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パンドラの箱から魑魅魍魎が

「性能」は差し込み角度にだけ、宿るのではありません。

弓が作られるところを想像してください。最初に設計という、図面を引く作業から始まります。(今はコンピュータですが)
最初に1本の直線が引かれます。ハンドル(弓)の「中心線」です。そしてこの線上に置かれるのが、グリップの一番深い所にある「ピボットポイント」です。これがすべての基準になります。
そのうえで、ハンドルがリムと接する「接合点」が決められ、そこに差し込まれるリムの「差し込み角度」が決まっていくわけです。これが決まらなければ、ハンドルにしてもリムにしても図面が書けません。弓は外観やデザインから作られるのではありません。

今ではこんなルールも無視されますが、
サイトベースの取り付け穴は、弓の中心線上に開けられるものでした。

この時、ハンドルの中心線上にリムの接合点がくるとは限りません。「デフレックス」や「リフレックス」と呼ばれる構造は、この接合点と中心線との位置関係で変わってきます。
例えば、あなたの弓のグリップを取り外して、ハンドルとの間に2センチの詰め物を挟んだことを想像してください。これがリフレックス構造の弓です。逆に、グリップの深さが深くなればデフレックス構造です。これによって、引いた時の安定感が変わるだけでなく、発射時の弓の安定度が変わります。弓の「性能」や「性質」を決定付ける、非常に重要な位置関係なのです。
ところが、2014年のHOYTは、Formula ハンドルで「RX」と「HPX」というグリップの深さが異なることを謳ったモデルを出しています。これはハンドルの性能が異なること以前に、同じリムをこれらのハンドルに取り付けた時、リムの性能がまったく変わってしまうのです。同じリムが、全く別のリムになってしまいます。
このように同一メーカーでもそうなのですが、リムを「互換性」の名のもとに他社のハンドルに取り付ければ、差し込み角度だけでなく、ハンドルとリムの位置関係も異なります。当然ポンドも変わります。同じメーカーのハンドルとリムでも、「デフォルト」(初期位置)が示されないというのに、考えただけでも、本来その弓が持つ性能や性質が何なのか、どこに行ってしまったのかが分からなくなります。
もちろん性能や性質には、「引きやすさ」や「使いやすさ」だけでなく、「矢速」や「的中精度」「安定性」なども含まれます。ハンドルにリムを取り付けるということは、自分の希望するポンド数にセットして、引ければいいということでは決してないのです。

セットアップポジション

それだけではありません。「クッションプランジャー」の穴の位置です。ハンドルの中でピボットポイントとクッションプランジャーの穴は、ハンドルの中心線上にあるはずですが、この2つが線上のどこにあるかが、的中精度に直結した非常に重要な部分になります。この位置関係を、ヤマハは「セットアップポジション」と呼び、今もヤマハが作った位置関係を多くのメーカーが真似ています。
本来、理想としてピボットポイントはハンドルの真ん中にあり、そこから矢を発射したいのです。ちょうどクロスボウ(ボウガン)を想像してください。ピボットポイントとクッションプランジャーの穴は同じ位置で、手もそこにあります。しかし我々の弓では、手の中から矢を発射することはできません。そのため、この2つは離さざるを得ません。間隔をどれだけにするか、そしてこの間隔のズレを解消する意味で、ピボットポイントをハンドルの中心よりどれだけ下げるかが重要になります。
ところが、HOYTは1983年に「GM」で犯した過ちを、再び犯しました。クッションプランジャーの位置を、アーチャーが「上下」に動かすことができるようにし、それを再びセールストークとしたのです。
クッションプランジャーの穴を「前後」に動かすことは、スパイン調整を行ううえで可能です。実際、それができるように、多くのハンドルには、中心線以外に的側にも穴が開いています。これが弓の基本性能に影響を及ぼすことはほとんどありません。
しかし「上下」はまったく違います。リムの差し込み角度と同じように、ここでも最良のデフォルトが存在します。どこでも同じ、どのハンドルでも同じではありません。クッションプランジャーを上下に動かすことは、設計図をアーチャー自らが書き換えることであり、弓の性能も性質も変わってしまいます。

「リムの差し込み角度」「ハンドルとリムの接点」「ピボットポイントの位置」「クッションプランジャーの位置」は、デザインや目新しさではなく、それぞれのメーカーが独自に最高の性能、最高の的中精度を発揮するために、「不動の位置」「唯一無二の位置」として設定するものです。
にもかかわらず、今では互換性の名のもとに、「何でもあり」の世界になってしまいました。ハンドルもリムも、異なるメーカーのものと組み合わされ、デフォルト位置は示されないばかりか、すべての位置をアーチャー自身が自由に動かせるのです。メーカーのプライド、ポリシーやノウハウ、性能はどこに行ってしまったのでしょうか。
1983年に開けてしまったパンドラの箱からは、魑魅魍魎が今もどんどん飛び出していることを知らなければなりません。

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亀井 孝のアーチェリーノート 貧しいアーチャーです。点数はお金で買えませんが、もしこの記事があなたのアーチェリーに幸運をもたらすと思われたら、チップをお送りください。 きっとあなたのアーチェリー人生は、素敵なものとなるでしょう。