大罷免は民進党の惨敗!弾劾は国民党の勝利!──2025〜2026台湾政治の核心
【2025年7月「大罷免」と、2026年5月「頼清徳総統の弾劾」との比較】
大罷免は民進党の惨敗!弾劾は国民党の勝利!─2025〜2026台湾政治の核心
今回、国民党が主導した「頼清徳総統の弾劾」ですが、1年前、民進党のドタバタ劇「大罷免」を思い浮かべます。
民進党の「大罷免」は、民進党にとって歴史的な大失敗・大失態として記憶に残っています。今回の国民党の「頼清徳総統の弾劾」についてはどうかと言えば、国民党にとっては大きな成果となっています。この差は、何でしょうか?
さて「頼清徳総統の弾劾」については「中華民国・台湾について3」をご参照ください。詳しく論説しています。
ここでは、2つの政争について、その相違を語ります。
結論から言えば下記です。
1)大罷免=民進党が“攻めた”が、国民党に“勝たれた”
→ 民進党の威信失墜
2)弾劾=国民党が“負けた”が、政治的には国民党が“勝った”
→ 民進党の威信低下
2025年7月に民進党が主導した「大罷免」と、2026年に国民党が主導した「頼清徳総統の弾劾」は、いずれも台湾政治を揺るがした大規模な政治攻勢です。
しかし両者は、目的・戦略・結果・政治的効果のすべてが対照的であり、民進党は大きな失敗、国民党は大きな成果として記憶されることになりました。
■2025年「大罷免」と2026年「頼清徳弾劾」の相違点
<結果の違い>
大罷免は民進党が国民党・民衆党の議員を大量に標的としたが、31選挙区すべてで罷免が成立しませんでした。なんと「0勝31敗」という歴史的惨敗に終わりました。
民進党主席である頼清徳が前面に立って推進したため、党の威信をかけたものの、大敗北となりました。民進党内部にも深刻なダメージを残しました。民進党はその威信を大きく失墜させました。
一方、頼清徳弾劾は立法院で賛成56・反対50となり、必要票数の3分の2(76票)に届かず、否決されました。一見すると国民党の敗北ですが、そうではありません。
しかし国民党にとっては「総統を弾劾に追い込んだ」という事実そのものが政治的勝利であり、否決であっても目的は十分達成されたと評価されています。民進党はその威信を大きく低下させました。
<目的の違い>
大罷免は、国会多数を奪還するための「議会戦略」であり、罷免成立後の補選で議席を取り返すことが狙いでした。つまり、「勝たなければ意味がない戦い」でした。つまり民進党にとって当初から無理な戦いだったのですが、「勝てる」または「善戦できる」と民進党が判断を見誤ったのです。
対して弾劾は、行政院長の副署拒否を容認した頼清徳総統を「憲政秩序破壊」として追及し、政権の正統性を揺さぶる「政治攻勢」でした。弾劾成立は最初から困難であり、成立しなくても政治的効果を得られる戦いであったといえます。
こうした目的の違いは国民も良く理解していました。そして世論の反応も対照的でした。
大罷免について、民進党は「政治的報復」「やりすぎ」という批判が無党派層に広がり、結果として民進党に不利に働きました。また国民党支持層を結束させる効果が強く、民進党は「政争を激化させた」と批判されました。
逆に弾劾は台湾史上初の総統弾劾として注目され、民進党は、政治運営への批判と政争への責任をもろに受けてしまいました。
<政治的効果の差>
民進党は大罷免で墓穴を掘って大敗しました。結果として民進党の求心力を低下させ、党幹部の辞任を招き、国民党の勢いをむしろ強める結果となりました。
一方、弾劾は否決にもかかわらず、国民党が立法院での攻勢を正当化し、民衆党との協力関係を維持し、頼政権の弱体化を国内外に印象づけることに成功しました。
したがって、
1)民進党は「勝つために戦って負けた」ため大失敗となった。
2)国民党は「負けてもいい戦いで勝った」ため大きな成果となった。
■民進党の国民不在の党利党略
なぜ、ここまで民進党が失態を重ねているのでしょうか? その答えは簡単です。民進党は「国民を見ていない」からです。
国防や経済などをとってみても米国や中国ばかりを注視しています。そして「米国はこうだから…」「大陸はこうだから…」といった主張で政権維持を図っています。これでは国民の視点に立った政策を断居ることは困難であり、また国民からの支持が得られません。
かつて民進党は「台湾独立」という旗を掲げ、国民の支持を得ていました。しかし国民が「台湾独立」より「平和維持」「現状維持」を求めると、民進党は「台湾はすでに主権独立国家」という立場(台湾前途決議文, 1999)から、「台湾独立」という旗を降ろしました。
これにより民進党は、リベラル政党としての色彩を強めていきます。しかし元々が「台湾主体」を掲げ、対中強硬姿勢をも強めていることから親米・右派的な色彩も強めています。さらにLGBT・ジェンダー・環境などの価値観重視し都市部エリート層を抱え込んでいます。
つまり民進党は国民からは「分かりづらい政党」なのです。そして国民が政府に求めているのは、目前の「平和」と「経済」です。中華人民共和国との軍事対立ではなく、米国からの大量の武器購入ではないのです。
以下、1年前に「大罷免」について私が講演会で語った内容です。参考として記載しておきます。
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<簡憲幸老師講演会「大罷免」より>
【大罷免】 国民の権利を乱用か?
