「父」のせいで見る悪夢
「私」の尊敬する「父」については、まだ詳しくお話ししていませんね。しかし、その「父」の人柄の一端が窺えるエピソードをふいに思い出したので、9ページ目ではそれをお話しさせてもらおうと思います。
▼こちらでパパについて軽く紹介しています。
「私」には父親・パパの行いによって、時々見るようになった悪夢があります。ただ、先にお伝えしておきたいのは「私」はその悪夢を憎んではいません。それどころか、パパのことを尊敬すべき人間だと「私」に再確認させる悪夢なのです。
悪夢のきっかけとなった出来事
何年前でしょうか?「私」がまだ大学生を名乗っていたか……もしくは、もうその肩書がもたらす重圧に堪えきれなくなって、逃げ出した頃だったか……時期は定かではありませんが、この頃は父・パパとつかず離れずの微妙な距離感でいたように思います。離れて暮らすパパがわざわざ東京までやってきて、休日に二人で食事をしていたのですから、傍目にはとても仲の良い親子だったでしょうが。
それはさておき、この日もパパと私の二人で、食事に行っていました。もしかしたら、病院の付き添いも頼んでいたかもしれません。いや、その辺りも、もうおぼろげでハッキリとは覚えていません。ただ、パパと一緒にいたこの日にあった出来事が「私」が見る悪夢のきっかけであることは、間違いないのです。そのきっかけの出来事というのが、二人で街中を歩いている時、30代の前半から半ばほどだったでしょうか。そのくらいの男性が、制服を着た女子高生にしつこく絡んでいたのを目にしたことです。
人の無関心が印象的だったシーン
都会ですが、そうわらわらと人が歩いている道ではなかったので、私もパパも話をしながらゆったり歩いていました。すると前方に、俯きながら早足で歩く女子高生と、彼女にピッタリ寄って歩きながら、しつこく声をかけている男性が目に入りました。「私」はそれを見て、随分としつこいナンパだと思いましたし、相手の男性は30代の前半か半ばくらいで、そんないい大人が制服を着た女子高生につきまとっている姿には、正直嫌悪感を隠せませんでした。これはナンパそのものがどうのという話ではないし、年齢差がどうのということでもありません。どう見ても嫌がっている女の子を、いい歳をした大人が困らせている。つきまとわれている女の子は、迷惑そうと言うより、むしろ「私」には怯えているようにさえ見えたので、ナンパが、年齢が、ということではなく「自分よりもまだ未熟な少女に迷惑行為をはたらいている、怯えさせている」ということに気色悪さを感じたのです。
しかし、道行く人は誰も気に留める様子はありませんでした。「私」はそれを「まぁ、それもそうだろうな」と思いました。誰でも面倒事には関わりたくないでしょうし「私」も、俯く女の子をどうにか助けてあげられればな、と思いはすれど、自分よりも背も高ければ年齢も上だと見てすぐに分かる男性を相手に、割って入ることはやはり「怖い」と思ったからです。
そのくせ「みんな、この様子を目にはしているのに、誰も助けてはあげないんだ。子ども、大人とわざわざ区別をして、大人は子どもを守ってあげなくちゃいけない、導いてあげなくちゃいけないって何かにつけて言うのに。へんなの。みんな、口先だけでしか物を言わないのが現実なんだな」と自分を棚に上げて、ぼんやりと考えていました。
「パパ」の行動
「私」は、自分ではどうとも行動を起こそうとしなかったのに、ポツリとこぼしました。「あの子、ずっと追いかけられてるのかな。大人は誰も助けてあげないのかな。大丈夫そうに見えない」と。そう言いながらも、助けてあげようとはしていないのだから「私」も口先だけの人間でした。
その時、ゆったりと私の隣を歩いていたパパが、ぐんと足を速めました。えっ!と思う間もなく、パパは男性と女の子のそばへ行って、言ったのです。「嫌がってるだろう。やめなさい」と。私はビックリして、慌てて走り寄りました。
まさか、注意されるとは思っていなかったのでしょうね。男性は喚いて、口汚くパパを罵っていました。パパは声を荒げることもせずに、淡々と男性に何か言葉を返していたと思いますが、この時には私自身も気が動転していたので、細かいことは覚えていません。しかし、その様子を見ながら、どうしていいか分からないという様子の女子高生を見て「私」は思いました。パパのこの行動を目の前にして、娘の「私」がボケッと見ているわけにはいかない、と。
