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紙タバコを吸うひとびととのこと

このところ、何もないのに煙の匂いを感じるようになった。異臭症というらしい。人によって感じる匂いは違うわけではなく、煙/焦げという点で共通しているとのことだ。コロナの後遺症としてもよく見られるのだとか。

この煙の香りが、タバコを彷彿とさせる。そしてその度に私はヘビースモーカーの皆さんのことを思い出す。


母方の祖父

知的好奇心が強くよく講義じみた話をする人だ。テレビで見たことをファクトチェックし、その過程も含めてとうとうと語る。私は専ら聞き役に徹していたが、質問されるよりはそうやって傾聴される方が嬉しかったようで、いつもニコニコしていた。

家のなかで、人の正面から煙を吹くというちょっといただけない癖があった。さすがに距離はあるものの、あたりには煙が立ちこめる。

銘柄を聞いたら「一番安い糸満タバコだよ」と返ってきた。しかし「糸満たばこ」としらべてもそんな銘柄は出てこない。出てくるのは「うるま」だけだ。写真を撮っておけばよかった。(存命です)

バイオレットの方だったかもしれない

実にうまそうにタバコをふかしながら講義をかます姿は今はもう見られない。紆余曲折ありすぎた。加齢が祖父を蝕んで、今はなんとなく家のなかで座って過ごす毎日らしい。

しかとした眼差しはなりを潜めて、すっかり呆けたおじいさんみたいになってしまった写真を見て私は顔を背けてしまった。
悪癖が今は恋しい。

ホテル勤めの方々


大学生の頃、2年程度ホテルのフロントでアルバイトをしていた。裏口ではスタッフが寒い雪の日でもタバコを吸っていて、ちょこまかと吸殻が落ちていた。

私はホテルスタッフはみなクリーンなものだと思っていたので勤めたてはすっかり驚いてしまった。しかし、勤務してみると確かに吸わなきゃやってらんねえなということに気付く。

アルバイト程度ならいいが、あんなストレスフルな仕事を連勤でフルでやるなんて正気の沙汰じゃない。(客層によるか…)

当時よく面倒を見てくれていた先輩も喫煙者だった。アメスピを複数箱持っていて、私が吸ってみたいと言うと一番吸いやすいのを出してくれた。その時初めて一本きちんと吸ったと思う。

ホテルスタッフにありがちな疾病を2つ推測するなら、呼吸器系の疾患と痛風じゃないだろうか。みなよく吸いよく飲むのだ。そしてよくなだれこみ、人々は異動してゆく。

アメスピは女性が吸う印象

前の会社の人

前職の人は半分くらいが喫煙者であった。SEはみんな吸うもんだと思っていたのでこちらはホテルとは逆の驚きがあった。

喫煙所で得られる情報やコミュニティは貴重なものらしい。経営層も平社員もタバコを吸う場所は一緒だ。先輩などは吸いもしないのによく喫煙所に休みに行って案件のお伺いを立てたり上の人と親睦を深めたりしていた。

「酒を飲むと吸いたくなる」タイプの同期が2名いた。片方はマルボロ使いで、同じグループだったので飲み会のときは大抵隣だった。
マルボロは重い。知り合いでもう一人マルボロ使いがいたが、なんでこの人たちはこんなに重いものをばかすか吸えるのだろうかと思っていた。
偏見だがマルボロ使いの人たちはよく食べる。食事と相性がいいのかもしれない。

次元大介もマルボロ派

弊社

弊社では執務中の喫煙が禁止されてしまった。(前職でも途中から喫煙所は閉鎖)リフレッシュするならカフェスペースでコーヒーでも飲めとのことだ。

しかしタバコ吸ってるのは経営基幹職のみなさんがほとんどなので多少のお目こぼしがあるのが現実である。

ここでも驚きがあった。役員秘書がタバコを吸うのだ。知っているのは一名だけだが、彼女は電子タバコも紙タバコも持っており、飲み会になるとおもむろに幹部たちのタバコの世話を始める。充電大丈夫ですか、一本吸いますか。すごい気遣いだ。

電子タバコはベイプといい、日本ではノンニコチンのものしか市販されていない。通販で海外から輸入してニコチン入りのものを吸うのだ。

実は私もベイプを吸うが「能登はタバコって柄じゃない」「ベイプって要は水蒸気吸ってんでしょ」という言葉に微妙に棘を感じて、今は吸わない。少なくとも人前では。

私自身はニコチン入りのものは興味本位以外で吸わないが、死ぬまでにどうしても一本吸ってみたいタバコがある。
ジダンカポラルだ。

日本では終売。個人輸入するしかない。

「旨味豊富」とあるが、実際吸った人のレビューを見ると「魚介の匂い」「燻製の香り」という文字が並んでいる。味の素の工場の前をとおると煙の匂いがするのだが、たぶんあの匂いだ。

私はルパン三世が好きなのだが、ルパンの愛用タバコがこいつなのである。ワルサーP38は量産型のくせにこういうところはかっこつけやがって、と思う。ルパンを愛した女として1本は吸い尽くしたい。その後、友人にあげたい。

終わりに

冒頭で話した祖父が、祖母の葬式の時にタバコを一箱棺桶に入れていたのを思い出す。花とタバコ。祖父なりに考えてのことだったのだろう。祖母はあの世で自分が花と一緒にタバコを抱えているのを見て笑ったかもしれない。

タバコを吸えるペルソナに憧れる。私の規範のなかではどうしてもタバコが吸えない。少なくともひとりでは。たぶん肺の疾患で亡くなるだろうということが分かっていることはうらやましくもある。わたしは嚥下する力が弱いのでたぶんそこで躓くと思う。

タバコは自由の象徴でもある。私が実家から出られず苦しんでいた頃にルパンに憧れていたのは、彼が規範から逸脱した存在だったからだ。

29になった今から喫煙を始める気はないが、受動喫煙を気にするたちでもなく、これからも受動喫煙とか気にしないタイプの人たちとなんとなく寄り添って歩いていく気がする。

タバコほど人を想起させる小物もない。愛であれ苛立ちであれ。以上、能登でした。

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