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判事をティミー呼ばわりして実刑をくらった話(1)

 「若いころ?いやそりゃ~悪かったよね。ワル。ヤンチャ」などと人が言う場合、いくつかのパターンがあると思う。自慢的なニュアンスを含んでいる時は特に。本当に悪かった、話を盛っている、いまだに悪い、のどれかだと思う。

 そもそも夫であるアルゴに出会ったのは彼が18歳、付き合い始めたのが19歳の時である。だから、若い頃もなにも、付き合い始めた当初「若い頃、いっぱい悪いことしたよね」と言われたところで、ハイハイ、そうですか~(若いから話、盛ってんな)くらいにしか思っていなかった。だって10代だもの。当時の私も24歳だったから、20代くらいの頃ってやたらとワル自慢をしたり、聞いたりするお年頃だったのである。

 当時の私の英語力、特に会話と聞き取りは恐ろしく低レベルだったので、Probationなんて言葉を聞いても、それが何なのかすらよくわかっていなかった。Probation、保護観察である。アメリカのヤンチャと日本のヤンチャは違う。国が違い、文化が違うから当たり前のことだ。日本にだって私が知らないだけで、すごいワルというのはきっといっぱいいるのだろうから一概にも言えないけれど。ただドラッグやガンが日本より安易、安価で手に入ってしまうこと、根深く複雑な人種問題があること、貧富の差が激しいことなど、今は、この年になってきて見えてきたアメリカという国と文化があるからこんな風に言えるけれど、アルゴが悪かったよ、と言っても、当時の私は『はいはい、話盛ってんな~』くらいにしか思えていなかった。

 付き合い初めて数か月し、アルゴを月に一度、Probation Officeに送り届けるようになってようやく気付いた。Probationってことは、何か悪いことしたってことよね?という事実に。付き合い始めの数か月なんて楽しいことだけしか見えていないから、あまり物事を深く考えずに、恋に毎日にうかれていたのだ。で、ようやく聞いてみた。

「Probationってさ、なんで通うことになったの?」聞くときは緊張したし、あんまり触れられたくないかもと思いつつ。でも、付き合っていくには聞いておかなきゃという気持ちで聞いた。

  アルゴは高校を卒業していない。喧嘩のしすぎ、問題行動が多すぎというわけで近隣にある公立、私立、ありとあらゆるミドルスクール、ハイスクールを退学処分されているからだ(アメリカの中等教育はK12制といって、州にもよりけりだが、ミドルスクールという第6ないし第7学年から始まり第8学年で終わる学校があり、9学年目から12学年目までがハイスクール)とにかく喧嘩っぱやい。これは、今でこそ落ち着いたが、かなりいい年になるまでやたらと喧嘩をしていた。で、学校、退学処分三昧の話は信じていた。なぜなら義母から聞いた話だったから。その最後の最後の学校で、「とりあえず暇だったから」という理由でアルゴはPhone-Tapを行ったのだという。フォンタップ。電話の何かだろうなと思ったけれど、よくわからず詳しく聞いてみてから驚愕した。

  当時はネットもあったけれど学校と親との連絡はまだ電話が主流の時代だった。携帯ではなく、普通の電話。アルゴは電話回線のボックスを開き(もちろん、施錠されているがこじ開けた)回線を操作して、学校中にあるすべての電話に、1分間に500件電話がかかるプログラムなるものを実行。学校中の電話という電話が1日中、止まることなく鳴り響く事態を作り、そのプログラムを仕込んでいるところを監視カメラにとらえられ、捕まったらしい。捕まる時は市警から、州の警察まで出動していたという話。場所が学校だったので、当初はテロを警戒しての捜査が行われたらしい。アルゴの『暇だったから』という阿呆な理由のために。阿呆なのか、馬鹿なのか、はたまた賢いのか、言葉にし難い案件だったのである。

 子供のいたずらにしては度がすぎる、そして日ごろの素行の悪さ(喧嘩、補導←日本のとは少し違うけど)も加わり、裁判所に出頭命令が出たアルゴ。ママとその妹たち(おばさんら)にさんざん絞られ、さんざん言い含められたとアルゴ。その時点で「ものすごくイライラしてたんだよね」とアルゴは言っていた。

 さて、アメリカの裁判所といえば。映画やドラマでおなじみだが、判事の力というのは絶対であり、裁判所というのは神聖な場所なのだ。嘘をつかないと宣誓するし、判事には、”Yes/No my Honor”とかとにかくものすごく丁寧な英語を使うことになっている。どんな悪人もきちんとした態度で臨まなくてはならない。そして、タイトル。こともあろうに、16歳だったアルゴは、判事に発言を求められた折に、

「うるせーよ、ティミー」
「いうことなんかなにもねぇよ、ティミー」
「わかったよ、ティミー」

 判事を下の名前、しかも愛称(Timothyなのでティミー)というか、この場合は馬鹿にする意味を含むから蔑称的なニュアンスで呼び続けた挙句、態度を改めろ、言葉を改めろという判事、弁護士、親たちからの命令を無視しつづけた挙句に椅子を持ち上げて、壁に投げつけ、警官たちに取り押さえられたので(裁判所には複数の警察官がいる)、本来なら観察処分で済むところを実刑処分とされ、半年ほどを更生施設と刑務所で過ごしたという。若かったから、というより、本当に阿呆でしかない。

 そもそも年齢だけの話をすれば更生施設だけで済むところを「ティミー呼ばわりが相当、苛ついたんだろうねぇ。更生施設に空きが出るまで大人のジェイルに送られたよね。あれ空き待ちとかいう話だったけど嘘だと思う。ほら、若い頃ってとにかく何にでも怒ってるじゃん?あはは」とアルゴは笑っていった。

 笑いごとではないのである。未成年だったこと、そしてそれ以降、犯罪歴がないことからアルゴのこの刑務所と更生施設での生活は犯罪履歴としては残らない。だが、あはは、ではない。一通りの話を聞いた後に、「バカなの?」と聞いたら、「そりゃぁバカだったからこんな具合よ。あとまぁ、観察保護はあと1か月で終わるからめでたし、めでたしだよ、ベイビー」と言った後に、「まぁそりゃ、バカだったからギャングなんてやってたわけだしね」とぼそりとつぶやいた。

"oh...so, you were really a gang member before? "
"Yeah, you don't believe me? I showed you my mark"

「ほんとにギャングとかやってたんだ?」と私は聞いた。アルゴの上腕には大きなヤケドの後のようなケロイド状の傷跡があり、それは何だと尋ねた時に、ギャングに入っててギャングマークのタトゥーを入れていたけど、抜ける時に焼かれた。それが抜ける条件だった、というようなことを言っていた。私は『またまた、こんなクソ田舎にギャングなんかいるわけないし、てか、話、盛ってんでしょ?こう、日本で暴走族の集会に1回、2回言ったくらいでいやぁ、俺、暴走族やっててとかなんとか、そういうのと同じなんしょ?』程度にしか思っていなかったので、なんか、すまんな、という気持ちになったと同時に、なるほど……ギャング……と少しばかり考え込みはしたけれど。そっか~この人は本当にワルだったんだなぁと何故かしみじみとそう思っただけで、別れた方がいいかな?とか、え、犯罪歴、引くわ……みたいな気持ちにはならなかったから、恋は盲目というか、ほんと何だったんだろう、と今は思う謎。

 追記しておくと、当時のアルゴはコミュニティーカレッジに通っていました。コミュニティーカレッジには、カレッジコースを取りながら、高校卒業資格を取れるというコースがあり、それを取っていました。

 (その2に続く)

 

 

 


 

 

 

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