旅のしおり
知らない場所でお腹が空くのが嫌だ。
食い意地が張っている、と言われたらそれまでだけど、
お腹が空くと、とにかく悲しくなるので。
だから、旅行に行くときは結構下調べをする。
心配性なのも合わさって、
旅先の場所や観光情報をあらかじめ調べたり、
きちんと移動ルートを考えたり、
かかる時間を確認したり、
気付いたら自分専用の「旅のしおり」を作れるくらいの
計画が出来上ががってるタイプ。
いや、たいてい一人旅なんだけど。
そんな自分がなぜか今、
どこだかわからない、知らない場所を走っている。
周りに誰もいない高原の細い裏道。
近くに牧場があるのか、うっすらと動物の匂いがしてくる。
天気が良いので空は抜けるように青い。
完全に知らない道で、知らない場所
この後この道を1.2kmくらい先に進んで
そこで左に曲がる「らしい」のだけれど
その先の道もわからない。
ふと興味が沸いたので、軽い気持ちでラリーに申し込んだ。
「ネットでたまに動画を見てた人が参加してた」くらいの
本当に軽い気持ち。
そうは言っても只のバイクビギナー、
ちょっと遠くへ行くのが好きなだけなので、
野を越え、山を越え、砂漠を渡って道なき道を行く
みたいなガチのラリーじゃない。
もっとずっとずっとカジュアルなやつ。
危険な道は走らない、舗装路しか走らない、安全だ。
ツーリングラリーとかオンロードラリーとも言うそうだ。
参加者は「コマ図」というルートマップを
スマフォで見れるようになっていて、
コレを見ながら先に進んでいく。
「次に曲がる角の矢印が書かれたイラスト」と、
「その場所までの距離」しか書いていない。
そんな「コマ」ががひたすら続いてくだけのルート案内図が
「コマ図」と言うものなんだそうだ。
ホントにこんな矢印だけのルート図で、
ゴールまでたどり着けるのかな?
ってちょっと不安だったけど、
スタートしてしまったら
とにもかくにも進むしかない。
最初のコマ図はスタート地点を左折、
次は600m先を右折、その次は800m走って左折。
距離計とコマ図を見ながら、
バイクを運転するのが結構難しい。
最初のうちはいちいち止まってから
距離計を見たり、コマ図を確認したりしていた。
なんとか道を間違えずに、いくつかカドを曲がって、
ようやく少し顔を上げる余裕ができてきた。
どこだここ?
コマ図と距離計と目の前の交差点とをひたすら見比べて、
あとは一次停止の赤い看板くらいしか見てなかったから、
今日初めて、顔を上げてちゃんと景色を見たかもしれない。
そんな状態で走っていたから、
今走ってる道がどこにあって、
この道がどこに繋がっているかなんて
全然わからない状況。
はっ、今日の昼ご飯どこで食べよう?
最初に思うのがご飯の心配なあたり、
自分の食い意地にちょっと呆れてしまう。
ここがどこだかわからないし、
この先どこに行くのかもわからないなんて、
大人になってからは初めてなんじゃなかろうか。
でもなぜか、不思議と、怖くは無かった。
そうだ、このコマ図だ、
矢印と距離でこの先のルートを教えてくれる、
私がしっかり距離とコマ図を見てれば、
この子は嘘をつかない。
今日の旅のしおりはこのコマ図だったのか、
と思ったら、ずいぶんと頼りがいのある旅のしおりに見えてきた。
あっ、でもやっぱりお昼ご飯どうしよう。
旅のしおりに書いてないかな、
ダメかな?
