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短編小説│約束のメリークリスマス

注意!
文章中にボーイズラブ要素が含まれます。
苦手な方はブラウザバックを推奨します。


乾燥した暗い冬の夜道。
大学終わりの僕、亜沙田伊織あさだいおりはその道をただ歩く。
ふうと息を吐くと白く濁ってどこかに消えていってしまった。
マフラーを家に忘れ、首はがら空き。
手袋だけでしのがなくてはならないので20分もかからないような帰り道もひたすらに長く感じる。
寒い。あまりにも寒い。
耐えきれずその場で座り込んでしまった。
するとヒュゥゥゥと、冷たい北風が僕を包み込んだ。
全身が凍る。その北風の温度を感じる前に僕の思考がそう告げた。
しかし、次の瞬間僕が感じたのは凍るような冷たさではなくじんわりとした温かさと心地よさ、そしてなつかしさだった。
北風を感じると不思議な気分になる。
その理由は当然知っている。
だがもう思い出すこともないだろう。
僕は結局とぼとぼと家に帰るのみ。

「ただいま。」
家には当然のように誰もいない。
鞄をおいて手を洗って暖房をつける。
冷蔵庫からコーヒーをとり牛乳を入れたっぷりの砂糖を加えかき混ぜる。
中学校の頃からの変わらないルーティーンだ。
ふうと一息つきながらふとテレビをつけてみる。
「届けるlive」というどこか懐かしい番組がやっていた。
そういえば、テレビをつけるの3日ぶりくらいだなあ。
そんなことを考えながらぼーっと眺めていると、中継のコーナーに入った。最近人気だとかいう女性アナウンサーが穏やかな笑顔で喋る。
「ここ、東京赤坂には大きなクリスマスツリーが飾られています。わあ…とても立派ですね!本日はクリスマスイブという事で大切な方と過ごす方も多いかと思います。そこで次の曲はup numberさんの…」
クリスマスイブ。
そうだ。今日は12月24日。クリスマスイブだ。
よみがえってくる感覚。寒いけど温かく懐かしいあの不思議な気持ち。
最近疲れがたまっていて日付感覚がくるっていた。
今でも鮮明に思い出せる、5年前のクリスマス。
出会い。笑顔。「愛してる」の声。
つらく冷たい現実から逃げるように、そして思い出に浸るために僕は目を閉じ眠りに落ちた。

そう、あれは5年前の12月24日だった。
14歳。中3に上がる直前の3月に両親が死んだ。
母さんは心臓がんで死んだ。父さんは母さんが死んだショックで何も食べれなくなり、栄養失調で死んだ。
もちろん悔しかったし苦しかったしたくさん泣いたけど別に僕は今更誰も恨んではいないし、恨めない。
僕は母方の祖母の家に暮らすことになった。
当然中学校も変わったのだがたった1年だからと僕が話しかけることも、また話しかけられることもほとんどなかった。
正直退屈していたが前にいた小学校でもそこまで仲のいい友達がいたというわけではないのでただ1年を義務的に終えて義務的に中学校を卒業するのだとそう思った。
そう思っていたんだ。"彼”が目の前にあらわれるまでは。
10月の頭だった。
いつものようにまっすぐ祖母の家に帰ると、家の前に小さいクルマが止まっているのが見えた。
その前で祖母と見知らぬ女性が談笑をしている。
僕は祖母に駆け寄り「ただいま」と声をかけた。
祖母はお帰り、と僕の頭をなでると挨拶しなさいと言わんばかりの目で僕をじっと見つめ、目の前の女性に目をやった。
僕は慌てて「こんにちは」とあいさつをした。
「お帰りなさい。こんにちは。」と笑って言う女性の笑顔はどこか母に似て素敵だったことを覚えている。
「今度うちの隣にこしてきた氷室ひむろさん家族よ。息子さんはあんたと同い年なんだって。れいくんっていうのよ。」
祖母がにこにこしながら車の方を指さした。
僕は車の方に目をやった。
助手席にちょこんと座っているのがその息子さん、だろうか。
よく目を凝らしてみてみる。
すると僕は玲という名の少年に目を奪われてしまった。
白く透き通った肌に細い腕、きらきらと大きく輝くダイヤのような瞳に少し長めの髪、身長の高さも相まって率直に「人形みたいだ」と思った。
「ねえ、綺麗な子でしょう。おばあちゃんも最初びっくりしちゃった。お人形さんみたいよねえ。」
すっかり見とれてしまった僕に祖母はこっそりと耳打ちをし、途端に恥ずかしくなって車から目をそらした。
「ほら、玲。出てきなさい。」
玲くんの母が車に向かって呼びかける。
玲くんはドアを開けて、地面に降りてきた。
「まずは必ず自己紹介」というのは祖母の教えであるし、またもや見とれてしまいそうになったので僕は慌てて自己紹介をした。
「えーと僕は伊織。そこの中学の3年。君は…玲くん?」
「玲でいいよ。」
僕の言葉を遮るように言った。
氷のように透き通った美しい声だった。
「そ、そう。じゃあ玲。これからよろしく。」
「よろしく。」
玲はにこっと笑って握手を求めてきた。
玲の手は冷たかったがかすかなぬくもりを感じた。
だが玲がいくら綺麗だったとしても事務的に自己紹介をこなすだけ。
特に仲良くなるつもりは全くない。
そう思っていたのに。
玲は僕と同じクラスになったのをいいことに毎日毎日僕に話しかけてきた。
「伊織。今日寒いね。」
「伊織!昨日の"届けるlive"みた?」
玲は転校生でこの容姿なのでやはり女子などには人気があるように僕は思えたのだが当の本人はひたすらに僕にのみ話しかけてくる。
全く嫌ではないし、玲が来る前より今の方が絶対に楽しい。
しかしなぜ僕なのだろう…?
ふと気になったのである日の帰り道聞いてみることにした。

