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地震発生から23時間。「やることリスト」だけが、私を茫然自失から救ってくれた

10年前の熊本地震。そして今回、再び熊本で大きな地震が発生しました。2度にわたって、私は被災地に入りました。動けない年老いた両親の生活環境を整えるためです。

現場に着いて最初の10分間、私は何もできませんでした。また揺れるかもしれないという恐怖。変わり果てた家の中と外。何から手をつければいいのか分からず、ただ立ち尽くしていました。「落ち着け」とよく言われますが、あの状況で落ち着けと言われても、無理な話です。恐怖は気合いでは鎮まりません。

そこへ、母が「薬がない」と言い出しました。薬は、倒れた食器棚の下敷きになっていたのです。すぐにかかりつけのクリニックに電話をし、2時間で両親に必要な薬を揃えてもらいました。ひとまず薬の心配が消えたところで、今度は動線確保のため、床に散らばったガラスや陶器の破片を拾い始めます。ところが、片付けても片付けても、次から次へとがれきが出てくる。むなしいまま、その日は終わりました。

その夜、ふと考えました。「このままでは終わらない。」他に誰が片付けに来てくれるのか。どの部屋から手を付けるのか。そのとき思い出したのが、「書き出す」という、ごく当たり前の方法でした。

茫然自失から抜け出す一手目は「書き出す」こと

混乱している頭の中を鎮めようとするのではなく、外に出す。これが最初にやったことでした。

各部屋ごとに、片付ける内容はまったく違います。まずは、思いつくものをすべて書き出すことから始めました。

  • 必要なものは何か

  • 何をやらなくてはいけないか

  • 優先順位はどうか

  • 今できることは何か、できないことは何か

  • 繰り返しやる作業なのか、一回きりの作業なのか

安否確認が最優先であることは、誰もが分かっています。その次に必要なのは生活環境の確保です。居場所の確保、水、電気。その中でも、情報を得る手段としてネット回線が使えるかどうかは、その後の判断を大きく左右しました。自治体や報道機関からは次々に情報が流れてきますが、そのすべてが自分に必要なわけではありません。こうしたことも、ひとつずつ書き出していきました。

書き出した内容は、持参していたPCで生成AIに整理してもらいました。頭の中がすっきり整理され、ずいぶん楽になったのを覚えています。幸い、プリンターは無事だったので、整理した内容をその場で印刷し、リビングの壁に貼りました。終わった項目はペンで線を引いて消していく。これなら、後から来る親戚の方々やヘルパーの方々にも、ひと目で伝わります。残り仕事は、少しずつ、確実に減っていきました。

こうしてリストを運用していくうちに、無限に思えていた不安が、有限個のタスクへと変わっていきました。終わった項目は線で消し、新しく気づいたことがあれば書き加える。進捗が見えることで、終わりに近づいている実感も得られます。これは、想像以上に精神的な支えになりました。

実際に現場で書き出していたリストは、こんな形でした。

【やることリスト】
□ 両親の安否・体調確認(済)
□ 通信手段の確保(携帯の充電・電波状況を確認)
□ 飲料水の確保(1日◯本、備蓄◯日分)
□ 避難経路・危険箇所の確認(済/線で消す)
□ 通院中の薬の在庫確認
□ 家の中の危険物(倒れた家具・ガラス片)の片付け
□ 親戚との作業分担・引き継ぎメモ

紙でもスマホのメモでも構いません。大事なのは、頭の中だけで抱え込まないことです。

一人ではなく、複数人で回すときに効いてくる

今回、私は地震発生から23時間で現地に入り、高齢で動けない両親の生活環境を整えました。作業は私一人ではなく、親戚の方々と交代しながら進めることになります。

そこで「やることリスト」を作成し、このリストの中から、できることから手をつける。やり終わったら消す。それだけを申し送りにして、4日後に生活環境を確認してから現地を離れました。

一人で使うリストと、交代で複数人が使うリストとでは、求められる精度が違います。「誰が見ても分かる」「終わったら線で消す」「繰り返し作業と単発作業を分けておく」というルールがあるだけで、引き継ぐたびに一から説明し直す手間がなくなります。誰か一人しか分からない状態を作らない。これは災害の現場に限らず、複数人で仕事を進めるときの基本でもあります。

情報は、鮮度が命だからこそ厄介

自治体や報道機関から出てくる情報の中から、本当に必要なものを取捨選択するのは簡単ではありません。自治体からの発信であっても、内容に誤りがあったり、発信元によって矛盾が生じていたりすることがあります。しかも情報の鮮度は数時間、もしくはそれより短い時間で失われていきます。

平時であれば「公式発表だから正しい」で済ませられることも、災害の現場ではそうはいきません。使える情報を、鮮度のよいうちに選び取る判断力が必要になります。この感覚は、実際に現場に立たないと、なかなか言語化できないものだと思います。

「やることリスト」は、非常時にこそ本領を発揮する

平時の業務改善で使う「見える化」や進捗管理の考え方は、実は非常時にこそ真価を発揮します。混乱の中で頭がまわらないときほど、書き出して、優先順位をつけて、終わったものから消していく。この単純な作業の繰り返しが、茫然自失から一歩を踏み出す力になり、複数人での作業を支え、達成感を積み重ねてくれます。

次に同じような場面に立つ人のために、そして自分自身のために。今回の経験を、こうして言葉にして残しておこうと思います。

もしよろしければ、今日、スマホのメモでも紙でも構いません。災害時の「やることリスト」を1枚作ってみてください。作っておくこと自体が、いざというときの落ち着きにつながります。


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熊井光文|カネミツ・ソリューションズ合同会社 代表社員 会社HP:https://kanemitsu.solutions Im Mate:https://immate.jp

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