「パパ」は普段は口数が少なく、言葉よりも先に行動を起こす――というより、言葉にする時には既に全てを終えているような人ですが、特別目立つ人ではありません。けれど「パパ」のような「個」こそが、いわゆる縁の下の力持ちで、華々しく活躍する人の影では、こういう性質の人がその活躍を支えているのではないか?そう思わせる、真面目で堅実な人だ、というのが「私」の中の「パパ」でした。
つまり、冒険したりリスクのある道を選ぶよりも、着実に物事を積み重ねていくような人であると思っていたので、正直、その「パパ」が男性に声をかけたことは「私」にとっては衝撃だったのです。
もしも、相手の男性に注意をしたとして、逆上されたら?「私」が女の子を助けてあげられればな、と思いながらも行動しなかったのは、それが主な理由だったのですから。そして、ここまでにこのシーンを見かけた人が見て見ぬふりをしたのも、恐らくは「私」と似たり寄ったりな理由だったのではないかと思います。
けれど「パパ」は、すぐさま行動に出たのです。
私は戸惑う女の子に「ここはいいから、帰りなよ」と声をかけると、女の子は「ありがとうございます」と小さく呟いて、何度も頭を下げながら走っていきました。
ただ一つ、解せぬこと
パパを口汚く罵っているうちに、私が女の子を見送ったことに気づいた男性が「チッ」と舌打ちをしました。「私」はここでまた「いい歳した大人がこんなことをするのか。恥ずかしくないんだろうか。へんなの」と思いましたし、気色悪いというか、堪らない不快感を覚えました。「私」が女性であることも、その理由の一つかもしれません。
とにもかくにも、ああ、よかった……と思ったところで、よっぽど腹に据えかねたのであろう男性がクルッと方向転換したかと思うと、こちらを振り返って一言。
「このブスが!!!!」
私を睨んでの罵倒だったので、これを浴びせられたのは「私」です。いや、なんで私がブスと言われなくてはならんのだと。あなたの方がよっぽどブスだよ!大人げないことするその性根が!と思いましたが、なんだか気が抜けて、憤慨するよりも笑ってしまいました。帰宅後にやっと怒りがやってきて、それはもう長くこのことについてグチグチ言っていましたが。
それから時折、見る悪夢
「私」は「パパ」の、自分が関わったら都合が悪くなりそうなこと、面倒そうなことを見て見ぬふりすることなく、ナンパと言うには悪質だったあのシーンに割り入ったことを、ただただシンプルに「すごいな」と思いましたし、だから「私」は「パパ」が自分の父親であることが誇らしいのだと、再確認しました。何が正しい、何が間違いというのは、それぞれ「個」で違うでしょうし、見て見ぬふりも賢い選択の一つだと「私」は思います。けれど、あの時の女の子の様子からして、少なくとも「私」は「パパ」の行動が間違っていたとは思いませんし「私」ができなかったことをした「パパ」のことを、尊敬せずにはいられません。
ただ「パパ」のこの正義感が、場合によってはパパを殺してしまうことになるのではないか?と嫌な想像をしてしまうことが度々ありました。逆恨みで、相手に殴られたりしたら?もしも、何か凶器になるような物を持っていて、それで攻撃されたら?こうした不安が悪夢となって「私」を苦しめる時があるのです。
困っている人を助けようとして、パパが死んでしまう。そんな悪夢は、不安定になっている時や、逆恨みによる事件のニュースなどを見聞きしてしまった時、ふいに「私」を襲います。それでも「私」は、あの時の「パパ」の行動は「私」が思う正しさを体現していたと思うので、パパのせいで悪夢の材料ができてしまった……なんて、恨めしく思うことも、厭うこともありません。
ただし、そのせいでコンプレックスを刺激されるということはあるのですが……それはまた「パパ」のお話を詳しくする時に。
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それでは、9ページ目はこれでおーわり!
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