オリジナル短編小説『チェリードラッグ~奪われた5年』
ネット上には、不穏な空気の漂うコメントが溢れかえっていた。
『アイツ、急にバイト飛んだわ』
『ウチのサークルのアイツも、大学来なくなったんだけど』
『え、俺の友達もなんだけど……』
『え! 私の友達も!』
テレビのニュース番組では、居酒屋の店長が困惑した表情でインタビューに答えている。
「急にバイトに来なくなっちゃって、本当に困りましたよ。1ヶ月で3人も同時に辞められちゃ、店が回りません」
「しかも、何の連絡もなしに来なくなるから、代わりの子を探す時間すらないんです」
画面の向こうで、アナウンサーが深刻な顔で締めくくった。
「最近の若者に、一体何が起きているのでしょうか。これほど無責任な行動が許されるのでしょうか」
ある大学の教室。
いつもなら学生で埋まるはずの席が、今はガラガラに見える。
教壇に立つ教授が、ため息混じりに呟いた。
「また出席者が減ったな。誰か事情を知っている者はいないか?」
一人の学生が、気まずそうに手を挙げる。
「なんか……一種の社会現象みたいですよ」
「社会現象だと?」
教授の顔が不快感に歪んだ。
「こんな許されざる無責任な行動を、社会現象の一言で片付けるのか? 親の金で大学に通わせてもらいながら、本当に恥ずかしい。最近の若者は、こんな当たり前のこともわからない時代になってしまったのか」
言われっぱなしの学生も、小さく反論した。
「いや、僕らだって何が大切かとか、責任や期待の重さくらい分かってますよ」
「しかし、現にこれだけの生徒が授業に来ていないじゃないか」
「僕たちだって、何かおかしなことが起きてるって分かってます。ただ、何でもかんでも『最近の若者』っていう一括りにしないでくださいよ」
そんな世間の騒がしさをよそに、景子は友人の奈緒美に誘われて渋谷のクラブへと向かっていた。
きらびやかな照明が飛び交う店内。
景子は、VIPルームから出てくる若者たちが、一様にカラフルな棒付きキャンディ、まるでチュッパチャップスのようなものを舐めていることに気がついた。
景子は奈緒美の耳元で大声を出す。
「ねえ、最近あのキャンディ流行ってるの?」
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