【見た目は凪、頭脳はクレイジー】 〜10代の場面緘黙症の脳みそ実況〜
【CM】
脳内で異世界展開!?
外では緊張して一言も話せない、「場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)」の「かんもくちゃん」。
周りからは大人しい石像だと思われているけれど、実は脳内には「超にぎやかな世界」があった!
一見 石像、中身は暴走。
その驚くべき真髄とは!?
「この番組は、200個以上のストックから、6個の提供でお送りします。」

外での「かんもくちゃん」は、まるで石像だ。

外では一言も話せないし、時には体まで固まってしまう。
「教科書のここを読んで」と先生に指されたとき。
クラスメイトから「どうしたの?」と心配そうに覗き込まれたとき。
喉の奥まで言葉は出かかっているのに、どうしても声にならない。
体もガチガチに固まって、どうすることもできなくなる。
周りの視線が突き刺さるような、あの凍りつくような静寂と焦りは、今後慣れることはないだろう。
クラスメイトはみんな、「かんもくちゃん」のことを大人しくて静かな子だと思っているかもしれない。
しかし、それは大の間違いである。
「かんもくちゃん」の脳みそを実況中継したら、うるさすぎて全員耳を塞ぐだろう。
見た目は静かでも、この子の頭の中では、クレイジーな思想が繰り広げられているのだから____
⚫️「厄介な扇風機」
教室の壁についている扇風機は、多少は涼しいけれど、少し厄介なところがある。
「プリントが風で飛ばされてしまう問題」だ。
プリントが飛ばされたら、みんなの注目を浴びながら取りに行かなければならない。
声が出せない私にとって、教室内で注目を浴びることは「死」を意味する。
ちらっと一瞥された暁には、窓へ突っ込んで飛び降りる。
だから私は、風の動きに敏感になる。
しかし、私の脳内では、別の意味で厄介なことが起きている____
◆◆◆
最近私は、首を左右に振り続ける扇風機に翻弄されている。
風が当たっている時は、幸福感を覚える。
「涼しい~♪」
しかし、扇風機がそっぽを向いてしまうと、心にぽっかり穴が空いたような気持ちになる。
「…え?どこ行くの??」
どうした扇風機、なぜ離れるのだっ
何もしてないじゃないかっっ
…そして、扇風機がまたこちらを向くと、私はまた幸せになれる。
「あ〜良かった、来た!」
私の気持ちは、完全に扇風機の手のひらで転がされている。
(実際には手はないが)
分かってはいるが、それでも私は、心が不安定になってしまうのだ。
冷たく接した後に、優しく迎え入れる。
この扇風機は「ホスト」なのかもしれない。

…そもそも、最初から首を固定しておけば解決する話なのだ_____
⚫️「幼児のキャベツ」
ペアワークでの音読も、私には難しい。
「…じゃあ、代わりに全部読むね」
ペアの子なりの善意は、いつも私の心をえぐっていく。
本当は読みたいのに、声が出ない。
「ちょっと待てぇ!!」と叫びたいところだが、それすら言えない。
これまた ショックで死にそうになる。
そんな1日が終わり、家のキッチンに立つと、私は少し大胆になれる。
下ごしらえをしている「無」の時間、私の脳みそは大忙しだった____
◆◆◆
今晩のおかずは、ロールキャベツにしよう。
素朴な食卓を、黄緑の煮えたキャベツが彩る、のだが____
私はいつも通り、キャベツに包丁を入れようとした。
しかし、硬くてなかなか刃が入らない。
「歯が立たない」ならぬ、「刃が立たない」である。
…シャレを言っている場合ではない。
なんとか芯をくり抜き、いよいよ葉を剥がそうとしたが、ここでもまた行く手を阻まれる。
驚くほどびくともしないのだ。
…おや、何だか声が聞こえるぞ。
「やだやだ、キャベツ本体とお別れするなんて嫌ー!」

