オリジナル短編小説『ガラス』
僕の名前はタケル。
音楽をやりたくて、地元に居たら「就職しろ!」とうるさそうだから、東京にギターを持って逃げてきた。
なのでフリーターで、ファミレスの厨房で働いてる。
同じ上京組で、高校の同級生の七海は、僕のマンションの隣の部屋に住んでいる。
七海は看護師になる為に、学校に通っている。
七海のお父さんは人工透析をしていて、看護師という仕事を前から当たり前に見てきて、看護師さんの大切さを知っていた。
それで看護師さんを目指したのだろう。
タケルが作詞をしている時「ピンポーン」とチャイムがなった。
ダンボールが届いた。
ダンボールには『割れ物注意』というシールが貼ってあった。
夜ベランダにいると、隣の部屋に灯りがつく。
窓が開く音。
「おーータケル!また暇してるのかー!」と弾んだ声。
僕は七海の声が好きだ。
嬉しい時は、ぴょんぴょん跳ねるような声。
透き通っていて、空にタッチ出来そうな高い声。
悲しい時は、傘を友達に盗まれて、ずぶ濡れになって、一人で下を向いているような、ショボンとした、か弱い声。
「ご飯食べたーーー?」と七海が言う。
「まだだよ」と答えた。
「野菜もしっかり食べろよー」と窓が閉まった。
いつもちょうどいい距離感で、会えないと少し寂しいけど、毎日一緒に、夕飯食べようとかそんな事もない。
都会に1人では、やはり心細いし、高校卒業する前に引越し先を聞いておいて良かった。
まぁ少し家賃が高いから、フリーターの僕には少し辛いとこ。
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東京にも少しずつ慣れてきて、友達も出来た。
思ったより仲良くなるのは簡単で、バイト先の厨房で「音楽好きなんすよー」と話していたら、サチって女の子と意気投合した。
サチと連絡先を交換して、下北沢のライブハウスに誘われて一緒に行くことになった!
サチは女の子なのに1人でもライブハウスに行くのかー!なんかカッコいいなー!と思ってしまった。
ライブを見終わったあと、安いラーメンを一緒に食べながら、あいみょんとか竹原ピストルの話をした。
そしたら、サチに「ゆずとか、コブクロとかは興味ないの?」と聞かれた。
僕は「誰かと2人で音楽やれたら、曲幅も広がるし、作詞の世界観も広がるし、面白いかもねー」と返した。
そのあと下北沢の駅でバイバイしようとしたら、ふいにTシャツの袖を掴まれた。
「私と一緒に音楽やってくれませんか?」とサチに言われた。
『えっ!女の子と!?その発想はなかった! 無いということは面白いかもしれない! 同じ事をずっとやっても良くないかもしれないし、これから高いハードルを越えないといけない。道を変えて、女の子と、やるのは面白いし、近道かも!』と思えた。
「お願いします」と僕は言った。
それから二人でギター持ってカラオケに行ったり、公園で練習する日が増えた。
サチの書く歌詞は、恋愛系が多くて新鮮だった。
僕の尖った歌詞に丸みや、ふんわり感をプラスしてくれる。
恋愛ソングは男目線と女目線の歌詞で1つの歌にして、2人とも幸せな結末を祈っている。
僕らは、暇があればLINEをして「この歌詞どう?」とか「このYouTube見て」とか、色々共有した。
僕は、音楽で頭がいっぱいで、七海の事を心の隅に追いやっていた。
七海が少しヤツれた顔で、玄関を開けている。
『あれ?こんなに小さな身体だったっけ?』
Tシャツが大きく見えた。
もともと華奢だったけど。
その時、七海は僕に気づき
「最近楽しそうだね、タケルには東京が合ってたんだね」と、ニコッと微笑み、部屋に入って行った。
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タケルはLINE電話で、サチと曲の構成やコード進行のことを話していた。
その時、玄関の方から「もう、ついてこないで」と声が聞こえた。
サチが「なんかあった?」と、話しかけてくる。
「ホント、離して」と聞こえた。
七海の声だ。
タケルはLINE電話をそのままに、玄関のドアを開けた。
そこには10歳くらい年上の男性がいた。
七海の肩がカタカタ震えている。
タケル「ちょっと、、嫌がってるじゃないですか」
その男はムッとした顔をしてタケルを睨んだ。
タケル「えっ!七海とは、どういう関係なんですか?」
その男は「彼氏」と一言。
七海「勝手に付き合った事にしないでよ」
そしてその男の手を払った。
タケル「すみません、今日はお引き取り下さい。七海怖がってるみたいなんで」
LINE電話に映るサチの顔は、明らかに不機嫌な様子だった。
タケルは自分の部屋に七海を入れて、すぐにドアの鍵を閉めた。
「帰らないなら警察呼びますからね!」と大きめな声で言った。
タンタンタンと男の足音は離れていく。
タケル「えっ、どうした?何があった?」
七海「ううん、何でもない」
タケル「いやいや!なんかあっただろ?えっ、じゃ、本当に彼氏なの?」
七海「タケルには言いたくない」
タケル「俺たち友達だろ?」
七海「友達だから言いたくない」
タケル「……」
『あっ電話!』と、タケルがスマホを見た瞬間に画面が消えた。
七海「また電話中だったんでしょ?」
タケル「そうだけど」
タケル「そんなことより、危ないことされてないのかよ?嫌がらせ?ストーカー?」
七海「1度寝ただけ」
タケル「えっ」
七海「帰るね」
タケル「……」
玄関を閉める時に、七海が一言。
「助けてくれてありがとうございました」
ドアの閉まる音が寂しく響いた。
タケル「……ございました。か…」
七海はコンビニのお弁当を、ぼーーっと食べていた。
机の上には飲みかけであろうペットボトルや空き缶だらけ。
「掃除しないとなー」
なんで、あんな男と寝ちゃったんだろう。
背伸びしないと、都会の友達に置いていかれそうで、似合わないメイクして、髪なんて巻いちゃって。
声もワントーン上げて、昨日まで他人だった人の腕に絡まり、息を吐くように簡単に言う「君、可愛いね」を集めるように、ぶりっ子して。
学校の友達に笑われたくない。
田舎者って思われたくない。
でも、違うの…本当は勉強に集中して、お父さんを笑顔にした看護師さんみたいになりたいのに、何やってんだろう。
まだ、東京に来て2つの季節しか経っていないのに、私は腐りかけてて、タケルはあんなにキラキラしている。
毎日幸福度MAXの声が隣の部屋から聞こえてきて、ギターを持って歩く姿は燃えているオーラが出てて、頭の上に「夢」「希望」「情熱」「努力」が見える感じ。
この差はなんなんだろう。
タケルってキスした事あるのかな?