2025年7月、総統選挙で期待され人気のあった頼清徳総統の支持率は約35%と最低を記録し、不支持率は50%を超えて60%に迫っています。いったい台湾に何が起こったのでしょうか? その最大の惨事が「大罷免」運動です。選挙でもない「大罷免」に国家予算5億台湾元(約25億円)を使ってしまいました。民進党、国民党の両党もまた、莫大な資金を投下し、党員などボランティアを総動員しました。その結末は「現状維持」でした。この無意味な「大罷免」の顛末を紐解いてみたい。
■「罷免」とは?
日本において罷免とは何でしょうか? 中国語と日本語とは同じ意味を持つ罷免は「強制的に職をやめさせること」で一致します。日本では、主に国務大臣や裁判官など高位の公務員に対して使用されます。また日本国憲法の第15条に「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と国家公務員を罷免する国民の権利が明確に記載されています。
罷免については、基本的には日本国と中華民国と同じ意味で用いられています。ちなみに自らが自主的に職を辞する場合は「辞職」もしくは「辞任」といいます。
また同意語で、弾劾(だんがい)があります。この意味は「犯罪や不正をはっきりさせて、責任をとるように求めること」や「法令によって身分保障のある公務員の非行に対し、国会の訴追によって罷免または処罰する手続き」です。弾劾は「職務をやめさせること」自体ではなく、「罷免する手続き」のことをさしている点で、罷免とは意味が大きく異なります。
もう一つ更迭(こうてつ)は「ある地位・役目にある人を他の人と代えること」です。こちらは「職務をやめさせること」ではなく、「その職務を他の人に担当させること」を意味しています。
さて台湾での今回の「大罷免」運動について、その対象者(立法委員等)の多くは「犯罪者や不正者への弾劾」ではありません。「罷免できそうな国民党政治家だから!」という理不尽な理由です。
そして国民党も報復として「罷免できそうな民進党政治家を罷免しよう!」となりました。両党ともまったく子供の喧嘩であり、国民を無視した党利党略に邁進したのが、今回の「大罷免」です。
■中華民国の「罷免」とは?
元々憲法で規定されていた中華民国の「公職人員選挙罷免法」では三段階となっています。
・第一段階(選挙区の有権者数の2%の発議)
・第二段階(選挙区の有権者数の13%の署名)
・第三段階(選挙区の有権者数の50%の罷免賛成票、反対票を上回る賛成票)
とハードルが厳しく設定されていました。
しかし、台湾の選挙区の有権者数は20~40万人であり、第二段階の13%(3万人~5万人)の署名や、特に第三段階の50%(10万~20万人)のハードルの高さにより、事実上、罷免は困難でした。
そこで2016年11月29日、立法院は選挙罷免法を改正し、「罷免活動の宣伝禁止」という規定の廃止、必要署名数・得票数の引き下げを実施しました。これにより、必要な有権者数がそれぞれ引き下げられました。
・第一段階の発議は1%
・第二段階の署名は10%
・第三段階の賛成票は25%
■実際に「罷免」となった事例は?