…どうやら、キャベツの葉が嘆いているようだ。
頑なに内側へとしがみつくその姿は、まるでおもちゃ売り場で床に寝そべり、駄々をこねる幼児のようだ。
私「硬ぇなおい…!早く取れろー…」
気づけば私は、お母さん初心者のような気持ちで、指先に怒りを込めていた。
そして、
バリッ____
無情な音が響き、私の手元には、別れた葉とキャベツ本体が取り残された。
...どうやら、少し破れてしまったようだ。
不服だが、「人生ってこんなもんか」と無理やり納得した。
問題の葉はというと、急に泣き止んだ子どものように「スンッ……」と澄ました顔で佇んでいた。
「スンッッ____」
…ごめんって。
⚫️「お釜のサムライ」
給食の時間は、あえて量を減らして、食べている姿を長く見られないように工夫している。
スープと牛乳と、少しの野菜しか喉を通らない。
そのため、6時限目には体が枯渇して、「ぎゅー」と死にそうになる。
しかし、家での安心できる食卓では、それは不要だ。
ご飯を食べ終わり、洗い物をしている時間。
手元は綺麗になっても、私の脳みその雑念は洗い流すことはできない____
◆◆◆
今晩のメニューは、ロールキャベツと春巻き、そしてご飯。
いつもの何気ない献立を支えてくれた、大量のご飯粒たち。
彼らに感謝しながらいただいた____
食べ終えて、洗い物をしようとしたその時、事件は起きた。
お釜の方から声が聞こえたのだ。
「そなた、まだ 某(それがし) がいるでござる!」

驚いてお釜の底を覗き込むと、広大な世界の片隅に、ポツンと一粒のご飯粒がいた。
…どうやら彼は、この殺風景な戦場に取り残されてしまったようだ。
すでに彼の体はカチカチに硬くなっていて、お釜の底にしっかりと踏ん張っている。
…彼が私をまっすぐ見つめている。
その姿は、役目を終えてもなお 誇りを捨てない、「孤高のサムライ」そのものだった。
そんな彼を水で無下に洗い流すのは、ちと気が引ける。
そして何より、取り残されても静かに私を待っていてくれたその誠実さに、心を打たれた。
私「よし、君も仲間たちの後を追おう!」
そうして私は、しゃもじで彼を救い、私の口の中へ迎えた。
カチッ____
奥歯に響く硬さは、彼が最後まで戦場を生き抜いた、誇り高き勲章そのものだった。
⚫️「みかん殺人事件」
学校では、緊張で 手に力が入りすぎてしまい、字を書くのも一苦労である。
手に力が入っているくせに、書かれた文字は餃子の皮並みに薄い。
そして、象形文字みたいな板書を、家に帰ってから「これ何て書いたのかな…?」と6時限分まとめ直している。
しかし、家に帰って大好きなみかんを目の前にしたとき、私の中の「クレイジースイッチ」がカチッと入る。
箱の中をみて、「どのみかんを食べようかな」と熟考している時間。
私の脳内は、無口な私からは想像もつかないほど、やかましく語り出していた____
◆◆◆
みかんの箱を見ていると、一人ずついなくなっていくミステリー小説を想像する。

