには、「主観を客観に翻訳する」必要があります。自分だけの言葉、自分にしかわからない画面を、世界共通の言語に置き換えることができなければ、教えることはできません。
では、「チャンピオン=テストシューター」はどうでしょう?
チャンピオンは当てることはできます。それに対し、テストシューターは当たらなくてもいいのです。その道具の「違い」が分かることが必要です。そしてもう一つ、ここが大事なのですが、その違いを第三者に「伝える」能力が必要です。それはちょうどコーチングと似ています。

これまでに、ダレル・ペイス、ジョン、ウィリアムス、リック・マッキニーなどの世界チャンピオンや日本のトップ選手と、テストをしたことがあります。彼らが弓がうまいのは分かります。当たり前です。ところが、道具の違いが分かるかというと、ほとんどのチャンピオンは分からないのです。というか、違いは分かっていても、それが何かまでは分かりません。弘法筆を選ばず、ではテストシューターにはなれません。
それに、1988年からはアマチュアという言葉がなくなり、宣言の有無に関わらず、チャンピオンはプロフェッショナルです。プロとはお金をもらう競技者です。道具の良し悪しに関わらず、お金をもらったら、使うのです。
「チャンピオン=テストシューターにあらず」が正解です。
たまに、弓は当たりませんが、道具の違いが分かるアーチャーに出会うことがあります。これは才能です。努力で得られる才能ではなく、持って生まれた、違いが分かる才能です。

ヤマハの研究課のトップは、「伊豆田忠男」さんです。ヤマハだけでなく、世界のアーチェリーの頭脳でした。
そんな伊豆田さんの考えたものをテストするのですが、新しいリムの実射テストをする時があります。
レンジに行くと、数ペアのリムが並んでいます。それを順番に射っていきます。難しいことではありません。1ペアずつ、思い付くままにしゃべって、評価していくだけです。「これは鈍いけどよく集まる」「速いけど軽率」「シュンと帰るけどアンカーが不安定」「ピンが震える」など、自分の主観を、話していくだけです。そして最後に、リムに順番を付けます。
すると次回、また新しい数ペアのリムが並んでいます。前回のリム数ペアに、新しいリム数ペアが混ぜてあるのです。それをまた射って、意見を述べていきます。これを何度か繰り返すと、新製品のリムのカタチが見えてきます。
このように思うままに話した主観を、伊豆田さんは客観に翻訳して、図面に置き換えるのです。
そんなリムのテストですが、いつもオトリのリムが混ぜてあります。明らかに良くないリムだったり、こう言うだろうといったリムです。あそびというか、一種のゲームですが、それができるというのも、お互い信頼しているのと、僕の言う主観を理解してくれていたからです。
その他、ブレーキのわずかなバランスの変化を指摘したり、 アンダートレイ(マシン底部)のボルトの締め具合を確認・調整させたり、 さらにカート時代にはわずか1mmのタイヤの大きさの違いに気付くなど、 セナの動物的とも思えるほどの感知能力に関するエピソードには枚挙に暇がない。
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きっとあなたのアーチェリー人生は、素敵なものとなるでしょう。