2020年、高雄市長である韓国瑜に対する罷免投票が実施されました。42.14%の投票率、97.40%の賛成率により、有権者数の41.04%から賛成を得て罷免されました。これが直轄市・県市長が罷免された最初の事例です。
次に2021年には台中市第二選挙区選出の立法委員である陳柏惟(台湾基進/台湾独立支持政党)に対する罷免投票が実施されました。51.72%の投票率、51.48%の賛成率により、有権者数の26.63%から賛成を得て罷免され、初めて立法委員が罷免されました。
しかし陳柏惟の罷免には問題がありました。それは反中の陳柏惟が、選挙協力をしている民進党の政策に対して批判をしたことです。当然、民進党からの批判が陳柏惟罷免の後ろ押しをしました。「味方でも非難されたら報復する」ような対応でした。
元々、選挙区での選挙戦とは、先ずは「自分に近い対抗馬を蹴落とす」ことから選挙が始まります。当然、民進党内部に「反・台湾基進」「反・陳柏惟」がいるのです。そもそも台中は国民党の地盤でしたから国民党支持者からの強いパッシングを受けました。この罷免運動は「党利党略」の上で成功した事例といえます。
ちなみに台湾基進とは、「台湾の基本を固めて前進する」と党名であり、「内政は民進党、外交は台湾基進」という役割分担の構想を発表していました。
韓国瑜と陳柏惟。この2つの罷免実績が、今回の「大罷免」の前哨戦でした。
■「泛緑連盟」とは?
台湾独立派政党の「泛緑連盟(はんりょくれんめい)」の代表的な政党としては「台湾団結連盟」「台湾基進党」「社会民主党」「台湾緑党」「台澎党」があります。
・台湾団結同盟:中華民国を廃止して「台湾国」建国する。
・台湾基進:現在の中華民国憲法などは継承し徐々に改革し「台湾国」建国する。
台湾独立派政党は、「右翼か左翼か?」との問題があります。政党としては「台湾共和国」の推進を目指していますので左翼的であり、社会主義的な色彩を強く感じます。しかし国粋主義的であり、排他的であり、台湾の資本主義大手企業を支援し、反共・親米を打ち出すなど右翼的な姿勢も顕著です。
■「大罷免」とは?
2024年(民国113年)の立法委員選挙で選出された第11期立法院において、野党の中国国民党(国民党)と台湾民衆党(民衆党)が提出した数々の法案が野党主導の法案が可決されるため、与党の民主進歩党(民進党)による市民団体を巻き込んだ抗議運動となりました。
台湾立法院は少数与党のねじれ国会状態の解決方法が「大罷免」でした。仮に6人以上リコールが成立し、3カ月以内の補選で民進党候補が当選すれば、民進党で単独57議席と、立法院113議席の過半数がとれるのです。
そこで反共護台志工聯盟(反共産党・台湾守護ボランティア連盟)」の発起人の曹興成は、この「大罷免」運動を始めます。
台湾の著名な半導体製造ファウンドリ「聯華電子(UMC)」の創業者である曹興誠は、元々は国民党の強力な支持者であり、2008年の総統選挙では馬英九前総統に投票しています。しかし近年は、国家安全保障と台湾海峡関係を重視し、政治への関与を強めています。2022年以降は、「抗中台湾防衛」を積極的に訴え、自ら防衛訓練資源を寄付し、「反共台湾防衛義勇連盟」を設立するなど、積極的な政治活動を推進しています。つまり起業家から市民運動・市民革命家へ転身したといえます。
総統選挙では勝利したものの頼清徳総統は、立法院での不利な状況に苦慮していました。立法院では、立法委員113議席のうち、民進党が51議席しかないのに対して、最大野党の国民党は52議席を占めています。
そして「反共・護台」を掲げる曹興成と民進党の林右昌・秘書長が中心となり、ボランティアを動員し、立法委員に対する罷免の署名運動を仕掛けます。曹興成は市民運動を過激化させます。そして頼清徳総統は、「国民党議員は大陸のプロパガンダなどによる浸透工作に加担している」として、「国民党議員24人に対するリコール運動」を展開することになりました。
これに対して野党側も与党の立法委員に対する罷免運動を開始し、大規模な罷免運動「大罷免」となりました。こうした国民を置き去りにした与野党の泥仕合「大罷免」に突入したのです。
■「大罷免」の経緯は?