「なあ玲?」
「んー?」
「なんで玲って僕にばっかり話しかけてくるの?」
「え、ごめん嫌だった?」
「いやいやいや全然そんなことはないんだけどなんでかなあって。」
「好きだからだよ。」
「え?」
何を言っているのか分からなかった。
「え…?好きだからってどういう…」
「俺好きなんだよ。伊織のこと。」
まっすぐにこちらを見つめる玲の表情はいつになく真剣だった。
「俺は本気だよ。出会ったころからずっと好きなんだ。」
「え…あ。えぇーと。」
何か言わなきゃ、何か言わなきゃ、そう自分に言い聞かせるが頭が真っ白になって何も出てこなかった。
それを玲は察したのか、「また明日」といって家に駆けて行ってしまった。
僕は駆け足で家に入ってすぐに荷物を降ろすと、いったんこころを落ち着かせるためにアイスカフェラテを砂糖たっぷりで飲んだ。
ふううう、と大きく息を吐きだしたが胸がどきどきしてたまらない。
玲といると楽しい。
まるで母さんと父さんがいるときに戻ったみたいになる。
それが果たして感情なのか当時の僕は理解できていなかったと思う。
僕はその時ふとカレンダーを見た。
今日は12月23日。
明日はクリスマスイブ。
何とも言えない想いに包まれて、早く寝るしかなかった。
玲にちゃんと聞かなきゃ。
そしてこの気持ちの答えを探さなきゃ。

しかし、翌朝学校に玲の姿はなかった。
ちゅんちゅんとなく鳥の声。
キーンコーンカーンコーンとなるチャイムの音。
いつもと何も変わらない朝。
ただ、玲がいない。それだけ。
それだけのはずなのに、今日は何も面白くない。
「伊織」
そう毎朝僕の名前を呼んでくれた玲が恋しい。
父さんが亡くなり、何もかも失ったときの喪失感とその感覚は似ていた。
玲に会いたい。玲に会いたい。玲に会いたい。玲に会いたい。
また明日って言ったのに。
頭の中はずっとそのことでいっぱいだった。
胸がぎゅううと締め付けられる。苦しい。
ふと昨日の玲の言葉を思い出す。
「俺好きなんだよ。伊織のこと。」
…好き?
そうか、僕も玲が好きなのかもしれない。
玲と話すだけで笑顔になって、玲のことを考えるだけで鼻歌を歌いたくなって、玲が今何してるんだろうとか一日中考える。
確信した。
僕は玲が好きだ。
それを伝えたい。離れたくない。
だが結局その日学校が終わるまで玲が来ることはなかった。

