【ショートショート】 猫しか勝たん
ある朝目が覚めたら猫になっていた。
うわーっと伸びをしたら妙に身体が長くなって、いつからこんなに柔らかくなった? と鏡を見たらそこにいたのは猫だった。
慌ててスマホを手に取る。
猫から人間に戻る方法で検索をかけたら、「そのような方法は科学的には存在しません」と AI がまじめに答えてくれた。
頬骨が出ている自分の顔が嫌いで、小顔になるためのいろいろな方法を試していたけれど効き目はなかった。
血行がいいとマッサージもより効くと聞けば、血行促進で有名な温泉にも出かけた。
寝ている間に頬骨を引き締める効果があります、と書かれた猫の着ぐるみパジャマを買ったのは先週のことだ。ずいぶんと高価だったが、その分効果があると期待して購入した。
注意事項に頭痛になるかもとあったが、猫になるとは書いていなかった。
鏡の中の自分を見ると、確かに小顔にはなっているが頬骨は以前よりも目立つ。
スマホを手にしたまま思わずため息をついた。
猫型のパジャマを着た猫がスマホで検索をしているのは、なかなかシュールな図だ。なんて感心している場合ではない。
いや、でも戻れるでしょ?
ってか、その内戻るでしょ?
頭のどこかでそう思っている。
切羽詰まった状況に追い込まれることって、現代ではなかなかない。なんとかなるとか、誰かがどうにかしてくれるという考えがどうしても頭から去らない。パニックになるのはもう少し待ってからでいいだろう。
ちょっと外に出てみるか。
いたずら心がわいた。
急に人間に戻った時に裸では困るから猫パジャマのまま出かけよう、と思い、窓を少し開けてするりと外に出た。
身軽な上に跳躍力もあってかなり楽しい。というかめちゃ楽しい。
調子にのってあっちに飛び、こっちに飛び。
楽しくてたまらない。
通りの向こうに、二年間片思いしている彼が歩いているのが見えた。
小顔を目指していたにも彼のためだった。
擦り寄って行くと気づいてくれた。
「えーまじ。かわいすぎッ」
背中を撫でてくれる。
小顔になりたかったのが彼のためで、そのための猫の着ぐるみパジャマ。
そう考えるとこれって目的を果たしたことにならない?
まあ誤算は猫になったことだけ。
「俺、やっぱり猫好きだわー」
眼を細める彼が間近に見える。考えられないほどの急接近。
身体を寄せたら彼の笑顔がさらに溶けた。人間の自分ではあり得ない展開だ。
「猫とはね。これしか勝たんのよ」
嬉しくなって僕は思わず心の中でそう呟いた。
<了>
文字数998字
最後まで読んで下さってありがとうございました!
はらとけいさんの#せりふ三題噺企画の参加作品です。
今週のお題は、
■セリフ
「これしか勝たんのよ」
■三題
・温泉
・パジャマ
・頬骨
でした。
はらとけいさん、いつも楽しい企画をありがとうございます!
