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気づいたら2時間絵具剝がしてた。

絵具って、いいですよね。
カラフルだし、きれいだし、でも混ぜたらこの世の終わりかってくらいダークでごわごわして。
いい感じに混ぜたらとてもいい色になるのに、混ぜすぎたらやばくなるって、まるで人間のコミュニティみたいで、絵具っていいですよね。
赤とかオレンジとか、そっちの色同士だったら明るくなるし、青とか緑とか、ちょっと暗くなっていっちゃう。
そういうのも、なんかいい。僕って青って感じですよねって言えば、なんとなく相手に伝わる感じも、色って偉大だなって思います。

そんな絵具。アクリル絵の具ですけど、使ってたまにお絵描きします。
水彩紙を出して、あらかじめ描いた線からはみでないように慎重に、且つ大胆に塗ります。
白をたくさん使うのが好きです。薄くて淡い色。白だけは普段から大きいチューブを買います。でも黒も好きですよ。黒も大きいチューブです。

パレットの代わりに陶器のお皿を使ってます。頑丈だし、見た目がかっこいい。アクリル絵の具だと、プラスチックのパレットを使うと絶対に取れなくなるので、陶器だとその心配もないのがいいですね。
それでも乾いたらすごくがちがちになるので残るんですが、残った絵具が乾いて積み重なっていくの、いいですよね。なんか歴戦のつわもの、って感じがして。とてもいい。
そんなに大きいお皿じゃないので、何回か絵を描いていると新しい絵具を出す場所が無いくらいになる。それでも上に重ねて出して使っている。

あるとき、普段気にならないけど、唐突に「すべての絵具をはがしたいな」って気持ちになり、ちょっと爪で端っこの方をカリッとして、5mmほどのかけらがはがれる。
ペリッっていうより、カリッ。
はがれるというより、とれる、という方が近い。
なめらかにならず、唐突に段差が生まれる。積み重なった絵具のなめらかで混沌ななだらかな丘に唐突に生まれる、急斜面。
当然、ここだけで終わらない。
一か所異常値がでてしまったら、すべてを無くしたい。丘を消し飛ばしたい。すべてを壊して、一面のツルツルの陶器にまた戻したい。
そんな欲望がフツフツと湧いてくる自分がいる。
よくない。よくないと頭ではわかっているのだけど、それでも、剥がしたい。100%から99%になった瞬間、0%にしたくなる。
仕事もあるし、やりたいこともある。だけれども、この衝動に勝てるものが、今の自分が持ち得るのだろうかと考えてしまう。

気が付いたら、カリカリ。カリカリ。ペリ。
アクリル絵の具はとても固い。ちょっとひっかいた程度では到底剝がれない。ちょっと強めにひっぱったり、削り取ってみたりするが、なかなか剥がれない。
細かい絵具のかけらが机の上に散らばる。お皿の上に溜まったかけらが、何かの勢いで机と床にぽんぽんと飛んでいく。

そしてこう思ってしまいます。
もっと大きく、一気に剥がせないだろうか。そうしたら、とっても気持ちがいいのに、と。

爪で剥がすのは限界だ。おもむろに引き出しを開き、マイナスドライバーを取り出す(僕は引き出しにいろいろな工具をいれている)
陶器のお皿は、強い力で金属を押し付けても、そうそう傷つかない。
僕はぐぐっと固まった絵具の端っこにマイナスドライバーを押し当て、梃子の原理で隙間から押し上げる。
ああ、とてもいい。少し大きめの絵具のかけら。1cmほどの、固まった赤いアクリル絵の具が皿の中に転がる。
さらに繰り返して、絵具を剥がす。
ダメだ、もっと、勢いがほしい。
僕は絵具を剥がすことにすっかり憑りつかれてしまった。すこしずつ剥がす、なんて効率の悪いやり方ではなく、勢いにまかせて皿の端っこから反対側に向けて、思い切りこそぎ落としてみようと考え、手をケガしないように、勢いあまってお皿やドライバーが飛んでいかないように、慎重に、力が振るえるように、位置どりをする。
そして、ぐっと力をいれて、一気に押し出す。

・・・・全然進まない。これがアクリル絵の具の力。
僕は席をたって、お皿にお湯をいれてくる。
そう、水分をいれることによって固まった絵具を浮かす。
そうして、またマイナスドライバーで思い切りこそぎ落とす。
・・いっ
た。
少し。

3cmほどの大きな塊がとれる。
しかし、期待した成果には程遠い。努力したところで、努力に見合う成果など、期待する方がおこがましいということなのだなと感じてしまう。


ああああ~~~~~~


カッターを取り出す。
絵具の端っこに押し当て、両手の力を使って、切り傷を付ける。
絵具を切り刻む。上からも下からも、隙間に刃を押し当て押し込んで、切込みを入れる。
そこにマイナスドライバーを押し込み、梃子で押し開く。
何度も何度も、切って、押し込み、開く。
細かい絵具の破片がカラフルなスノードームのように散らばっているが、混ざった絵具が削れた跡は美しいグラデーションとは程遠く濃く汚い破片で埋め尽くされる。
それでも手を止めず、切って、広げて、散らばる。


僕は手を止める。
お皿に残っているのは、1mmほど残った、頑丈で取り切れなかったしぶとい欠片達。
大きい絵具はもう残っていない。机の上に広がる汚いスノードームと化してしまった。
僕の手は細かい破片がくっつき、マイナスドライバーとカッターが無造作に置かれた机と95%くらい元に戻った陶器のお皿。


時計を見ると、2時間経っている。
僕は笑顔になった。
心の中は満面の笑み。
ふふふ、楽しかった。
絵具っていいですよね。カラフルで、硬くて、無駄な時間もつくれちゃう。
また積み重なったら剥がしてあげますね。

おわり。

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