箱の中にぎっしりと詰め込まれた、血色の良いピチピチなみかんたち。
彼らはまだ、これから訪れる過酷な運命を知らない____
時は12月。厳しい寒さが体を突き刺す。
我が家には23個のみかんがある。
美味しそうな柑橘の匂いに誘われ、私は箱の中へ手を伸ばす。
おや、何やら声が聞こえるぞ…?
「あ、また何か来た」
「そういえば、まだあの子帰ってこないね」
「お腹すいた~」
わいわいがやがや
私はそのうちの一つを手に取った。
「わ〜さようなら〜」
「みか子ちゃーーん!!」
「腹減ったー!!」
連行されるみか子ちゃんと、それを見送る残されたみかんたち。
私はコタツに入り、みか子ちゃんの頭に親指を突き立てた。
ぶちぶちっ____
「うわあああああああああ!」
「みか子ちゃーーん!!」
静かなリビングに響き渡るみか子ちゃんの声。
私は彼女に申し訳なさを感じるも、美味しく胃袋へと葬り去った。
…まだまだ私は腹ペコである。
私は再び、箱の中へ手を伸ばした。
「うわああまた来たよおお」
「もうダメだおしまいだああああ」
「お〜すごいすごい (他人事)」
わいわいがやがや
…この事件は、まだまだ続きそうだ。
⚫️「チョークと流星群」
授業中は、私にとって一番過酷だ。
たくさんの人がいる教室で、50分もじっとしていなければならないからだ。
じっとしていると、ストレスで腕が少しずつ痒くなってくる。
だんだん痒みに耐えきれず、「ムンクの叫び」のように叫びたくなる。
先生の話を聞き、板書をする時間。
私の頭の中は、じっとはしていられなかった____
◆◆◆
青チョーク「ねえねえ、僕たちの寿命って、あとどれくらいなのかな」
白チョーク「うーん、この長さだとあと5分くらいかな、あの先生の力は半端ないからね〜」
今の授業は理科。
黒板という巨大なキャンバスに、化学反応式やら何やらが書かれていく。
青チョーク「へ、あと5分?早すぎるよー」
白チョーク「しょうがないよ、僕らはよく使われる存在なんだから。この運命は避けられないよ」
青チョーク「そんな…。こうなるんだったら、ずっと生きていられる黒板消しになれば良かった。あんまりだよー」
青チョークがうつむいた瞬間、何かが上から落ちてきた。
ボフッ!!
「うわあ!!」
大きな音とともに、何かが床に激突する。
あたり一面に広がる、真っ白な煙幕。
「ゲボゲボ」と咳き込む先生の声が、遠くから聞こえる。
青チョーク「何が起きたの!?」
白チョーク「…どうやら、先生が黒板消しを落としたみたいだ。そんなに焦らなくても良いのに…」
白チョークが、ふと下を見る。
白チョーク「…おい、下を見ろ!!」
青チョーク「え、何!?」
赤、白、青、黄色。
下を見ると、そこには、無数の色の粉が散らばり、美しい流星群が出来ていた。

これまで使われてきた先輩たちの「カケラ」が、光の粒になってキラキラと輝いていたのだ。
青チョーク「わあ、綺麗…!!」
白チョーク「黒板消しは、俺らを消すだけじゃなく、輝かせてもくれるんだな」
僕らはいつまでも、その流星群を見つめていた___
⚫️「学校とテトリス」
授業が終わって休み時間になっても、油断してはならない。
廊下へ逃げても、たくさんの人が歩いているからだ。
知っている人に話しかけられないように、地面と睨めっこしながら歩いている。
そうすると、今度は柱にぶつかりそうになる。
人と物にぶつからないように、目立たないように、と歩いている間、私の脳みそは休まらない____
◆◆◆
学校の廊下を歩いていると、テトリスの世界に入っている気分になる。
廊下は盤面、向かって歩いてくる人は皆、上から降ってくるブロックに見える。
そして、脳内では、あの独特なBGMが鳴り響いている。
ふくよかな子は、単純に四角いブロック。
スリムな子は、ほっそい I 字ブロック。
横一列に歩くイケイケJKたちの後ろに、通れなくて困っている男の子。
…これはT字ブロックかな____
…ブロックが不規則に動くから、本物のテトリスよりも難しいかもしれない。
個人的に衝撃を受けたのは、体育の授業前で一斉に階段を降りてくる、大量のブロックである。
圧を感じて怖いけど美しい、言わば「怖セクシー」なブロックだった。

テトリスについて散々熱く語ったが、私自身テトリスを一度もやったことがない____
「かんもくちゃん」は、今日も石像だった。
しかし、この子の脳内では、こんなにもやかましい妄想が繰り広げられているのだ。
外で喋れない「かんもくちゃん」は、「かわいそうな子」なんかじゃない。
脳内でこんなに豊かな世界を生きているのだから。
小さい頃から孤軍奮闘しているうちに、自分の心を守る「防衛本能 -ユニークな心- 」が芽生えたのかもしれない。
一見、短所や生きづらさに見える特性も、見方を変えれば、それは誰にも真似できない「最強の長所」になる。
かんもくちゃんの脳内ストックは、200個以上。
「かんもくちゃん」の妄想は、まだまだ続く…

あなたを「かんもくちゃん」のクレイジーな世界へいざないます。
かんもくちゃんの連載マガジン【うるさい!かんもくちゃん】シリーズへ ↓
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