▶第一段階(発議)
・2025年2月1日、第11期立法委員の就任から1年が経過し罷免案を中央選挙委員会に提出可能となる。
・2月20日に改正施行される予定の公職人員選舉罷免法において署名に身分証明書のコピーを添付することを義務付けられる。
・2月20日までに、中央選挙委員会は合計61(52案が立法委員、1案が県市長、8案が県市議会議員)の罷免案を受理。
▶第二段階(署名)
・4月28日、藍緑両陣営の報復合戦となり、国民党派立法委員への罷免案は37案中31案が成功、6案が失敗となっているのに対し、民進党立法委員へは22案全てが失敗した。
・この署名では、「該当選挙区でない有権者」「既に死亡している有権者」「署名していないはずの有権者」などの不適合数は、民進党が支援する国民党への37の罷免案では約200件、国民党が支援する民進党への22の罷免案では約1,800件に達した。
▶第三段階(住民投票)
・2025年2月1日から5月2日にかけて、全国で合計77の罷免案が発議され住民投票がおこなわれた。
・泛藍派(国民党・民衆党寄り)の人物に対して38の罷免案が発議され、うち31案が投票まで進んだが、7月26日に25案が否決された。
・泛緑派(民進党寄り)の人物に対して39の罷免案が発議され、うち1案が投票まで進んだが、否決された。
・なお8月23日に6案の投票が予定されている。
【中国の5つの脅威と台湾の17対策】
2025年3月13日、頼清徳総統は「国家安全ハイレベル会議」開催後の記者会見で、中国が台湾に対して及ぼす脅威について言及し、それに対する具体的な対策を説明した。頼総統は中国を「境外敵対勢力」として位置づけ、台湾に対する脅威を次の5つに分類し、17項目の具体的な対策を通じて、台湾の主権と安全保障を守る決意を示した。
■中国の5つの脅威
1.国家主権に対する中国の脅威
2.台湾軍に対する中国の浸透とスパイ活動の脅威
3.台湾の人々の国家アイデンティティを混乱させようとする脅威
4.両岸交流を口実に中国籍の人々が統一工作を浸透させる脅威
5.『融合発展』を口実に台湾企業や若者を取り込もうとする脅威
これらの脅威に対する台湾の対応策として、頼総統は17項目を挙げた。具体的には、台湾軍への中国の浸透に対して軍事裁判制度を復活させ、軍人、公務員、教員などに対して中国の身分証取得の有無を調査すると述べた。また、中国からの定住申請者に対して、中国の戸籍やパスポートを放棄させ、台湾と中国の両方で公民としての身分を持つことを禁止する方針を示した。
「両岸交流」を口実に進められる統一工作に対しては、統一工作の背景を持つ中国人の入国を制限し、台湾人芸能人の中国での活動を管理することを強化する考えを示した。さらに、公職者が中国を訪れる場合、その情報公開を求め、宗教団体や慈善団体の中国との交流も明らかにするよう求めた。
「融合発展」を通じて台湾企業や若者を取り込もうとする中国に対しては、台湾と中国の経済・貿易関係を戦略的に調整し、経済・貿易分野での統一工作や経済制裁に対処する方針を示した。また、台湾の青年層に対しては、中国に対する理解を深めるための教育を強化し、両岸交流に対する正しい認識を広げていく考えを示した。
このように、頼総統は中国の脅威に対して積極的に対応し、台湾の国家安全保障を守るための具体的な施策を説明した。
1. 国家主権に対する中国の脅威
頼総統は、台湾の国家主権が中国の影響を受ける危険性について警告した。中国政府は台湾を自国の一部として統一しようとする姿勢を続けており、特に国際的な舞台で台湾の正当性を否定し、台湾の外交的孤立を推し進めようとしている。この脅威に対しては、台湾は独自の主権を守るための措置を強化している。
2. 台湾軍に対する中国の浸透とスパイ活動の脅威
中国は台湾軍に対しても浸透を試みており、スパイ活動を通じて情報を収集し、台湾の防衛力を弱体化させようとしている。これに対する対応策として、頼総統は軍事裁判制度の復活を提案した。軍人や防衛関連の職員に対して、中国のスパイ活動に対する監視と調査を強化し、疑わしい行動があれば厳格に処分する方針を示した。