2か月ぶりの一人ぼっちの帰り道。
普段よりなんだか寒い。
家にマフラーを忘れたせいではないことはわかっている。
帰りたい。早く玲に会いたい。
ちゃんと話を聞いて、伝えるんだ。僕の気持ちを。
ギュッと目をつぶって暗い道を駆け抜ける。
駆けて、駆けて、駆けて。
ふいに排気ガスのにおいがして目を開けた。
隣には見覚えのある車。
その中にいるのは…
僕は目を見張った。
紛れもない。僕が今探している、玲だったのだ。
「玲?なんで車にいるの?」
玲は僕に気が付くと車から降り、苦しそうな表情で言った。
「転校するんだ、明日。」
転校?
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
今ここで僕は気持ちを伝える。
そしてずっと離れない。
そのつもりだったのに。
「最初から決まってたんだ。ここに居れるのは二か月間だけって。それを伊織にずっと隠してた。距離置かれるのが嫌だった。ごめん。」
「え…」
好きを伝えるという気持ちも忘れて僕は呆然と玲をみつめた。
確かに玲が2か月でいなくなると知っていたら仲良くなり過ぎないよう僕は少し距離を置いていたと思う。
「クリスマス、一緒に過ごせなくてごめん。でもこれだけは言わせて。」
玲は寂しそうに笑ってこう言った。
「愛してる。」
ぴゅうううと北風が吹き僕の体を包むが不思議と温かい。
そしてダイヤのような瞳から美しい雫が一粒落ち、玲は車に戻っていった。
僕は何も言えなかった。
愛してるといわれてうれしい。もう玲に会えなくて寂しい。愛してるといえなくて悔しい。様々な感情が渦を巻いて喉からなにも声が出せなかった。
ああ、心臓がうるさい。
ブルルルルとエンジン音が鳴った。それが出発の合図だった。
何か伝えないと!何か!
僕は腹の底から力を振り絞って叫んだ。
「5年後!」
はあはあと息を整えてから再び叫ぶ。
「5年後!またここで!」
その時玲が笑ってぐっとポーズをした気がする。
そして車が遠のいていくにつれ、僕の意識も遠のいていった。

ぱちっ。
目が覚めるとそこは見慣れた祖父母の家だった。
どうやら5年前の夢を見ていたらしい。
どれくらい眠っていたのだろう。
時計を見るとすでに午後11時50分を回っている。
もうすぐクリスマスだ。
しかし玲は5年前の約束など覚えているはずがない。
それに、玲がいなくなり祖父母も失って完全に孤独となってこんな落ちぶれた僕をみたら玲はきっと悲しむ。
今日の帰りまで思っていた。
だがさっきの夢ですべてが変わった。
きっとあの夢は僕が玲に会うために見せてくれたクリスマスプレゼントだと今は思う。
玲に会わないと。
気が付くと僕は家を飛び出し、あの日会おうと約束した道にいた。
北風が冷たい。凍ってしまいそうだ。
時刻はすでに日付が変わる直前のはずだ。
暗く澄んだ空気を肺っぱいに吸って吐き、あたりを見渡す。
いるわけ、ないよな。
自分がしたことがばからしくなりハハと笑って空を見上げた。
さっさと家に帰ろう。
一人ぼっちのクリスマス。
「伊織」
ドアノブに手をかける直前後ろから懐かしい声が聞こえた。
ぶわっと抑えきれない感情が表に出るのを感じる。
ああ、
約束覚えててくれたんだね。
僕は後ろを向いた。
そこにたたずむ青年は、白く透き通った肌に細い腕、きらきらと大きく輝くダイヤのような瞳に長い髪、高身長も相まってまるで人形のようだった。
「玲っ…!」
僕は膝をついてぼろぼろと泣いてしまった。
みっともない。みじめだ。こんな姿、玲に見られたくなかった。
「伊織、泣くなって。」
そんな風に言う玲の瞳にも涙が浮かんでいるような気がする。
「約束覚えててくれたんだ。てっきり僕忘れられたと思って…。」
「なわけないじゃん。5年前言ったろ?俺は伊織が好きなんだって。」
大人っぽくなった玲の笑顔が疲れ切っていた僕の心を溶かしていく。
「玲。僕、玲に伝えたいことがあって5年前ここに呼び出したんだ。」
「ふふ、何だろう。」
少し幼げな表情を玲は見せる。
その時リーンリーン、とベルが鳴る音がした。
午前零時ちょうどを知らせる鐘。今はクリスマスだ。
「玲。愛してる。」
その言葉を聞くと今度は玲がほっとしたようにぽろ、と涙を流した。
「俺も愛してるっ…!」
5年前のあの日の約束が果たされ、僕らは新たな約束をした。
もう一生離れない、と。
「メリークリスマス。」

約束のメリークリスマス
fin,

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あとがき
わこかに!お疲れ様です、かにかまです。
今回は凄く久しぶりの創作、しかもBL要素ありの恋愛小説というとんでもないものにチャレンジしてしまいました。
実はこの小説、僕の実体験も少し入っています…(・∀・)
とりあえず、皆さんが楽しんで下さたらいいなあという想いです!
それではまた次の記事でお会いしましょう!おつかに!いい夜を。
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⛄この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です⛄
#クロサキナオの2024WinterWonderland

だいぶお久しぶりの参加となってしまいましたがよろしくお願いします~!

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