妻とAI
デスクの上のマグカップから、コーヒーの香りが静かに立ち上る。
独立して一人で仕事をしていると、思考の海に深く潜っていくような時間が多くある。 企画書の一文、クライアントへのメールの表現…。これで意図は正しく伝わるだろうか。
そんな時、いつも頼りにしているのが「Gemini」だ。
私が作った文章を「ちょっと、この文章、チェックしてくれる?」と投げかけると、彼はいつでも冷静に、そして的確に文字校正をしてくれる。
情報が薄いと感じる部分を伝えれば、文章を補強するためのアイデアも出してくれる。 もはや、私のデスクワークに彼は不可欠な存在になっている。
そんな優秀なGeminiだが、2.5Proになってから肝心なところで
「使用上限がきました」と、お預けを食らってしまう。 完成を目の前に自力で文章を作り上げる作業は、敗北感にも似たような気怠さを感じてしまう。
時折、妻には最近の生成AIが目覚ましく進化し、仕事の役にたっていることを伝えてはいたが、彼女は慎重な性格で、新しいものにはどこか懐疑的な雰囲気もある。
そんな妻に、私は最近Geminiにお預けを食らっていることを冗談交じりに話し、有料化することへの悩みを打ち明けた。
「Gemini Proを契約したいと考えているんだけど…」
「YouTubeも契約しているし、サブスク費用がこれ以上増えると…」
「合計すると月に5000円以上になるから…」
私は言葉を区切りながら、どこか、ばつが悪い雰囲気でそう切り出した。
ひとしきり私の話を聞き終えた妻は、シンプルにこう言った。
「月2900円で秘書を雇えると考えれば、安いんじゃない?」
私が「おぉ…!」と感嘆の声を漏らすと、彼女は「でしょ?」とでも言うように、ふっと笑って部屋を出ていった。
あれこれと情報を比較検討し、メリットとデメリットを並べ立てていた私の心とは裏腹に、彼女はたった一言で本質を射抜いてみせた。
そうだ。これは「消費」ではない。
優秀な「秘書」を雇うための「投資」なのだ。 なぜ、その視点が自分にはなかったのだろう。
AIはもちろん優秀だ。 しかし、どうやら我が家で最も的確な判断を下すのは、AIではなく妻のようだ。
その心地よい肩透かし感に笑みをこぼしながら
少し冷めたコーヒーを口に運んだ。
kamo