3. 台湾の人々の国家アイデンティティを混乱させようとする脅威
中国は、台湾の人々に対して「居住証」や「定住証」などの申請を促進し、台湾人が中国の市民権を取得するよう仕向けることで、台湾人の国家アイデンティティを混乱させようとしている。このような動きに対しては、台湾政府は積極的に防止策を取っており、特に軍人、公務員、教員などに対して中国の身分証取得の有無を調査し、国家アイデンティティの混乱を防ぐために厳格な対策を講じている。
4. 両岸交流を口実に中国籍の人々が統一工作を浸透させようとする脅威
中国は「両岸交流」を口実に、台湾に統一工作を浸透させる活動を行っている。頼総統は、統一工作を行う背景を持つ中国人の台湾への入国を厳しく制限し、台湾社会への浸透を防ぐための対策を強化する意向を示した。また、台湾人が中国で活動する際には、統一工作に関与していないか監視を強化し、特に台湾の公務員や地方議員、立法委員(国会議員)などの公職者が中国を訪問した場合、その訪問内容を公開することを義務化する方針を打ち出した。
5. 『融合発展』を口実に台湾企業や台湾の若者を取り込もうとする脅威
中国は、「融合発展」という名目で台湾企業や台湾の若者を取り込むための活動を行っており、台湾の経済や若者層に対して影響を与えようとしている。この脅威に対しては、台湾政府は台湾と中国との経済・貿易関係を戦略的に調整し、中国からの経済的影響力を制限する方針を示した。また、台湾の若者層に対し、中国の真意を理解させるための教育を強化し、両岸交流に対する正しい認識を広めていくことを重要視している。
■台湾の17項目の対策
頼総統は、これらの脅威に対応するため以下の17項目を挙げて対策を示した。
(1)中国籍の人々の台湾への入国制限/統一工作に関与する可能性のある中国人の台湾入国を厳格に制限する。
(2)中国からの統一工作の監視強化/両岸交流を口実に進められる統一工作について監視を強化し、関連する情報を公開する。
(3)台湾の軍人、公務員、教員への調査強化/中国の身分証を取得しているかどうか調査し、国家アイデンティティを守るための対策を強化する。
(4)軍事裁判制度の復活/軍事面でのスパイ活動を防ぐために軍事裁判制度を復活させ、軍人の忠誠心を確保する。
(5)中国の経済的影響力の制限/台湾と中国の経済・貿易関係を見直し、中国からの経済的影響を排除するための構造調整を行う。
(6)台湾内での中国人による統一工作の監視/台湾における統一工作を防ぐために、宗教団体や慈善団体などの中国との関わりを透明化する。
(7)台湾の若者層への教育強化/中国を理解させるための教育を強化し、両岸交流に対する正しい認識を育む。
(8)中国の「融合発展」に対する反対運動の強化/台湾企業や若者が中国の影響に引き込まれないように監視を強化する。
(9)中国のスパイ活動に対する警戒強化/スパイ活動や情報収集に関与する人物に対する監視を強化する。
(10)外交面での独立性確保/国際的な場で台湾の独立性を守るため、積極的に外交活動を行う。
(11)教育機関における国家アイデンティティ教育の強化/学校などで台湾の国家アイデンティティを守るための教育を強化する。
(12)両岸交流における不正活動の監視/両岸交流を通じて不正な活動が行われることを防ぐための監視を強化する。
(13)中国の「一国二制度」への反対姿勢の強化/中国の「一国二制度」に反対する姿勢を強化し、台湾の民主主義を守る。
(14)インターネットとメディアの監視強化/中国のプロパガンダや情報操作を防ぐため、インターネットとメディアの監視を強化する。
(15)台湾国内の反中国勢力との協力強化/国内で反中国勢力と協力し、統一工作に対する抵抗を強化する。
(16)国際社会への情報発信強化/台湾の立場を国際社会に積極的に発信し、支持を得る。
(17)国防力の強化/台湾の防衛力を強化し、中国の軍事的圧力に対抗するための準備を整える。
【不純物を排除】 「中国を好き!」と言ったら「不純物」なのか?