ハグした事あるのかな?えちえちはしたことあるのかな?何も知らないな。
高校時代から明るくて、友達が多いタイプなのに、私の事をいつも気にかけてくれていた。
私がお弁当を忘れた時に、「あー!かーちゃん弁当入れてねぇーじゃん」と叫んで「七海、校売いくぞ」と二人でダッシュしたり。
その日の学校の帰りに、公園のベンチでお弁当食べててさ。
私の為についた優しい嘘っぱち。
いつも太陽みたいにキラキラして見えるのに、友達の輪に入らず、音楽聴いて、ノートに何か書いていて。
ゾクッとするような目つきで、ノートに書いた言葉をぐちゃぐちゃって消してたな。
あのイヤフォンから流れていた曲はハルカミライだよね??
ねぇ、タケル?本当はバンドがやりたいんじゃないの?
本当に弾き語りでいいの?
でも、私が口出す事じゃないもんね。
わかってる。わかってる。
友達ってなんだろう?
恋人は意見を言う権利を得れるんだろうか。
友達だからこそ言わなきゃいけないのかな?
でも、ケンカしたくないから、、
もし「人の人生に口出すんじゃねーよ」と、冷たい目をされたら耐えられないから。
私は本当の友達でもないよね…ごめんね。
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タケルはギターを持って外に出た。
その後ろから七海が来る。
七海「ねぇ、私もタケルの歌聞きにいっていい?」
タケル「別にいいけど、練習だよ?」
七海「じゃ、ついてく」
代々木公園でサチと合流した。
サチ「えっなんで、女連れ?」
タケル「いやいや、高校の時からの友達だよ」
サチ「そっか……」
七海「邪魔しないようにするから」
サチ「ねぇ、今度この前のオリジナル曲、TikTokにあげようよ」
タケル「あー俺、スマホ音痴なんだよね」
サチ「私出来るよ、編集も」
タケル「おっマジ!!!」
サチ「バズったら、夢に近づくよ」
七海「……」
タケル「やっべぇーー!ワクワクしてきた」
サチ「今日さ、試しに動画撮ろう」
タケル「うんうん!」
サチ「あと私たちのアカウントも作ろう」
七海「もっと曲、沢山出来てからとかはダメなの?」
サチ「なんで?」
七海「ほらっ1発当たると、次は次は?ってなってさ、もう曲ないと慌てちゃうし、作曲とか大変そうだし」
タケル「確かに、それもあるか」
サチ「早めに動かないと、夢は逃げるんだよ。待っててくれないの」
タケル「いきなり1曲目でバズるとか、ないかもだし、早めにアカウント作って、動くか」
サチ「うんうん、じゃ今日撮影もしようね」
七海「あのさ、タケル?」
タケル「何?」
七海「本当はバンドやりたいんじゃないの?」
タケル「……」
サチ「えっ、いきなりなに!?」
タケル「……」
サチ「もう私たちは運命共同体なの、邪魔しないで」
七海「……そうだよね。ごめんごめん、私帰るね」
タケル「あっちょっと!」
七海「ホントごめん、またね」
七海の背中が小さくなっていく。
そして、胸に刺さったトゲが妙にチクチク痛む。
サチ「私たち、二人でやるよね?」
タケル「……うん」
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サチと色んな動画や写真を撮った。
サチ「恋人風なのも撮っておこう」
タケル「なんで?」
サチ「ラブソングの時に編集しやすいかなと思ってさ」
タケル「なんか照れるな」
サチ「えっもしかして、D??」
タケル「えっ、Dって?」
サチ「言わせないでよ」
タケル「えっ!あっ!童貞かってこと?」
サチ「…うん。聞いちゃダメだったかな?」
タケル「まぁ、うん。付き合った事はあるんだけどね」
サチ「えっ付き合ったのにしなかったの?」
タケル「まーねー」
サチ「変なこと聞いてごめんね」
そう言った瞬間に、顔と顔をくっつけて写真を撮ってきた。
『あっやべぇ。この感じ。不意打ち過ぎる。ヤバいって、心臓の音聞こえてないよな? うわっ俺ダッセー』
そしたら今度は恋人繋ぎで手を繋いできた。
それを写真に撮っていた。
『あっ腕が震えそう。おさまれ!おさまれ!あっダメだ、やばい…』
タケル「ごめん、本当にごめん」
サチ「なにが?」
タケル「めっちゃ恥ずい」
サチ「曲の為だよ?」
タケル「わかってる!わかってるけど、、ごめん、これ以上くっつくと意識しちゃうって」
サチ「すればいいじゃん」
タケル「えっ!?」
サチ「ホテルで曲作りする?」
タケル「えっ」
サチ「行こっ」
と手を繋ぎ、渋谷方面へと歩き出した。
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