「だいぶ穏やかになったで賞」、授与します。(ハムスター日記㊵)
こないだね、うちのキンクマハムスター・ぽんぽこ(♂)を、
病院に連れて行ったんですよ。
そしたら、先生がカルテ書きながら言ったんです。
「ぽんちゃん、だいぶ穏やかになりましたねえ」って。

それを聞いた瞬間、わたしは頭の中で表彰式を開催してしまいました。
式では先生からぽんぽこに、賞状が手渡される。
賞の名前は「だいぶ穏やかになったで賞」。
客席には、何百人もの観客。
みんな、「あのぽんぽこが、ついに……!」って拍手してる。
舞台袖ではわたしが、ハンカチで目元を押さえてる。

「穏やかになった」って言われただけで、
わたしの妄想がこんなに暴走したのには、訳があって。
うちのぽんぽこ、ほんっとに尋常じゃないレベルのビビりだったんです。

うちに来たばかりの頃なんか、わたしが部屋にスッて入るだけで、
シュッ!て巣箱に逃げてた。

わたしは、同じ空間にいるだけで、恐怖の対象だったんです。
これはいかんと。
なんとか「人間は怖くないよ」と教えなければと思いまして。
急に動くこと、音を出すこと、手を差し出すこと。
あの子が怖がりそうなことは、一切やめたんです。
結果、わたしは「忍び」になりました。
完全に気配を消して、
そろーっと近付いて、
おやつを1個だけ置いて、
スーッと下がる。
中腰がたたってぎっくり腰になっても、
意地でもおやつだけは届けるんです。

ぽんぽこは、おやつを奪い取ると秒で巣箱に消えるので、
あとに残されるのは、腰を粉砕された人間だけ。
それでもね、とっても嬉しかった。
「ああ、おやつ受け取ってくれた」って。
あとは、お外遊びで床材にもぐって
2時間くらい出てこないあの子の横で、
息をひそめ、体育座りして、ただひたすら待つとか。

主役が最後まで出てこない映画を観てるようなもんですけど、
たまに「かさかさっ」て床材が鳴る。
わたし、その音だけで「尊い……!」ってなる。
どうかしてますよね。
でもわたし、そういう、はたから見たらしょうもないことを、
毎日毎日積み重ねたんです。
そうやってたら、ぽんぽこも少しずつ変わってきました。
部屋に入っても逃げないし、目の前で毛づくろいもする。
毛づくろいなんて、わたしがそばにいると、絶対にしなかったんですよ。

ぽんぽこは、1年以上かけてやっと
「人間、怖くない」って思い始めてくれているんです。
まあ抱っこは未だに絶対NGですけどね。
そこは据え置きです。

で、こないだの診察です。
診察台からムササビみたいに飛んで、逃げ回っていた頃のぽんぽこを、先生は知ってるんです。
その先生が、しみじみ「穏やか」って言ってくれた。
だから、「いや先生、聞いてくださいよ」って言葉が
思わず喉まで出かかった。
「この子が穏やかになるまで、ほんと色々あったんですよ。
なんならこの子のこと、note記事にも連載してるんですよ。
今から朗読してよろしいですか、2時間で済みますんで」
って。
先生の手を両手でガシッとつかんで、まくし立てそうになったんです。
でもギリ常識人なんで、「おかげさまで」って会釈だけして、おとなしく帰ってきました。
ねえ、ぽんぽこ。
あなたを怖がらせないために、わたし忍びになって、腰まで砕いたんやで。
だから、あなたの成長が、心の底から嬉しい。
でもね、目が合っただけで手裏剣みたいに飛んで逃げてた、あのちっちゃいビビりのあなたには、もう会えない。
それはそれで、ちょっと寂しいんだよね。
まあ、いいや。
どっちのあなたも、あなただし。
今夜もね、いつでも忍者になれるように、わたし準備しときます。

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