2026年6月24日、頼清徳総統は「団結十講」を始動し「国家の団結」を掲げた第2回目演説で「国家の力を結集するには、選挙やリコールを繰り返すことで“不純物を取り除く”必要がある」と断言しました。
今迄も頼清徳総統は何度となく「台湾の歴史」について演説で語っています。たとえぎ「1624年史観」「祖国論」などであり、それらは「団結十講」として話をしています。また国民に対してこうした解説をするのは「人心の洗浄」であるとも頼総統は語っています。
つまり台湾に対する歴史や概念を学び直し、そして再構築することを重視しています。それが新しい台湾を再構築する上で重要だと考えています。
つまり台湾の歴史の中で「反共護台」「抗中保台」を明確にし、中華人民共和国、中国共産党、さらに中台ビジネスや中国文化までも支持するすべての人を「中共同路人」と決めつけました。
さらに言葉は悪化し、「団結十講」の中で、頼清徳総統はそうした人々を「不純物」という言葉を使い、それを「排除しよう!」と訴えかけました。国民は「中国を好き!」と言ったら「不純物」なのか?と疑念を持たざるを得なくなりました。
【四つの堅持】 台湾の包容力が失われた?
蔡英文前総統は、「四つの堅持」を与野党に対して宣言しました。
・自由で民主的な憲政体制を堅持
・中華民国と中華人民共和国が互いに隷属していないことを堅持
・主権の侵犯と併呑は許さないことを堅持
・中華民国台湾の前途はすべての国民の意思に従うことを堅持
頼清徳総統は、この「四つの堅持」を継承したはずですが、中国を「敵」と見なし、中国に傾倒するものすべてを「敵」としました。ここに蔡英文前総統との大きな違いがあります。
また蔡英文前総統は、「包容力のあるこの国では、原罪の責任が問われる人はいません。出身地が違うから、共同体から排除される人もいません。この土地を尊重し、認める人なら、台湾はすべてそれを受け入れています。それを団結しています。」と、台湾人以外に対して寛容でした。頼清徳総統の政治姿勢とは全く異なります。
一例を挙げれば、頼清徳総統と共に「大罷免」運動を推進したのは曹興誠氏ですが、彼は不成立の原因は「中国共産党による台湾への長年の浸透や分断工作、統一工作などの度合いが想像をはるかに上回っていた」と述べました。頼清徳総統も同じ考えです。
こうしたことから台湾では「中国との融和」を語るだけで「中国のスパイ」「売国奴」のように見られることを恐れる雰囲気すらでてきています。
【反共・護台】 外交・国防で誤魔化すのか?
当初、台湾独立派の人たちにとって「反共・護台」は、台湾独立につながる素晴らしいスローガンとして受け止められました。しかし外省人、客家人、台湾原住民、エスニックグループにとって、台湾での「不純物」という表現は反感を買いました。それらの二世、三世、または混血の人たちにとっても「不純物」扱いされることの恐怖を感じている人は少なくないと思われます。
そして今回の「大罷免」の敗北は「中国のプロパガンダによる」としてしまう頼清徳政権の危うさがあります。元々、台湾での雇用問題、賃金問題、エネルギー問題、物価高問題など内政問題をすべて「中国が原因」とし、国民の目を「対中・国防・親米」に焦点をおいた外交政策を掲げてきました。良い例が国家予算で国防費を急激に増やして提出したのです。野党はあまりにも増大させた国防費を下げることに成功させ、その成果を誇りました。
かつて国民党と民進党は激しく対立をしてきましたが、国家予算については討議を重ね歩み寄りをしてきました。それが今回の予算案に関して頼清徳総統の国防予算案に対する態度は強引でした。その強引さは「大罷免」へと繋がっていきました。
こうした一連のことが「頼清徳総統は、内政での失政を外交・国防で誤魔化している」と国民の目には映ってきたのです。
【反中VS親中】 頼清徳総統は「独裁」か?
