【ショートショート】 去る者は追わず
「去る者は追わず、という表現があるの」
ベッドで涙を流すきららの頭を撫でながらママが言った。
小1からずっと仲の良かったみーちゃんが、3年生になった途端に他の子と仲良しになった。きららは気にしていないのに、みーちゃんはきららとはもう話をしたくないと言う。
どうして3人で仲良くしちゃダメなのと聞くと、みーちゃんは「女友達はグウスウじゃなきゃ」と言うだけなので意味が分からない。
ママは少し悲しそうな顔できららを見ると言った。
—— 離れて行く子は追わなくてもいいわ。もっときららのいいところを知っている子と仲良くして欲しいもの。
「きららのいいところってなに?」
縋るように尋ねる。
—— 優しいところ、面倒見のいいところ。バニーちゃんのお世話をちゃんとしているでしょ。
そう言ってきららの隣ですやすやと眠るペットのうさぎを指さした。
—— 優しい性格は宝石みたいなもの。なかなか手に入らないの。大事にしてね。
きららは嬉しくなった。
自分がすばらしい宝ものを持っている気分になる。
—— 必ずきららのことを大好きだって子が見つかるわ。少しの辛抱よ。
きららは頷く。
—— 去る者は追っちゃいけないもの。だから決してバニーちゃんと一緒にこっちに来ようなんて思っちゃダメよ。
もう何度も言われたから、分かっている。
きららは小さく頷いた。
優しかったママがいなくなって半年が経った。
きららを心配してママは毎晩会いにきてくれるけど、そのことはパパにも、最近一緒に住むようになったおばあちゃんにも言っていない。
二人とも優しい人だから、きっときららの言葉を信じてくれるだろう。
でもその代わり、ママがもうきららに会いに来なくなるような気がするのだ。
「おやすみなさい」
きららは目を閉じる。
—— おやすみ。
微笑むママ。
今ママはきれいな虹の橋があるところに住んでいるらしい。
そんなきれいな虹ならきららだって見てみたい。
でもママはいつかね、と笑うだけだ。
せめて橋を駆ける夢を見ることができますように。
きららはそう願いながら、そっと目を閉じた。
<了>
文字数844字
最後まで読んで下さってありがとうございました!
アマノ文筆クラブさんの企画に参加させていただきました。
お題タイトルは、去る者は追わず です。
甘野充さん、楽しいお題と企画をありがとうございます!
