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ストリングハイトからのアプローチ

近年、ストリングが「超高分子量ポリエチレン」になったことで、ほとんど破断することがなくなりました。自分のミスや扱い不良による毛羽立ちなどを除けば、1シーズン以上2年でも3年でも使えるようになりました。
そこでわざわざストリングを自作しなくても、市販品の完成弦を使うアーチャーもたくさんいます。そもそも自作する理由は、切れることからの「経済的」理由が最大のものでした。しかし今は切れません。となれば、「性能的」な目的があります。とはいえ、同じ種類の原糸や同じ太さで作るなら、作り方で矢速や的中が大きく変わるというようなものではありません。ここでいう「性能」は長さであったり、「発射音」のような感覚的なものを指します。
アーチャーがストリングを自作する目的は、自分の気に入ったストリングを作ったり、例えば必ず自分のパラシュートは自分でたたむように、そこに「安心」を求めるからです。

ただし、昔と今では大きく異なることがあります。「市販品・完成弦」と言っても、昔は最初から最後まで「手作り」でした。ところが1990年代ごろから「機械」による、それも全自動で作れるようになったことです。昔ケブラーストリングの時代、自動で機械で作っていたのは、世界でもヤマハだけでした。ところがコンパウンドボウの普及によって、今では全自動の機械によってリカーブボウのストリングが作られるようになったのです。原糸1本1本のテンションが均一に、全く同じものが10本でも100本でも手に入るお陰で、ストリングを自作する必要がなくなりました。

そんなストリングですが、完成したものに唯一手を加えなければならないことがあります。「ストリングハイト」です。ストリングハイトは「ブレスハイト」(Bracing Height)とも呼ばれ、弓のグリップの底(ピボットポイント)から、張られたストリングまでの最短距離の長さで表します。
アーチャーはこの長さを変えるためには、ストリングをいったん外して「捩り回数」を変えることで行います。ハイトを高くするなら多く捩じり、低くするには戻してやるのです。

ストリングハイトが変わることは、発射時の矢とストリングの接触時間が変わることであり、弓が矢に与えるエネルギーを左右する重要な要素となります。またドローイングからフルドロー時の弓の特性( f-x 曲線)を変化させ、アーチャーのシューティング感覚に影響をおよぼします。
ところで、発射された矢はストリングハイト位置でストリングから離れるのではありません。目には見えませんが、ストリングはストリングハイト位置よりも、約2インチかそれ以上にグリップに近づいた位置まで接触し続け矢を押し出しています。

ストリングハイトがアーチャーにとって大きな意味を持つのは、それがもっとも簡単かつ大きくシューティング感覚や的中精度に影響を与えるチューニング方法だからです。
例えば、矢の的中精度や矢飛びに影響を与えるチューニングの手段にはストリングの太さ(ストランド数や原糸の種類)やクッションプランジャーの出し入れや硬さを変える方法もあります。しかしどの方法も試合中に行えるかを考えれば、簡単とは言い難く、実際に行うことは不可能と言ってもいいでしょう。
ところがストリングハイトの変更(調整)は新たな道具や新しい状況を必要とせず、もっとも簡単に、もっとも大きく矢に与えるエネルギーを変えることができるのです。

アーチャーが自分の弓のストリングハイトを決定(変更)する時、それは3つの観点から考える必要があります
  1)弓の基本設計からのアプローチ
  2)矢の飛びと的中性能からのアプローチ
  3)アーチャーのシューティング感覚からのアプローチ
ただし、ここではストリングの太さ(デニール数やストランド数)や素材といった他の要素は無視(一定である前提)して話を進めます。(しかし現実には、プランジャーの出し入れの位置(センターショット位置)やプランジャーの硬さ、ティラーハイト等々多くの要素をも含めながらアーチャーはより小さいグルーピングを求めるのですが・・・・)

1) 弓の基本性能からストリングハイトを考える時、それは使用する弓の長さによってある程度の幅(許容範囲)が決められます。最近の弓は一般的には9インチ(約23.5cm)前後で使用されますが、これは「 f -x 曲線 」を元に弓のメーカーが設計段階で設定しているもので、インドア競技のような特別な状況下を除いては必然的に自分の弓の長さと標準的なストリングハイトが決まってきます。しかし、メーカーが推奨するストリングハイトの幅はあくまで一般的な値であり、それを超えたからといってリムが折損したりするというものではありません。 
2) 弓の長さが決まり使用する矢も決まっているなら、後は一般に行われるアーチャーの「チューニング」と呼ばれる作業です。例えばこの中には「ベアシャフトチューニング」なども含まれるのですが、一般的にはアーチャーの経験と感を頼りにした矢の飛び方と的面上でのグルーピングの状況から判断されることが多いでしょう。 しかし、これらのチューニングは1)の常識的な範囲を考えれば標準的な位置から動かせるのは特別なセッティングをしない限りは1インチ強(3cm程度)です。そこでアーチャーは許容範囲の中で矢に与えるエネルギーを調整します。
3) このシューティング感覚を意識するアーチャーは少なく、またその感覚を理解できるのはあるレベル以上のアーチャーということにもなりますが、実際の使用では非常に大きな意味を持ってきます。例えばアーチャーが「エイミング時の安定感」や「リリースのし易さ」等に意識を集中するなら、1/2インチの変更がこれらの感覚に影響を及ぼしていることが分るでしょう。しかし、そんなチューニングが許されるのも矢がきれいに飛んでいる前提があってこそであり、矢の選択自体(スパインの選定)に無理があれば 1)2)を優先させるしかありません。

ストリングハイトは矢飛びや的中精度、そしてアーチャーのシューティング技術に大きな影響を及ぼします。そのため、アーチャーは絶えずストリングハイトに注意を払う必要があります。しかしストリングハイトはストリングの素材や太さだけでなく、気温や湿度、弓の強さによっても変化していきます。そのためアーチャーは、弓を組み立てた時にだけフィストメルゲージで確認するのではなく、練習や試合の合間や弓を片付ける前にも必ず自分の弓の状態を知るようにしなければなりません

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亀井 孝のアーチェリーノート 貧しいアーチャーです。点数はお金で買えませんが、もしこの記事があなたのアーチェリーに幸運をもたらすと思われたら、チップをお送りください。 きっとあなたのアーチェリー人生は、素敵なものとなるでしょう。