今回の「大罷免」については「反中VS親中」の戦いに見えるかもしれませんが、実は「外交(国防)VS内政(経済)」の戦いであったと言えます。つまり今回の国民の審判とは、「大罷免」を選択しないことで「内政(経済)」を重視する意思を示したと言えます。
こうした国家の状況そして頼清徳総統の強引さは、国民党や民衆党から「独裁」というレッテルを貼られ、国民からもファシズム国家への傾倒が危惧され始めています。
リコール期間中、台風が台南を襲い大被害をもたらしました。
7月11日、ある住民は頼清徳総統に「自宅から被災品を撤去するための軍の支援ができないか?」と聞くと、頼清徳総統は「地域が自主的に行動しなければ、全てが軍に頼らざるを得なくなる。軍が不在になったらどうなるのか」と反論しました。
また翌12日、台南市で自宅が水漏れしている洪水被害の男性と頼清徳総統との会話で、男性が被害状況を説明すると、頼清徳総統は「大丈夫、あそこにテントがあるから」と答えると、男性は「屋根に登る勇気がない」とささやいた。頼清徳総統は「自分たちで登るしかない!」と答えました。
【大罷免 大失敗】 勝者なき泥仕合
市民運動を率いた曹興成、頼清徳総統、そして民進党は、「大罷免 大成功」をスローガンとして掲げていました。しかしそれは「大罷免 大失敗」という結果となりました。頼清徳総統と民進党は、今回の「大罷免」運動で大きな痛手を被りましたが、国民党も失ったものが大きいと言えます。
国民党からすれば「敗者」から逃れただけで「勝者」となったわけではありません。また民進党議員に対してたった一人も罷免対象者を出せなかったことが痛手でした。それは国民党内部の問題、地方各地の国民党支部の力量の無さが浮き彫りとなってしまいました。
国民党にとって、とくに問題なのが党員管理のずさんさでした。地方において、亡くなった党員、引っ越した党員、辞めた党員、などの管理がされていないことが明白となったのです。今後の選挙に影響がでることでしょう。
また罷免運動は、仕掛ける側(民進党等)は準備を整えて資金調達も容易なのですが、罷免対象者(国民党)は対抗措置として常に受け身の活動をしなくてはなりません。その準備も大変です。費用や人員の確保は選挙体制と同じです。その負担はとても大きいものです。もし罷免されれば、次は再度選挙に出馬しなくてはなりません。国民党としては、とてつもない大きな負担となります。
【大罷免での損失】
選挙でもない「大罷免」に国家予算5億台湾元(約25億円)を使い、民進党、国民党の両党もまた、莫大な資金を浪費し、党員などボランティアの時間と労力を消耗しました。そして民進党が目指した「大罷免 大成功」は「大罷免 大失敗」に終わったのですが、これは国民党への信認や同情ではありません。「嫌・民進党」が最大の要因です。
台湾市民への調査では、61.1%が「台湾民主主義の成熟の表れ」と肯定的に評価しています。しかし69.7%がこの結果を「頼総統と民進党の失敗」としています。
中間層・無党派層が、内政を軽んじ、党利党略に邁進した民進党に「NO!」と言ったのです。また頼清徳総統の独断・暴走に「STOP!」と歯止めをかけたといえます。
現在、民進党など台湾独立派政党は、「反共」によって大衆迎合政治(ポピュリズム)に走っていますが、同時に「護台」によってナショナリズム(ファシズム)に傾倒しています。元々、民進党など台湾独立派政党は社会主義的な色彩を持っています。現在の民主主義国家である中華民国にとって危険水域に入っていると思われます。
かつてナチスドイツは、国内への「反ユダヤ主義」によって大衆迎合政治(ポピュリズム)を煽り、同時に「外交・国防」によってナショナリズム(ファシズム)に傾倒しました。つまり「ユダヤ人を駆逐しろ!」と「フランス、イギリス、ロシアに対抗し準備しろ!」というドイツ国民へのメッセージが成功しました。
日本でも同じでした。「富国強兵」「現人神」「アジアの解放」「鬼畜米英」によって大衆迎合政治(ポピュリズム)を煽り、ナショナリズム(ファシズム)に傾倒しました。
【貼近人民,不懼怕中國,不向美國叩頭】
中国大陸で生まれ台湾に渡った中華民国は、漢民族至上主義とは言いつつも実は多民族、多文化主義です。そして台湾も多民族、多文化でしたが、長く侵略・征服の歴史が続いてきました。
つまり広義の台湾人は、「独裁」「圧政」「支配」「抑圧」「差別」について敏感なのです。頼清徳総統は、「大罷免」運動で、その台湾人の感性・感情を忘れてしまったかのような対応でした。
私が台湾の施政者に望むことは、中国を恐れることなく、米国に媚びへつらうことなく、国民に寄り添うことです。
台湾史・台湾政治、そして中国に関しての深い話を継続して書いています。 続きを読みたい方はフォローしてください。
