きのうまで大丈夫だったのにね。(ハムスター日記㉖)
うちの超ビビりハムスター・ぽんぽこ(♂)が、
わたしの膝で遊ぶようになった。

おやつも、自分から受け取りに来る。

うちに来て十一ヶ月。
ついに、ぽんぽことわたしは、心が通じ合った。
……かのように見えますよね?
でもね、騙されちゃいけません。
彼はいまだに、猛烈にわたしを振り回してくる。
たしかに以前と比べれば、だいぶ慣れた。
ケージの扉を開けると「ハッ」と顔を上げ、こちらへ駆け寄ってくるようにもなった。


でも、ドライさは健在だ。
だって、おやつを受け取ったら光の速さで去る。
こちらとしては、もうちょっと余韻がほしい。
でも、主導権は最初から最後まで彼にある。
わたしは、ただただ従うしかない。
「ここなら触ってもいいですよ」
「このタイミングなら外に出ますよ」
「いまは邪魔しないでもらえます?」
言葉を持たない彼が全身で放つ、声なきサイン。
わたしはそれを「ぽん語」と呼び、日々、必死に読み解いている。
しかしこのぽん語、超ムズい。
だって、ルールの改定が日常茶飯事なのだ。
昨日まで許されていたことが、ある日突然
「本日からその法律、適用外です」と無効化される。
ぽんぽこ氏の気分ひとつで、文法もルールも容赦なく変わる。
だから、わたしは一切気を抜けない。

例えば、お外遊びだ。
わたしは毎日、お外遊びの準備に余念がない。
スペースをホウキで掃き、水拭きをする。
大好きなさつまいもをふっくら蒸し、人参はきれいなダイスカットにする。
隠れ家、トンネル、回し車のセッティングも抜かりない。
で、すべて整えたうえで、「さあ、どうぞ」とぽんぽこを迎えに行く。
が、わたしがケージを覗くと、ぽんぽこはすごいスピードで巣箱に消え、冷ややかな目でわたしを見てくる。
その瞳が、雄弁に語っている。
「あなたを呼んだ覚え、ないんですけど」

わたしはハッと我に返る。
ぽん語を読み違えてしまった。
遊ぶ約束なんてしていなかったのに、「今日も遊んでくれるはず!」と思い込み、彼の陣地に土足で乗り込んでしまったのだ。
小学生の頃、友だちの家にポテチとゲーム持って遊びに行って、
「え? きょう塾だけど」
と冷たくあしらわれた、あの苦い記憶がよみがえる(実話)。
わたしは、「お外遊びのセッティング、しちゃった……さつまいも、蒸しちゃった……フフフ」とつぶやきながら、行き場をなくしたさつまいもを、ひとりで食べる。
そして、冷たい視線を受けながら、「また明日ね。明日は遊んでね」と弱々しく声をかけ、きっちり無視される。
地味に傷つくし、正直、しょんぼりもする。

そんなこんなで、ぽん語の完全習得への道は果てしなく遠い。
今日はダメでも、明日はお外に出る法律が施行されるかもしれない。
いや、むしろ新しい規則ができて、おやつの受け取りすら拒否される可能性まである。
未来のことなんて、わからない。
わたしにできるのは、明日もまた完璧なセッティングをして待つことだけだ。
ぽんぽこのためにふっくら蒸したさつまいもは、ほんとに美味しい。
食べてほしくて蒸しているのに、たぶん明日も、わたしがひとりでこれを食べるんだろうな。
ぽんぽこや。
いつか、さつまいも食べておくれよ。

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