【短編小説】愛しの東京ラーメン
僕は今、無性に東京ラーメンなるものが食べたくて仕方がなかった。
東京ラーメンは東京のご当地ラーメンとも言われており、由来は諸説あるが戦後間もない東京の闇市などで庶民の間で流行ったのが始まりとどこかで聞いた事がある。
スープはシンプルな醤油。見た目もラーメンと聞いたら真っ先に出てくるような。まさに『ラーメン』といったビジュアルだ。
そんな東京ラーメンに僕が興味を持ったのは、SNSで東京ラーメン特集の記事を読んだからだった。
その記事を読んで僕は衝撃を受けた。僕はラーメンが好きでよく食べ歩いていたが、この記事で紹介されているようなオーソドックスな醤油ラーメンを僕は久しく食べていなかったのだ。
僕が最近食べていたのた魚介醤油や、家系、二郎系など最近よく耳にするようなジャンルだった。
そんな僕にとってシンプルなラーメンは久しく忘れていた存在だったのだ。
その記事には『昔懐かしの』というワードがよく見られた。これは老舗の町中華や屋台ラーメンで流行していて昔は今ほどラーメンのジャンルもなかったからこその言葉であるが、一周回って僕には新しささえ感じることができた。
早速職場の近くでそうしたラーメンを提供している店を探した。形だけの醤油ラーメンを出しているチェーン店はいくつかあったが、僕が求めているのはそういう類いのものではない。
やっとの思いで行こうと思える町中華を見つけることができた。しかもその店は意外なことに家の近所にあったのだ。灯台もと暗しとはまさにこの事だった。
そしてある日の仕事帰り、ついに僕はその店に向かった。入口にかかる『ラーメン』の赤い暖簾。こうした物も最近はドラマやコントで『ラーメン屋を表す記号』としてしか見ることがなくなった気がする。
入店すると所々途切れるAMラジオに無愛想な親父さん。ベタ過ぎて完璧だった。そこに僕が求めた『昔ながらのラーメン屋』は確かにあったのだ。
一番オーソドックスな醤油ラーメンを注文し、ラーメンの到着を待つ。ちょっとベタつくカウンターから親父さんの調理風景を眺める。やっぱりタオルを頭に巻いた学生バイトより、こういう貫禄のある親父さんの方が数倍旨そうに見える。もう学生バイトはヘラヘラ厨房に立たないでほしいと思う。
そしてついに着丼。海苔とメンマと煮卵とチャーシューとほうれん草。そしてその上にネギがちょっぴり。麺はちぢれ麺。僕は一口運び、心の中でこう呟いた。
「こういうのでいいんだよ」
